ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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虎武龍

 モニターに映し出される、ガンプラ同士のバトル。一方はブレイクデカールを使用するマスダイバーが駆るエコーズ仕様のジェガン。そしてもう一方は、それを翻弄するレイダーガンダム。映像が最後まで再生されると、暗かった部屋に次第に明るさが広がっていく。

 

 

「以上が、シンヤくんの今の戦いぶりだ」

 

 

 シンヤにマスダイバーの排除を依頼した男性──クジョウ・キョウヤが振り返る。その視線の先には2人の男女が居た。見た目から調子のよさそうな雰囲気を醸す男性が、頭を掻きながら口を開く。

 

 

「まぁ、腕前は前より上がってますね。けど、ぶっちゃけ“それだけ”ですね」

 

「私もカルナと同意見です」

 

 

 メガネをかけた理知的な女性も頷き、映像を改めて確認していく。彼女、エミリアとカルナは、キョウヤをリーダーとするフォース、AVALONの副隊長を務めている。キョウヤは現GBNにおいて最強と謳われているダイバーで、彼が率いるフォースもまた、最強の称号を手にしている。

 

 

「以前隊長と戦った時より、遠慮がちな戦い方ですね」

 

「手を抜いているって訳じゃないみたいですけど……もっと圧倒できそうな気がしますねぇ」

 

「ふむ、やはりそうか」

 

 

 2人の意見にキョウヤも同じ気持ちなのか、頷き返しては苦笑いを浮かべた。しばらく映像を見返してみては、溜め息を零す。シンヤとキョウヤはある出来事が切っ掛けで邂逅し、1度だけバトルに突入したものの、この映像からはその時ほどの熱意を感じられない。

 

 

「我々だけでできることは限られています。せっかくですから、他の方々にもお願いしてみては如何でしょうか?」

 

「それもそうだな」

 

 

 エミリアの助言に謝辞を述べ、キョウヤはメッセージ画面を開いて協力してくれそうな頼りがいのあるダイバーを探していく。

 

 

「頼んだぞ、みんな」

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 マスダイバーとの戦闘から1週間───。

 

 シンヤは毎日とはいかないながらも適度にGBNへログインしてはちまちまとミッションをこなしていた。フォースも組まず、基本的にソロでプレイするため、できるものは限られているが、楽しむ分には充分だ。

 

 

「ここ、かな?」

 

 

 エスタニア・エリアに本拠地を構える虎舞龍と言うフォース。岩山に取り囲まれたそこは、近接格闘術を極める者が集い、日夜修行に明け暮れている。シンヤはチャンピオンであるキョウヤからの依頼でこのフォースを訪れていた。

 

 キョウヤの話では、近頃この虎舞龍へ道場破りに訪れる者が後を絶たないと言う。少し前に、テキーラガンダムを操る賞金稼ぎが虎舞龍に殴り込みに来たのだが、その際に門番を務めるダイバーが早々に撃退されたことから、「フォースの隊長以外は弱い」と言う根も葉もない噂が広まってしまったらしい。その噂のせいで道場破りと称して何人ものダイバーが訪れているとのことだった。そして困ったことに、フォース・虎舞龍の筆頭であるタイガーウルフは修行と言う名目でしばらくフォースを空けるらしく、シンヤはその間だけフォースの守護を任されたのだ。

 

 

「すみません」

 

 

 声をかけると、すぐに応答があった。門番の任についている2機のジム・トレーナーの内の1機からダイバーが下りてきた。

 

 

「キョウヤさんから言われて来た、シンヤと言います」

 

「お話しは窺っています。どうぞ、こちらへ」

 

 

 修行僧のようなアバターの男性に通され、最奥へと歩みを進める。途中で何人ものダイバーが修行をしている様子が見えたが、ここのところ襲撃が多いからなのか、どこか張り詰めた空気に包まれていた。

 

 

「タイガーウルフ様、シンヤ殿をお連れしました」

 

「あぁ」

 

 

 シンヤはタイガーウルフとは初対面だったが、彼のアバターはその名前が示す通り虎のような狼の姿をしていた。驚きはあるものの、このGBNでは人間ではなく動物のアバターを使う者も珍しくはない。チャンピオンであるキョウヤと激闘を繰り広げた第7機甲師団の隊長、ロンメルもまた動物のアバターを使用しており、既に多くのダイバーにそのアバターは認知されている。

 

 

「キョウヤから聞いていると思うが、1週間毎日数時間、ログインしてここを守ってくれればいい」

 

「でも、フォースの面々だけで事足りそうな気がしますけど……」

 

