上弦の白兎   作:ヨーギラス

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楽しんで頂ければ幸いです。


プロローグ

ここは遠く離れた血と死臭に満ちている荒野の戦場。

 

その戦場に到底不似合いな人物が立っている、兎を彷彿させる可愛げのある顔をした白髪赤眼の少年が立っている。

 

更にその少年の左の腰には目玉模様がある鞘に納められている一振りの刀を差していて、少年は一人の傭兵としてとある国の軍に雇われているのだ。

 

すると、少年の目の前に武装を整えた兵が多勢現れる。

 

その数は千を優に超えている兵士達を前にしても少年は表情を変える事無く無言のまま兵士達に向かって手招きをする。まるで親が子供を呼ぶかのように。

 

兵士達はそれを見た瞬間、怒号を上げながら武器を構えて襲い掛かっていく。

 

それに対して少年は慌てる事無く刀に触れるとこう呟く。

 

【全集中 月の呼吸壱ノ型 闇月・宵の宮】

 

そう呟くと同時に抜刀し横薙ぎに一閃する。

 

すると、その斬撃に月輪の斬撃も加わり、回避不可能の攻撃となっている為襲い掛かった兵士達全員が絶命する事となってしまった。

 

その光景を目の当たりにした後続の兵士達は味方のあまりにもあっさりとした命の幕切れを見て、その少年の強さ・技に恐怖した。

 

このままでは自分は何も出来ずに殺されてただの犬死にになってしまう、死にたくないという想いと本能から起こした行動は敵前逃亡である。

 

戦う事よりも生きるという事を選択した事、決断した事は何も悪い事ではないし、誰も責める事は出来ないのだから。

 

だがしかし、それは圧倒的強者の前では無意味でしかない。

 

少年は地面を蹴って駆け出すと逃げ惑う兵士達との距離を詰め、問答無用で斬り捨てて行く。

 

逃げる兵士達全てを斬り捨てた頃には地面が見えぬ程の兵士達の死体が足元にへと横たわっている。

 

千を超える武装した兵士達をたった一人の少年が傷を一切受ける事無く斬り捨てた事になる。

 

少年の身体は兵士達を斬り捨てて行く際に噴き出してくる返り血を浴び続け、血で赤く染まっているその姿はまるで血に塗れた白兎ではなく血を求めている白髪の鬼の様である。

 

刀を握ったま血に塗れた姿で少年はこう呟く。

 

「まだ・・・足りない」

 

そのくちから漏れ出た一言は不満、一兵も逃さずに斬り捨てたにも拘わず不満を口にする少年は更に言葉を続ける。

 

「この程度では足りないな・・・、英雄になるにはもっと│力《・》を得る必要があるな。」

 

そう言い切ると、少年は刀から滴り落ちている血を払い落としてから鞘へと納めてからこう言った。

 

「お爺ちゃんが死んで三年・・・、傭兵として過ごしたのも三年か・・・。」

 

そう言いながら少年は空を見上げる。

 

すると、背後から殺気を感じ取って前に跳ぶと、そのすぐ後に少年が立っていた場所に無数の失が降り注いでくる。

 

少年が矢の飛んで来た方向を見ると、そこには少年を雇っていた筈のとある国の軍の姿がそこにあった。

 

それを確認した少年はこう呟く。

 

「なる程・・・、用済みになれば消すという事か・・・。」

 

そう、その国の軍は傭兵を捨て駒扱いしており、生き残っている傭兵は殺せと命じていたようだ。

 

少年が抜刀すると、刀が変化を始めて行く。

 

刀身が三又に分かれたと思えば刀自体が巨大になっていきながら少年はこう言った。

 

「なら、こっちも邪魔者を排除するか。」

 

その言葉を最後に少年は先ほどと同様に地面を蹴り、大軍にへと斬り込んで行く。

 

【全集中 月の呼吸捌ノ型 月龍輪尾】

 

さっきの壱ノ型と似た様な技ではあるが、その攻撃範囲は壱ノ型の倍でありその威力も倍である。

 

「ぎゃああああああっ!?」

 

「腕が、俺の腕がぁああああああっ!!」

 

「痛ぇ、痛ぇよおおおおおおお!!」

 

その一刀で多くの者が絶命する中、辛うじて生き残った者さえ腕や足を失い戦意をへし折れてしまっている。

 

そんな兵士達も少年は無慈悲に斬り捨てていく。

 

正に阿鼻叫喚と呼べる光景の中で表情を変える事無くその場に立っている少年の姿に指揮官の男は恐怖を覚えた。

 

「・・・ぁっ!?」

 

恐怖のあまり声が出ずに撤退の指示が出来ない状況になってしまっている。

 

そんな指揮官の元に少年はゆっくりと確かな足取りで歩いて行く。

 

それに対して指揮官の男は足が竦み、尻餅をつきながら何とか少年から遠ざかろうとするが恐怖で体が強張ってまったく離れていない。

 

そうして、遂に少年が指揮官の男に元に辿り着くとこう言って来る。

 

「・・・無様だな。たった一人の傭兵に大軍で襲っておきながら敗北するというのは・・・。」

 

そう言いながら指揮官に刀の切っ先を突き付ける少年の眼には侮蔑の感情が籠っている。

 

「化け物め。」

 

そんな目で見られながらも指揮官の男はそう言った。

 

「最後の言葉はそれだけか。」

 

それに対して少年は横一閃に指揮官の首を刎ね、刀に付いた血を振り払い鞘へと納めた。

 

「行くとするか・・・、迷宮都市(オラリオ)へ。」

 

少年はそう言いながら目的の地・迷宮都市オラリオへ足を向けるのだった。

 

 

少年の名はベル・クラネル、本来であればすでに冒険者となり英雄を目指す者であった。

 

しかして、この世界では上弦の鬼という存在に憧憬を抱いてしまった白兎の物語である。




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