ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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それぞれの強さ

 次のボスステージを前に、3人はインターバルの最中にそれぞれの機体の修理を行う。そこまでダメージはないからすぐにでも出撃できるのだが、ステアの提案でコクピットから下りて話していた。

 

 

「そっか。2人ともソロが長いんだ」

 

「僕は何度かチームを組んだことはありますけど……フォースは1度だけですね」

 

「私は……今のビルドダイバーズが初めてのフォースです」

 

「意外だなぁ。実力は充分だし人当たりもいいし……って、強いかどうか私なんかが言ってもしょうがないね」

 

 

 GBNにはまだまだ実力者が数多くいる。ステアのランクは分からないが、その口振りから上位ランカーではないようだ。

 

 

「うーん……女性縛りがなかったらシンヤくんを勧誘したかったなぁ」

 

「そう言ってもらえて、光栄です」

 

「そろそろ、行きましょうか」

 

 

 アヤメの言葉に振り返ると、全機の修理が終わったようだ。彼女に倣うように立ち上がるが、ふと視線を戻すと、ステアが座ったまま顔を俯かせていた。

 

 

「ステアさん?」

 

「……ごめん。最後のステージに行く前に、話しておきたいことがあるの。特に、シンヤくん」

 

「僕に?」

 

「うん」

 

 

 まっすぐと見詰めてくるものだから、シンヤも自然と居住まいを正す。アヤメも零丸には乗り込まず、待ってくれた。

 

 

「私……マスダイバーだったの」

 

「…………え?」

 

 

 思ってもいなかった一言。シンヤも言葉を失い、間抜けな反応をするのがせいぜいだった。

 

 ステアも何を話していいのか分からないのか、言葉は紡がれない。しかしスカートを握る手が震えているのを見て、話すことがどれだけ勇気のいることなのかを察する。

 

 

「無理しなくていいですよ。

 でも……よかったら、話してくれませんか?」

 

 

 シンヤがまっすぐに見詰める。ステアは1度だけ罰が悪そうに顔を背けるが、それも僅かな間だけ。ゆっくりと面を上げ、シンヤを見詰め返す。そして、訥々と語り始めた。

 

 

「私、ガンプラバトルが下手っぴで……それが、ずっとフォースのみんなに迷惑をかけてるんだと思ってたの」

 

 

 ステアが所属するフォース、アークエンジェルズ。女性だけで構成されたそこは、ステアにとって大切な友達と一緒に結成し、なによりも大切な居場所だった。

 

 だから守りたかった。

 

 だから役に立ちたかった。

 

 だから──だから、どんなことでもする覚悟があった。

 

 その強い想いから、ステアは遂にブレイクデカールに手を出してしまう。それがいけないことだと分かっていながら。

 

 

「私のせいでフォースランクも落としちゃって……いつかは見放されちゃうんだって考えてた」

 

 

 後ろで手を組んで、苦笑いするステア。それが強がりなのは誰の目にも明らかで、無理をしているのがよく分かる。本当は打ち明けたくなんてなかっただろう。軽蔑されるのが怖かっただろう。だけど、ステアは話すと決めてくれた。こうして、言葉を紡いでくれた。

 

 

「そうしたら、ビルドダイバーズのリクくんに怒られちゃった。『仲間を裏切っているのはお姉さんの方だ』って」

 

「仲間……」

 

 

 シンヤの脳裏に、かつてのフォースメンバーが浮かぶ。彼らも自分のミスでブレイクデカールに手を出してしまった。それまで築いたものは希薄だったかもしれないが、仲間だった時の時間を信じていたなら、或いは結末は違っていたのかもしれない。

 

 

(いや……でもそれは、今だから言えることか)

 

 

 もしあの時、別の道を選んでいたなら──そう思わずにはいられない。それでも、やり直しなどできないのだから、今ある時間を精一杯進んでいくべきだ。なにより、自分がペイルライダーを傷つけたことを忘れたくなかった。

 

 

「だから私、仲間のみんなのためにできることをしたい。今度はブレイクデカールなんて使わず、自分の力で!」

 

 

 拳を強く握り、改めて意気込むステア。すぐにハッとして、「シンヤくんとアヤメちゃんに力を貸してもらってるけど」と苦笑するが、彼女の想いは確かに伝わってきた。

 

 

「約束します。最後まで、ステアさんの力になりますよ」

 

「うん。ありがとう♪」

 

 

