ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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アニメは既にだいぶ前に終わってしまいましたが、ビルドダイバーズの二次創作になります。

久しぶりの執筆、投稿なので亀更新ですが皆さまが少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。


マスダイバー

 響く。

 

 鼓動が響く。呼吸が響く。自身の生の音が響く。

 

 響く。

 

 リアルな駆動音が響く。機械を主張する電子音が響く。無機物に宿された命の音が響く。

 

 規則正しい音。徐々に明るくなっていく周囲。閉じていた目を開くと、コックピットに似せられた景色が広がっていた。暗灰色の髪から覗く紅い瞳は静かに揺れる。

 

 アニメに即した造り故なのか、画面はOSが立ち上がるシーンを再現しているところだった。それもすぐに終わり、モニターには発進シークエンスが映し出される。操作レバーを握り締め、溜め息を零す。

 

 

「行きます」

 

 

 そして少年は大空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンプラバトル・ネクサスオンライン──通称、GBN。ディメンジョンと呼ばれる電脳仮想空間内にダイブし、ガンダムシリーズに登場するモビルスーツのプラモデル、ガンプラをあたかも自分で操縦しているかのように動かし、駆使して様々なミッションやバトルを楽しめる最新のネットワークゲームだ。サービス開始直後から瞬く間にプレイヤーを増やし、今もなお衰えることはない。

 

 そんなGBNに自宅からログインする少年が1人。専用の筐体は使わず、ベッドに寝転がってヘッドマウントディスプレイを装着する。大きな店舗ならともかく、自宅からログインするにはこれしかない。各ダイバーの情報が登録されたダイバーギアと共に起動させ、ディメンジョンへとダイブを開始した。

 

 

「……さて、と」

 

 

 暗灰色の髪を掻き、なんとはなしに周囲を見回す。いつも通りの喧騒。いつも通りの明るい雰囲気。いつも通りの熱狂。そこには毎日、何かしらの輝きがあり、曇りに繋がる要素など1つとしてないように思える。少年はその喧騒には参加せず、メール画面を開いて文面に書かれてある目的地を確認し、そこへ足を運んだ。

 

 

「あ……」

 

 

 するとすぐに待ち合わせている人物を見つけることができた。しかし周囲に人がいるからなのか、彼はマントと仮面で変装している。挨拶せず、彼の後ろにあるベンチに腰掛けた。

 

 

「すまないね。きちんと顔を合わせられなくて」

 

「いえ、このままでも僕は大丈夫です」

 

「ありがとう」

 

 

 待ち合わせの男性は金髪を揺らして周囲を見回す。まだ人気が多いことを気にして声を潜めて話を続ける。

 

 

「今日のマスダイバーはこの3人だ」

 

 

 言い切った直後、少年の方にメールが届く。添付されている資料をタッチすると、ダイバーの情報と、扱っているガンプラの情報が出てきた。

 

 マスダイバーとは、不正パーツとされているブレイクデカールを使用するダイバーの総称だ。リアルのガンプラにナノICチップを練りこんだブレイクデカールを張り付けた状態でGBNにログインすると、システムがガンプラをスキャニングする際にブレイクデカールのコードを強制的に割り込ませる。そしてGBN内で不正コードを発動すると、ガンプラはシステム以上の能力を発揮する──これが、ブレイクデカールである。

 

 少年はそのマスダイバーを専門に相手をしている。もちろんマスダイバーにも様々な事情を抱えている者が存在する。単に対戦者を蹂躙したい者、仲間のために強さを得たい者、楽にミッションをクリアしたい者、理由は様々だが、それ故に少年は初心者狩りや乱入を繰り返すマスダイバーを中心に相手をしている。

 

 

「報酬は……好きなガンプラでどうかな?」

 

「そんなに強敵なんですか?」

 

「いや、君ならそこまで手こずることはないだろう。

 でも、いつも頑張っているお礼も込めて、ね」

 

「……流石に、自分で買いますよ」

 

 

 苦笑いし、少年は添付されたデータを眺めていく。敵は常に3人で行動しており、連戦ミッションを行っているダイバーを襲撃して報酬を横取りしているらしい。機体は決まっているのか、エコーズ仕様のジェガンとロトが2機と言う情報まである。

 

 

「ここまで揃っているのなら、第7機甲師団に依頼した方がいいのでは?」

 

「今はフォースに入った新メンバーの育成で忙しいみたいなんだ。

 僕も、長くフォースを留守にするわけにいかない」

 

