ガンダムビルドダイバーズ -once more- 作:雷電丸
「……ごめん、ペイルライダー」
数日後───。
しばらくGBNへログインするのを控えていたシンヤだったが、アサバから人手が足りないからとメッセージが届いて久しぶりのフォース戦に臨んでいた。
土砂降りのステージで、ガンプラを通じて聞こえてくる雨音が少しだけ怖い。そんな想いを抱きながら、シンヤはコクピットで愛機に向かって謝っていた。
今、自分の周りには誰もいない。アサバから「今日は俺たちで可能な限りやるから後ろで頼む」と言われてしまい、仕方なく後方でキャノン砲を構えるしかできずにいる。スナイパーもこなせるユウのジム・ナイトバレトならともかく、自分が後方にいてもなんの役にも立たないのに。
戦わせてあげられない申し訳なさと、フォースを抜けようと決意できない自分の不甲斐なさに、気付けばペイルライダーに謝罪していた。
「あっ、敵?」
戦闘の音は聞こえてくるが、敵味方とも姿が見えない中で長らく待たされていたシンヤは、マップに突然表示された敵機を示すアイコンを見て機体を動かす。
森林地帯を突き破って出てきたのは、モスグリーンをメインとして、各部の尖端が鋭利になっていふシルエットが特徴的な機体、ゲイツだった。『ガンダムSEED』の終盤に登場する量産型モビルスーツで、ビームライフルやシールドなどの標準的な装備やエクステンショナルアレスターと呼ばれるビーム砲を内蔵したアンカーを持つ機体だ。
《うわっ、こっちにも!?》
ゲイツのパイロットらしい男の声が聞こえてきた。シンヤはすぐに構えていたキャノン砲を撃とうと、引き鉄にかけていた指を動かそうとする。
だが───。
《お前ら、卑怯だろ!》
「卑怯?」
《あぁ、そうだよ。全員がブレイクデカールなんて使いやがって……!》
「ブレイク、デカール?」
訳が分からず、シンヤは引き鉄を引けなかった。その戸惑いが通じたのか、ゲイツのパイロットもビームライフルを下ろしてくれる。
《まさか、知らないのか?》
「は、はい。すみません……」
男からブレイクデカールについて簡単に説明がなされる。ログインする前にガンプラに特殊なチップを籠めると、データを読み込む際にバグを起こして、本来のステータス以上の強さを発揮できる代物らしい。最近、そのブレイクデカールを使う人物が少しずつ増えていて、運営からの知らせこそないものの、掲示板で話題になっているのだとか。
「そのブレイクデカールを……僕の、仲間が?」
《あぁ。だからあんたも、てっきり──》
突如として通信が途切れる。長距離から放たれた閃光が、ゲイツのコクピットを的確に貫いたのだ。
「あっ……!」
風穴が開いたゲイツに向かって、思わず手を伸ばす。その手は何かを掴むことも、助けることもできずに虚しく伸ばされ、終わった。爆発して目の前で壊れていく機体を見、次に自分の手を見る。話してくれたのに。ルールを破ったのは、自分の仲間なのに。そう思うと、ゲイツを破壊したのは自分なのではないかと思えてならなかった。
「終わったみてーだな」
ゲイツが走ってきたのと同じ方向から、ネモ・スラストが現れる。続いて上空からリゼルブーストが飛来し、モビルスーツへと姿を変えてシンヤの前に降り立った。その全身は紫色の禍々しいオーラを纏っており、それがブレイクデカールを使っている証だとすぐに分かった。
「あれ、勝利にならないな。バグか?」
「おいおい、せっかく勝ったんだからさっさと帰らせろよ」
アサバの怪訝そうな声も、ヨルアの苛立たしげな声も、シンヤの頭にはうまく入ってこなかった。彼らも彼らで、そこにシンヤがいようとまるで気にする素振りを見せない。
「……なんですか、それ」
やっとの思いで絞り出すように発した言葉は、自分でも驚く程に冷ややかだった。
「これ? あー、そういえば言ってなかったっけ」
「お前のペイルライダーも持ってる、HADESみたいなもんだよ。気にすんな」
「ブレイクデカール……」
「…なぁんだ。知ってたんだ」
シンヤが言葉を紡ぐと、アサバは観念したように呟く。しかしそこに悪びれた様子はなく、寧ろ警戒の色が滲んでいた。
「どうして、そんなものを!?」
「いやいや、そんなの勝ちたいからだよ」
あっけらかんと言うアサバに、ヨルアも「当たり前だろ」と乗っかる。ゲイツのパイロットが言っていた通りなら、ユウもマヒルもブレイクデカールを使っているはずだ。無理矢理なのか──いや、自分がそう思いたいだけかもしれない。
「つーか、そもそもお前がヘマしなけりゃ良かったんだよ」
「僕……僕、が?」
「それはもういいって。それより……シンヤもどうだ? そしたら、みんな一緒だ」
アサバの誘いの言葉は、シンヤの耳に入らなかった。それよりも大事なことがあったから。
(僕の、せい……)
ヨルアの一言は、シンヤにとってあまりに重いものだ。今までだって散々自分のせいだと思ってきた。泣きたくなるくらい苦しくて、重たくて、冷たくて、GBNが、ガンプラが、嫌いになりそうだった。
でも、まだ耐えられた。フォースメンバーが活躍するから。楽しそうに笑う時があるから。そこに自分が含まれていなくても、少しでも誰かの役に立てるなら、それだけで良かったんだ。
(だけど……だけどっ!)
