(緋色の着物に長髪。小柄な身体に左頬に十字傷…間違いねー。コイツは、人斬り抜刀斎)
「千鶴。立てるか」
「はっ、はい」
「下がっていろ」
千鶴が下がったところで刀を構え直す土方。
「土方さんすまねー。刀折られちまった」
「佐之助は」
「俺なら、大丈夫っすよ」
(槍も真っ二つか)
(新撰組組副長土方歳三…先程の二人は隊士であったか)
「おいあんた。うちの者が迷惑かけたみたいだな」
「…」
「だがよ。この娘はこいつらと関係の無い部外者だ。こいつら痛めつけたなら、もういいんじゃないか」
「新撰組副長土方歳三。彼らを労っているところを見ると、二人は新撰組の隊士。上からは新撰組も処罰の対象なのでな、見逃すことは出来ぬ」
「俺達は構わないけどよ、せめてこの娘だけでも見逃してあげないか。現場をたまたま見ちまっただけで、俺達とは関係ないんだ」
「はて。土方殿の先程の動きは明らかに親しい者とのやり取りに見受けられたが」
「引いてはくれねーか」
「…そこまで殺意を向けられたら」
目にも止まらぬ速さで土方と距離を詰める抜刀斎。
(速すぎる。これじゃあ反撃も出来ねー)
ギリギリで攻撃を受け止める土方
(土方さんが防戦一方かよ)
(そうか…もしや。佐之助…)
(わかった。やってみるか)
「抜刀斎。覚悟」
抜刀斎が振り向くと。折れた槍の矛先が顔面めがけ飛んできた。
華麗にかわす抜刀斎。
「うおー」
その隙に永倉が一目散に走り抜け千鶴を抱き抱えた
「なっ、永倉さん」
「これならどうだ、土方さん」
「永倉。原田。助かる」
一度距離を取る両者。
(…成る程。後ろの娘が心配でこちらに集中出来なかったと、先程とは比べ物にならん威圧感これが噂の新撰組幹部)
抜刀斎が刀を鞘に納める。
(抜刀術来るか…受けきり反撃出来るのか)
両者互いに牽制しあい、場は膠着する。
抜刀斎の足元が微かに動く。
(来る…)
「おい、しっかりしろ。ダメだ。死んでおる」
(役所の者が気がついたか…)
抜刀斎に斬られた死体のもとへ、事態を聞きつけた役人がぞろぞろと集まって来た。
屋根に飛び移る抜刀斎。
「おいお前、待て」
屋根の上を駆け姿を消した抜刀斎。
「貴様らそこで何をしておる」
「やべ、役人だ」
「二人は千鶴を連れて屯所に戻れ、早く」
「土方さんは」
「この状況を説明しなきゃいかんからな。俺は残る」
「そんな、土方さん」
「行くぞ、千鶴」
「でも」
「俺ら複数いてちょっとでも供述に食い違いが出れば余計印象が悪くなるからよ。大人しく退くぞ」
「わかりました。土方さんお気をつけて」
「別に聴取に行くだけなんだが…ありがとうな千鶴」
この1件を土方さんがお役所の人が納得させるのに半月かかった。
「千鶴殿。どうかしたでござるか」
「いえ、なんでもありません剣心さん。少し昔のことを思い出してました」
「相変わらず緊張感が無いな君は」
「すみません。斎藤さん」
「大事で無いのなら良かったでござる」
(こうして、かつて敵として戦った人と手を取り合う時代が来たことを…土方さんはどう思いますか…)
「なにをボッとしてる行くぞ」
「行くぞ千鶴ちゃん」
「さあ、千鶴殿」
剣心の差しのべる手を取る千鶴。この光景こそ、戦い命を落とした者達が望んだ未来なのかもしれない。
(完)