「分かりました。では、失礼します。“チャンプ”」

 

「あぁ、武運を。シンヤくん」

 

 

 シンヤと呼ばれた少年は立ち上がり、情報を提供してくれた男性へ1度頭を下げてからミッションカウンターへと向かう。登録してあるガンプラの中から1機を選び、早速ミッションを受諾した。

 

 連戦ミッションとは、ステージを移動しながら順繰りに敵を倒していくミッションを差し、フェーズ1から始まるミッションステージを攻略し、最後のボスを倒せばクリアとなる。その連戦ミッションで最近、下位ランカー向けミッションにマスダイバーが乱入する事態が増えていると噂されているため、シンヤはその調査と対処へと向かった。

 

 シンヤが選んだ機体は、機動戦士ガンダムSEEDに登場するレイダーガンダム。黒を基調としたその機体は、猛禽類を彷彿とさせる姿への可変機構を備えており、機動性に優れている。相手の戦術を考えると、機動性を重要視したかった。

 

 あとは、シンヤ自身が高機動の機体を好んでいるのもある。もっとも彼の場合、日ごとに自分が搭乗するガンプラを変えているので、機動性に優れたガンプラしか乗らないわけではないのだが。

 

 ミッションを受諾して、早速ハンガーへとマップを移動すると早々に直立するガンプラに乗り込み、そして出撃した。

 

 シンヤが駆るレイダーは原作通りの色で、原作と何も変わらぬ武装を所持していた。自分なりの色彩で彩ることも、カスタマイズすることもしていない。GBNでは珍しくもないことだが、シンヤの周りは誰もがカスタム機を使用しているだけに、時折気後れすることもある。もっとも、ビルダーとしての腕前が壊滅的と言う訳ではなく、自分の思い描いたガンプラもちゃんと所持している。今は訳あって、使うのを控えていたが。

 

 

(まずは……)

 

 

 マスダイバーと出くわすためには最後のミッションまで進める必要があるため、操作と機体の確認も兼ねてミッションを開始する。

 

 青空を駆ける黒い鳥は、眼下に広がるビル群に向かって一気に高度を落とし、突っ込んでいく。慣れた手つきで操作グリップを動かし、ビルとビルとの間をモビルアーマー形態のままくぐり抜けた。すると、物陰に潜んでいたNPDと呼ばれるノンプレイヤーダイバーの敵が次々と現れ、銃口を向けてくる。

 

 

(数は3、機体はマラサイか)

 

 

 橙色が目を惹くモビルスーツはモノアイを光らせ、一斉に引き鉄を引いた。初心者向けのミッションと言うのもあってか、ひたすら連射を繰り返してくる。ライフルから放たれる光線を悠々とかわし、一際大きなビルを盾にするように位置取ると、モビルアーマーからモビルスーツの形態へと切り替え、振り返り様に左手に備えられている鉄球を振りかぶる。

 

 

「当たるよな、レイダー」

 

 

 まるでガンプラが答えを返すような口振りは、どこか確信めいていた。ミョルニルと名付けられた鉄球は通ってきた軌道を辿っていき、見事1機の横っ腹に命中した。易々と装甲を砕かれたマラサイの身体はたちまち火花を散らし、果ては爆散した。それを確認するや否や、レイダーは猛禽類を彷彿とさせるモビルアーマー形態に再び姿を変える。ビルの隙間を縫って残ったマラサイの前に現れると、すぐにビームライフルが構えられた。

 

 

「遅い!」

 

 

 しかしトリガーが引かれるより速く、鉤爪のような大型のクローが1機を捕獲する。すかさずクローに備わっているアフラマズダから小型のビームサーベルを展開し、捕獲したマラサイの胴体をゼロ距離で引き裂いた。素早く放すと同時に最後の1機目掛けて抛り、機体同士をぶつけ合ってまとめて倒すことに成功する。

 

 

「やった」

 

 

 嬉しそうに言うシンヤは意気揚々と次のミッションへ機体を走らせた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「ふぅ……ひとまず、お疲れ様」

 

 

 インターバルで機体から降りたシンヤはレイダーを見上げながら呟く。被弾することなくミッションをこなしたものの、やはり機体を休ませたかった。なにより、普通なら目にすることの出来ない巨躯を見られるのは心踊るものがある。

 

 

「ガンプラと話せたらいいのになぁ」

 

 