 差し出された手を握り返し、ステアは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 各機の修理が終わり、すぐさまラストステージへ向かう3人。しかし目的地に着いてもバトルは開始されず、【Last stage】と記された表示板がずっと目の前に浮かんでいる。

 

 

「なんだろう? 故障、かな?」

 

「……違うわ」

 

「これは、まさか……」

 

 

 首を傾げるステアの前にある表示板が、不規則に乱れている。それを見てアヤメとシンヤが警戒を強めていると、1機のガンプラが近づいてきた。

 

 

「あれは……ウイングガンダム?」

 

 

 鳥を模したモビルアーマーを視認した矢先、それはモビルスーツへと変形し、シンヤたちの前にゆっくりと着地する。

 

 

《さっき振りだね、仔猫ちゃん》

 

「仔猫……?」

 

「誰?」

 

 

 奇妙な通信が飛んできたことに驚くが、男の声には聞き覚えがある。確か、ステアを追いかけていた───

 

 

《忘れちゃったかい? ホストダイバーのムゴウだよ!》

 

 

 ───そう、去り際に名刺を投げていた彼だ。ただ、受け取ったはずのシンヤはステアに渡すことをすっかり忘れていたため、彼女が分からずにいるのも仕方ない。

 

 

《君を追ってきたんだ。ガイアに乗っている君を》

 

「えぇっ!?」

 

 

 ステアが驚きの声を上げる。ムゴウはステアが挑むミッションを知っていたから、付け回してきたのだろう。怖がらせてしまわないよう、シンヤとアヤメが前に出る。

 

 

「悪いけど、彼女は私たちとミッションに挑戦中なの。貴方はお呼びじゃないわ」

 

《そんな冷たいことを言わないでくれよ。それに、ミッションのことなら気にしなくていい。僕らが終わらせておいたから》

 

 

 ムゴウの言葉を証明するように、さらに2機のガンプラが姿を現す。濃い緑に染まった重厚な装甲とが特徴的な地上型ティエレンと、蒼を基調とした鋭利な腕を持つカッリストだ。

 

 

《報酬も君にちゃんとあげるから。だからさぁ……来いよ》

 

「っ!」

 

 

 先程までの穏やかなものとは打って変わって、冷ややかな声音。ステアはビクッと身を強張らせ、思わず後ろに下がる。

 

 

「ホストを肩書きにしてる割に、随分な態度ね」

 

「そもそもなんだけど……ホストダイバーって、なに?」

 

「主に初心者の女性ダイバーに戦い方をレクチャーするダイバーだよ」

 

 

 通信を仲間内だけに設定して問いかけるシンヤに、ステアがすぐに教えてくれた。男のシンヤには全く無縁な存在だけに、知らなくても無理からぬことだろう。

 

 

「最近は立場を利用して初心者狩りしてるって噂だけど」

 

《さっきから何をこそこそと……ほら、ガイアの子はこっちに来な。このミッションのクリア報酬、欲しかったんだろ?》

 

「それ、は……」

 

 

 逡巡するステア。即席のチームとは言え、ここまで共に頑張ってきただけに、それを無駄にするような行為に甘えたくはなかった。しかしここで断れば何をされるか分かったものではない。自分だけならともかく、アヤメとシンヤを巻き込みたくはなかった。

 

 だが───

 

 

《……はぁ、もういい》

 

「え?」

 

《強引に出るのも、嫌いじゃないからなぁ!》

 

 

 ───痺れを切らしたムゴウが、ウイングガンダムの主武装であるバスターライフルを構える。

 

 

「させない!」

 

《それはこちらのセリフだ》

 

 

 腕に佇んでいた武装装甲八鳥が翼を広げてウイングガンダムへ襲い掛かろうとする。それを制したのは、鋭い腕と巨体とを併せ持つカッリストだった。腕で弾いた後、その巨躯からは想像できない速さで零丸へと突っ込んではその場から一緒に離れていく。

 

 

「アヤメ!」

 

「私のことはいいから!」

 

《まずは邪魔者からだ》

 

 

 ムゴウが再びバスターライフルの銃口を向ける。引き鉄が引かれる前に、キマイラの左手が獰猛な獣のように飛びかかり、食らいついた。

 

 

「アヤメはやらせない!」

 

《ったく……邪魔だって、言ってんだろぉ!》

 

 

 シールドに収納されているビームサーベルを抜きながら吼えるムゴウ。ケーブルを切断されては左手を使えなくなるため、シンヤは致し方なくバスターライフルから手を離す。

 

 

《女は任せた。多少痛ぶっていいから》

 

「なっ!?」

 

