ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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進むべきは

「……始まった」

 

 

 巻き起こる爆発。空を切り裂くビームの閃き。それらを遠目に、シンヤは試合が開始されたのだと察する。彼はペイルライダーに乗りながら、味方がこちらへ敵を誘導してくれるのを静かに待つ。

 

 夜の暗闇を活用すべく、カムフラージュのために黒いマントも着込んでいるから簡単には見つからないはずだ。

 

 今回シンヤが挑むのは、3 on 3のチーム戦だが、彼の目的はただ戦うだけではない。ブースターズを辞めてから幾つかのフォースを転々としてきた彼は、新たなフォースに入る度にブレイクデカールを使う味方を屠ってきた。それは別に、不運だから仕方なく撃ってきた訳ではない。自らすすんでネットで情報を拾い上げ、ブレイクデカールに魅入られたダイバーを見つけては叩き潰してきたのだ。

 

 

(これで何度目だっけ)

 

 

 まだ数える程度しかしていないはずなのに、数えるのが面倒だから思い出すのもやめてしまった。しかしペイルライダーばかり使っていては、いずれ警戒されるだろう。いずれは違うガンプラを選ばなくてはならないことが、目下の悩みでもあった。

 

 

(今は集中しないと)

 

 

 頭を振って、目の前の戦闘に集中する。なにせ今日は対戦相手が手強いのだから、目的を果たすためには簡単に負けられない。

 

 

(まさかAVALONと戦うなんて思わなかったな)

 

 

 AVALONとは、チャンピオンのクジョウ・キョウヤが率いるフォースの名だ。GBNを始めたばかりの時から、キョウヤの強さは目を見張るものがあったらしい。そんな彼が築いたフォースは、チャンピオンとなってから当然人気が爆発し、今では最も所属したいフォースであり、最も入りづらいフォースでもあった。元々、キョウヤが目をつけた人物しか入隊できないらしく、GBNで新たな刺激を求めるように日夜奔走している。

 

 そのキョウヤに挑もうとすべく、シンヤが加わったチームは当初2人しかおらず、キョウヤに挑むために急遽3人目を募集していた。ブレイクデカールを使えなくても入れると言うから転がり込んだのだが、まさか相手がそんな強敵とは思っていなかっただけに、今回ばかりは撃墜されることも視野に入れた方がいいだろう。

 

 

「おい、そっちに1機追い込んだ!」

 

「……了解です」

 

 

 思考を遮るように響いた男の声。通信用のモニターには屈強な姿が映っているが、シンヤは一瞥することもなくモニターを確認する。

 

 男の言う通り、2機のガンプラがこちらへ向かって突っ込んでくる。先頭をいくのは、通信を寄越した男が駆る、バイアラン・イゾルデ。大きなプロペラントタンクが特徴的で、頭部はモノアイでもなくバイザーで覆うでもなく、ツインアイが施されている。その後ろを追いかけるのは、ワインレッドが目立つクランシェカスタムのようだ。

 

 

「追い込む!」

 

 

 バイアラン・イゾルデの身体が、黒紫のオーラを纏っていく。ブレイクデカールを使った証だ。スピードも増したバイアラン・イゾルデは素早くトンボ返りし、クランシェカスタムの後ろにぴたりとつくと、少し高度をあげる。そして腕部に備わったメガ粒子砲を立て続けに放った。

 

 ブレイクデカールによって強まった火力が雨となってクランシェカスタムに降り注ぐ。なんとか直撃は避けているようだが、遂にスラスターの傍を閃光が掠める。熱線によって焼かれたスラスターは徐々に勢いを弱め、クランシェカスタムはフラフラと機体を地面に近づけていく。

 

 

「やろう、ペイルライダー」

 

 

 カムフラージュのために羽織っていたマントを脱ぎ捨てながら、シンヤはペイルライダーを立ち上がらせる。そして迷わず、駆逐するためのトリガーを引いた。

 

 

「HADES」

 

 

 感情はいらない。迷いも、後悔も、躊躇いも。全てかなぐり捨てるように、冷徹に力の名を口にする。バイザーが真紅に染まっていく中、ペイルライダーは拳を握り、雄叫びをあげるように身体を震わせた。

 

 

《待ち伏せされてたのか!?》

 

 