 物には九十九神が宿る──幼い頃からそう聞かされて育ったシンヤは、それが当たり前だと思っていた。もちろん今も心の片隅では宿るのではないかと思っているし、なにより宿ったのならどうしても聞いてみたいことがある。

 

 自分に楽しむ権利があるのか。自分のガンプラに対する愛は足りているのか。自問自答を繰り返すものの、答えは一向に見つからなかった。だから、共に戦ってきたガンプラに聞きたくて聞きたくて、仕方がない。自分は、GBNの世界にいてもいいのか──と。

 

 

「……行こうか」

 

 

 今日も返る答えはない。当たり前のことなのに、どうしても焦燥感を拭えなかった。

 

 程なくしてラストミッションまで辿り着いたシンヤは、何気なく周囲を見回す。誰かが出てくることも、仕掛けてくることもなく、静けさだけがそこにあった。

 

 

(空振りかな)

 

 

 連戦ミッションをやっているのは自分だけではない。他のところに乱入する可能性もあるため、日を改めようか──そう思った矢先のことだった。目の前に1機のモビルスーツが降りてきた。ダークブラウンをメインとしたカラーリングと、一般機とは違う追加された装甲。エコーズ仕様のジェガンに間違いない。すかさずマップに目を移すと、離れた場所に更に2つ分の反応が確認できた。恐らく情報にあったロトが配置されているのだろう。

 

 

「ソロプレイヤーか?」

 

「えぇ、そうです」

 

「1人でここまできたなら、疲れただろ。残りのミッションはこっちで引き受けるよ」

 

「お断りします。貴方にクリアできる保証もないですし」

 

 

 丁寧な口振りだが、ダイバーネームとIDはもらった情報と一致している。間髪入れずに断り、わざとらしく挑発すると相手はあからさまに口調を荒らげた。

 

 

「生意気だな。なら……消えてもらおうじゃねぇか!」

 

 

 言うが早いか、ジェガンが紫色のオーラに包まれる。不気味な気配を醸し出すそれこそ、ブレイクデカールを使用している証に他ならなかった。

 

 ジェガンはすかさずビームライフルの引き鉄を引くも、シンヤは機体を跳躍させてあっさりとかわす。

 

 

「っ!」

 

 

 視界の端で何かが光った。気付くのとミョルニルを振り回したのはほぼ同時だった。ミョルニルにつけられた高分子ワイヤーを機体の前方で反時計周りに振り回すと、飛来した実弾が弾かれる。

 

 

「ロトか」

 

 

 情報に差異がなければ、今のは物陰に潜んでいたロトによる砲撃だろう。2機いる内の1機しか攻撃して来なかったことを考えると、もう1機のロトはオプション装備が違うのかもしれない。

 

 

「先に叩こうか」

 

 

 レイダーをモビルアーマーの形態に変形させるとジェガンを顧みることもなく、砲撃を仕掛けてきたロトへ一直線に向かう。マップで敵機の位置を確認すると、2機のロトは距離を開けながらも一直線に並んでいた。恐らく向こうも砲撃したロトを狙っていることに気付いたのだろう。背後を狙えば離れている別のロトに狙い撃ちされてしまう。

 

 

「なら、側面はどうかな」

 

 

 砲撃仕様のロトの隣にあるビルの幅はそこまで広くない。ビルを挟んだ隙間に入り込むと、速度を調節して変形をとく。

 

 

「ここだ!」

 

 

 左手を突き出すと同時にミョルニルを放つ。窓ガラスを突き破った鉄球は速度を上げ、ビルの反対側にいたロトを叩き潰す。

 

 

「当たった」

 

 

 嬉しさと感謝を胸に、レイダーを変形させて素早くその場を離脱する。

 

 

「マキュラがやられた!? くそっ!」

 

 

 目の前で仲間がやられ、苛立ちを募らせるマスダイバー。舌打ちし、ロトを戦車モードに切り替えてビル群から抜け出す。

 

 

「奴は!?」

 

 

 高機動のレイダーを見失った焦りからなのか、ろくにマップを見ようともしないマスダイバーは、響くアラートによってようやく我に返る。

 

 

「そこか!」

 

 

 肉薄してくるレイダーに向かって、右肩に装備されているメガ・マシンキャノンが火を噴く。ひたすらに、がむしゃらに、ただただ連射を続ける。

 

 

「なっ、何で……何で当たらねぇんだ!?」

 

「狙いが甘い」

 

 