だが、今目の前で起きていることは何だ。違反を平然と行い、敵を悪魔に与えられた力で圧倒する。しかもそれは、自分が招いた結果だと言われてしまう。
「……分かりました」
「ん?」
「僕が弱いせいなら、僕自身でその罪を清算します……!」
そうだ。自分のせいなら、自分が引き起こした原因なら。
すべて消し去ろう。自分自身の手で───!
「何っ!?」
ペイルライダーがビームサーベルを素早く一閃する。差し出していたリゼルブーストの右手が斬り飛ばされたが、アサバが下がった瞬間、その機影の後ろからジム・ナイトバレトが放ったであろうビームの光がシンヤ目掛けて走ってくる。
しかしシンヤはそれを紙一重でかわすと、ビームサーベルを握ったままネモ・スラストへ襲いかかった。
「正気か、テメェ!」
「この状況がもう、正気じゃない!」
「狂ってやがる……」
「アンタが言うセリフかっ!」
いきなり襲いかかってきたことに多少なりともヨルアも驚いているが、アサバと同様に冷静さを取り戻すのは早かった。
ビームサーベルを振るうペイルライダー。薙ぎ払うように迫る一閃を、ネモ・スラストは屈んでやり過ごす。光刃が頭上を走り抜けた瞬間、反撃に転じようと握っていた大剣を振り上げようとする。
しかし、ペイルライダーの方が幾分か早かった。重たい大剣が上がりきるより早く、右足で腕を蹴り飛ばす。重心がずらされ、ネモ・スラストは刃を閃かせることは叶わず、さらには後ろへよろけてしまう。それでもペイルライダーの動きは止まらない。蹴った反動を活かして背中から一回転。さらにシールドについたスパイクを伸ばし、ネモ・スラストのメインカメラを強打する。
「こいつっ!」
「下がれ!」
頭に血が上りそうになるのを、アサバの一言が制した。有無を言わさぬ勢いある言の葉に、ヨルアは反撃ではなくその場を退くことを選ぶ。
リゼルブーストが、ビームライフルを捨てて背負っているメガビームランチャーを放つ。しかし既に右腕を斬り飛ばされた状態で、2つある内の1つしか放てないのは制圧力に欠ける。それでも、ヨルアをやらせまいと躊躇わず引き鉄を引く。
シンヤはペイルライダーのスラスターを全開にして、思い切り後ろへ跳躍して放たれた火線をやり過ごす。そうして後退しながらマシンガンを向けるが、その銃身をリゼルブーストとネモ・スラストの奥から現れたガンプラによって撃ち貫かれる。
「マヒル、さん……!」
「何やってんのよ、シンヤ!」
逡巡するマヒルの声とは違い、シンヤの声は諦めの色を孕んでいた。さっきは思わず手が出てしまった──そう思ったのも束の間、もう引き返すつもりがないのだと自分の声音で察したシンヤは、続く火線を全開にしていたスラスターをすべて切ってかわす。
しかし、着地地点には早くもネモ・スラストが先回りしており、シンヤとの距離が近づくにつれてその気迫を増していくように感じられた。
「テメェ……絶対に赦さねぇ!」
「赦してもらおうなんて、思ってませんよ……!」
今になって、赦しを請うなんて真似はしない。自分が弱いから、今を作り出してしまったのだから。
ネモ・スラストが、腰部のアンカーを射出する。ペイルライダーはそれをビームサーベルの二刀で斬り裂き、落下速度と合わせて思い切り刃を振り下ろす。
「かたい……!」
「当たり前だ! これが、ブレイクデカールの力なんだよぉ!」
先刻は隙をついただけに過ぎない。ブレイクデカールの力を目の当たりにして、これが手軽に求められる手に入る強さなんだと理解する。誰もが簡単に、圧倒し、蹂躙し、勝利に酔いしれる。それを可能とするブレイクデカールは、人によっては喉から手が出るほど欲しいに違いない。
もしかしたら、自分だって──だからこそ、負けたくなかった。目の前にある虚構の力を、認めたくなかった。