 

 モビルアーマーへと変形したウイングガンダムが、キマイラに向かって突撃する。機首にもあたる部分にはバスターライフルがくるため、シンヤは避けようとするがムゴウの方が早い。

 

 

《まずはお前だ。消えろぉ!》

 

 

 銃口から今にも飛び出さんとする眩い閃光が、キマイラを呑み込もうとしていた。

 

 

「アヤメちゃん! シンヤくん!」

 

 

 心配になって後ろを振り返るステアの耳に、攻撃を知らせるアラートが響く。それは足元へと着弾して爆ぜたものの、わざと外したのだとティエレンとの距離が物語っていた。

 

 

《ムゴウさんに従ってくれねーかなー》

 

「お、お断りですっ!」

 

《あっそ……じゃー、遠慮なくやらせてもらおーか!》

 

 

 ティエレンが不気味な動きを見せる。かと思えば、全身を紫色の禍々しいオーラが包み込んでいく。それはあまりに見知ったもので、ステアは思わず息を呑んだ。

 

 

「ブレイク、デカール……」

 

《痛ぶっていいって言われたし、俺そーいうの……好きなんだよねー》

 

 

 愉快に笑いながら、ティエレンは右腕側面に装着された滑腔砲を放つ。迫る危険を前にして、過去を思い出して怯んだ自分を恥じるステア。実弾を右に避けてかわしながらモビルアーマー形態へと姿を変えてティエレンへ突っ込む。

 

 

「ビームブレイドなら!」

 

 

 背部のビームブレイドを展開し、俊敏な動きでティエレンに迫る。しかしそれを目の当たりにしても、相手は臆する素振りも見せない。さらにはカーボンブレイドを手にし、同じように突撃しようと迫りくる。

 

 

(あの重量で振り下ろされたら、まずい)

 

 

 ブレイクデカールでパワーを増しているのは間違いない。その上で巨体を活かして攻撃されれば少なくとも中破は免れないだろう。咄嗟にガイアを跳躍させてティエレンを飛び越える。

 

 

《そーくるか。ま、その方がありがたい》

 

「え? きゃああぁ!」

 

 

 飛び越えた先で攻撃に転じようとした矢先、機体に衝撃が走る。滑腔砲が命中したのだ。

 

 ダメージを受けたせいで反撃の糸口を失ったガイアはそのまま地面に落下し、ステアをさらなる衝撃が襲う。

 

 

「うぅ……ダメ、立たなきゃ……」

 

 

 なんとか立ち上がろうとするステア。しかし嘲笑うように次なる攻撃が飛来する。先程の滑腔砲以上の強い振動と破裂音に、思わず目を閉じてしまう。

 

 

「な、何……?」

 

 

 視線を彷徨わせれば、ティエレンの手にはミサイルランチャーが。黒光りする銃器はあまりに恐ろしく、自然と喉がひくつく。

 

 

《まずは恐怖心を与えてっと》

 

 

 ティエレンは立ち上がらんとするガイアへ滑腔砲を放ち、怯ませる。直撃はしていないが、不用意に動けば命中するギリギリの距離へ弾丸を撃ち込み、ダイバーの恐怖心を煽るのだ。

 

 

《ふへへ……へへへへへ、楽しいなぁ!》

 

 

 地上でティエレンが猛威を振るう様子を、アヤメは零丸と共に空から目にしていた。一刻も早く駆けつけて、ステアを助けなくては──しかし、彼女を追いかけるカッリストもまた、高機動を活かしてそれを赦さない。

 

 

「くっ!」

 

《アンタもどうだ? あのガイアの子と一緒に、俺たちが手取り足取り教えてやるぜ》

 

「ふん。三流……いえ、それにも届かないマスダイバーの厄介になるなんて、死んでも御免だわ」

 

《くぅ、そのつんけんしたのもいいね》

 

「うるさいっ!」

 

 

 アヤメがどう言ったところで、カッリストを駆る男はまったく気にする様子がない。そのせいでさっきから心を掻き乱されて鬱陶しい。

 

 カッリストとの距離が縮まり、その巨体が両腕に装備した可変型のブレードシールドを展開して斬りかかろうとする。その寸前、アヤメは武装装甲八鳥から離れるように飛び退き、カッリストの刃は虚しく空を切る。

 

 

「はっ!」

 

 

 すかさずライフルを連射して弾丸を浴びせるが、ブレイクデカールがそれらを尽く弾いた。カッリストが戻ってくるより早く、武装装甲八鳥に着地し、諦めて踵を返す。撃墜できないのなら、固執して時間を無駄にするわけにもいかない。

