ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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得たもの

「くっ!」

 

 

 ユア・レジェンドは決して、自ら仕掛けようとはしない。戦況を把握しながらドラグーンを適切に使う姿勢は、尊敬すら覚えるほどだ。全てのドラグーンを1機には集中させず、自分とアヤメの両方に繰り出すため、連携は常に分断されたまま。そしてユア・デスティニーも、片方に固執せずにマルコシアスと零丸のどちらを狙うか瞬時に切り替えてくる。今も標的を零丸に切り替え、アロンダイトを手に猛攻を仕掛けていた。

 

 

「このままじゃあ……!」

 

「シンヤ!」

 

 

 小回りのきく零丸でドラグーンを掻い潜りながら合流しようと試みるアヤメ。多少被弾してでもユア・レジェンド本体へ攻撃して、全てのドラグーンを自分へ向けさせたい。しかし、小型のドラグーンだけでなく、大型ドラグーンがビームスパイクを展開して突っ込んできて大きく弾かれてしまい、それは叶わない。このままではジリ貧だ。

 

 

「こうなったら……シンヤ、お願いがあるの!」

 

「え?」

 

 

 アヤメに言われ、シンヤはすぐさま彼女の提案に乗れなかった。かなり危険を伴う作戦だし、そう簡単にうまく行くとはとても思えなかったから。だが、この状況を打破する術を自分は知らない。

 

 

「分かった。やろう!」

 

 

 なればこそ、アヤメを信じるしかあるまい。彼女と彼女の作戦を信じ、それらに全力をもって応える。シンヤは心を決め、バスタードメイスγを振りかぶる。

 

 その動きを察知したドラグーンがマルコシアスに向けられる。逃げ道を作らないようにビームが放たれるタイミングもバラバラだが、今は一斉に照射されない方がありがたい。

 

 

「いっけえええぇぇっ!!」

 

 

 高らかに叫び、シンヤはバスタードメイスγを思い切りユア・レジェンドに向かって投げつける。ドラグーンで迎撃するには数が足りず、またそれらを犠牲にして進路を妨害すれば貴重な火力を失うことにもなる。そうなると選択肢は自ずと決まってくる。自身で迎撃するか、或いは避けるか。

 

 

「避けた!」

 

 

 ユア・レジェンドが選んだのは、回避だった。あまりに突然で迎撃にまで手が回らなかったのか、或いは質量から自分の武器では迎え撃てないと判断したのかは分からない。しかし避けたとなれば、“ありがたい”。

 

 虚空を突き抜けていくバスタードメイスγは、そのまま零丸へ一直線に向かっていく。小柄な零丸なら避けるのは簡単だろう。だが、あろうことかアヤメはその場に留まり、遂にはバスタードメイスγが直撃してしまう。

 

 誰もが息を呑む光景。味方へ当たってしまうなど、初心者ならばあるかもしれないが、それでも頻繁に起こり得るはずもない。それが目の前で、いきなり起こった。皆がガンプラの操作を忘れて見守った。

 

 

「大丈夫」

 

 

 深い溜め息まじりに、アヤメが言った。

 

 

「上手くいったわ!」

 

 

 断言し、零丸はシールドとして使った手裏剣を捨てて、眼前に迫っていたユア・デスティニーに取り付いた。

 

 

《何っ!?》

 

「これでドラグーンを抑える!」

 

 

 アヤメの狙いは、最初からドラグーンを封じることにあった。バスタードメイスγを投げてもらい、ユア・レジェンドが自分で対処したなら被弾も覚悟で一気に肉薄するつもりだったし、避けられたならバスタードメイスγを手裏剣で受け止めて吹っ飛んだフリをしてユア・デスティニーに迫るつもりでいた。

 

 最初提案を受けた時はアヤメに直撃して何かあったらどうしようかと気を揉んだが、どうやら作戦はうまくいったようだ。このチャンスを逃すまいと、シンヤもマルコシアスを駆ってドラグーンへレールガンを浴びせる。

 

 

《放せ!》

 

「放す訳ないでしょ!」

 

《くっ……我が伝説よ、ここは私ごと撃て!》

 

《そ、そんな……!》

 

「恋人に撃たせるなんて、最低ね」

 

《貴様!》

 

 

 ユア・デスティニーの背面に取り付いて、必死に食らいつく零丸。いくら高速で移動しようともそう簡単に振り払えない焦燥感から自分ごと撃たせようとするが、ユア・レジェンドは明らかに狼狽えていた。

 