 クランシェカスタムのパイロットが驚きの声をあげるが、気にする必要はない。シンヤはビームサーベルを抜き、二刀で機体を走らせる。クランシェカスタムとの距離は、充分すぎるほど縮まっている。そのまま斬り裂く──誰もがそう思っていただろうが、シンヤの狙いは最初から変わらない。

 

 

《なっ、俺を踏み台にした!?》

 

 

 ペイルライダーはクランシェカスタムを踏みつけ、その後ろを追いかけているバイアラン・イゾルデへと飛びかかった。

 

 

「は……?」

 

 

 何が起こっているのか、訳が分からず間抜けな声しか出せなかった男は、襲いかかってきたペイルライダーに反撃する素振りを取ることすら赦されないまま、機体をX字に斬り落とされる。

 

 バチバチと火花をあげながら落下していくバイアラン・イゾルデ。シンヤはそれを見向きもしないまま着地し、警戒すべきクランシェカスタムを睨む。しかしパイロットは動揺しているのか、機体を俯かせていて動く気配はなかった。

 

 

「あとはトリスタンか」

 

 

 バイアラン・イゾルデと登場する作品を同じくする、ガンダムトリスタン。その名が示す通り、ガンダムタイプのモビルスーツで、武装はビームライフルやビームサーベルと言った、標準的なものを装備している。

 

 

「っ!」

 

 

 マップを見てトリスタンの位置を確認しようとした矢先、アラートに突き動かされるようにしてその場を飛び退く。そこへ一拍遅れる形で眩い閃光が駆け抜ける。バイアラン・イゾルデが使っていた、メガ粒子砲の比ではない。

 

 

「トリスタンが、こんな出力のビームを出せるなんて……!?」

 

 

 シンヤが知る限り、トリスタンはビームライフルこそ持つものの、その出力は従来のガンダムタイプを遥かに凌ぐものではなかったはずだ。

 

 熱線が閃いてきた方向に視線を向けると、すぐに巨大な陰が目に入る。それはあまりに大きく、異形な姿をしていた。見るもの全てを圧倒し、思わずひれ伏してしまうほどに威圧的な陰。

 

 

「クレ、ヴェナール……」

 

 

 その名を呟いたシンヤの声は、驚きを隠せずにいた。

 

 型式RX-78KU-01 クレヴェナール。

 

 トリスタンを中枢ユニットとして組み込むことで真価を発揮する、巨大なアームドベース。

 

 GBNであれば拘りを捨てて地形適正を度外視することができるため、大気圏内であろうとお構いなしに出撃できる。シンヤが使っているペイルライダーも、陸戦重装備型でありながら宇宙に出撃したのだから当然だ。

 

 

「そんなもの、いつの間に!」

 

「んー? 最初からさ」

 

 

 シンヤの問いかけに対し、クレヴェナールに乗っている男が饒舌に語った。曰く、クレヴェナールのガンプラは他人に依頼して手に入れたもの。曰く、トリスタンではなくクレヴェナールでログインしたこと。曰く、出撃してすぐにクレヴェナールからトリスタンとの接続を解除したこと。

 

 シンヤは当日までゲームチャットでしかやり取りしていなかったのに加え、出撃位置がそれぞれで違っていたがために、クレヴェナールに気付けなかったのだ。

 

 

「お前が俺らマスダイバーを狩ってるクソ野郎だって知ってたからなぁ。コイツでチャンピオン共々消し去ってやるよぉ!」

 

 

 ガコンと不気味な音を立てて、砲口が自分に向けられる。シンヤはすぐさまクレヴェナールに向かって機体を走らせていく。機動力を活かしてクレヴェナールの真下に入り込むと、真上に向かってマシンガンとキャノン砲を立て続けに放つ。

 

 

《ペイルライダーのダイバー、聞こえるか!》

 

「はい」

 

 

 放った弾丸は全てことごとく厚い装甲に防がれてしまう。作り込んだものなのか、ブレイクデカールによる恩恵だけでなく、ガンプラそのものの出来もいいようだ。反撃のために自機へ向けて降り注いできたミサイル群をかわしながら、シンヤは通信に返事をする。

 

 

《君の名前を聞かせて欲しい》

 

「……はい?」

 

 

 声の主は至って冷静で、静かな声音は頼もしさを感じるほどだ。しかし言われた言葉の理由がすぐには理解できず、思わず間抜けな返事になってしまう。何故、この状況にありながら名前を聞く必要があるのだろう。

 

 

「…シンヤ、です」

 

