ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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戦う理由

 水中戦の攻防は、その戦闘に特化したガンプラで戦えば勝てると言った簡単なものではない。ガンプラの出来栄えに左右される水圧の影響、地上などとは様変わりする動きへの制限、可変機であればモビルスーツとモビルアーマーでの違いなど、地上、空中、宇宙よりも要求される練度がかなり違ってくる。

 

 また、GBNでも主体となるのはどうしても活躍の幅が広い地上と宇宙になるため、水中戦を得意とするダイバーはかなり少ない。

 

 

「このっ……!」

 

 

 シンヤとて、水中戦の経験はせいぜい片手で数える程度。しかもアトラスに乗って戦うのはそれよりも少ない。それでも、空中、地上、水中のそれぞれに対応するアトラスを選んだのは間違いではないし、自分が間違いにさせない。

 

 シンヤは水中型ガンダムと交差する一瞬、間合いを詰められないようアサルトライフルを撃って牽制するが、転身するより早くハンドアンカーが飛来し、動きを阻害される。

 

 

「シンヤくん……くっ!」

 

 

 推進力でアトラスが負けることはないかと思っていたが、ブレイクデカールによってパワーを増した水中型ガンダムの膂力からは簡単に逃れられそうにない。すぐさまクルトが駆けつけようとするが、その鼻先をアビスがビームランスを一閃して阻んでくる。

 

 

「こちらには構わず、行ってください!」

 

「しかし……」

 

「アトラスなら……いえ、アトラスとなら、やってみせます」

 

 

 もう自分を卑下するのはやめた。自分の力を、ガンプラを、最後まで信じ抜く。不安だって恐怖だってある。それでも、クルトにロンメルと合流してもらうことに迷いも後悔もない。

 

 

「すまない……いや、ありがとう。ここは任せた!」

 

「はい!」

 

 

 踵を返すゼー・ズール。すかさず、アビスがモビルアーマーへと変形して追いかけようとするが、シンヤはアトラスのスラスターペダルを思い切り踏み切り、真下からその胴体を突き上げる。

 

 

「浅いか。けど、行かせない!」

 

 

 ギリギリでアビスが身を翻したせいでぶつかった時の衝撃は弱々しい結果になったが、航行を続けるアビスの真上に位置取ったのをいいことに、脚部にあるスラスターを破壊すべくアサルトライフルを驟雨のように浴びせる。

 

 程なくしてスラスターは壊れ、アビスはゆっくりとその身を水底に沈めていく。だいぶ浅瀬に近づいたため、モビルスーツに変形すれば歩くのに支障はないだろう。

 

 

「このまま叩く!」

 

 

 しかし、接近を試みようとした矢先、急激に機体が重くなる。振り返れば、ハンドアンカーを思い切り引っ張る水中型ガンダムが。アサルトライフルを向けたが、引き鉄を引くより早くハープーンガンから飛来した銛が銃身を撃ち抜いてしまう。

 

 アビスを見ると既にモビルスーツ形態になっており、早くも陸に歩き始めている。クルトを先に行かせてからまだ間もないことを考えると、すぐ追いつかれてしまうだろう。

 

 

「だったら……上がれえぇっ!」

 

 

 スラスターを最大限に発揮し、アトラスは海上へ身を躍らせる。そして潜航形態からサブレッグの接続を変えて、再び大空へと舞台を移した。無論、繋がれたハンドアンカーはそのままにして、眼下に広がる大海へレールガンを構える。自分を縛り付けるような手綱を握った敵へ向けて。

 

 そして───

 

 

「終わりだ」

 

 

 ───水中型ガンダムが顔を覗かせた瞬間、レールガンから1つの閃光が放たれた。

 

 光の矢にも似た、圧倒的な速さと鋭さ。それは真っ直ぐに敵の胸部を上から穿ち、貫いていた。身体を貫かれたことで力を失ったのを示すように、ツインアイは明滅を繰り返し、やがて海中へずぶずぶと沈んでいく。巻き付いているハンドアンカーの残骸をビームサーベルを使って薙ぎ払うと、シンヤは一瞥をくれることもなくその場を後にする。

 

 

「逃がさないと言ったはずだ!」

 

 

