ガンダムビルドダイバーズ -once more- 作:雷電丸
シンヤがフォース、ブースターズに所属してから1ヵ月───。
「シンヤ、そいつで最後だ」
「了解です」
目の前で孤立してたじろぐ敵に向かってビームサーベルを振るう。十字が刻まれた巨体はゆっくりと倒れ、やがて爆散した。
「やったな!」
「はい」
ブースターズの中でやっていけるのかと言う不安はだいぶ払拭されていた。ここ1ヵ月、毎日ログインしてはブースターズの仲間と共にフォース戦に挑んでは勝利を迎えている。
まさしく順風満帆と言った中、シンヤはこの日常が続くことを信じて疑わなかった。
「はぁ……」
「デカい溜め息だな、ユウ」
「そりゃそーだよ。今日、オイラは真っ先にやられたんだし」
「スナイパーには厳しいステージだから、仕方ないって」
ユウのジム・ナイトバレトはジャミングライフルなども持ち合わせているが、今日は運悪く複数の敵に囲まれてしまい、早々に撃墜されてしまった。ヨルアの言うように、遮蔽物の少ないステージだったこともあり、スナイパーとしての働きもできなかったのが悔やまれる。
「お疲れ様です」
「お疲れさん」
「お疲れー」
シンヤが持ってきてくれたドリンクで喉を潤し、溜め息をつく。なるべく心配をかけたくないからと、ネガティブな気持ちは孕ませないように。
「ユウさん、なんだか元気ないような……」
「うっ……」
「やーい、見抜かれてやんの」
「うっさい!」
気を遣ったはずが、シンヤに気を遣われてしまう始末。はやし立てるヨルアを睨み、ユウは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「いや、今日は活躍できなかったし、役にも立たなかったから……」
「あー……僕も最初そうでしたし、今日のはほとんどヨルアさんもアサバさんが倒して、相手の士気を下げてましたよ」
「そうそう。ユウはともかく、お前はいてもいなくても変わんねぇんだよ」
シンヤの気遣いにこれでもかと同意し、不要だと訴えるヨルア。これも毎日の言い回しなので、もう慣れてしまった。
「ほら、ヨルアさんもそう言ってますし」
「いや、コイツは誰にでもそーだから」
「んだと!」
ヨルアの言葉を一蹴するユウ。憤慨しているものの掴みかかったりはしない辺り、長い付き合いで仲良くなった関係を窺わせる。
「あんたら、終わったらさっさと出て行きなさいよ」
マヒルの言葉に従い、シンヤは早々にフォースネストから出て行く。しかしユウはその場を去ろうとせず、しばらく顔を俯かせていた。
「大丈夫か、ユウ」
「リーダー……今日は、すみませんでした」
ユウの落ち込み具合を察して、すぐアサバが声をかけてくれる。いや、アサバだけではない。マヒルもヨルアもその場を離れはしたものの、帰る素振りは見せなかった。
「謝ることなんてない。スナイパーだからって、必ずその役目を果たさなきゃいけないわけじゃない」
「そうそう。それに、あの状況で1機はやったじゃない」
「でも、みんなならもっと倒せてた」
「比べたらキリがないって。無理に自分を傷つけるな」
アサバが強めに言うと、ユウはまた申し訳なさそうに顔を伏せる。そしてしばらく沈黙した後、彼は重い口をゆっくり開いた。
「あいつが……シンヤが、活躍するようになって、オイラは置いてけぼりされてるんじゃないかって」
「何言い出すんだよ!」
「ヨルア、よせ」
思ってもいなかった不安を告げられ、すぐさまヨルアが声を荒らげる。すかさずアサバが制するが、彼は明らかに憤慨した様子を隠そうとすらしない。
「とりあえず、少し休んだら?」
「そうだな。ちょっとフォース戦は休むか」
このまま引きずらせても良くないので、今度はできるだけ下位ランクのフォースと戦って、自信を取り戻してもらった方が良さそうだ。
シンヤに続いてユウがログアウトし、マヒルも、それを追いかけていく。最後に残ったヨルアはアサバを振り返り、言いづらそうに頭を掻く。
「……なぁ、あいつマジで強くなってねぇか?」
「元々素質はあったんだろ」
あいつ──それがシンヤを指していると分かり、アサバは溜め息交じりに壁に寄りかかる。その目に嬉々とした色はなく、寧ろ警戒の色を孕んでいた。
「いいのか?」
「正直、分からん。強くなってもらうのはもちろんありがたいけど……さっきのユウみたいな考えが出るのは良くないな」
今は誰も彼もが戦力として充分な力を持っている。アサバもヨルアも、マヒルも、もちろんユウも。しかしシンヤが強くなればなるほど、このフォースの在り方が変わる可能性も少なくない。
先程、ユウが不安になったように、自分が戦力になっていないのではないかと言う疎外感。それを全員が抱えてしまえば、フォースとしては終わりだ。
「まぁ、ガス抜きは考えるさ」
下位のフォースを倒せば、ユウも少しは自信が戻るはずだ。勝利が齎すものは何も、賞品だけではない。自分は強いんだと意識させることにも繋がるだろう。
「さぁ、俺たちも帰ろうぜ」
「だな」
そうして、アサバとヨルアもフォースネストを後にする。ログインしている者がいなくなったそこは瞬時に真っ暗な空間へ変わっていった。不気味な程に。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おいおい、マジかよ……」
ヨルアの声はわずかに震えており、目の前の光景を信じられずにいた。
