ガンダムビルドダイバーズ -once more- 作:雷電丸
海辺を疾走するリゲルグとサイコザクは、時折並走するように真横を走る水陸両用のモビルスーツ、アッシュから放たれるミサイルをかわしながら、自分らから逃げるように目の前を飛行するグフイグナイテッドへ攻撃を続けていた。
「当たらない……!」
ギダリのサイコザクが、搭載されているありったけの火器を懸命に撃つ。しかし迫りくる弾丸の雨を気にも留めず、グフイグナイテッドは身を捻ってかわし、或いは腕部に備えられたビームガンで迎撃し尽くしてしまう。
ならばアッシュの方から先に片付けるかと視線を向けるが、相変わらず一定の距離を保ったままミサイルばかり撃ってくる。直撃はないが、正直なところ鬱陶しい。しかしこちらが反撃に転じたところで、攻撃が当たる前に海中へ姿を消してしまうだけにどうしようもなかった。
「これは……いよいよまずいかもな」
独り言のように呟くギダリの言葉に、ヒミは身体を強張らせる。久しぶりに会ったダイナとクレハは、初めて一緒に戦った時よりも明らかに動きが良くなっていた。それについて行けているシンヤも、はっきりと分かるわけではないが強くなっているのだろう。
(なのに、俺は!)
焦りが、喉を突き刺す。乾いたせいで呼吸すら苦しい。
一瞬だけモニターから視線を外したせいで、アッシュが放ったミサイルに運悪く当たってしまった。リゲルグは姿勢制御もままならず、地面を削るように倒れ込んで失速していく。
「ヒミ!」
すかさず、サイコザクが庇うようにグフイグナイテッドとの間に入り込む。幸い、まだ距離があるからすぐに攻撃が来ることはないが、このまま見逃してもらえるはずもない。
「何で、俺……何も、できないっ……!」
周りに置いていかれる疎外感。自分だけが世界から弾かれたかのようにさえ思えてくる。何故世界はこんなにも不平等で、こんなにも自分を虐げるのだろう。
───それは、世界が間違っているからだ───
脳裏に蘇る言の葉。このフォースに入る前、出会った男からもらった物。もらった言葉。最初こそどこか不気味に思っていたが、今はすんなりと受け入れられる。
───間違っているのは、世界の方だ───
そうだ。誰もが楽しめる世界でないのなら。自分が苦しい思いをさせられる世界であるのなら。
───そんな世界は、ぶっ壊せ───
この世界なんて、なくなって構わない。
「くっそおおおおおぉぉぉ!!」
叫び、雄叫びを響かせ、ヒミは“それ”を使った。紫黒色のオーラを纏い、力を誇示するように握り拳を作るリゲルグ。ブレイクデカールが、唸り声をあげる。
「ヒミ……“よくやったよ”、お前」
サイコザクを少しずつ後退させながら、ギダリは嬉しそうにほくそ笑んだ。
「マスダイバーか!」
グフイグナイテッドがリゲルグを視認した後、情報共有のために通信を開く。だが───
「何だ? 繋がらない!?」
───その思惑は見事に打ち砕かれてしまう。とにかく相手をとめなくてはならない。その一心で、グフイグナイテッドは中距離まで来たところでヒートロッドを振り回し、リゲルグのビームマシンガンへ巻き付かせる。
「本体が硬くとも、武器さえ破壊していけば……!」
ビームマシンガンを亡きものにしようと、ヒートロッドを電撃(パルス)が走る。だが、普段であれば瞬時に破壊できるはずが、一向にその気配がない。それに戸惑っていると、リゲルグはあろうことかヒートロッドを掴み、その持ち主を叩きつけるように思い切り引っ張る。
バランスを失い、フラフラと落下するグフイグナイテッドへ、追撃の手が迫る。リゲルグのバックパックにあるミサイルポッドから放たれたミサイルが、雨となって降り注いだ。シールドである程度防いだから致命傷にはならなかったが、気付けばリゲルグの姿が目の前から消えている。
「どこに──がはっ!?」
怯んだだけで充分だと判断したのだろう。ヒートロッドを手放し、一直線に獲物へ向かって加速したリゲルグはビームナギナタを一閃。グフイグナイテッドを瞬く間に屠った。
そこへ、ジャミングによって状況を把握できないまま海にいたアッシュが海中から身を躍らせる。判断は早く、味方がやられたことに激昂したのか両方に装備したビーム砲が閃光を放った。しかしブレイクデカールで力強さを増した装甲は、ビームを受けたところでびくともしない。
モノアイがゆっくりと次なる獲物を捉えると、それとは反対に俊敏な動きでアッシュへと肉薄する。接近戦に対応しようとビームクローを展開するアッシュと、ビームランサーを閃かせるリゲルグ。刃と刃がぶつかり合い、火花を散らす。
バチバチと嫌な音を目の前で繰り広げられた上、徐々に押し込まれていくことに恐怖したのだろう。アッシュはたまらず迫合いを止めて、海中に逃げようと背を向ける。自分だけでは勝てないし、ジャミングの範囲外へと逃げたかったから。そこまでの判断は良い。しかし、リゲルグをよろけさせることも、怯ませることもしないまま背を向ければ、どうなることか。
背後から迫るビームランサーが、易々とアッシュの肉体を貫く。潜る暇もないまま沈黙し、アッシュは海の藻屑と化した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
最初に異変に気がついたのは、シンヤだった。上空からガンランチャーとビームライフルを主軸に攻撃の手を緩めないバビから距離を取る最中、突如として仲間との通信が途絶えたのだ。
(誰かジャミングを使ってるのか?)