 

 

「ステアさん!」

 

「アヤメちゃん!」

 

 

 零丸が投げた手裏剣はガイアを守るように手前に突き刺さり、ティエレンからの火線を少しでも減らす。そして流れるようにティエレン目掛けて忍者刀を煌めかせる。

 

 

「斬っ!」

 

 

 突如目の前に降ってきた手裏剣と、自分へ突っ込んでくる零丸を前に、ティエレンは回避もままならず頭部を切り裂かれる。しかしまだ撃墜には至っていない。

 

 

「ええいっ!」

 

 

 怯んだティエレンを見て流れは自分たちにあると思ったのだろう。ステアがビーム砲を連射してその胴体を貫いた。

 

 

「やったわね」

 

 

 が、喜んだのも束の間、安堵していたアヤメを真上からカッリストが襲い掛かった。ズドンッと大きな落下音と地面に響く振動。巻き起こった砂煙が晴れた時、零丸はカッリストに組み敷かれていた。

 

 

「アヤメちゃんから、離れて!」

 

 

 ビームサーベルを抜き、カッリストへ肉薄する。光刃を閃かせるが、カッリストはブレードシールドでたやすく受け止める。

 

 

「このぉ!」

 

 

 アヤメを助けたいと、何度も何度も刃を振るう。しかしカッリストは意に介することもなく、ブレードシールドで薙ぎ払い、ガイアを突き飛ばした。

 

 

「きゃあぁ!」

 

 

 しかし意識を向けさせることには成功したようで、カッリストは四連装式のロケットランチャーをガイアへ向けて構える。

 

 放たれる弾頭から逃れるように、モビルアーマー形態へと変形してその場を離脱するガイア。充分距離ができたところで身を翻し、ビーム砲で撃ち落とし、カッリストへ向かって飛びかかる。

 

 

「やあああぁぁっ!」

 

 

 稼いだ距離を活かして出せるだけの速度を出し、突進をお見舞いする。あくまで零丸を助け出すことが目的のため、ビームブレイドで切り裂けなかったがなんとかカッリストを退かすことができた。

 

 零丸がカッリストから逃れたのを見て、ステアもそれに続こうとする。だが───

 

 

《やってくれたなぁ!》

 

 

 ───獲物を失ってご立腹なのだろう。カッリストはガイアを掴み、ブレイクデカールで強化された推進力を最大限に駆使して青空へと舞い上がった。

 

 

「え?」

 

 

 それはあっという間の出来事で、気がついた時にはもう、ガイアは手を伸ばしても何もない、大空へと投げ出されていた。

 

 

「あっ……」

 

 

 ガイアは地上専用機ではないし、宇宙空間での戦闘も行える。なによりステア自身、地上、宇宙問わずGBNで何度も戦ってきた。しかし、大空での戦闘はあまり経験がない。搭載されているスラスターも長時間の飛行には適さないもので、精々が滞空時間を少しだけ引き延ばす程度。

 

 だが、そうだとしても───

 

 

「私は、諦めない!」

 

 

 ───叫び、もがきながらモビルスーツ形態へと変形し、ビームライフルを懸命に撃ち続ける。

 

 きっと、かつてのようにブレイクデカールを使っていたのなら落下するのを防げただろう。でもそれは、自分の力ではない。誰かを傷つける気はなくても、ガンプラを、仲間を、友達を裏切る力はもう、必要ないから。

 

 

《鬱陶しいんだよぉ!》

 

 

 照準も定まっていない、デタラメに放たれる砲火。当たっても擦り傷を与えるだけだが、行手を阻むような射線に苛立ちを募らせる。

 

 ロケットランチャーが火を噴き、ガイアのビームライフルに命中する。途端に火の手をあげて使えなくなったそれを手放すが、それでカッリストの心が落ち着くはずもなく、ロケットランチャーが装甲を打ち砕かんと何発も放たれた。

 

 

「きゃあぁっ!!」

 

 

 立ち上る黒煙から姿を現した時にはもう、ガイアは頭部が半分ほど消し飛び、各部もボロボロになっていた。あまりに酷い衝撃と落下速度に、気を失いそうになる。

 

 

《これで、終わりだあっ!》

 

 

 可変型のブレードシールドが、太陽の光を受けて鈍く輝いているのが目に入った。

 

 

(なんとか、しなきゃ……)

 

 