数日ほど間を空けて、ユウがある程度気を取り戻したのを確認してから臨んだフォース戦。最もポピュラーで慣れ親しんだ殲滅戦で、しかも敵は自分たちよりも下位ランクだ。にもかかわらず、ヨルアが見ていたモニターではアサバのリゼルブーストが撃墜されて黒煙をあげながら落下していく様だった。
結果は言うまでもなく、完敗。敵を1機も墜とせずに、自分たちは敗北を喫したのだ。
「いやぁ、まさかあんな隠し武器があるとはな」
申し訳なさそうに苦笑いしながら戻ってきたアサバの声色は、明らかに動揺していた。勝って自信をつけるために挑んだのに、これでは却って逆効果だ。
なによりまずいのは、また真っ先に墜とされたのがユウだったこと。スナイパーの彼を警戒して、位の一番に強襲してきたガンプラによって、彼はなす術なく撃墜されてしまった。しかもそれを起点に、敵は挟み撃ちを敢行。常に多対1の状況を作り、次々とブースターズのメンバーを蹴散らしたのだ。
「……お前だ」
「え?」
「シンヤ! お前のせいだっ!」
わなわなと拳を震わせていたユウが立ち上がり、シンヤに向かって吠える。思わぬ一言に面食らったシンヤは呆然としてしまい、言葉を返せずさらに畳み掛けられる。
「お前がオイラを護衛したり、機動性を上げるHADESを使って戻ってきさえすれば、こんなことにはならなかったんだよ!」
「それ、は……」
確かに、スナイパーを早々に孤立させたことは結果的に良くなかっただろう。しかしシンヤが使うペイルライダーはその多くを接近戦に持ち込むことが多く、いわゆる前衛タイプにあたる。護衛をするなら、中遠距離もこなせるマヒルかアサバが適任だろう。
また、HADESも制限時間を過ぎればガンプラに使用後の負荷がかかってしまい、ユウのフォローに向かっても足手纏いになる可能性が高い。なにより機動力で言えば、アサバのリゼルブーストが変形した方が圧倒的に速く、ユウの言い分はこじつけているとも言えた。
周りもそれは理解しているようで、同意の声は返らない。しかしシンヤが何を言うのか気になっているのか、彼は強制的に全員の視線を集めてしまう。
「その……ご、ごめんなさい」
結果、シンヤの口から出たのは謝罪だった。自分が最も年少だったこと。フォースのメンバーとして新参者だったこと。周りの目が辛かったこと。あまりに重い空気に居た堪れなくなったシンヤは、謝ることで場が保てるならと考えてしまった。
それが、終わりの始まりに繋がっていく。
シンヤが謝ったことでその場は流れたが、責任を押し付けたユウも、自ら謝罪を選んだシンヤも、互いに実力を充分に発揮できなくなっていく。
次なる試合ではシンヤは狙いが甘かったり、味方を気にするあまり敵からの猛攻にさらされたりと散々な結果を招いてしまう。負ければ敗因の一端は自分にあると思い込んで謝り、勝っても悪かったところがあるからと謝罪。試合結果がどうであろうと、シンヤはただただ謝り続けた。
またある日───。
「何やってんだよ、お前はぁっ!」
「うぐっ……」
ヨルアに襟を掴まれ、そのまま壁に叩きつけられる。勢いよくぶつかったせいで、呼吸が苦しくなったが、ヨルアはそんなことなど気にする様子もなく、シンヤを睨む。
「テメェ、俺に恨みでもあんのかよ!」
「そ、そんなことは……!」
その日も、敗戦が続いていた時に行われたフォース戦だった。誰もが必死に戦っているのに、シンヤだけが自分のミスに怯えてばかり。それでも足手纏いになりたくないからと、躍起になっていた。
ヨルアのネモ・スラストが敵と接近戦をしていた場面に駆けつけたシンヤは、ペイルライダーで援護しようとキャノン砲を構えた。ヨルアにキャノン砲で援護すると伝えると、彼はすぐさま距離を取ってくれた。だからシンヤは迷わず引き鉄を引いたのだが──あろうことか放った弾丸は開いた距離を詰めようと踏み込んだネモ・スラストに当たってしまったのだ。
シンヤからすれば、どうして射線に入ってきたのか分からなかったが、ヨルアはそれを誤射だと言ってシンヤに怒りをぶつけた。
「まぁまぁ、それくらいにしておけよ。結局は勝ったんだし」
見かねて、アサバが助けてくれる。しかしヨルアが離れた直後、シンヤにだけ聞こえるように「次は気を付けろよ」と、まるで追い討ちをかけるように囁く。
いてもたってもいられなくなったシンヤは「ごめんなさい」とだけ言って、フォースネストから去っていく。その背中が見えなくなったところで、マヒルが真っ先に溜め息をついた。
「何であいつ残してんの?」
誰もがずっと聞きたかったことだ。シンヤが足を引っ張りつつあるのは明白だし、毎度毎度ヨルアが苛立って空気が重くなるのは御免だ。
「必要だろ。サンドバッグが」
間髪入れずに答えたアサバの声色はあまりに冷徹で、なにより迷いがなかった。
「シンヤを、ガス抜きに使うってこと?」
「正解〜♪」
ユウの問いかけに、アサバは頷く。負けた時の原因はシンヤにある。仲間が苦戦を強いられたのも、敵を倒せなかったのも、何もかもシンヤが悪い。そう考えれば、少しは自尊心が保たれるから。
アサバの考えを知り、しかし誰もそれを否定しようとしない。ヨルアは当然だとでも言うように鼻を鳴らし、マヒルは興味がなくなったのか「あっそ」と冷淡に言うだけ。ユウも、それが最善だと思ったのだろう。言葉はないが静かに頷いた。
「まぁだからって、負けばっかりじゃあ面白くないよな。
そこで、みんなにプレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
「そう。聞いたことあるんじゃないかな。ブレイクデカールって」