自分たちも相手のフォースも、ジャミングを使える装備は持ち合わせていないはずだ。ジャミング下にあると仲間内でも予め別回線を用意していないと通信できなくなる。だから事前にその用意があることを打ち明けておかないと、今のように味方同士でも情報の伝達ができなくなってしまう。
シンヤは転身し、今までいた場所へメッサーを移動させる。出撃前に味方のガンプラにジャミング用の装備はなかったはずだ。敵が使っていないのだとしたら、ジャミングの範囲はかなり限られてくるだろう。
「…よし、戻った」
開きっぱなしにしていた回線に、クレハの呟きが入った。彼女もいつでも連絡できるように回線は開いたままにしてくれているからありがたい。
「クレハ、ダイナ、悪いけどここを任せたい」
「はぁっ!?」
「いきなりね」
素っ頓狂な声を上げたダイナはすぐさま噛み付いてきそうな勢いだが、出かかった言葉を必死に抑え込んでいるのが息遣いで分かった。
「さっき通信が途絶えたポイントがあったんだ。その確認をさせて欲しい」
「そんなことかよ。敵が通信障害を引き起こしてるんだろ?」
「もしそうなら、そいつを叩いてくるよ」
「……5分で戻りなさい」
「ありがとう、クレハ」
去り際に、ゲイツ改とジンハイマニューバ2型に向けてビームライフルを連射し、少しでも敵意を自分へ差し向ける。クレハとダイナはすぐさま物陰に隠れたため、2機ともシンヤを追いかけ始めた。背中から後退しながら向かう先は、ヒミとギダリのいる海岸沿いだ。
「こちらメッサーのパイロット、シンヤです。ロンメル隊長からお話しは聞いていると窺っています」
回線を変えて、迫り来るゲイツ改へ通信を試みる。少し経ってから、厳つい声が返ってきた。
「あぁ、もちろん。何か気になったのかね?」
「先程、通信が途切れた場所がありました。念のため、一緒に確認をお願いできませんか?」
「了解した。ZAFT's総員、協力しよう」
それから程なくして、ジャミングの適用範囲に入った。直前にゲイツ改からバビとジンハイマニューバ2型へ先行するよう命令が下されており、2機は機動性を活かして駆け抜けていく。
モビルアーマーの形態へと変形したバビが逸早くリゲルグの姿を捉える。ブレイクデカールのオーラは健在で、マスダイバーだと分かるとすぐさま攻撃に転じた。
今、放てるだけのミサイルを一斉に解き放つ。バビのミサイルは最初こそ花開くように広い範囲をカバーするように動くが、すぐさま放物線を描くように中央へと集束していく。これだけの量を1度に浴びれば、例えブレイクデカールを使っていようと多少のダメージは与えられるはずだ。過去にマスダイバーと戦った経験が、それを物語っている。
しかしリゲルグは臆する様子もなく、ビームナギナタを前方に持ってくるとぐるぐると回転させる。その速度はあまりに早く、迫り来るミサイルの数がいくら多くとも、回転し続けるナギナタを掻い潜ることはできず、次々と破壊されていった。
バカな──驚きから、開いた口が塞がらない。次に胸部に備えたビーム砲を使いたかったバビだったが、ナギナタを貫くことはできないと判断し、追いついてきたジンハイマニューバ2型と一緒に攻めていく。
腰にある重斬刀を抜き、一直線に向かっていくジンハイマニューバ2型。振り上げた刃を一閃するが、リゲルグはなんなくそれを後ろに跳躍してかわす。その着地点へ、バビがガンランチャーを放った。地面はたちまち歪な形になり、平らな部分への着地ができなかったリゲルグはバランスを崩す。
体勢を乱され、膝をつくリゲルグ。隙だらけとなった上で、ジンハイマニューバ2型が背後から再び刃を閃かせる。ビームナギナタによる防御は──間に合わない。
一刀両断の言葉に違わぬ速さと鋭さ。右腕を肩から斬り落とされたリゲルグが、恨めしそうにモノアイを光らせる。このまま一気に攻めれば勝てると確信して、さらに1歩踏み込む。しかしリゲルグの方が速く動き、ジンハイマニューバ2型は蹴り飛ばされてしまった。
背中から叩きつけられ、痛みに苦悶しながら機体を起き上がらせようとして、ピタリと動きが止まった。なにせ、目の前で驚きの光景が広がっていたのだから。