 海岸まで辿り着いたアビスへ肉薄すると、こちらに気がついたのか両肩のシールドと背部にあるビーム砲をそれぞれ前面に展開し、一斉に解き放つ。背部のビーム砲が2つ、シールドの内側に3つずつ、そして胸部に1つ、全て合わせて9門あるビーム砲が火を噴いた。アトラスを貫き、焼き尽くさんと迫りくる様はまるで、悪魔の手に握り潰されそうなくらい迫力がある。

 

 シンヤは1度各スラスターを切ると、ビームを避けるように下方へと急速に落下していく。上方にいたアトラスは数多のビームを一気にかわし、海面に叩きつけられる寸前で再びアビスに向かって一直線に飛んでいく。あの高さから落下し続けて海面にぶつかったら、間違いなく機体が壊れてしまっていただろう。無茶をしたことを謝りつつ、シンヤはアトラスを駆った。

 

 なおも迫るアトラスに対し、アビスは胸部のカリドゥス複相ビーム砲を光らせる。アトラスはブレードシールドで守られているが、サブレッグはその巨大なシールドをもってしても隠しきれない。狙ってくるとすれば、そこだろう。

 

 

「撃たせるものか!」

 

 

 スピードをさらにあげたところで、シンヤはサブレッグの接続を解除してブレードシールドに隠れるように背面に位置を調節する。放たれた砲撃がアトラスの走りを止めようとするが、距離は充分に埋まっており、もう遅かった。

 

 ブレードシールドで敵に体当たりを決めるアトラス。生半可ではない衝撃がガタガタとコクピットを揺らしたが、視線は真っ直ぐと前を見据えたまま。着地した──そう直感した途端、肩からビームサーベルを引き抜いて倒れているアビスに斬りかかる。

 

 しかし、アビスもそう易々と刃を受け入れるはずもなく、ビームランスの柄で受け止められてしまった。このまま押し切るか一瞬だけ迷ったが、両肩のシールドがアトラスへ向いた瞬間その場を飛び退いてビーム砲を回避する。

 

 吹き上がるようにして発生した水しぶき。視界を奪うほどではないし、見惚れるような綺麗な光景でもない。息を整え、アトラスと共にアビスを見詰める。ビームランスを両手に構えて切っ先を向けてくるが、シールドもいつでも展開できるようにしているだろう。

 

 自分を落ち着けるため、相手を倒すため、深呼吸を1つ──そして、アビスを屠るため一気に走り出した。

 

 胸部のビーム砲が、再び光を宿す。連射性はないが、高威力のそれは当たればひとたまりもない。しかし隙を作ることもせずに放とうとする行動は不可解とも言える。案の定、アビスはシールドに備わった連装砲を先に撃ってきた。それが直撃コースではないと判断するや否や、シンヤもレールガンでアビスを狙い撃つ。連装砲から放たれた実弾が足下で炸裂し、巨大な水柱が目眩しとしてアトラスとシンヤの視界を奪うが、それを貫くようにビーム砲が頭上を掠めていく。レールガンがアビスに命中し、バランスを崩してビーム砲の狙いを逸らせたようだ。

 

 

「接近戦なら!」

 

 

 ビームサーベルを握り直し、アビスに斬りかかる。下段から振り抜くように上へ向けて一閃。切り飛ばされた腕が空を舞う。しかし本体には届かないのなら意味はないと、飛んでいく腕に一瞥もくれずブレードシールドを叩きつけてよろけさせたところで三度光刃を閃かせた。

 

 

「これで!」

 

 

 高らかに突き上げた刃で地面を叩き割るように一気に振り下ろす。防御は間に合わず、ブレイクデカールの恩恵などなかったように深く刻まれる一太刀に、アビスは力なく倒れるのだった。

 

 

「はぁ、はぁ……!」

 

 

 水中型ガンダムとアビス、2機と連続しての戦闘は大きな疲労感となってシンヤにのしかかった。しかしここで足を止める訳にはいかない。再びサブレッグを稼働させて足裏に接続すると、空高く飛び上がって未だに姿を見せないガルドを探す。自分1人ではあまりに広大な森林地帯だが、シンヤには心強い味方がいる。

 

 

「来た」

 

 

 ピピッと電子音が鳴り、モニターには新たなマップが表示される。そこには自分が駆るアトラスとロンメルのグリモアレッドベレー、クルトが扱うゼー・ズール、敵のカオスとそれ以外に小型の機影が2つ確認できる。その2つは、身を潜めているガルドを見つけ出すためにロンメルが放ったミニモアと言う小型の支援メカだ。未だに姿を見せないガルドを探すため動いてくれている。