 あまりに大きな隙を見逃すはずもなく、周囲を駆けるドラグーンも明らかに影響を受けてスピードが緩んでいる。

 

 

「やるぞ、マルコシアス!」

 

 

 腰と背中のバインダーを広げ、中に収納されている短剣を展開する。ユア・デスティニーに1本壊されて、残りは3本になっているがそれを不安に思うことはなかった。サブアームを操り、ドラグーンを切り裂き、或いは貫く。破壊されていくのを阻止するためか、大型のドラグーンがビームスパイクを形成してまっすぐに閃いた。が、その軌道は先程まで翻弄していたそれとは違い、あまりにまっすぐ過ぎた。マルコシアスはレールガンを連射し、1発目で軌道を逸らし、2発目で叩き落とした。

 

 

「畳み掛ける!」

 

 

 腕の下部に備えられたナックルガードを反転させてクローを展開し、マルコシアスは一気にユア・レジェンドとの距離を詰めていく。すぐさまビームライフルが火を噴くが、ドラグーンと違って火線がやってくる方向は限られる。シールドで防ぎ、或いは身を翻す。悉くをかわし、遂に目の前まで迫った。

 

 銃身の長いビームライフルも、ここまで近づけば最早使い物にならない。それでも残せば脅威になると判断し、シンヤはまずビームライフルにクローを突き立てて破壊。そして今度こそユア・レジェンドの胴を貫こうと右腕を閃かせた。

 

 だが、ユア・レジェンドの方が幾分か早かった。脚部の側面にあるウェポンラックが開き、ビームジャベリンが輝いた。突き出されたクローを受け止め火花を散らすが、それも僅かな間だけ。もう一方の手にもビームジャベリンを握り、真上から振り下ろす。

 

 

「くっ!」

 

 

 咄嗟にユア・レジェンドから距離を取ってやり過ごし、シンヤは再び仕掛けようとする。もっともそれは、自分から向かっていくだけの距離がある程度稼げていればの話だ。

 

 

「なっ!?」

 

 

 ユア・レジェンドは、あろうことかマルコシアスへ肉薄してきた。手甲にある発生装置からビームシールドを展開しながら突撃するユア・レジェンドからタックルをもらい、バランスが崩れる。そして今一度振るわれる光刃に裂かれる前に、腰部のバインダーから短剣を展開して既の所で受け止めた。

 

 それで攻撃の手が緩むはずもない。左手に握ったビームジャベリンを逆手に持ち替え、バインダーを突き貫く。瞬く間に火の手をあげるそれを切り離し、ユア・レジェンドを蹴り飛ばして少しでも離れると、残ったバインダーのレールガンを何度も放つ。

 

 だが悲しいことにそれらは狙いが甘過ぎた。シールドで防ぐことすらせず、ユア・レジェンドは閃く弾丸をかわし、振り返り様にビームジャベリンを投げつけて最後の腰部バインダーもあっという間に破壊してみせた。

 

 

「まずい……!」

 

《よそ見とは、随分と余裕だな!》

 

「えっ……きゃあぁっ!」

 

 

 ユア・デスティニーの背中にしがみついていた零丸だったが、勢いよくデブリに突っ込まれた衝撃で手が離れてしまう。もうもうと立ち込める砂煙が視界を覆うが、奥に見えたツインアイの光が揺らめいたのを見逃さなかった。

 

 砂煙から躍り出た右手が零丸を鷲掴みにしようと牙をむく。受け切れないと判断してすぐにその場を離れると、一拍遅れて激突したデブリが粉々に吹き飛ぶ。パルマフィオキーナによって砕け散った破片が漂う中、零丸は忍者刀を引き抜いて迫った。ユア・デスティニーも迎え撃とうとビームブーメランを引き抜き、ビームの出力を上げてサーベルとして用いて零丸へ斬りかかる。刃と刃とがぶつかり合い、火花を散らす。パワーではユア・デスティニーが上回るが、零丸もまったく退こうとはせず互いに譲らない。

 

 だが、このまま競り合っても状況が変わらないのも事実。零丸はユア・デスティニーのメインカメラ目掛けて苦無を投げつけると、それを防御しようと庇うために動いた隙をついて自身も動き出す。ガラ空きになったコクピットへ狙いをつけて滑り込む零丸。それに既の所で気が付いたユア・デスティニーが翼を広げて急いで離脱する。

 

 

「遅かった……!」

 

 

 あともう少し早ければコクピットを貫けたと思うと、悔しさが込み上げてくる。しかしユア・デスティニーが攻撃の手を緩めるはずもなく、ビーム砲とビームライフルを連射して零丸を追い込む。