「バカ言え。足りないと思ったから、こうしてお前に頼んだんだろうが」

 

 

 ぶっきらぼうな言い方だが、確かにその通りだ。道場破りに来るダイバーも、初心者からある程度名の知れた者もいるらしい。大抵は門番で返り討ちにできるし、「リーダー以外は弱い」など噂の域を出ない情報に踊らされる上位ランカーは早々いないだろうが、それでも徒党を組まれたり連戦を仕掛けてきたり、色々な策を講じてきているらしい。

 

 

「まぁ、挑んで来るからには徹底的に叩いて追い返す。お前さんにも、それぐらいやってもらうぞ」

 

「徹底的に、ですか」

 

「それは暴力だ──なんて、思ってんのか?」

 

「……はい」

 

 

 タイガーウルフの問いに、シンヤは逡巡しながらも頷き返した。別に蹂躙しろと言われている訳ではないし、守らねばこのフォースやダイバーが危険にさらされてしまう。守るためならば仕方がないのかもしれない──それを分かっていても、シンヤはどこか納得できなかった。

 

 

「ならお前は、なんのために自分の力を使っている?」

 

「え?」

 

「まさか、誰かに言われたからとか言わないだろうな?」

 

 

 まっすぐで鋭利な視線。射貫かれそうで、シンヤは思わず視線を逸らした。タイガーウルフに言われるまでもなく、分かっている。キョウヤと邂逅を果たした時の1戦から、自分の戦い方はどこか歪だと言うこと、そして自分の意志で自分の力を振るえないこと。ちゃんと理解はしている──そのはずなのに、いざ戦いに赴けば手が震えてしまう。また自分のせいで、ガンプラに負担を押し付けるのではないかと。

 

 GBNの世界では、疲労など存在しない。ガンプラだってリアルに戻れば傷ついていない。それでも、ゲームの中で限れば自分は傷つかず、ガンプラだけが傷つく。一緒に戦っているはずなのに、実際に戦っているのはガンプラだけ。そんな想いが拭えずにいた。

 

 

「なにも、敵に配慮するなとは言わん。だが、遠慮は時に相手への無礼にあたることだってある。

 お前の中では、遠慮と配慮の線引きがまだできてない……俺はそう思っている」

 

「線引き……」

 

「この1週間でその線引きを失くせるなんて思っちゃいないが、何かの道筋ぐらいにはなるはずだ。なにせ───」

 

 

 そこまで言った時、外でズンッと大きな音が響き、地面が揺れた。焦って振り返るシンヤをよそに、タイガーウルフは溜め息交じりに頭を掻いた。

 

 

「そら、おいでなさったぞ」

 

「まさか……」

 

「そう、襲撃だ。なにせ1日に何人ものダイバーがやってきているんだ。

 道筋も勝手に見えてくるってもんだ」

 

 

 言うが早いか、タイガーウルフは出入口へと駆け出していく。シンヤも慌てて追いかけるものの、その脚力は尋常ではなくあっという間に姿を見失ってしまう。なんとか追いついた時には空へと跳躍したところで、瞬きをした時には既に、その身を包み込むように愛機が顕現していた。

 

 

「あれが……」

 

 

 ガンダムジーエンアルトロン──タイガーウルフの愛機。両肩に配された虎と狼の頭から、その力強さと勇猛さがひしひしと伝わってくる。

 

 

「ぼさっとするな。お前も自分のガンプラに乗れ!」

 

「は、はい!」

 

 

 促され、シンヤも今日のためにチョイスしていた機体を具現させる。グリーンを基調としたカラーリングに、接近戦を主眼に置いた装甲。特徴的なツイン・ビームスピアを握り締めたそれは、ジム・ストライカーだった。前回使ったレイダーとはまた違った戦い方を要求されるが、シンヤからすればそれは些細なことに過ぎない。

 

 

「なんだ、自分なりにカスタマイズしてねぇのか?」

 

「これが、今の“自分なり”なんです」

 

「まぁいい。どんなガンプラだろうと、やることはやってもらうからな」

 

「……やれます。このガンプラなら!」

 

「ガンプラなら、ねぇ」

 

 

 シンヤの言葉にタイガーウルフは嘆息する。ダイバーの独りよがりな戦い方も評価できないが、シンヤの場合“自分自身と言う武器”をまったく活かせていない。チャンピオンであるキョウヤから聞かされた通りの受け答えに、却って感心してしまいそうだ。

 

 

(もっとも、ここで答えが見つかるかどうかはシンヤ次第だな)

 

 

