ガンダムビルドダイバーズ -once more- 作:雷電丸
「諸君らには、今日はフォース戦を行ってもらう」
第七士官学校に所属して、早くも2週間。久しぶりに全員が顔を合わせた中で言い渡されたのは、他流試合だった。
ちなみにこれまでの戦績は芳しくない。すべて第七士官学校、或いは第七機甲師団のメンバーとの模擬戦だったが、10回行われた戦いで勝てたのは1度だけ。何度も味わった敗北に、彼らの表情は険しかった。既に覇気のない者、燻り続ける苛立ちを露わにする者、5人が5人ともバラバラではあったが、少なくともフォース戦に乗り気ではなかった。
(大丈夫なのは……クレハぐらい、かな)
クールであまり表情を変えないクレハ。彼女も負け戦ばかりで少しばかり不満そうな雰囲気はあるものの、それを如実に表したりはせず、平静を装っている。
ロンメルの狙いは、敗北によってブレイクデカールを使わせること。蓄積された敗北の鬱憤に促され、ブレイクデカールを使うのではないかと読んでいるのだ。
第七機甲師団の名は、GBNをプレイしていれば自然と耳に入り、目につくぐらいに人気を集めている。仲間内の模擬戦はともかく、他のフォースとの試合ともなれば映像を中継されることもあって、「フォースを潰す」と書き込んだマスダイバーにとって格好の機会と言えるだろう。
ジャックから対戦相手に関する情報をもらい、5人だけでミーティングをするよう言い渡される。だが、案の定誰も口を開こうとはしなかった。
「えっと……とりあえず、確認だけでもしていこうか」
「そうね。黙っていても時間の無駄だし」
幸い、シンヤの言葉にクレハが同意してくれた。ダイナとヒミ、ギダリからは何も返事はないが、視線はちゃんとこちらを向いており、やる気はあるように感じられたので電子情報を表示する。
「対戦相手はZAFT'sってフォースで、僕らと同じく量産機を主軸に組まれてるね」
相対するフォース、ZAFT'sは『ガンダムSEED』シリーズにてZAFTと呼ばれる軍に所属する量産型のモビルスーツに限定して組まれている。
乗機は互いに前もって知らされているため、対策も立てやすい。もっとも、生半可な対策では相手に読まれて返り討ちに遭う可能性もぐんと高くなるため、絶対的に優位に立てるわけでもないが。
ZAFT'sが使用するモビルスーツはどれもカスタマイズはされておらず、原作通りのもののようだ。
大気圏内でも単機で飛行し、多くの火器を有するバビ。
ビームライフルと切断力に特化した刀のみと言うシンプルな武装を持つジンハイマニューバ2型。
宇宙世紀シリーズでも馴染み深く、バビと同様に大気圏内で飛行できるグフイグナイテッド。
丸みを帯びた身体と、それを支える細身の四肢が特徴的な水陸両用モビルスーツ、アッシュ。
そしてフリーダムとジャスティスの装備を試験的に運用することを目的に開発された、火器運用試験型ゲイツ改。
バランスの取れたフォースだと言えた。特にバビとグフイグナイテッドは大気圏内でありながら高い機動性を誇り、サブフライトシステムがないと空中戦の厳しいシンヤたちにとって強敵になると思われる。
ステージは海上都市で、水陸両用のアッシュにも細心の注意を払う必要が出てくるだろう。
「なるべくなら、2人か3人で組んで敵を各個撃破したいけど……」
「なら、俺とギダリを組ませてくれ。2人でミッションをやったことも何度かあるし、互いの癖は分かってるから」
「じゃあ、それで。クレハとダイナも、いいかな?」
「えぇ、異論ないわ」
「あぁ、いいぜ」
「それじゃあ、行こうか」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ZAFT'sの面々と軽く挨拶をかわし、モビルスーツへ乗り込む。その間にシンヤはクルトからZAFT'sのメンバーには予め話を通してあり、マスダイバーがブレイクデカールを使う危険性も周知してあるとのこと。また、マスダイバーとブレイクデカールについて知る千載一遇のチャンスと言うことで、運営も目を光らせているらしい。
(つまり、運営はまだブレイクデカールをすべて把握しきれていないってことか)
本来であれば早くに対策がなされるはずなのに、それが未だ形になっていない事態。それほどまでにブレイクデカールとは未知の存在と言っても過言ではないのかもしれない。
「メッサー、出ます!」
最後にシンヤが出撃し、早速二手に別れる。いつもなら機動力のあるドライセンとダイナが最前を行くのだが、今回は敵を引きつける目的からシンヤが先頭を。クレハのドム・バラッジが援護のために続き、ダイナは強襲をかねて最後尾を走る。
また、万が一後ろから狙われてもドム・バラッジのガトリングキャノンなら射程に優れているのですぐに反撃に転じられるだろう。
「…来た」
索敵可能な範囲に入ったのだろう。レーダーに1つの機影が表示される。まだ接敵するには距離があるものの、次第に距離が縮まっていく中、シンヤは違和感を覚える。
(機影が増えない、か)
レドームなどを装備して索敵範囲を拡大している機体ならともかく、ほとんどの機体は索敵できる範囲が同じように設定されている。恐らくこちらが3機いることは既に分かっているはずなのに、向こうは増援が来る様子がない。
(向こうに4機行ったとすると厄介だけど、そんな割り振り方をするか?)