先程斬り伏したはずの“リゲルグの腕が、戻っている”。これも、ブレイクデカールによるバグが引き起こしているのか。はたまた、ブレイクデカールそのものの力なのか。思案を巡らせるが、いずれにせよ証明はできない。せめて仲間が合流するまでは耐えなくてはならないこの状況で、考えなどまとまるはずもなかった。
しかしバックパックから放たれたミサイルが降り注ぎ、身動きを封じられる。迫り来るリゲルグへ咄嗟にビームライフルを構えるが、腕部に備えられたビームガンから飛んだ閃光によってライフルを破壊される。残された武器は、重斬刀のみ。
指を咥えて待っているなど、性に合わない。ジンハイマニューバ2型もまた、リゲルグに向かってスラスターをふかした。接近をただ黙って赦されるはずもなく、ビームマシンガンの銃口が向けられる。可能な限りシールドで身体へのダメージを避けるが、それでも全てを防げるはずもなく、少しずつ足に、肩に着弾してスピードを殺されてしまう。それでも、ジンハイマニューバ2型は墜落せず滑空を続けた。この刃を届かせる──その一心で。
遂にはその切先がリゲルグを捉えるまでに近づく。文字通り、あと1歩のところまで来た。その瞬間、“ジンハイマニューバ2型は機体を右へ翻した”。その後ろには、モビルアーマーの形態で付かず離れず追従していたバビが。
バビは変形を解き、胸部にある複相ビーム砲を向ける。ここまで近づけば、外すこともビームナギナタで防がれることもない。誰もが命中を確信していた。ビームが身体を貫くと疑いもせず、安堵の息を漏らす。
だが、予想に反してリゲルグは驚きの行動を見せる。突如としてスラスターをすべてカットし、失墜したのだ。いきなり目標を見失ったせいで、バビは照準を定められるずに虚空へ向かってビームを放ってしまう。多少なりとも機体へのダメージはあるし、衝撃も再現されるこのGBNにおいて、そんなかわし方をするとは思ってもいなかった。
呆然とするバビを、リゲルグは立ち上がりざまにビームナギナタで斬りあげる。真っ二つにされた身体は火花を散らし、爆発した。
残ったのは手負いのジンハイマニューバ2型のみ。轟々と火の手をあげる、味方が乗っていたガンプラの残骸。それに一瞥もくれることなく、リゲルグは1歩、また1歩と近づいていく。
そして、さらに踏み込もうとした矢先、その鼻先に一筋の閃光が走った。リゲルグと共に振り返った先にはメッサーとゲイツ改がおり、メッサーはビームライフルを撃ちながら、ゲイツ改はファトゥムを飛ばしてくる。
まっすぐに飛び込んできたファトゥムの突撃をかわし、リゲルグはメッサーと光刃をぶつけ合う。
「ヒミ!」
「っ!」
名前を呼ばれ、ヒミは思わず息を呑む。自分がしたことは間違っているんだと分かっていながら、止められなかった。いや、止まれなかったのだ。だから仕方ないと言い聞かせる他なかった。
「うる、さいっ!」
鬱陶しそうに返すヒミと、それに応えるようにビームの刃が大きくなっていく。それが振り切られる前に、シンヤはメッサーの頭部バルカンでリゲルグのメインカメラを狙う。
「無理か!?」
ブレイクデカールによって増した硬さは尋常ではなく、バルカンでは牽制にすらならないこともある。リゲルグもそれに漏れないようで、メインカメラを壊すことができないまま、シンヤは機体を下がらせる。
入れ替わるようにゲイツ改が2本のビームサーベルの柄を連結させ、ビームナギナタように長いビームサーベルで迫った。シンヤも側面から回り込み、再びビームサーベルを振るう。
「舐めるなっ!」
ビームナギナタとビームランサーで、ゲイツ改とメッサーの刃を受け止めるリゲルグ。それに対し、背後からさらにファトゥムが迫る。数的有利で押し込もうと狙ってみるが、ヒミはリゲルグを巧みに動かす。
ミサイルポッドから放ったミサイルでファトゥムの進路を妨害し、ビームナギナタの刃を消してゲイツ改との拮抗を止める。途端に押し込む相手を失ったゲイツ改はバランスを崩し、前のめりに。たたらを踏んで膝をつきそうになるその背中に、再び光刃を宿したビームナギナタが突き刺さった。
「くっ!」
機体の爆発に巻き込まれないようにその場から離れるが、ヒミはシンヤへの攻撃の手を緩めない。ビームマシンガンが的確に自分を狙ってくることに、奇妙な違和感を覚えた。
(いつもと、動きが違う?)
