ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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ブレイクデカール

 ヒミがブレイクデカールを使い、リゲルグを駆使したあの日から3日。

 

 ZAFT'sとの戦いはロンメルが警戒していたのもあって最初から中継は行われておらず、精々が掲示板で少しだけ騒がれる程度に終わった。

 

 規模の大きい第七機甲師団は所属していないダイバーからの信頼も厚く、掲示板の書き込みは大した盛り上がりも見せないまま、新たなる噂話に掻き消された。

 

 それはあくまで、ロンメルが事態の経緯を運営の公式チャンネルを通じて説明したからと言う理由が大きいだろう。元からだんまりを決め込むつもりはなかったが、やはり説明の有無は受け手の印象を大きく左右するのは間違いなかった。

 

 

「さて、と」

 

 

 自分専用のモビルスーツハンガーで、キマイラを見上げるシンヤ。腰部には新しく二つ折りタイプのレールガンが追加されており、射撃戦にも幾分か対応できるようになった。

 

 今日はマスダイバーが入ってきたことを受けて、第七機甲師団で参加できるメンツを集めて会合が設けられている──と言うのが、表向きの話。本当の目的は、ヒミの協力者と話すことだ。ロンメルはどうやら目星がついているようだが、万が一を想定してシンヤは本来のガンプラでGBNへログインするよう言われていた。

 

 

「行こう」

 

 

 キマイラから離れ、第七機甲師団のフォースネストへ向かう。既に多くの団員が集まっており、その中心にはロンメルと、後ろにクルトとジャックが控えている。団員の顔ぶれは、シンヤにとっては初めての者ばかり。第七士官学校に所属する者は、誰もいなかった。ロンメルの言う万が一に備えて、精鋭を集めたのだろう。

 

 

「皆、よく集まってくれた」

 

 

 ロンメルが前に出、言葉を発すると全員が改めて姿勢を正し、彼を見やる。今回の騒動について、掲示板に書き込みがあったことを始め、分かりやすく要所が伝えられる。最初こそざわめくことはあったが、ロンメルの変わらぬ語気に安堵したのか再び静けさが取り戻されていく。

 

 しかしそれも束の間、実行犯が複数おり、ヒミの協力者がまだ潜んでいること。そして最近フォースに加わった者の中にいることが伝えられると、視線はすぐさまシンヤたちに注がれることとなった。

 

 今にも憤慨してきそうな雰囲気を背中に感じながら、シンヤはちらりと視線だけ動かして隣に並ぶクレハたちを見る。ダイナも他の団員らと同じく、怒りを宿した瞳で左右にいるクレハとギダリ、そして自分を睨んでいた。残る2人は涼しい顔をしているように見えるが、内心は見えてこないだけに感情を推し量ることはできない。

 

 

「今回の事件、最初にも述べた通り複数のダイバーが関わっている。そして、その人物についてだが……ヒミから直接聞き出してある」

 

「えっ……」

 

 

 思いもよらぬ言葉に、自然と驚きの声が出てしまう。幸か不幸か、場内もまたざわつき始めたお陰で声が届いたのは近くにいた者だけのようだが、ダイナがズカズカと歩いてくる。

 

 

「おい、今の『えっ』はなんだよ?」

 

「いや、特に深い意味は……」

 

「ダイナ、所定の位置に戻れ!」

 

 

 ジャックの声に、ダイナは不満そうに踵を返す。ダイナと同じ気持ちの団員は多く、先程よりも鋭い視線が背中に浴びせられる。冷や汗が止まらない。シンヤとしても、一刻も早く犯人の名を教えて欲しかった。

 

 

「……“ギダリ”、前へ出ろ」

 

 

 一拍置いて告げられた名前に、再び全員の視線が1人に集中する。ヒミの友達で、共に第七士官学校に入ったギダリ。彼が、もう1人のマスダイバー。

 

 

「さながらデキムに見つかったトロワみたいだな」

 

「ギダリ、テメェ!」

 

 

 とぼけたように言うギダリの態度に、ダイナはさらに怒りを強める。今にも殴りかかりそうな勢いだが、先程ジャックに止められた直後と言うのもあって、睨むだけに留まる。他のメンバーも、ロンメルの前でなければ手を出していたかもしれない。

 

 ギダリは気にする様子もなく、頭を掻きながら前へ歩いていく。その姿を、誰もが苦々しく見ているだけしか出来なかった。

 

 

「やれやれ……まさかヒミが喋るなんてねぇ」

 

「お前に裏切られたのがショックだったのだろう」

 

「裏切る? ははっ、こいつは傑作だ!