実力差はあまりないと事前に聞かされているし、いくらロンメルの顔が利くフォースとは言え、第七士官学校の面々相手に1対3と言う一見して不利な状況を作るとは思えなかった。
「シンヤ、どう思う?」
「バビかグフが大きく迂回してくるかも」
「同感だわ」
クレハは背後を警戒して機体の速度を落とし、代わりにダイナが前へ出る。間もなく敵の姿を捉えるであろう距離まで来た時、突如として機影が2つに増えた。
(モビルスーツ? いや、これは……)
最初から見えていた機影から飛び出すように、何かが近づいてくる。しかしモビルスーツにしては小さく、小柄な影。
「ファトゥムか! ダイナ、右のビル群を抜けて最初に見えてた機影を頼むよ」
「前に出ていいんだな?」
「もちろん。思い切り、ね」
「任せろおおおぉぉ!!」
ずっと最後尾を走らせれていた鬱憤でもあるのだろう。ダイナはドライセンのスピードを一気に上げると、メッサーから離れて右へ曲がってビルの隙間を駆けていく。
「やっぱりか」
そしてシンヤの目の前に、小柄な機影がその正体を現す。火器運用試験型ゲイツ改が、背部に背負ったリフター。遠隔操作を可能とし、ジャスティスが装備する武器の中でも最も特徴的な武装──ファトゥム-00だ。
ビームライフルを構え、照準もそこそこにファトゥムへ向けて1発。掠めるかどうかの瀬戸際だったが、ダメージを恐れてファトゥムは片側に傾いて熱線をやり過ごす。そのまま翻るかと思いきや、さらに速度を上げて急旋回するとメッサーへ狙いを定めてビーム砲と機関砲を放つ。
今度はシンヤの方が隠れることになったが、ビルとビルの隙間を抜けるとそのまま先行したドライセンを追いかける。すぐにファトゥムが追撃に迫るが、クレハのドム・バラッジがガトリングキャノンで進路を塞いでくれた。
「見つけたぜぇ」
その頃、ダイナは火器運用試験型ゲイツ改を視界に捉え、ヒートランサーを手に一直線に近づく。ゲイツ改がビームライフルを構えるが、それを見たダイナはすぐさまビルの陰に隠れてしまう。
「こんなビルに囲まれたところじゃ、どうしようもねぇだろ!」
遮蔽物の多い位置にいては、射線を遮られてしまう。ましてやホバー移動で高速に動き回るドライセンを相手にするには、ビルが邪魔だろう。
「もらった!」
側面に回り込んだ瞬間、再びヒートランサーを振り上げる。だが、刃がゲイツ改の身体を切り裂くことはなく、寸前でビームサーベルによって受け止められてしまう。
すかさず、反対側から追いついたメッサーがビームサーベルを抜き、斬りかかる。しかし、これも同じように受け止められてしまった。
「このっ……!」
「2機を相手に、やる!」
左右からじわじわとでもいいから追い詰めるつもりだったが、ゲイツ改はまるで涼しい顔でもしているように、刃を受け止めたまま微動だにしない。
「っ!」
アラートに促されてレーダー見ると、ファトゥムが猛スピードで迫っていた。下がらざるを得ず、シンヤはメッサーを後退させる。それに僅かに遅れる形で自分が先程までいた場所を、獲物を捉えようと肉薄する猛禽類のように駆け抜けていくファトゥム。
ダイナも迫り合い以上の攻めには繋がらないと判断したのだろう。腕部のビームガンを撃ちながら後退する。
「今度はなんだよ!?」
ファトゥムがゲイツ改の背中に戻っていく。それでも立て続けに響いたアラートに、ダイナは苛立ち紛れに吐き捨てる。空を仰ぎ見れば、いつの間にか上空に控えていたバビから数多くのミサイルが降り注ぐところだった。
「チッ!」
舌打ち。頭に血が上っているが、レバーを動かす手は割と冷静だ。なにせこれまでも爆撃や銃撃など、多対1の状況は何度となく経験してきたのだから。もっとも、その多くは“悪い意味で”だが。