ヒミの腕前を嗤うわけではないが、ゲイツ改を斬り伏せたあの動きは、普段のそれとはだいぶ違って洗練されたもののように感じられる。
「しまった!?」
気を取られた隙を見抜かれ、気付けばミサイルが目の前にまで迫っていた。シールドで防ごうにも数が多い。ダメージは避けられない──が、覚悟を決めたシンヤの眼前で、飛来してきたミサイルが次々と破壊されていく。
けたたましい唸り声が近づいてくる。振り返れば、モノアイの機体が2機、駆けつけてきた。
「クレハ、ダイナも……」
「おせぇぞ、何やってんだ!」
「ご、ごめん」
未だ通信状況が回復しない中、接触回線でダイナから軽く小突かれながら怒られてしまう。クレハは何も言わなかったが、凛とした空気が声をかけるのを阻んだ。
「マスダイバー……まさか、私たちの中にいるなんてね」
「おい、ヒミ! テメェ、ふざけてんのか!?」
「できるかよ……おふざけでこんなこと、できるわけないだろっ!」
ビームマシンガンが向けられる。ドライセンとドム・バラッジは素早く左右に散開し、メッサーはシールドを構えて突進する。ヒミは逡巡を見せたものの、肉薄する脅威に対処すべきと判断し、メッサーへ銃口を向ける。垂れ流されるビームの弾丸をシールドでちゃんと受け止める。そして充分に距離が縮まったところで、シンヤはビームサーベルに手をかけた。
「まずは武装だけでも!」
「させるか!」
振り抜き様にビームマシンガンを破壊しようと一閃。しかしリゲルグの方が僅かに早かった。必要最小限の動きでビームマシンガンを引っ込め、ビームナギナタとビームランサーの二刀流でカウンターを仕掛けてくる。
「くっ!」
シンヤはすかさずメッサーを下がらせるが、これもリゲルグの方が速かった。シールドの先端が斬り飛ばされる。空を舞う破片を気にかける余裕はなく、シンヤは後退を続ける。接近戦の武装を手にしたからなのか、リゲルグはメッサーを追いかけた。その背後から、大回りして回り込んできたドライセンがトライブレードを。ドム・バラッジがガトリングキャノンを放つ。
「無駄なんだよ!」
ヒミはリゲルグを半身だけ振り返らせ、ガトリングをビームナギナタの回転で受け流し、挟み撃ちするように迫ったトライブレードをビームランサーで一閃。一振りですべてを破壊してしまう。
「なんだ、あの動き!」
「いつもの彼とは違うわね」
引き返してきたリゲルグに、ドライセンが庇うように前に出てビームランサーをぶつけ合う。単純なパワーならドライセンに分があるはずなのに、少しずつ押し込まれていく。
「ダイナ!」
押し切られれば、後ろにいるクレハごと切り裂かれる。すぐさまシンヤが駆けつけ、ビームサーベルで刺突する。メインカメラを掠めただけだが、シンヤは構わず横に振り抜く。今度こそリゲルグの頭部が吹き飛んだ。ブレイクデカールを使っていても、メインカメラを破壊されれば視覚は失われる。
このまま畳みかけようとドム・バラッジがビーム砲でリゲルグをよろけさせる。ドライセンが側面からビームトマホークを真一文字に振り、メッサーが逃げ口を塞ぐようにビームサーベルを手に斬りかかる。やっと捉えた──はずだった。
リゲルグは突如としてドライセンに向かって突進を仕掛ける。ビーム刃が左腕に食い込むが、気にする様子もなく、ただただ貪欲に、執着するように迫りくる。
「ぐぉっ!?」
体当たりを避けられず、リゲルグと取っ組み合う形に。メインカメラいっぱいに、リゲルグの身体が映り、ダイナは思わず顔を引き攣らせる。
「させない!」
このまま撃墜されるのではないかと思った矢先、ドム・バラッジが巨体をぶつけてリゲルグの手を振り払った。感謝もそこそこに、ダイナは呼吸を整える。