大剣に押し返される反動を利用しながら後ろに下がり、三連装のミサイルポッドからヨルアとマヒルのガンプラ目掛けてミサイルを放つ。2機が怯んでいる間に、ガンプラ以上の高さを誇る木々を盾にして森林の中へと消えた。
(ユウさんは……?)
手負いのリゼルブーストを援護するべく、ユウのジム・ナイトバレトはどこかに身を潜めながら、こちらの位置を確認しているだろう。幸い、自機がロックオンされているアラートはないが、気は抜けない。
(きた!)
痺れを切らしたのか、別方向で木々が薙ぎ払われる音が雨音に混じって響き渡る。その中には確かにガトリングの音もあり、マヒルのジーライン・ヘールアーマーが自慢のガトリング砲を使っているのだろう。
シンヤはペイルライダーの両足からミサイルポッドを切り離し、わざと目立つようにその場の樹木を倒して警戒の目を引きつけた。
「そこか!」
マヒルはなんの疑いもせず、4つのガトリング砲をフルに稼働させる。やがて小規模な爆発が起こったのを見て、やったのかと思わず手を止めた。
その瞬間───
「はあああぁぁっ!」
───シールドのスパイクを展開し、ジーライン・ヘールアーマーに突き立てようと真っ直ぐにペイルライダーが突っ込んできた。
「なに、なんでっ!?」
驚きに目を見開き、うろたえるマヒル。先程の爆発が、ペイルライダーから切り離しておいたミサイルポッドを貫いたものだと知らないのだから、無理もない。
隙だらけなジーライン・ヘールアーマーに向かって駆け抜けるペイルライダー。しかしそれを阻むように、真横からネモ・スラストが強襲する。大剣を振り被り、左腕をシールドごと叩き斬ろうと飛びかかった。
高らかに上げた刃が、真っ直ぐに振り下ろされる。ブレイクデカールの力を誇示するように荒々しく振るわれた一閃は、しかしシンヤの操縦技術によって儚く虚空を薙いだ。
刃が当たるより早く機体を半時計回りに回転させ、ヨルアが放った一閃が地面に激突した瞬間、回転を終えたペイルライダーのシールドが再び頭部にぶつけられる。
「ぐおっ!? テメェ、まさか……!」
再現された衝撃に呻くヨルアは、ある可能性に至る。その考えを肯定するように、目の前のペイルライダーは動きを緩めず、二刀のビームサーベルを振り被っていた。
「最初から、俺を狙って───」
大剣を振り下ろしたばかりで、頭部を狙われ怯んでしまったネモ・スラストは、別の武器を手にする余裕がなかった。一瞬、まばゆい光刃がモニターの全てを埋め尽くす。最期に映ったのはそれだけで、後は斬り裂かれた衝撃がヨルアを呑み込んだ。
「ヨルアが、やられた……!?」
目の前でビームサーベルを右、左と交互に1度ずつ振るい、ダメ押しするように頭から最後に一閃。その動きは早く、誰からの援護も赦さない。
「ユウ!」
アサバの叫びを理解したのだろう。近くまで来ていたジム・ナイトバレトが、煙幕弾を放って援護する。
煙の中に取り残された状態では、アサバたちが断然に有利だろう。しかし森林を盾に逃げたところで、自分の居場所は筒抜けだ。3機の火力に制圧されるに違いない。
「煙を突っ切る!」
煙幕とジャミングのせいで、視界は何も利かない。しかしアサバの位置は大凡だが覚えている。既に変形して移動した可能性は高いが、無傷のジーライン・ヘールアーマーを相手にするよりも片腕がないリゼルブーストの方が狙いやすい。
シールドを前に持ってきて、煙の中を駆け抜ける。煙幕の範囲はそこまで広くなく、すぐさま開けた場所に出ることができた。だが、そこにリゼルブーストの姿はない。ジーライン・ヘールアーマーも、ジム・ナイトバレトもおらず、シンヤは次の行動に迷う。
「ぐっ!?」