「ごちゃごちゃ……うるせぇんだよぉ!」
聞き飽きるほどに耳をつんざいてきた警報音。さっさと聞こえなくなるよう、敵を斬り倒していきたい気持ちはゼロではない。突っ込んで、刃を突き立てて、敵を倒して、勝利を噛み締めたい。
「けどそれは……今じゃねぇよな、隊長!!」
バビの背中から、ジンハイマニューバ2型が抜刀しながら飛び降りてくる。ドライセンの背中に懸架してあるトライブレードを差し向け、少しでも時間を稼いだところで傍らのビルをビームランサーで斬り裂く。
裂かれた身体を支えきれず、ビルは射出したトライブレードとジンハイマニューバ2型を諸共呑み込んだ。
「へっ、どーよ。俺の腕も大したもんだろ」
自信を見せるダイナ。なにせ、ロンメルから直々に指南してもらったのだ。これくらいできなければ、到底第七機甲師団にまで上り詰めることはできまい。
(あれはマジでキツかったけどな)
突貫力を認めてもらえたダイナだが、ロンメルから「今のままでは秒だ撃墜される」と言い渡された時は泣くかと思うほどショックだった。これまでは偶々偶然、運が良かっただけなのだ。それを運ではなく、実力で成せるようになりたくて、無理を承知で指導を願い出た。
その結果が、上空からの爆撃、遠距離からの砲撃、多方向からの銃撃、数多くの遠距離攻撃をひたすらかわし、逃げ、生き残ると言う訓練に駆り出される羽目になったが、結果としてそれは功を奏したと言えるだろう。
「…はっ、さすがにしぶといな」
目の前でビームの光が弾け、ジンハイマニューバ2型が姿を現す。思い返して余韻に浸っている暇はなさそうだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「狙いも充分。機体のパワーも申し分ない、か」
ゲイツ改が腰の左右に装備するレールガンから、高速の弾丸を放たれる。クレハはそれをひらりとかわし、ビルを盾にしながら後ろ側へ回り込んだ。
「けど……せっかちね」
クレハが隠れ蓑にしたビルへ向けて、ビームが立て続けに浴びせられる。程なくしてビルを貫き、ガラガラと音を立てて崩れ去っていく。
少しだけビルから離れ、ガトリングキャノンを構える。けたたましい音が唸り、矢継ぎ早に弾丸がまっすぐに砂煙を突き破って、その先にいるであろうゲイツ改へ閃く。しかし何かに当たってはいるものの、手応えは感じられない。
(シールドで防がれてる。となると、恐らくは……)
レーダーを見れば、クレハの予想通り機影が2つに増えている。高速で迫る2つに対し、クレハはガトリングキャノンの連射をやめて迎え撃とうと機体を走らせた。
その場を後退しながら離脱すると、未だ濛々と立ち込める煙を突き破って、ファトゥムが迫っていた。そこらのモビルスーツよりも高い旋回能力を有しているそれを、ビルの隙間を縫ってやり過ごすのは厳しいだろう。
「だったら……!」
急制動をかけ、ファトゥムが擦れ違う瞬間に背中から1回転して突撃をかわし、クレハは追いかけてくるゲイツ改に向かって駆け抜けていく。突然自分に狙いが向いたことに驚いたのか、ビームライフルを構えるが既にクレハの方が早く手を打っていた。
ドム・バラッジの腰部にあるミサイルランチャーが火を噴き、曲線を描いてゲイツ改へと降り注ぐ。それが致命傷にならないことは、分かっていた。よほど正確に着弾させられない限り、牽制にしかならないだろう。
だから、スピードは緩めない。グッと操縦桿を倒し、空いた距離を一気に詰める。格闘兵装は持ち合わせていないが、重厚な拳とスピードさえあれば充分だ。
「くらえっ!」
手を結び、思い切り振り上げる。煌めく太陽に背中を押されるように、クレハは重たい拳をゲイツ改目掛けて振り下ろした。
読了ありがとうございます!