「これも、ブレイクデカールの力なのか?」
「それはないと思うわ」
2人もヒミの動きに違和感を覚えたのだろう。ゆっくりと立ち上がるリゲルグを前に、自然と操縦桿を握る力が強まる。
ブレイクデカールは確かに機体のスペックを上昇させる力をもつが、結局は操縦するのはダイバーのため、反応速度や反撃へのスピードは使っているダイバーの力量に依存する。
ヒミが自分の腕前を隠していた可能性も考えられなくはないが、そうなると自分たちの被害が軽微なのは不自然だ。撃墜されていてもおかしくないはずの動きをしているのに、損傷はほとんどない。
「EXAMとか、HADESかな?」
あるとすれば、そう言った補助システムによる機体性能の強化だが───
「どうかしら」
───それにしては、1つだけ奇妙なところがあった。先程の、ドライセンとの取っ組み合い。直前に左腕へ損傷を受けながらもダイナに向かって突撃したあの動きは、どうにも不自然だ。
EXAMもHADESも、原作ではパイロットへの不可が軽視されてはいたものの、機体が傷つく結果を推奨するようなものではなかった。
「ってことは、それ以外かよ」
「でも、そんなシステムなんて……あれしか、ないよね」
「えぇ、恐らく間違いないわ。
ヒミが使っているのは──ゼロシステムよ」
ゼロシステム。『新機動戦記ガンダムW』に登場するシステムで、【敵の撃破と自身の勝利】を目的に機能するものだ。
毎秒、無数の状況の分析と予測を行い、その結果を常にパイロットへ送り続け、勝利を齎すとされているが、問題はその勝利の仕方にある。リゲルグが被弾も恐れずに突っ込んできたが、上等なシステムならば、普通は機体へのダメージを極力避けるものだ。
しかしゼロシステムはそれすらも考慮した上で勝利をもぎ取ろうとする。人道など構わず、倫理など問わず、ただ持てる総てを駆使して敵を倒し、勝つことへ執着するシステム。それが、ゼロシステムの危険性だ。
GBNでもダイバーへの負担はなくともその拘りは再現されており、故にゼロシステムを使いこなせるダイバーはかなり少ないのだとか。
「けど、時間制限があるはずだろ!」
「一向にシステムが切れないのは、恐らく……!」
「それもブレイクデカールのお陰ってことかよぉ!」
ミサイルを撃ち落としながら、ダイナが毒づく。再びビームサーベルを手にメッサーを突っ込ませるが、ビームランサーで弾き返されてしまう。
いつまでも決め切れない焦燥感から、いつの間にか被弾が増えていく。それが余計に焦りを生み、シンヤたちは冷や汗を抱えながら戦い続けることを余儀なくされる。
「俺がやる!」
「ギダリ!?」
その横を、ビル群から姿を現したサイコザクが駆け抜けた。止めるのは間に合わず、ギダリのサイコザクはリゲルグに突進を決めると、長いブースターを活かして一気に速度を上げていく。
サブアームが稼働し、懸架しているシュツルムファウストを次々とコクピット目掛けて放つ。掴み合ったまま、ゼロ距離で放たれたそれは離れる時間もくれずに爆ぜていく。自分が傷つくのも構わず、ギダリは残る武器をサブアームと自機の手に持たせた。
4挺のバズーカをリゲルグにぴったりと当て、銃口を突きつける。逃げようともがく暇も与えず、ギダリは引き鉄を引く。残弾をすべて叩き込むとようやくリゲルグの身体に穴が開き、力なく横たえる。
沈黙したリゲルグを見下ろしながら、しかしギダリは後悔などしていなかった。例え友達だろうと、容赦はしないと決めていたのだから。
「お前は、もういらないよ」
ギダリはほくそ笑み、吐き捨てるように言った。