 

 黙っていると向こうも黙してしまったため、仕方なく名前を告げる。すると通信越しに映る相手は口元を緩めて笑った。

 

 

《シンヤくん、だね。ありがとう。

 私はキョウヤ。マスダイバーを退けるために、どうか君の力を貸して欲しい》

 

 

 男──キョウヤは自機のガンダムAGE-2マグナムをモビルスーツへと変形させ、自分の後ろを追従してくるミサイルを機体に急制動をかけることでかわし、通り過ぎたのを見計らってからドッズライフルを放つ。

 

 

「僕だけで、やるつもりでした」

 

《そうか。なら、互いに相手を利用しようじゃないか》

 

 

 ミサイルはたった1発の閃光で、その全てを消し炭へと変えた。キョウヤの実力は本物だ。肩肘張らずに、その力を借りるべきだろう。だが、ブレイクデカールを使う者は自分で消し去りたいと思うあまり、変なプライドが邪魔してしまう。それでも、“利用”と言う関係だけは避けたかった。

 

 

「それはできません」

 

《どうして?》

 

「利用なんて……その、チャンピオンに申し訳ないので」

 

《……はははっ! そうかそうか、申し訳ない、か》

 

 

 思ってもいなかった一言なのか、キョウヤは大笑いしている。その様子をなんだなんだとチームメイトの2人が不思議そうに声をかけているが、彼は笑い続けた。

 

 

《いやぁ、突然すまない。シンヤくんは、優しいんだな》

 

「そんなこと……」

 

《問答はここまでにしよう》

 

 

 クレヴェナールがもつ大型のビームサーベルが展開し、クレヴェナールそのものが回転しながら機体を走らせる。大地と空とを切り裂きながら迫るそれに、キョウヤはビームマグナムで牽制しながら後退する。

 

 

《エミリア、カルナ。シンヤくんと4人でクレヴェナールの対処にあたる。総員の奮起を期待している!》

 

《了解!》

 

《分かりました》

 

 

 キョウヤの号令に応えるように、2機のクランシェカスタムが空を駆ける。ビームサーベルの間合いから出たところで、モビルスーツへと姿を変えてビームライフルを連射した。

 

 

《チッ! 全然通らねぇ!》

 

《これが、ブレイクデカール……!》

 

 

 カルナとエミリアが撃ち続けると、クレヴェナールは鬱陶しそうに機体を動かし、ミサイルを解き放つ。数多のミサイルはクランシェカスタムを襲うだけに留まらず、地面にいくつもの穴を作ってはペイルライダーの機動力を殺す。

 

 

「くっ、やりづらい!」

 

「チャンピオンと結託しても、このクレヴェナールは簡単に墜とせねぇよ!」

 

 

 機体下部についたメガビーム砲が、自分に向けられる。もう1度死角に回り込みたいところだが、進路は既に先程のミサイルによって大地はめくり上がり、ペイルライダーの道を阻む。

 

 

「消えろぉっ!」

 

 

 どうするべきか悩み、立ち尽くした瞬間、向けられた銃口から極太のビームが自分を呑み込もうと迫る。

 

 

《捕まれ!》

 

 

 寸前、キョウヤが割り込むように機体を滑らせてくる。迷う時間はない。シンヤはすぐさまAGE-2マグナムに手を伸ばし、その場をやり過ごす。

 

 

「上に取りつきます」

 

《頼んだ》

 

 

 AGE-2マグナムの背中に乗り、一気にクレヴェナールの真上へ躍り出る。すかさず、シンヤはペイルライダーと共にクレヴェナールへ身を投げた。

 

 

「させるかっ!」

 

 

 マイクロミサイルポッドを切り離し、そこから現れた新たな武装、5連装ビームポッドが降下するペイルライダーに襲いかかる。

 

 

「それは、こっちのセリフだ!」

 

 

 自重と合わせてスラスターをふかし、さらに降下スピードを速くする。ビームポッドからの火線をかわし、キョウヤが援護しやすいようにと機体上部にあるHSDキャノンへ火力を集中させた。マシンガンを弾切れになるまで撃ち、キャノン砲の砲身が熱で歪まないように間隔をあけながら放つ。

 

 

「ここまで硬いのか!」

 

 

 堅固なキャノン砲は、数多くの弾丸を浴びても壊れる気配がない。しかしこれで終わりにするほど、シンヤは諦めがよくない。シールドにあるスパイクを構え、落下速度と合わせて鋭利な刃をキャノン砲に突き立てる。