 強い振動に泣きそうになるのを堪え、折れそうな心を奮い立たせる。自分は──ガイアはまだ、負けてないんだと。

 

 だが、残された武装は精々ビームサーベルだけ。必死に腕を動かして武器を取ろうとするが、カッリストの方が圧倒的に速い。迫りくる凶刃を前に、ステアは思わず目を瞑った。

 

 

「終わるのは、アンタの方だ」

 

 

 冷静な声が響く。通信を介してカッリストが悲鳴を上げていると気付き、恐る恐る目を開けると、シンヤの駆るキマイラの巨大な腕によって頭を鷲掴みにされている光景が目の前にあった。

 

 

「シンヤくん! 無事だったんだ」

 

「なんとか、ですけど」

 

 

 苦笑い気味に言う彼の言葉通り、キマイラは右腕を失っていた。恐らくウイングとの戦闘で破壊されたのだろう。

 

 

「アヤメ、ステアさんをお願い」

 

「えぇ」

 

 

 すぐそばまで来ていた零丸が、武装装甲八鳥と共にガイアを優しく抱き止める。それを確認した後、シンヤはキマイラのスラスターウィングを展開し、地上へとカッリストを掴んだまま急降下していく。

 

 

《何を……!?》

 

「残念ですけど……答える義理はない」

 

 

 冷徹に、吐き捨てるように言い、カッリストを大地へ叩きつける。ガイアを上空へ連れて行った時に高度を上げすぎたせいか、落下の衝撃はブレイクデカールでもどうにもできないほどに機体を壊していく。

 

 まだ撃墜には至らないが、最早身動きはかなわない。残った左腕を頭上に高らかと上げ──そして、一気に振り下ろした。鋭利な爪が、巨大な腕そのものが武器となり、カッリストの身体をズタボロに引き裂く。粉々になり、或いはひしゃげた装甲を一瞥し、シンヤは青空からゆっくりと降り立つ最後の敵に視線を戻す。

 

 

《なんだよ、これ……》

 

 

 ウイングに乗るダイバー、ムゴウの弱々しい声が聞こえる。目の前にある現実を受け入れられないと言いたげで、震えていた。

 

 

《くそ……くそっ! くそぉ! こんなはずじゃあなかったのに!》

 

「もう、諦めてもらえませんか?」

 

《うるさいっ! だいたいお前、何であんな奴の味方してるんだよ!》

 

「あんなって……」

 

《お前ら、本当は知り合いじゃなかったんだろ?

 あいつが知り合いだって嘘つかなきゃ、こうはならなかったんだ!》

 

「それはあくまで結果論ですよ。あなた達がブレイクデカールを使っている限り、いずれは誰かの目に止まって、こうなっていたはずです」

 

 

 今もフォースを上げてパトロールを繰り返すAVALONや、様々なミッションに挑んでいるビルドダイバーズ。彼らなら、自分以上に果敢に挑んでいたに違いない。

 

 

《あの女は、庇う価値なんてないとしても、か?》

 

「……どういう意味ですか?」

 

《思い出したんだよ。あいつは……マスダイバーだってなぁ!》

 

「っ!」

 

 

 ムゴウの言葉に、ステアが息を呑んだ。どうして知っているのか分からず、うまく言葉を紡げない。緊張から喉が渇き、ひくついてしまう。

 

 

《自分のことは棚に上げて、呑気にGBNにいやがる……ふざけるな! 自分だってマスダイバーのくせに》

 

「あなただって今、自分のしたことを棚に上げていますけど」

 

《うるさい!》

 

 

 指摘されて苛立ったムゴウが、ウイングガンダムのバスターライフルを構える。引き鉄が引かれるより早く、シンヤはキマイラを動かして放たれた火線をかわし、バスタードメイスγを抜く。

 

 

「エイハブ粒子、伝送開始」

 

 

 γナノラミネートソードの持ち手についたケーブルからエイハブ粒子を鞘へと纏わせていく。漆黒で彩られたそこへ、まるで血を通わせたかのように赤い線が走った。

 

 ウイングガンダムとの距離を一気に詰め、一閃。

 

 

《なっ、あぁ……!?》

 

 

 ムゴウが驚きの声を上げる。ブレイクデカールで堅固になったはずのシールドが、あまりに容易く砕かれてしまったから。それも、たったの一撃で。

 

 スラスターを素早く動かし、続く真一文字に振るわれた重撃をかわそうとして──しかし、胸部に掠めてしまい、真っ直ぐ逃げることは叶わずに倒れ込み、地面に突っ伏してしまう。

