ガンダムビルドダイバーズ -once more- 作:雷電丸
「君たちが、次の対戦相手か」
1回戦目を終えて、少しでもゆっくりしようと選手用に設けられた休憩スペースで、シンヤとアヤメは慌てて身体を起こして同時に振り返る。そこには20代の男性と、その後ろに同年代と思われる女性がそれぞれ立っていた。
2人ともお揃いの軍服を着ているだけでなく、アクセサリーまで揃えているところを見るに、仲の良さがありありとうかがえた。
「1回戦を拝見させてもらったが……なかなかいい動きをしていたよ」
「ありがとうございます」
「だが、それだけではこのタッグマッチは勝ち抜けない」
「どういう意味かしら?」
「深い意味はないさ。言葉の通りだと思ってくれて構わない。
なに、次の試合で嫌でも分かるとも」
「随分な自信ね」
「当然だな。なにせ私には、我が伝説が共にあるのだから!」
そう言って、後ろに控えていた女性の肩を掴む。彼女は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑み、ぺこりと礼儀正しく頭を下げる。
「突然ごめんなさい。他に男女のペアがいなかったものだから、彼がどうしても挨拶したいと……」
「あぁ、いえ」
「ところで……お二人は恋人なのかしら?」
「「違います」」
期せずして互いの声がぴたりと被った。しかし事実なだけに驚きはなく、寧ろ当然にさえ感じられる。一方、否定された彼女は少し残念そうな顔をしていたが、それも一瞬だけ。すぐににこやかな表情を見せると勘ぐったことを謝罪し、さらに続ける。
「私と彼は恋人なの。だからつい気になって……浮かれていると思われてもおかしくはないけど、でもそれだけではないから、覚悟してね」
それだけ言うと、2人は再び一礼して去っていく。その後ろ姿を見送りながら、シンヤは次の試合が言葉通り簡単に行かないのではないかと思い始めていた。
「ふーん」
ふとアヤメの冷ややかな声で我に返ると、彼女はじーっとシンヤを見て──いや、睨んでいる。
「え、何?」
「別に。ただ、美人だったし見惚れるのも無理ないかーと思っただけよ」
「あー、そういえばそうだった……ね?」
「なんで疑問形なのよ」
「いや、そこまで気にする余裕なかったから……1回戦目でもだいぶ苦戦したし」
先程戦ったチームが今大会で最も強いと謳われているのならまだしも、そうではないのだから今後も気は抜けないだろう。なにより、男が言っていた「それだけでは勝てない」と言う言葉が、嫌に重くのしかかってくる。
「あまり気負わなくて大丈夫よ。シンヤが1人で全部背負う必要はないんだから」
「……それもそうだね」
アヤメの言葉に感謝しながら、2人は次の試合に備えて出撃ブースへと向かった。その道中、改めてアヤメにマルコシアスが使う武器の説明をしておく。
バスタードメイスγ──バスタードメイスの鞘そのものは本来のものと変わりないが、収納されている漆黒の大太刀は、ガンダムアスタロトオリジンが持つγナノラミネートソードをベースにしたものになっている。エイハブ粒子を刀身に纏わせて特殊な反応を引き起こし、破壊力を増幅させる武器で、マルコシアスに持たせたものは柄の端にケーブルがあり、それを鞘と繋げることでバスタードメイスとしての破壊力も格段に上げられる仕組みだ。
「ワイヤーは、左右の腕部下部についてて……」
出撃ブースまであっという間に辿り着いてしまい、2人は苦笑いしつつそれぞれのガンプラに乗り込んだ。バスタードメイスγの方は最後まで説明できたから、大丈夫なはずだ。
「マルコシアス、行きます」
先程と同様に、シンヤとマルコシアスが前に出て先行する。アヤメは既に零丸をカクレ形態にしており、強襲を仕掛ける準備を整えていた。
1回戦目とは違い、今度はデブリが数多く漂う中での戦闘だが、シンヤは慣れた手つきでマルコシアスを動かし、デブリの中を駆けていく。しかし、それも突然終わりを迎えた。敵にロックされた旨を知らせるアラートが響き、咄嗟に最も空間のある真上へ避難する。と、ついさっきまでマルコシアスがいた場所を、ビーム砲が貫いていった。
「あれは……え?」
「どうしたの?」
「あぁ、いや……敵はデスティニーとレジェンドみたいだ」
「了解……って、ええ?」
アヤメも件の2機を目にしたのだろう。間の抜けた声が出てしまうのも無理はない。なにせ迫りくるデスティニーとレジェンドは、どちらも愛らしいピンク一色で彩られていたのだから。