 

 

「貫けえぇっ!」

 

 

 ブレイクデカールによるオーラが、鋭い突撃を阻もうとする。しかしシンヤは諦めない。いや、諦めてはならない。これが阻害されでもしたら、ここで負けでもしたら、今まで自分がしてきたことはなんだと言うのか。

 

 

「ペイルライダー!!」

 

 

 叫ぶ。吠える。訴える。

 

 ここで終われないと。

 

 出せる力はこんなものじゃないと。

 

 

「やれえぇっ!」

 

 

 命じる。

 

 壊せと。

 

 失くせと。

 

 消し去れと。

 

 そうして振り下ろした刃は、遂にブレイクデカールを打ち破ってキャノン砲へと噛みついた。シンヤが突き立てたシールドのスパイクを起点にヒビが入り、小規模だが破壊されたことによる爆発が起こる。それを見届けると、シンヤはクレヴェナールの前面におさまっているトリスタン目掛けてペイルライダーを走らせた。

 

 

《さすがにここからでは厳しいか》

 

 

 キョウヤも、トリスタンへの攻撃を考えていたのかクレヴェナールの正面に回ってドッズライフルを構えるが、引き鉄を引くより早くクレヴェナールの武装がキョウヤを退けた。何回か撃つことはできたが、どれもブレイクデカールによって弾かれてしまう。今はシンヤの援護に徹する方がいいのかもしれない。

 

 

《まずはHSDの方をやったようだな》

 

 

 再びクレヴェナールの上へ向かうと、ちょうど爆発の光が見えた。次々と起こるそれが何を示しているのか察したキョウヤは、シンヤを振り落とそうと機体を回転させるクレヴェナールに向けてドッズライフルからビームを浴びせる。いくらブレイクデカールで硬くなろうとも、まったく傷ができない訳ではない。正確無比な射撃は少しずつだが、確かにその装甲に傷を刻んでいった。

 

 

「落とされてたまるか! コイツは……コイツも、絶対に!」

 

 

 ブレイクデカールは赦さない。それは弱さの証だ。自分が弱いから、こんなものが蔓延してしまう。弱いことは悪だ。赦されてはならないことなんだ。

 

 必死にしがみつくシンヤだったが、クレヴェナールが唐突に回転をやめる。それを好機と捉え、今一度トリスタンの撃破にうつる。

 

 

「なっ……ビームサーベル!?」

 

 

 しかしそれは、クレヴェナールが仕掛けた罠だった。走り出したシンヤを挟み撃ちするように、前後から大型ビームサーベルが迫りくる。クレヴェナールが装備するそれは、ユニットごと射出することができ、有線による遠隔操作を可能としている。

 

 

「くっ!」

 

 

 後ろから迫る光刃を跳んでかわし、前から閃く刃はメインスラスターを切って落下しながらかわす。だが、それをいつまでも続けられるはずがない。

 

 

「HADESの限界時間が……!」

 

 

 HADESの稼働時間は、残り僅か。それを過ぎれば機体性能は一時的とは言え著しく低下する。まっすぐ進むだけならともかく、邪魔を受けながら進むのは困難を極める。

 

 

「クランシェカスタムは!?」

 

 

 キョウヤのAGE-2マグナムが気を引こうとクレヴェナールの周囲を飛び回るのが目に入る。しかし少し前まで同じように空を駆けていたクランシェカスタムが2機とも姿を見せない。

 

 そのことに気を取られた瞬間、ペイルライダーの背後から大型クローが迫った。

 

 

「ぐうぅっ!」

 

 

 反応が遅れたせいでクローから逃れることは叶わず、捕まってしまう。5連装ビームポッドを切り離した後、使えるようになる武装の大型クローは、今までのミサイルポッド、ビームポッドと同様に2つある。シンヤを捕らえたのはその内の1つ。

 

 

「まさか!」

 

 

 クランシェカスタムも、自分と同じく大型クローに囚われたと見るべきだろう。ビームサーベルとは違って無線での操作を可能としており、シンヤはクローに捕まったまま地面に向かって一直線に落下していく。

 

 

《シンヤくん!》

 

「撃ってください、チャンピオン!」

 

《……分かった》

 

 