 

 

「どこに……!」

 

 

 ロンメルを狙撃した位置からは、既に移動をしているだろう。念のためにミニモアが既に探索したようで、チェックマークが表示されている。

 

 と、更新されたマップに動きがあった。ミニモアを示すマーカーが、突如として消えたのだ。狙撃か、或いは近接戦闘によるものか。どちらにせよ、ガルドが動いたのなら仕掛けるしかあるまい。破壊されたミニモアから送られてきた撃破される直前の映像を確認する。

 

 

(狙撃で破壊されてるか。これじゃあ位置の特定は難しいか)

 

 

 今すぐ駆け付けたとしても、狙撃してきた方向は分かっても詳細な位置までは分からないだろう。せめてあぶり出そうと、ビームが飛来した方向を算出してもらい、レールガンを解き放つ。木々を薙ぎ倒し、煙が立ち込める。しかしガルドのガンプラはそこにはいないのか、煙もまったく揺れる気配がない。

 

 

「いったいどこに───!?」

 

 

 もう1機のミニモアだけを頼りにしていては、時間がかかりすぎるだろう。自分も探索に加わりたいところだが、アトラスはそれに適した装備をもたない。またレールガンを使ってあぶり出そうか──そう思った矢先、眩い閃光が見えた。しかしそれは直線的な動きではなく、歪曲してアトラスに襲い掛かった。

 

 閃光はアトラスのコクピットを的確に狙っており、咄嗟にシールドで防いで既の所でやり過ごす。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 しかし巨大なブレードシールドを持ってきたせいで視界が塞がってしまい、次なる射撃への対応ができずにサブレッグの片方を破壊されてしまう。途端にバランスを失い、アトラスはガクッと機体を揺らして地上へと一気に落下していく。

 

 

「ミニモアは!?」

 

 

 ロンメルとクルトは未だにカオスと相対していて、合流までに時間がかかると思われる。頼りにできるのはミニモアだけだ。マップを見るとまだ表示されているが、悠長にはしていられないだろう。

 

 

(ビームが曲がった? ゲシュマイディッヒパンツァーか)

 

 

 ゲシュマイディッヒパンツァーとは、『機動戦士ガンダムSEED』に登場するフォビドゥンが搭載している特殊な装甲だ。ビーム攻撃に対して絶対的な防御力を誇り、また自身が放つビームを歪曲して軌道を変えることができる。

 

 片側しかない状態でサブレッグを使ったところで、バランスを取るだけで精一杯だろう。接続アームから切り離し、ガルドからの攻撃に備えてブレードシールドを構えながら少しずつ進んでいく。

 

 

「またミニモアが!」

 

 

 もう1機のミニモアが、マップ上から消え失せる。近くで爆発音が聞こえて煙も上がっているのが見える。しかし送られてきた映像に敵の姿は映っておらず、また狙撃によるものだと分かった。これでは敵機の位置を特定するのは難しい。

 

 

(アニメ版のアトラスならまだ手があったんだけどな)

 

 

 アトラスガンダムは漫画版とアニメ版で多少デザインと武装が異なっている。アニメ版のものではレールガンはもっとスマートになっており、ブレードシールドにもメドゥーサの矢と呼ばれる兵器を内蔵しており、それらは敵機に突き刺さるとゲル状の物質を噴出してその行動を阻害させられるのだ。

 

 だが、悲しいことにシンヤが使うアトラスはその武装を有していなかった。せめて敵の気を逸らせれば、今までの射撃から割り出したおおよその位置へレールガンを放てるのだが。

 

 その時、すぐ近くに空から何かが降ってきた。何かと視線を向ければ、見るからに満身創痍だと分かるほどに傷ついたカオスだった。

 

 

「今しかない!」

 

 

 ロンメルとクルトには通信を介して報告できる。シンヤはアトラスを走らせ、割り出してあるポイントに向かってレールガンを放っていく。

 

 背後ではヒートナイフに貫かれてカオスが撃墜されたようだが、見向きもしない。

 

 

「あとはガルドだけか。クルト、念のため水中に頼む」

 

「承知しました、大佐」

 

 

 シンヤからの手短な説明にも、ロンメルは至って冷静に指示をくだす。可能であれば強襲してもらうためにクルトには水中に身を潜めてもらう。さらに自身もシンヤからもらった情報をもとに、別方向からアサルトライフルを浴びせた。