ガンプラを自分の好きな色で染めるのは、別に不思議でもないし珍しくもない。しかしいざピンク一色に仕上がったガンプラを前にして、驚くなと言う方が無理な気がする。それくらいに印象深いのだ。しかも2機はパーソナルマークも共通しているのか、肩にはハートマークが幾つかあしらわれている。
事前に恋人同士とは聞いていたが、まさかここまではっきりアピールしてくるとは思わず、困惑してしまう。その機微を察したのか、ピンク色のデスティニーから通信が入った。
《素晴らしいだろう。これぞ我が伝説が作りし、彼女のためだけの剣……ユア・デスティニーだ!》
《そして私のために、我が運命が作ってくれたガンプラであり、彼のためだけの剣、ユア・レジェンドです!》
「バ……バカップルだわ」
「す、すごい」
「シンヤ!?」
呆れてしまうアヤメとは真逆で、素直に褒めてしまうシンヤ。バカップルなのは間違いないが、ガンプラの出来は良いし、的確にビーム砲を撃ってきたことを考えると相当な腕前なのだろう。愛に満ちた2人だが、決して油断ならない。
《行くぞ、我が伝説!》
《はい、我が運命!》
呼び方がダイバーネームですらないのはどうかと思うが、ツッコミを入れる気力すらわいてこない。ともかくさっさと片付けようと、アヤメはデブリから身を躍らせる。狙うは背部の右側に背負った大剣に手をかけようとしているユア・デスティニー。
「もらった!」
《意気や良し。しかし、それだけだ》
ユア・デスティニーは慌てる様子も見せず、大剣ではなく肩部に備えられたフラッシュエッジ2ビームブーメランを引き抜き、零丸が振り下ろした忍者刀を余裕をもって受け止めた。デスティニーのビームブーメランは投擲することを主目的としているが、ビームの出力を調節することでビームサーベルとしても活用できる。彼が駆るユア・デスティニーもそれは例外ではないようだ。
迫合いになれば機体重量と推進力で圧倒的にユア・デスティニーが有利だ。押し切られる前に下がろうとしたアヤメだったが、零丸を僅かに動かした瞬間、ユア・デスティニーも迫合いを止めてその場で背中から一回転し、左腕に装備したシールドで零丸を吹っ飛ばす。
「きゃあっ!」
「アヤメ! くっ!?」
追撃が来る前に零丸とユア・デスティニーとの間に入ろうとするシンヤだったが、四方からビームが閃き、慌てて機体を翻す。先程まで自分がいた場所をいくつもの光条が混ざり合う光景を目の当たりにし、緊張から喉が鳴った。
「ドラグーンか……!」
さらに頭上から降り注ぐビームの雨。それらを掻い潜りながら今一度アヤメへ駆け寄ろうと彼女の場所をマップで確認するが、次第に距離が開きつつある。
《通しはしません》
ユア・レジェンドから発せられた毅然とした声音。彼女の決意を示すように、ビームの猛攻が繰り返された。
ベースとなっているレジェンドは、デスティニーと同じく『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』に登場する機体で、その最大の特徴がドラグーンシステムである。機体背部に背負った専用のプラットホームからドラグーンと呼ばれるビーム突撃砲を分離し、それらを駆使することで全方位攻撃を行える。このGBNでもそれは当然再現されているし、アニメや原作とは違いゲームとして扱いやすくなっている。
だが、憧れる者は多くとも、扱える者はだいぶ限られてくる。ドラグーンは劇中同様大気圏内での分離はできず、宇宙空間でのみの運用となるため、地上、宇宙問わず様々なミッションが用意されているGBNではあまり重宝されていない。なにより、ドラグーンを使うには空間認識の力がある程度ついてなければならないことが敷居の高さを物語っていた。ゲームらしく、ドラグーンを放った後にオートモードで敵を攻撃する設定にもできるが、それでも味方の位置や援護に的確な射撃タイミング、高速移動中の敵の進路妨害など、自分が何を目的としているかをゲーム側が理解するはずもなく、状況判断と空間認識能力の両方を一遍に求められるドラグーンを扱うには相当な技量が必要とされている。
そんなドラグーンで絶えず攻撃してくるユア・レジェンド。アヤメの援護に向かうことは当然許されず、マルコシアスそのものへの攻撃も続いており、シンヤは常に全方位へ気を配ることを余儀なくされる。
そして吹っ飛ばされたアヤメもまた、ユア・デスティニーの対処で手一杯だ。さっき身を隠すのに使ったデブリに吹き飛ばされた零丸へ、ユア・デスティニーはビームブーメランを投擲して追撃に移る。
「やらせない!」