 追いつけるようにモビルアーマー形態で滑空するAGE-2マグナム。機首として扱われているドッズライフルの銃口が、その輝きを増していった。

 

 

「チャンスは1度……」

 

《…撃つ!》

 

 

 キョウヤの掛け声に合わせて、引き鉄が引かれる。放たれた閃光はまっすぐに大型クローだけを貫く。まばゆい光によって焼かれたクローはその力を弱め、シンヤは爆発に巻き込まれる前に拘束から逃れる。

 

 

《シンヤくん、君に1つ頼みがあるんだが……》

 

「……はい、お引き受けします」

 

 

 助けてくれたAGE-2マグナムの背中に乗り、今度は真正面からクレヴェナールへ肉薄する。ほとんどの武装を破られたクレヴェナールにとって、急速に迫るAGE-2マグナムとペイルライダーへ脅威だろう。

 

 すぐに、下部に備えられたビーム砲が光を宿す。AGE-2マグナムはさらに速度を上げて、射角から逃れようと走る。しかし、クレヴェナールの方が早かった。獲物を喰らおうと、今にも獰猛な光が放たれようとしている。

 

 それを見ても、シンヤは臆せずAGE-2マグナムの背中から飛び出した。トリスタンとの距離はまだあるが、背中に折り畳まれているキャノン砲を展開する。

 

 

「これで!」

 

「甘いんだよぉっ!」

 

 

 キャノン砲の先端が、ビーム砲によって掻き消される。そのままシンヤのペイルライダーも消し去ろうと、少しずつ眩しい光が迫ってきた。が、ペイルライダーが発動させていたHADESが限界時間を迎えたことで、機動力を失ったペイルライダーはあっという間に落下していく。

 

 

「チッ、しぶとい野郎だ」

 

《あぁ。しかし、それももう終わりだ》

 

「何っ!?」

 

《君の敗北と言う形でね》

 

 

 飛びかかってきてペイルライダーにばかり注意が向いていたクレヴェナールは、本来最も警戒すべき相手を、キョウヤを見失っていた。それが例え一瞬であろうとも、目を離すべきではなかったのだ。

 

 

《今、必殺の剣をもって、君を打ち破ろう》

 

 

 AGE-2マグナムの右手に、輝かしく温かな光が集まる。

 

 

「ひ、必殺技だと!?」

 

 

 ダイバーポイントを貯めてCランク以上になった者のみが扱うことのできる、必殺技。それは1つとして同じものはなく、今までどんな戦い方をし、どんなガンプラを作り上げたかで変わるもの。

 

 キョウヤのそれは、金色の眩い剣。まさしく、聖剣と呼ぶに相応しい形をとっていた。

 

 

《EX・キャリバー!!》

 

 

 振り下ろされる一閃。クレヴェナールが纏うブレイクデカールの紫色のオーラが堰き止めるかと思われたが、悲しいことにそれもたった一瞬だけ。

 

 ただ切り裂くためだけに研がれた一振りの刀のように、装甲を容易く真っ二つにしていく。クレヴェナールのユニットとして鎮座していたトリスタンは逃れられるはずもなく、巨体と共に地に伏していく。

 

 

《さらばだ。愛のない者よ》

 

 

 爆散するクレヴェナールを背に、キョウヤは静かに呟いた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「ブレイクデカールを使うダイバーを、今はマスダイバーと総称しているんだ」

 

 

 クレヴェナールとの戦闘後、早々にリタイヤしようとしていたシンヤはキョウヤに呼び止められ、ガンプラから降りて互いの状況を話していた。

 

 キョウヤは既にマスダイバーの存在を認知しており、GBNで可能な限りパトロールを繰り返して発見次第説得、或いは戦闘を行っているらしい。

 

 

「我々は、ブレイクデカールによるGBNへの影響を危惧している。運営からは何もコメントがないが、彼らも同様のはずだ」

 

 

 シンヤもブレイクデカールを放置する気はなかったが、それはあくまで自分のためであってキョウヤのように誰かと、そしてその誰かがいるGBNのためではない。やってることは似ていても、思想がまるで違う。

 

 そのことに後ろめたさを感じ、シンヤは自分でも気づかぬ内によそよそしい返事になってしまう。エミリアが時折咳払いをしていたのは、そのせいだろう。

 

 

「シンヤくん。よかったら、君の力を貸してくれないか?