その一瞬の隙をついて、背中に熱線が走る。バックパックのキャノン砲を貫かれ、誘爆を起こす前にすぐさま切り離す。たじろいでは狙い撃ちにされるからと、急いでその場を離れて木々の中に入ろうとする。
だが、そうはさせまいとガトリングが唸り、実弾の雨が襲いかかってきた。なんとかシールドでガードするのが間に合ったが、このまま浴び続ける訳にはいかない。けたたましい弾丸によって、シールドは少しずつ削られていく。
「あれは……!」
幸いなのは、ガトリングの射角にある程度の制限が設けられていることだろう。最大でもジーライン・ヘールアーマーの肩までしか向けられないから足下には弾が来ないし、左右への振り幅も狭い。しかしビームガトリングも共に撃たれていたら間違いなく足を狙われただろう。
距離を取ろうかと一歩だけ後ろに下がった時、ペイルライダーの左右からビームサーベルの光が真一文字に迫ってきた。ジーライン・ヘールアーマーがもつビームガトリングの銃口中央にあるビームサーベルが、刃を長大にして振るってきたのだろう。
「なら!」
シールドを前面に持ち直し、ジーライン・ヘールアーマーに向かって走り出す。徐々に狭まっていく左右のビームサーベルとの距離。しかし今はそれよりも、目の前で少しずつ壊れていくシールドに当たるガトリングに意識を集中させる。
(でも、マヒルさんだけじゃないはすだ)
マヒルだけに任せるほど、アサバもユウも手負いではない。きっと2機ともどこからか自分に狙いを定めているだろう。
果たしてシンヤの予想通り、左からリゼルブーストのものであろうメガビームランチャーの光が閃いた。しかしそれを予め読んでいたシンヤは、ペイルライダーのスラスターをさらに強くふかし、トップスピードに移る。
「やっぱり、時間差か」
ジーライン・ヘールアーマーに迫る時、最初から最大スピードになどしていなかったシンヤは、まずリゼルブーストからの射撃をさらに早く駆けることでなんなくかわし、ジム・ナイトバレトが時間差で放った攻撃にすぐさま対処する。
「HADES!」
バイザーが、血塗られたように真っ赤に染まる。ジム・ナイトバレトから放たれた閃光を、シンヤはペイルライダーを高く跳躍させることでかわす。HADESによって増した機動力は、強く踏み込んだことで発生した負荷など気にも止めず、雨空に機体を踊らせた。
マヒルはきっと、驚いているのだろう。ジーライン・ヘールアーマーの動きから、その狼狽っぷりが窺える。せめてもの抵抗なのか、ガトリング砲がこちらを向くがあまりに遅い。腕部のビームガンが左右のガトリング砲を撃ち貫き、爆発を巻き起こす。そしてボロボロになりかけたシールドのスパイクを伸ばし、直上から肉薄した。
「ちょっと、待っ───」
マヒルが何かを言っていたようだが、そんなことはシンヤの知ったことではない。真上から深々と突き立てられたスパイクは、ジーライン・ヘールアーマーの胸部を抉り、やがて爆発させた。
ゆっくりとペイルライダーを立ち上がらせる。土砂降りでも簡単には鎮火しないジーライン・ヘールアーマーの身体から巻き起こる炎に、不気味に照らされながら。
「あと、2機」
ジム・ナイトバレトもリゼルブーストも、姿を見せずにどこかに潜んでいる。索敵範囲は向こうが上だが、闇雲に動いてもこちらが後手に回ってしまうだろう。かと言って動かずにいてはただの的でしかない。
(HADESの限界時間を考えると、待ってはいられない)
一先ず、先程放たれた射撃から予測できる居場所に向かうのがいいだろう。そう思ってペイルライダーを走らせていくと、ジーライン・ヘールアーマーが振るった長大なビームサーベルによって開けた場所に出て行く。
「反応……上か?」