1つは手裏剣で迎撃、もう1つは忍者刀で弾き飛ばす。それを流れるように素早く行ったアヤメだったが、ユア・デスティニーが背中の大剣を既に抜き終えて自分目掛けて猛スピードで突っ込んでくるのを見て急いでその場から離脱する。ユア・デスティニーは動きを緩めることなく対艦刀をデブリに突き立てる羽目になったが、気にする様子もなくビームライフルに持ち替えて執拗に零丸を狙う。
「シンヤは……!?」
なんとかデスティニーから距離を取ろうと、ビームをかわしながらシンヤとの距離が最も近くなるように複雑な軌道を描きながら進んでいく零丸。しかしその動きに気付いたユア・レジェンドが、プラットホームの最上端に残った2基の大型ドラグーンで進路を阻んだ。
「くっ……このっ!」
種子島雷威銃で大型ドラグーンを撃ち抜こうと試みるが、引き鉄を引く暇すら与えてもらえない。小型のドラグーンさえも自分を狙うようになり、いつまでも劣勢に立たされて歯痒い想いを強いられる。
「あっ……シンヤ!」
「アヤメ?」
「デスティニーが、そっちに!」
焦りを滲ませたアヤメの叫びに周囲を探るが、未だにドラグーンが辺りを漂うばかりで肝心のユア・デスティニーを見つけられない。
「違う。下からか!」
さっきまで上下からもビームが閃いていたはずなのに、今はそれがない。ユア・デスティニーの射線を確保するためのものだとするなら──その直感通り、ユア・デスティニーはマルコシアスの下で背部に折り畳まれて懸架されているビーム砲を展開していた。
「ぐうぅ!?」
真っ直ぐに飛来する熱線。直撃は免れないと判断し、左腕に装備したシールドでなんとかビームを防ぐが、齎された衝撃は決して生半可なものではなかった。間違いなく追撃がくると身構えたシンヤだったが、眼前に迫っていたのは2基の大型ドラグーン。
予想を裏切られた驚きから動揺をしてしまったシンヤは、尖端に形成されたビームスパイクが迫り来るにつれて輝きを増すことでやっと気付いて回避行動にうつる。ドラグーンはマルコシアスのすぐそばまで迫っており、横を掠める度にガタガタと揺らされて思うように進めない。
《くらえぇっ!》
「しまった!」
あまりに無駄な動きばかりになってしまったマルコシアスの下から、再びユア・デスティニーが仕掛ける。右手の掌が眩いばかりに輝いているのを見て、何を狙っているのかは理解できる。しかし、ドラグーンによって身動きに制限を設けられたこの状況では避けるだけの時間は残されていなかった。
《パルマ……フィオキーナアアアァァッ!!》
武装の名前を高らかに叫び、肉薄する姿は正しく鬼神の如く苛烈な雰囲気を纏っていた。左右の掌底に施された小型のビーム砲にあたるこの武器は、主にゼロ距離で発砲する場面が原作アニメでも何度も見られただけに、ユア・デスティニーも距離を詰めてきた。
(レールガンだと、射角が合わないか!)
接近させまいとレールガンで対応したかったが、ほぼ真下から迫ってくるユア・デスティニーに当てられる角度にないため、それは叶わない。ならばも腰部のバインダーを開いてサブアームを操り、短刀を掌底に向かって突き立てた。
《甘い!》
しかし、短刀がユア・デスティニーの掌底を貫くことは叶わず、鷲掴みにされてしまう。メキメキと軋む音が聞こえてきそうな程に力強く握っているのだろう。短刀に少しずつヒビが入り、そして間もなく無残に握り潰された。
「これ以上は……!」
《アロンダイトォ!》
マルコシアスはバスタードメイスγを、ユア・デスティニーは大剣──アロンダイトを引き抜き、ぶつけ合う。
円卓の騎士たるランスロットの愛剣の名を冠する大剣だけあってその重量はすさまじく、バスタードメイスγの鞘ですら押し返そうとする勢いだ。
《君達は確かに強い。きっと1対1では勝てないだろう》
「なにを……!?」
《だがこれはタッグマッチだ。連携のとれていない君達が挑むには、早すぎたんだよ!》
アロンダイトを振り上げながらバスタードメイスγを弾き、ユア・デスティニーが改めて接近する。今度は翼を広げ、光の翼を纏いながら。デスティニーは特殊な推進機構を有しており、光の翼だけでなく残像を形成することもできる。残像は本当に数瞬間しかもたないが、目視では早すぎて機体を追うことができず、かと言ってレーダーでは複数の機影として捉えてしまうため、どちらであっても捉えるのは難しい。
(けど、大剣をもっているなら迫ってくるのは確実なんだ)
初撃さえ抑えれば、あとはもうひたすらに反撃するしかない。バスタードメイスγで迎え撃とうと身構えるが、そうはさせまいとドラグーンが再度マルコシアスに襲い掛かった。