 

 

「出たか!」

 

 

 さすがに2機から同時に火線がくるのは耐えられなかったようで、ガルドのガンプラ──ジムスナイパー・ディストートが姿を現した。ロングレンジライフルに接続していた冷却用の巨大な設備を切り離し、脛部に備えていたビームガンを連射して牽制する。

 

 歪みを意味するディストートを名前に冠したその機体は、ジムスナイパーの特徴的なカーキ一色の色合いはそのままに、両肩にはフォビドゥンがバックパックに接続していたはずのゲシュマイディッヒパンツァーを装備しており、腰部にはレールガンと自身から放ったビームを歪曲するための装備を有していた。両腕にはボックスタイプのビームサーベルを装備しており、接近されてもすぐに対処できるよう設計されている。パックパックにはミサイルポッドを積んでいるようで、鈍重な点を解消しようとスラスターも増設されていた。

 

 

「畳み掛けるぞ!」

 

「了解です」

 

 

 アサルトライフルの引き鉄を引いたまま、無限軌道を駆使して少しずつジムスナイパー・ディストートへ肉薄するグリモアレッドベレー。注意がそちらへ向いたタイミングで、シンヤはアトラスのレールガンを放った。

 

 一直線に駆け抜けた閃光は、ジムスナイパー・ディストートの両肩についたシールドに当たり、機体のバランスを崩させる。

 

 

「もらったぞ!」

 

 

 その一瞬の隙に、一気に距離を詰めたグリモアレッドベレーがリアスカートの裏に仕込んでいたプラズマナイフを引き抜いて斬りかかる。ジムスナイパー・ディストートはスナイパーライフルを手放し、ビームサーベルを発生させて反撃に転じようとするが、その腕をシザークロウで掴まれてしまう。

 

 

「うおおおぉぉ!」

 

 

 飛びついた勢いをそのままに、ジムスナイパー・ディストートを押し倒そうとする。しかし、パックパックから突如としてジャッキが伸び、バランスを保ったジムスナイパー・ディストートは空いている方の腕にあるボックスタイプのビームサーベルを展開。グリモアレッドベレーのコクピット目掛けて突き出す。

 

 

「やらせるか!」

 

 

 すぐさまシンヤがレールガンを使って腕を弾く。ロンメルも無理だと判断したのだろう。急いでシザークロウを解除してそこから離脱した。

 

 離れた場所からレールガンを放つものの、どれもがシールドに防がれてしまう。フレキシブルアームに接続されているのもあり、様々な方向に対応してくるジムスナイパー・ディストート。ブレイクデカールの力故か、ロンメルと2人で攻めても簡単に墜とせそうもなかった。

 

 

「ガルド! 何故ブレイクデカールに手を出した!?」

 

《簡単なことですよ、大佐。これさえあれば勝てるからです!》

 

 

 プラズマナイフとビームサーベルとがぶつかり合い、火花を散らす。ロンメルの援護をしようとレールガンを構えるが、それを見越したようにシールドが動き出してはジムスナイパー・ディストートを守った。

 

 

《フォースを作った貴方なら分かるはずだ。リーダーであるならば、勝たせなくてはならないと言うことを!》

 

「何を……!」

 

《それがフォースを束ねる者のつとめ!》

 

「ぐっ!」

 

「ロンメルさん!」

 

 

 弾かれたグリモアレッドベレーを見て、すぐさまアトラスを割り込ませる。巨大なブレードシールドを正面にして、ロンメルが機体を立て直すための時間を少しでも確保した。

 

 

《邪魔だあっ!》

 

 

 ガルドが吠える。ビームサーベルを何度も何度も振るい、遂にはブレードシールドを十文字に切り裂いた。

 

 

《フォースの筆頭として、部下に負け戦を強いる訳にはいかんのです!》

 

「それが、ブレイクデカールを使った理由か」

 

「でもそれは、貴方方が望んだ勝利なんですか!?」

 

《黙れっ! 貴様のように、助っ人ばかりする流れ者には分かるまい!》

 

 

 レールガンが斬り飛ばされる。それでも退くわけにはいかない。退けばガルドの言うことを認めたようなものだ。アトラスもビームサーベルを抜き、ジムスナイパー・ディストートと対峙する。

 

 

《勝利した者のみが、得られるものがある! 敗者には何もない!》

 

「大佐、シンヤくん!」

 

 