 

 一見してデタラメに放たれている火線を掻い潜りながら、自身がユア・レジェンドに近づいているのに気付いて、なんとか反対側に移って距離を取ろうとするが、それより早くユア・デスティニーに回り込まれてしまう。

 

 

「そう簡単に!」

 

 

 それでも、アヤメはされるがままな状況に抗う。少しでも時間をかけて何か突破口を見出そうと粘るが、ユア・レジェンドとの距離を気にして振り返るも、マルコシアスが蹴り飛ばされてくる姿が目に入った。

 

 突然のことに避けることは叶わず、シンヤもマルコシアスを動かすのが間に合わなかったのか、2機は思い切りぶつかり合った。それは大きな隙となり、ユア・デスティニーが大剣を振りかぶって一直線に突っ込んでくる。

 

 

「くっ!」

 

 

 一撃で敵を屠るであろう突撃をなんとかかわした──その安心から気が緩んだのを見逃さず、ユア・デスティニーは大剣をユア・レジェンドに任せ、ビーム砲を立て続けに放った。

 

 

「させるか!」

 

 

 すぐさまマルコシアスのシールドを構え、零丸を守るように前に立つ。しかし何度目かのビーム砲を受けたところでシールドは完全に破壊され、殺しきれなかった衝撃が2人を襲った。

 

 投げ出されるように虚空を漂うマルコシアスと零丸。2機を纏めて葬ろうと、ユア・レジェンドが引き継いだ大剣を構えて突出する。

 

 

(ダメだ……“これはかわせない”)

 

 

 自分もアヤメも姿勢を戻すのに手一杯で反撃は間に合わない。しかも、どう足掻いても自分は絶対にかわせない距離まで敵が迫っていた。

 

 

「アヤメ、ごめん」

 

「え?」

 

「あとは頼んだよ」

 

 

 ならば、せめてアヤメと零丸が巻き込まれないようにするしかあるまい。矢継ぎ早に言い残し、バスタードメイスγの鞘を零丸に向かって射出する。突然飛来したそれは零丸を弾き飛ばし、少しだがマルコシアスと距離ができる──が、シンヤが成否を確認することは叶わなかった。

 

 

「シ、シンヤ……!」

 

 

 突撃してきてユア・レジェンドの大剣が、深々とマルコシアスに突き刺さっている。あまりに強い衝撃があったに違いない。胸を貫く大剣は柄まで埋まっている。

 

 しかし、ユア・レジェンドもまた、コクピットを真紅の剣に貫かれて佇んでいた。γナノラミネートソードでの反撃が間に合うとは思えなかった。恐らく、突っ込んでくるのに合わせてユア・レジェンドを貫ける位置に刃を構えただけなのだろう。僅かでも狂えば致命傷には至らなかったはずだが、シンヤはあの数瞬にやってみせたのだ。

 

 

「そ、そんな……」

 

 

 だが、シンヤが撃墜された衝撃は、アヤメにとってあまりに大きかった。戦いの最中でありながら、思わず我を忘れて立ち止まってしまう。思わず零丸を駆って近づこうとした矢先、行く手を阻むように目の前を閃光が走る。

 

 

《まだ決着は……ついてない!》

 

「くっ!」

 

 

 ビームブーメランを左右から挟撃するように投げ、自身も掌底部にあるビーム砲を輝かせながら肉薄するユア・デスティニー。咆哮する彼の言う通り、まだ戦いは終わっていない。忍者刀を抜き、アヤメも零丸を走らせる。

 

 迫りくるビームブーメランを忍者刀で交互に弾く。後方へと失速しながら弾かれたそれらの行き先を確認しようと零丸を振り返らせるアヤメ。また使われてはかなわないと、苦無を投げて2つのビームブーメランを両方共破壊する。しかし、まだユア・デスティニーそのものが勢い良く突進してきている。

 

 

《背中がガラ空きだあぁっ!》

 

「でしょうね!」

 

 

 機敏さでは負けていないつもりだ。零丸はすぐさま宙返りし、既の所でユア・デスティニーの突進から逃れる。そしてかわせたと分かった瞬間、ライフルを構える。

 

 それは、ユア・デスティニーも同じだった。互いに構えたライフルが、相手の火線に貫かれて火の手をあげる。

 

 

「なら!」

 

 

 武器を失ったからと、怯むわけにはいかない。零丸に残された武器は、忍者刀と苦無だけ。対してユア・デスティニーは背部と掌底部にあるビーム砲と、頭部に備わっているバルカン。いくら零丸が小さめの的とは言え、距離を取ったまま戦えるはずもない。