 ひとまず彼に門での迎撃を任せてタイガーウルフは先行する。

 

 

「毎日のリベンジ、ご苦労なことだ!」

 

 

 苦戦していそうな弟子を瞬時に見抜き、すれ違い様に敵の胴を拳で貫く。素手ならば簡単にはいかないだろうが、ジーエンアルトロンは肩にあった虎と狼の頭部を手にはめて貫通力を高めていた。易々と貫かれるガンプラに目もくれず、俊敏に動き回る。その戦い振りは正しく猛獣のように鋭く、的確だった。

 

 

(流石にあれにはついていけないな)

 

 

 高機動な機体や機動力を底上げする機能を搭載していなければ、タイガーウルフに並ぶことは叶わないだろう。シンヤは素直に門番の役割に徹する。マシンガンで牽制しつつ、ツイン・ビームスピアを一閃。引き裂かれながらも突撃をやめない相手にはスパイクシールドでカウンターを叩き込んで沈黙させる。

 

 結局、その日は1時間近く敵の猛攻が止むことはなかった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「つ、疲れた……!」

 

 

 ディメンジョンからリアルへと戻ったシンヤは開口一番溜め息を吐き出した。長時間のダイブはやはりリアルへの負担も大きい。過去に数時間ダイブした経験があるから大丈夫だろうと過信していたのがよくなかった。タイガーウルフから「早めに戻れ」と助言されていなければ、翌日はまともに戦えなかったかもしれない。

 

 

「うぅ……ガンプラはまた今度にしよう」

 

 

 最初は戻ってきたらガンプラを組もうかと思っていたが、この疲労感からはそんな気力もわいてこない。このまま気だるさに身を任せて寝たいところだが、固まった身体をほぐすために家を出て、自転車を走らせる。現実で戦っていた訳でもないのに、身体は火照っていた。駆け抜ける風が心地好く、自然と頬が緩む。

 

 

「あ……」

 

 

 何気なく走らせていたはずなのに、気付いたらガンダムベースに来ていた。元々家から近いことや、豊富な品揃えからよく訪れていただけに、無意識に来てしまったのかもしれない。せっかく来たのだからと自転車を止めて、店内へ足を運ぶ。

 

 

「あれ?」

 

 

 ちょうど入口に差し掛かったところで、シンヤとは反対に店から出ていく少女が一瞬だけ目に入った。

 

 

「フジサワさん?」

 

 

 クラスメートのフジサワ・アヤに似た少女とすれ違ったが、すぐ人混みにまぎれてしまい、本人かどうかは分からずじまいだった。

 

 

(フジサワさんもガンプラに興味あるんだ)

 

 

 女性が興味をもつことはまったく珍しくもない。しかしシンヤの知る彼女は、ガンプラやGBNの話題で盛り上がることはなく、少しばかり淡々としていた。もっとも、それが素顔とは限らないし、シンヤも知りたいとは微塵も思っていなかった。

 

 

「あれ、シンヤくん?」

 

「あ、コウイチさん」

 

 

 しばし人混みを見ていたシンヤだったが、名前を呼ばれて我に返る。声の主はナナセ・コウイチ。このガンダムベースに自分が組んだガンプラを提供、展示している青年だ。何度か言葉をかわした程度だが、コウイチの柔和な性格のお陰か、なんとなく意気投合している。

 

 

「もしかして、“アレ”を引き取りに来たのかな?」

 

「あ……いえ」

 

 

 コウイチの言葉に表情が翳った。シンヤのその表情を見て、コウイチも申し訳なさそうに頭を掻く。アレとは、シンヤがGBNで何度となく操作したガンプラだ。初めての相棒でありながら、初めて傷つけてしまった愛機でもある。だからここのロッカールームで預かってもらっているのだが、もう数ヵ月が経っている。いつまでも引きずっているのはどうかと思ったが、中々踏み出せないでいる。

 

 

「すみません、失礼します」

 

 

 頭を下げ、逃げるようにその場を立ち去る。コウイチは何か言おうとしていたが、聞きたくなくて、思わず走り出していた。駐輪場まで一直線に向かい、乱れた息を懸命に整える。あのガンプラを思い出しただけで、荒波を立てるように心がざわついた。

 

 

「帰らないと」

 

 

 結局、疲れは余計にたまってしまい、帰宅したシンヤは早々にベッドへ潜り込む。揺さぶられた心は簡単には静まらず、いつまでも心を苛んだ。

 




読了、ありがとうございます♪

まだ書き出したばかりなので難しいとは思いますが、感想もお待ちしております。

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