 一緒に、GBNを守ろう」

 

 

 手を差し伸べるキョウヤ。彼の清廉潔白な心情を表すように真っ白な手袋が嵌められた手は、自分にはあまりに眩しすぎて、思わず目を逸らしてしまう。

 

 

「その……ごめん、なさい」

 

 

 気付けば、シンヤは謝罪していた。エミリアもカルナも、その謝罪の意味が分からずに首を傾げている。しかしキョウヤだけは違った。差し伸べた手を下げ、顔を上げる。視線の先にあるのは、“修理中”と大きな表示がなされているペイルライダー。

 

 

「それは、ペイルライダーへの言葉かな?」

 

「っ!」

 

 

 思わず、後ずさる。無意識の内に出た言葉が、誰へのものだったのか見透かされ、シンヤは明らかに狼狽する。

 

 

「僕、僕は……」

 

 

 自分のことなのに、キョウヤに言われるまでペイルライダーに謝ったのだと分からなかった。その事実はあまりに冷ややかで、かつ重苦しくのしかかる。

 

 

「君は本当は、あんな戦い方をするとは思えないな」

 

 

 キョウヤが指差す先には、ヒビが回り始めている左腕。クレヴェナールに取り付こうと砲身を破壊した時にできたものだ。

 

 そうだ。あの時、別に誰もビーム砲に狙われていなかった。なのに壊すことに執着していたシンヤは、“ペイルライダーの左腕が悲鳴をあげるのを分かっていながら”砲身への攻撃を続けた。

 

 自分で傷つけた。

 

 自分で壊した。

 

 自分で。

 

 自分で。

 

 

「うっ……えっ、げぇっ!」

 

 

 湧き上がる吐き気に、たまらずその場にうずくまる。吐き出される物は何もなかったが、吐き気がおさまることはなく、何度も何度も何かを身体から追い出そうと繰り返した。

 

 

「はぁ、はぁ…はっ……」

 

 

 しかし吐き出そうとすればするほど、心の奥底に自分への憎悪が根付いていくばかり。ガンプラを顧みず、あまつさえ自分の気持ちを優先して傷つけてしまった。そんな自分を、どうして赦すことができようか。

 

 思わず、ペイルライダーを見上げる。既に修理は完了しているはずなのに、シンヤの目にはどうしても傷だらけに見えてしまう。

 

 

「僕は、何を……」

 

「君がどうすべきか、どうしたいのか。それは、私には答えられない。

 だけどもし、君に愛があるのなら……答えは、この世界でしか得られないかもしれない」

 

 

 大事なガンプラを、共に戦場を駆けてくれる愛機を傷つけてしまった。それから目を背けることは簡単だ。

 

 ブレイクデカールやマスダイバーを赦せなかったのだから。

 

 ガンプラはただの玩具だから傷ついたりなんてしない。

 

 そう思えば、どれほど楽だったろうか。

 

 それでも。

 

 それでも!

 

 

「……やります」

 

 

 どれだけ辛くても、自分には進む道しかない。だって、ガンプラが好きだから。この世界が、GBNが好きだから。

 

 

「僕にも、GBNを守らせてください」

 

 

 GBNがなければ、ペイルライダーに乗ることができない。語りかけることも、謝ることだって。

 

 それからは、キョウヤから情報をもらいながらGBNの世界を回り続けた。いつかもう1度でもいいから、ペイルライダーと向き合うために。

 

 その最中、キョウヤを始めとする上位ランカーと出会い、時には叱咤激励を受け、少しずつだが確かに向き合うための勇気をもらった。

 

 しかし1番の薬となったのは、なによりもビルドダイバーズと巡り会ったこと。純粋に褒められ、GBNを楽しむ彼らの姿は眩しくて、羨ましくて──それはいつしか、自分が忘れてしまったものだった。

 

 そんな彼らを、彼らが好きだと言うGBNを守りたくて、シンヤは再びペイルライダーのHADESを使う。寸前まで怖かったし、また同じ戦い方をして傷つけたらどうしようと不安を抱えていた。

 

 でも、不思議と後悔はない。誰かの好きを、自分の好きで守る──それが、とても誇らしかったから。

 

 さぁ、もう1度歩き出そう。誰かの好きが詰まった世界を。

 

 さぁ、もう1度走り出そう。新たなガンプラと共に。

 




お読み頂き、ありがとうございます。
これにて過去編は終わりになります。

次回は再びマスダイバーと戦う予定です。
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