 水中に潜んでいたゼー・ズールが姿を現す。ビームマシンガンを浴びせるが、すべてゲシュマイディッヒパンツァーによって軌道を曲げられてしまう。しかしクルトはそのまま銃身の下部に付いているグレネードランチャーを織り交ぜて放つ。ビームマシンガンの連射ペースを少し落としたが、背後を取っているなら実弾を混ぜたとは気づかれないと踏んだからだ。

 

 果たしてクルトの思惑通り、グレネードランチャーはジムスナイパー・ディストートのミサイルポッドに命中する。それを瞬時に察して、ミサイルポッドが完全に壊れてしまう前に、放てるだけミサイルを解き放つ。

 

 

「くっ!」

 

 

 直上に飛んで、驟雨のように降り注ぐミサイル群。シールドを失ったアトラスでは受けきるのは危ういと判断して急いで後退するが、ジムスナイパー・ディストートが足元に転がったスナイパーライフルを手にしたのを見て、慌てて機体を傾ける。

 

 真横を駆け抜ける光条。間一髪で避けたはいいものの、機体バランスを失ったアトラスはその場に倒れ込んでしまう。それでもお構いなしに照射される閃光。ロンメルが被弾しないよう留意しながらプラズマナイフでスナイパーライフルを斬り裂く。銃口が空を舞い、引き裂いたそこへもう1本のナイフを突き立てる。

 

 

《チッ!》

 

 

 すぐにスナイパーライフルを手放すガルド。しかしロンメルは攻撃の手を緩めようとはせず、シザークロウを展開しながら接近戦を仕掛けた。だが、ガルドも引く気配はない。ビームサーベルを展開した上で、さらにジャッキを伸ばしてその場に留まろうとする。

 

 

「何を……!」

 

《こういうことだ!》

 

 

 シザークロウを受け止めると同時に、ジムスナイパー・ディストートの腹部にある装甲が左右に開く。現れたのは、集束した光を今にも放とうとするビーム砲だった。

 

 まずい──脳が理解するより、身体が叫んでいた。すぐさま離脱するロンメルだったが、放たれたビームの軌道が変わったことで彼の予想は裏切られる形に。

 

 

「しまった!」

 

「狙いはシンヤくんか……!」

 

 

 グリモアレッドベレーの横を迂回するように駆け抜けていくビーム。目の前でロンメルが食い止めていた安心感から、シンヤは咄嗟のことに対応できずに左腕をもっていかれてしまう。

 

 

「ぐあぁっ!?」

 

 

 直撃だけは免れたものの、破壊された衝撃がシンヤに襲いかかる。立て直していた身体が再び地面に倒れ込んでしまった。ゼー・ズールがカバーするように入ってくれたが、すぐアトラスを動かさねばビーム砲で2機とも貫かれかねない。

 

 

《戦いだけではない……ガンプラの出来栄えやイベントなど、GBNでは数多の催しがあることは承知しています》

 

 

 ジムスナイパー・ディストートはゆっくりと歩みを進め、ロンメル達に迫る。腕は下げ、腰部のレールガンも腹部のビーム砲も静かでありながら威圧的な雰囲気は健在だ。それは、ブレイクデカールが放つ禍々しいオーラだけではない。ガルド自身の、鬼神めいた何かが醸し出されているようだった。

 

 

《しかし、そこでも優劣はある。人が集まればこそ、それは自然と生まれるものだ。

 ならば、手の届かない者は!? 戦いしか知らぬ者は!? 彼らは、我々は、いったいどうすればいいと言うのです!》

 

 

 ガルドの言うことは、GBNだけに留まらない。オンラインゲームに限らず、そう言った優劣は日常にすら潜んでいる。操縦センスだけでなく、ガンプラの出来栄えが左右するバトル。発想力が物を言うコンテスト。順位によって報酬に変化があるイベント。結局、上位に入らねば栄光を手にできないのだ。

 

 

「1つだけ……聞いてもいいですか?」

 

 

 猛る怒りに臆せず、シンヤが口を開く。ガルドからの許可はなかったが、構わず言葉を続ける。

 

 

「あなたは、勝ちたいからGBNを始めたんですか?