 狼狽するマスダイバーに対し、シンヤは至って冷静だった。バックパックのヘッド部分と折り畳まれた肩から覗く機関砲を放ち始めたレイダーはしかし、ロトがブレイクデカールを起動させたことで旋回することを余儀なくされる。

 

 

「流石に、堅い!」

 

「ハハハッ、これでなぶり殺しだ!」

 

 

 連射を再開したメガ・マシンキャノン。元々高い命中精度を誇っているだけあり、シンヤは詰め将棋のように徐々に追い詰められていく。

 

 

「くっ、もう1機!」

 

 

 更にそこへビルの屋上に跳び上がったジェガンがビームライフルを使って追い込んでくる。側面を掠めるビームの光に気を取られて生じた、本の一瞬の隙を突かれ、遂に被弾してしまう。

 

 

「しまった!?」

 

 

 一撃とは言え、ブレイクデカールで強化された弾丸はバランスを崩すには充分過ぎた。追撃の手は緩まず、レイダーは遂に錐揉みしながら落下していく。

 

 

「これで、終わりだぁっ!」

 

 

 ロトがミサイルハッチを開き、マシンキャノンと合わせて火薬の雨を撒き散らす。

 

 

「なめるな!」

 

 

 しかしシンヤはその状況に恐怖することも臆することもなかった。地面に激突する既の所で機体を持ち直し、機関砲でミサイルを迎撃する。相殺されたミサイル群がもうもうと黒煙をあげ、一瞬だけ静寂が戦場を支配した。そして───

 

 

「くらえっ!」

 

 

 ───黒煙から身を踊らせたレイダーが、口部にあるビーム砲を放つ。

 

 

「なんだと!?」

 

 

 倒したと過信していたのか、ロトは放たれたビームを避けることも叶わず、胴体を貫かれ、爆発した。

 

 

「最後だ!」

 

 

 グンッと機体を急上昇させてモビルスーツ形態に変わると、右手にある攻防盾に付いた2連装の機関砲で牽制しつつ、ジェガンの背後に回り込む。しかし振り向き様にビームライフルを打たれ、思うように攻撃を当てられない。

 

 

「このマスダイバー、中々やる!」

 

「はっ、ロトの奴らは素人だからな!」

 

 

 マスダイバーもブレイクデカールに頼る者ばかりではないらしい。シンヤは1度距離を取り、ジェガンの上空を旋回する。

 

 

「行くよ、レイダー!」

 

 

 必ず勝つ──決意を胸に、再びジェガンへ向かって機体を突撃させる。

 

 

「真っ向勝負か? コイツでもくらっとけ!」

 

 

 ジェガンはシールドにあるミサイルランチャーを放ち、続けてビームライフルを構える。どう避けても追撃は免れないだろう。シンヤは2連装の機関砲でミサイルを撃ち落とすと、鉄球を振りかぶる。直上から叩きつけるように放たれた鉄球をかわそうと僅かにジェガンが動いた刹那、鉄球は軌道を変えて膝に叩きつけられた。

 

 

「何を──!?」

 

 

 バランスが崩れ、よろめく敵機の背後はがら空きに等しかった。ビーム砲でメインとなるスラスターを破壊すると、猛禽へと変形し、大型のクローを前面に突き出す。

 

 

「上がれえええぇぇ!!」

 

 

 そして一気に加速、上昇。重たい機体を抱えたまま上がれる高さはたかが知れている。それでも、シンヤはレイダーを信じて蒼穹へと舞い上がった。

 

 

「限界かな」

 

 

 なんとはなしに呟き、ジェガンを放す。眼下に広がるのはビル群ではなく更地で、自由落下すればただでは済まされない。

 

 

「ちくしょう!」

 

 

 メインスラスターを失ったせいで機体制御が追いつかない。マスダイバーは必死になるが、シンヤはこの隙を見逃す程甘くはなかった。

 

 

「墜ちろ」

 

 

 冷徹に、冷淡に。ミョルニルを振りかぶり、加速をつけてがら空きとなった背中に叩きつけた。鉄球に加えられた速度と本来の重量がさらにジェガンを襲う。悲鳴を上げるマスダイバーのことなど歯牙にもかけず、地上へとぶつける。

 

 更地となっていたそこから、いつしか火の手が上がっていた。爆発した敵機は既にログアウトして影も形もない。シンヤは溜め息を零し、頭を掻く。勝ったのに、敵を倒したのに、気分は晴れなかった。

 

 

「行こうか」

 

 

 返事など返らぬと知りながら、静かに呟いた。

 

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