 

 

「掠っただけか」

 

 

 大振りだったせいで、装甲を打ち破るには至れなかったようだ。なおも必死に逃れようとするムゴウを、キマイラは歩くだけで簡単に追いついた。

 

 

《おい、あの女はマスダイバーなんだぞ! 分かってるのか!?》

 

「えぇ。本人から直接聞きました」

 

《だったら……!》

 

「すごいですよね。自分のしたことを、ちゃんと話せて」

 

《は……?》

 

「僕には、話したくない過去があります」

 

 

 仲間を、ガンプラを傷つけたこと。

 

 今でも、フォースと言う形が怖いこと。

 

 聞かれても口を閉ざし、聞かれなければそもそも話そうと思わない。

 

 相手が見ず知らずであろうと、チームを組んだ仲間であろうと、自分を知られてどう思われるかが怖くて仕方ない。

 

 それはきっと、ステアも同じだったはずだ。それでも彼女は話すと決め、打ち明けてくれた。仔細は知らないが、マスダイバーだった過去を明るみに出すのはとても怖かったに違いない。

 

 

「僕を信じ、勇気を振り絞って話してくれたステアさんを、僕は信じます」

 

 

 ムゴウから返る言葉はない。呆れているのか、呆然としているのかは知らないが、シンヤにはどうでもいいことだった。

 

 彼はここで、潰すのだから。

 

 

「あぁ、でも1つだけ。ステアさんをマスダイバー呼ばわりするの、やめてくれませんか?

 彼女はもう、ブレイクデカールを使ったりしないんですから」

 

 

 そして、鉄槌が下された。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「今日はありがとう。2人のお陰で助かったよ」

 

「いえいえ」

 

 

 運営に報告した後、事情が事情だからとステアが求めていた報酬は無事に彼女の手に渡った。しきりにお礼を言いながら、ステアは足早に去っていった。アヤメ曰く、報酬を渡すつもりの友人がちょうどGBNへ来ているのだとか。

 

 小さくなっていく背中を見送り、シンヤはほっと息をつく。未完成のキマイラでどこまでできるか怪しかったが、なんとか目的を達成できてよかった。最後まで行けたのは、間違いなくアヤメの功績が大きいだろう。

 

 

「アヤメのお陰だよ、ありがとう」

 

「私は別に……」

 

「せっかくだから、何かお礼させて欲しいんだけど」

 

「……じゃあ、聞かせて欲しいことがあるんだけど」

 

「何?」

 

「ブレイクデカールを、マスダイバーを……そして元凶を、どう思う?」

 

「え? うーん……」

 

 

 思ってもいなかった問いかけに、思わず腕を組んで唸ってしまう。それを見てもアヤメは大袈裟だとも簡単でいいとも言わない。真剣な問いなんだと分かり、シンヤはゆっくりと言葉を探りながら口を開いた。

 

 

「ブレイクデカールは、色んな人の想いに見合っていると思う」

 

 

 かつてシンヤが戦ってきたマスダイバーは皆、自分が勝つための力を求めて禁忌に手を出した。しかし此度知り合ったステアのように、悪いことだと知りながらも誰かとの勝利を願って力を欲した者ももしかしたらいたかもしれない。

 

 簡単に手に入り、思い描いた理想の自分を体現できるブレイクデカールは、誰の目にも魅力的なのだろう。悪そのものだとしても、求めてやまない程に。

 

 

「どうやって作って、配っているのかは分からないけど……その人にも、何か成し遂げたいことがあるのかも」

 

「成し遂げたい、何か」

 

「でも、単独犯ではなさそうだよね」

 

「えっ……」

 

「だってほぼ毎日マスダイバーが出てるし、1人だと、多くばら撒いたらすぐ足がついて捕まえられそうじゃない?」

 

「それは……そう、かもしれないわね」

 

 

 心なしか、アヤメの声はどこか空虚な気配がする。しかし所詮は直感。それを確かめる術を持たないシンヤは、首を傾げるしかできなかった。

 

 

「もし雇われている人がいるとして……その人を、シンヤはどうしたい?」

 

「どうって言われても……別に。事情も知らないのにとやかく言えるほど、僕は聖人じゃないから」

 

「違うの?」

 

「違うよ!?」

 

 

 意外そうな口振りに、思わず強く否定してしまう。アヤメになら過去のことを話せる気がして、せっかくだからとGBNにあるカフェへと彼女を誘った。

 




ステアとの出会いでした。
お読みいただきありがとうございます♪
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