 

 すかさず零丸を接近させ、忍者刀を握り直す。相手に立て直す余裕は与えない。距離を取らせない。それを念頭に、一気に距離を詰める。

 

 ユア・デスティニーはバルカンの威力を考えてか、迎撃よりも牽制として連射する。しかしずっと続ければ砲身が焼け切れてしまうことや、標的の零丸が小さくてまったく当たらないのを気にして、ある程度距離が縮まると撃つのをやめ、掌底部のビーム砲を振りかざす。

 

 

「見えてるわ!」

 

 

 振り被った右手に、光が集束する。繰り出されるのは右手だ──そう確信したアヤメだったが、次の瞬間には己の目を疑う光景が待っていた。

 

 あろうことかユア・デスティニーは、今にも忍者刀が届きそうな距離になった途端、左手で背部ビーム砲のトリガーを握ったのだ。

 

 

「なっ、この距離で……!?」

 

 

 折り畳まれた状態のまま、砲身が零丸に叩きつけられる。あまりに急すぎる動きに翻弄され、零丸は機体を大きく揺らしながらバランスを崩して虚空を彷徨う。その間にユア・デスティニーはビーム砲を展開し、零丸へ狙いを定めていた。

 

 アヤメが零丸の姿勢を整えた時にはもう、自分を呑み込んでしまいそうな程に眩い閃光が目の前まで迫っていた。

 

 回避する術は、何もなかった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「ほんっっっとうに、ごめんっ!」

 

 

 アヤメが出場選手用の待機ブースに戻るなり、手を合わせて謝るシンヤ。それを見て、慌てて首を振る。

 

 

「あ、謝らないで。シンヤのお陰で、こうして戦えたわけだし」

 

 

 失礼のないように、アヤメは口元を覆うマスクを取った。普段はそうやって話さないからなのか、彼女はどこか恥ずかしそうに頬を掻いている。

 

 

「シンヤと戦えて、良かった」

 

「そ、そっか」

 

 

 嬉しそうに微笑む姿は新鮮で、その可愛さに思わずドキッとさせられる。きっとアヤメはそのことに気付いていないだろうが、ドキドキしたなんてバレたら恥ずかしい気がするのでいいのかもしれない。

 

 

「でも、優勝までいけなくて申し訳ないよ」

 

「え? 私、優勝したいなんて言ったっけ?」

 

「……え?」

 

「『え?』って……あれ?」

 

「そういえば、言われてない気がする」

 

 

 思い返してみても、優勝したいと言われた記憶がまったくない。ただ単に一緒に出場してほしいとしか聞いていなかった。早とちりしてしまった恥ずかしさと申し訳なさから、再び頭を下げるのだった。

 

 

「お疲れ様です」

 

 

 するとそこへ、大会の運営者と思しき人物がやってくる。その手にはガンプラの箱があり、早速シンヤとアヤメに手渡される。

 

 

「こちら、出場者全員にプレゼントしている参加賞になります」

 

 

 パッケージに描かれているのは、マスコットキャラとして位置付けられているプチッガイ。この大会の限定品らしい。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 それを嬉しそうに、大事そうに受け取るアヤメ。そこでようやく、以前彼女とガンダムベースで会った時のことを思い出す。

 

 

(そういえばあの時見てたのって……プチッガイだったのかな)

 

 

 商品自体は見えていなかったが、立っていた棚の位置からして間違いないだろう。

 

 

「アヤメ、好きなの?」

 

「ま、まぁ……変?」

 

「ううん、全然。可愛いし」

 

「かわっ……!?」

 

 

 唐突に驚きの声があがる。いったいどうしたんだろうと思いつつ、シンヤはプチッガイの入った箱を揺らす。

 

 

「うん、可愛いよね、プチッガイ」

 

「あぁ……そっちね」

 

「ん?」

 

「なんでもないわ」

 

 

 ピシャリと言われ、シンヤは思わず何も言えなくなる。少しばかりアヤメが剥れているように見えるが、きっと気のせいだろう。

 

 

「アヤメ、ありがとう」

 

「どうしてシンヤがお礼を言うの?」

 

「そりゃあ、楽しかったから。アヤメと一緒にGBNを楽しめて、良かった」

 

 

 感謝をこめて、手を差し出す。アヤメはその手と自分の手とをしばし交互に見詰めていたが、やがてそっと握り返してくれた。

 




アヤメはリアルもダイバールックも可愛い~。
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