 それとも……ガンプラバトルがしたかったんですか?」

 

《なっ…それ、は……っ!》

 

 

 ガルドが言葉を詰まらせる。シンヤも、過去にキョウヤから聞かれた質問だ。問われた時は何も言えなかったが、今ならはっきりと言える。ガンプラそのものが好きだから──と。

 

 明らかに狼狽えるガルドに向かって、シンヤはアトラスを走らせた。それまで沈黙していた火器が、再び息を吹き返す。

 

 閃くレールガンをかわし、貫かんと迫るビームをサーベルで切り裂き、アトラスは一気に迫った。ジムスナイパー・ディストートの照準はどれも甘く、ガルドの慌て振りがよく分かる。しかし、いつまでも狼狽しているはずもない。あと少しでビームサーベルの間合いまで迫った時、腹部のビーム砲が光を宿す。

 

 

《これでぇっ!》

 

 

 ここまで近づけば、放つ方向は限られてくる。シンヤがアトラスを無闇に動かさなければ、直線的に放つだろう。或いは避けるのを見越して左右のどちらかに放つ可能性もある。

 

 もっとも、シンヤにとってはどの方向であっても構わなかった。

 

 解き放たれた閃光が、視界に広がっていく。シンヤ思い切り操縦桿を動かし、アトラスを飛び上がらせた。それをサポートするように、グリモアレッドベレーのティルトローターパックが追いかけ、アトラスは手を伸ばしてさらに上昇していく。

 

 

《なにぃっ!?》

 

「ガラ空きだ!」

 

 

 直上へ回避したアトラスに目を奪われた一瞬を突いて、アサルトライフルがゲシュマイディッヒパンツァーに向けて連射される。ガルドが視線を地上へ戻した時には既に、ロンメルが無限軌道を駆使して真横まで迫っていた。両肩のパーツをプラズマナイフで切り裂き、ゲシュマイディッヒパンツァーの機能を停止させる。

 

 

《俺は、負ける訳には……!》

 

 

 ビームサーベルで斬りかかろうとするジムスナイパー・ディストートには先程までの余裕は最早欠片ほども残されてはいない。ロンメルを守るようにゼー・ズールが割って入り、ヒートナイフで両腕を落とす。

 

 

《あっ、うっ……》

 

 

 ズンッと尻餅をつくジムスナイパー・ディストート。その頭上から舞い降りたアトラスのビームサーベルがコクピットを切り裂いた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「今日は助かった。ありがとう」

 

 

 試合を終えてすぐに運営へ今回の事態を報告したロンメル。シンヤに向き直り、ダンディーな声とは真逆の愛らしい手を差し出す。

 

 

「いえ。こちらこそ、お役に立てて光栄です」

 

 

 しっかりと握り返し、ふとシンヤは気になっていたことをロンメルに訊ねた。

 

 

「あの、運営にはブレイクデカールのことは……」

 

「無論、伝えてある。今、GBNではブレイクデカールの報告があちこちで上がっているが、対処できていないところを見るに、報告数がまだ足りていないのかもしれないな」

 

 

 シンヤも毎日ブレイクデカールを使うマスダイバーと遭遇している訳ではないが、どちらかと言えば多い方だ。それだけに報告数や事案が少ないとはどうしても思えない。

 

 もっとも、全ダイバーの中でマスダイバーを探す方が難しいと言われれば、それも納得できてしまう。それほどまでにこのゲームは広く、大きいのだ。

 

 

「キョウヤともこの手の話題でもちきりでね。互いに新人を育てたり勧誘したりで忙しないと言うのに」

 

 

 ロンメルもキョウヤも、フォースランクはそれぞれトップクラスだ。入りたいダイバーはいるだろうし、彼らも新しい刺激を求めて勧誘と指導は怠らない。

 

 しかし、マスダイバーが出てきてから新メンバーの募集を行うフォースはめっきり数を減らしてしまった。以前、中堅ランクのフォースが新入りのダイバーを加入させたところ、その人物はマスダイバーで、入ったばかりのフォースを内部崩壊に追い込んだことがあったらしい。しかも「ブレイクデカールはフォースメンバーからもらった」などの悪い噂を吹聴したらしく、そのフォースに所属していた他のメンバーはGBNで孤立してしまった。

 

 ネットゲームならではの情報の拡散力が災いし、誰も彼もが疑いの目を向けるようになってしまったのだ。

 

 

「早くブレイクデカールの元凶を正さねばならない。その時は是非、君の力を貸してくれ」

 

「喜んで。大佐」

 

 

 ロンメルのまっすぐな眼差しに、シンヤは敬礼をもって答えた。

 




読了ありがとうございました♪
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