一瞬だけ映った敵機の反応を見逃さず、シンヤは視線を巡らせる。しかし反応があった方向には機影がなく、レーダーには高低差が表れていないことを思い出して空を見上げた。
「あれだ」
モビルアーマーの形態へと変形したリゼルブーストの背中には、ジム・ナイトバレトが乗っていた。2機が向かう方向には何もなかったはずだけに、その真意を測り知ることはできない。
キャノン砲を失ったペイルライダーでは、あの高度にある2機を撃墜するのは難しいだろう。このまま上からなぶり殺しにされるかもしれない。
2機の背中を追いかけながら、マップの表示を距離から高低差に切り替える。少し行った先に丘があるのを確認すると、ペイルライダーは今の速度を維持しながら駆けていく。ユウのジム・ナイトバレトは分からないが、アサバのリゼルブーストは進行方向を向かざるを得ない。強襲するならば、今の方向と速度を保ったままの方がいいだろう。
やがて開けた場所に出ると、シンヤはペイルライダーを一気に走らせた。そして丘の頂点にあたる場所で、再び跳躍させる。
「リーダー! 逃げ───」
ほぼ真下から躍り出たことで、ジム・ナイトバレトは射角を制限されて身動きができなかった。せめてもの抵抗なのだろう。襲いかかったペイルライダーに、ユウは自ら機体を飛び掛からせた。
しかしシンヤは冷静に、ペイルライダーは冷徹にそれを斬り伏せる。邪魔だと言うように、胴体を一閃して薙ぎ払う。分かたれた上半身がリゼルブーストの背後にぶつかり、爆発を起こす。ユウがいきなり飛び出したことでバランスを失ってしまい、すぐにこの場を離脱できなかったのだろう。
爆発によってメインスラスターが傷ついたリゼルブーストは、黒煙をあげながら真っ逆さまに落下していく。咄嗟にモビルスーツ形態へ変形したようだが、あまりに遅すぎた。スピードを殺しきれず、地面を滑っていく。
「動け! 動いてくれ! でないと、あいつが……!」
操縦桿をいくら動かしても、リゼルブーストは動かない。コクピットの中で慌てふためくアサバの背後から、ゆっくりと蒼いガンプラが近づく。第4の騎士。死の象徴。それを体現するような動きを見せるペイルライダー。
「ゆ、赦してくれ!」
「赦す?」
アサバの悲痛な叫びに、シンヤは首を傾げる。何を言っているのか分からない。何を赦せと言うのか。どう赦せばいいのか。まるで分からなかった。
「ブレイクデカールを使って悪かった! 反省してる! だから……だから赦してくれよ!」
降りしきる雨の中、なんとか機体を起こして仰向けになったアサバは必死に訴える。しばし沈黙が流れる。それを好意的に受け取ったのか、アサバは乾いた笑い声を虚しく漏らした。
「それは無理です」
だが、シンヤの口から出た答えはあまりに無慈悲で、芽生えたはずの希望をあっさりと打ち砕く。
ペイルライダーが、シンヤの言葉に合わせるように1歩踏み出した。
「赦すことはできません。だって、貴方たちがブレイクデカールに手を出したのは、僕が弱いからであって、貴方たちは悪くないんですから」
悪いのは総て自分だ。だから、彼らを狩らなくてはいけない。弱い自分のせいで、ブレイクデカールになんて悪に手を染めてしまったのだから。
逆手に持ったビームサーベルを振り上げる。アサバが何か叫んでいるみたいだが、シンヤは迷うことなく刃を突き立てた。
雨音だけが支配する世界で、シンヤはふと自分の頬に触れる。
「何で、泣いてるんだ?」
悲しいことなんてないのに。自分がこの結果を招いた悪そのものなのに。泣くなんて、赦されるはずがない。
それでも、涙は止め処なく溢れ続けた。まるで、泣くはずのない無機質なガンプラの分まで込められているみたいに。
読了ありがとうございました♪
次で過去編は最後になります。