 俺は裏切っちゃあ、いない。単にあいつを利用してやっただけだ」

 

「貴様!」

 

 

 ジャックが吼える。しかしロンメルがスッと手を挙げると、それ以上の言葉を呑み込み、深呼吸して冷静を取り戻す。

 

 

「第七機甲師団を潰すのが目的だったようだが、何故我々のフォースだったんだ?」

 

「んー? いや、別に。どこでも良かったんだよ。別にアンタらが特別だからじゃない。

 ただ、多少なりとも有名所なら面白くなりそうだなぁとは思ったけど」

 

「ふざけるな!」

 

「俺たちは、誇り高き第七機甲師団だぞ!」

 

「そうよ! どこでもいいなんて、嘘でしょ!」

 

 

 次々と上がる非難の声。それらに晒されても、ギダリはまったく顔色を変えない。寧ろこの状況を楽しんでいるようにすら見えた。

 

 その表情に嫌な予感がして、シンヤは熱くなる人達を掻き分けて、少し離れた場所へ移動する。

 

 

「では、何故ヒミを撃った? 利用しているとは言ったが、撃つのはリスクがあるだろ」

 

「あー、あれね。つまらなかったんだよ、あの戦いが」

 

「どういう意味だ?」

 

「ヒミの奴、ブレイクデカールとゼロシステムで優位にいながら、全然敵を倒せねぇんだぜぇ?」

 

 

 ガクッと項垂れて、落胆を見せるギダリ。溜め息も出てきて、本当に残念そうだ。

 

 

「見ていてつまらない、わくわくしない、なんなら押されてた……くっっっそみたいにぃっ! つまんねぇんだよぉ!!」

 

 

 苛立ちに任せて、地団駄を踏む。ズンッと響き渡る怒りに、その場にいた誰もがしーんと黙り込む。

 

 

「だーかーらー、俺が撃ってやった。アイツには先に退場してもらうつもりだったし、ちょうどよかったんだよ」

 

「では最後に1つ。何故ブレイクデカールを使う?」

 

 

 冷静な問いかけを続けるロンメル。しかしその手は強く握られており、怒りが見て取れる。誰よりもこのフォースを愛しているからこそ、仲間が傷つくのが赦せないのだろう。

 

 そんな気持ちなど露知らず、ギダリは嬉しそうに語る。

 

 

「決まってる。壊すためさ」

 

「なんだと?」

 

「ついでにもう1つ教えてやるよ。俺がこうしてお喋りなのは……」

 

「っ! いかん! 総員、急いで離脱しろ!」

 

 

 ゆっくりと、高らかに上げられる手。それが何かしらの合図だと察したロンメルが叫んだ瞬間、巨大な紅蓮の炎が──否、サイコザクが降ってきた。

 

 ズシンッと大きな音と振動。あまりにいきなりの出来事に、誰もが我を忘れて逃げ惑う。その様子を楽しそうに一瞥し、ギダリは素早くサイコザクへ乗り込んだ。

 

 

「いいね、いいねぇ! こうでなくっちゃなぁ!」

 

 

 モノアイが不気味に光る。途端にブレイクデカールの黒いオーラを纏い、サイコザクは雄叫びをあげるみたいに全身を震わせた。

 

 

「戦闘エリア外でも出せるとか、なんでもありかよ!」

 

「隊長!」

 

「えぇい、やむを得ん! クルトは私と共に出撃、ジャックは避難誘導を終えた後に合流!」

 

「「了解!」」

 

 

 サイコザクはブレイクデカールのお陰で設定を無視してこの場に現れたが、ロンメルたちはそうはいかない。素早く設定の変更を行い、それぞれのモビルスーツに乗り込む。

 

 

「相手がマスダイバーでも怯むな! 数で押す!」

 

 

 ロンメルの言葉に、クルトが、クレハが言葉を返す。シンヤはジャックと共に避難誘導を行っていて動けないが、ダイナもまた、苦々しくサイコザクを見上げている。

 

 

「ダイナ、1度立て直した方が……」

 

「うるせぇ! マスダイバーを見過ごせるか!」

 

 

 ダイナの怒りに応えるように、ドライセンが具現化する。連携など二の次なのか、サイコザクへとまっすぐに突っ込んでいく。

 

 

「ギダリ、テメェ!」

 

「キャンキャンとうるせぇんだよ、犬がぁっ!」

 

 

 トライブレードを射出し、ビームトマホークを手に斬りかかる。放物線を描いて三方向から迫るトライブレードを、バズーカとマシンガンで叩き落とし、肉薄するドライセンのビームトマホークをヒートホークで受け止めた。

 

 しかし迫合いで終わるはずもなく、バックパックのサブアームが稼働し、新たなバズーカを掴み取り、銃口が向けられる。ドライセンはすぐさま後退するが、弾が脚部に直撃してしまい、バランスを崩して倒れ込んでしまう。

 

 

「くそっ、ふざけんな! お前だけは絶対に……!」

 

「絶対に…なんだって?」

 

 

 痛みに苦悶するダイナは、苛立たしげに顔を上げ、しかし言葉を失う。先程よりもサイコザクの姿か、大きくなっている。

 

 

「は?」

 

 

 思わず、間抜けな声が出た。それも当然だ。ガンプラが巨大化するなんて、聞いたことがない。巨大な敵が出るミッションは山程あるが、途中で大きさを変えるなどあり得ないからだ。

 

 

「面白いだろ、ブレイクデカールって。こうやって大きさも誤魔化せるのさ」

 

「誤魔化す……? まさかお前のは、MGなのか!?」

 

「正解」

 

 

 サイコザクは1/144サイズにあたるHGだけでなく、1/100サイズのMGでも商品化されており、ギダリはそれにブレイクデカールを使うことで、GBNのシステムを掻い潜ってきた。

 

 

「なんで、こんな……!」

 

「言っただろ、壊すためだって。このフォースも、ぶっ壊すのさぁ!」

 

 

 サイコザクが、1歩を踏み出す。足元はその巨体の力強さを示すように、あっという間にひび割れていく。まるで、蜘蛛の巣が描かれたみたいに。

 

 

「ざけんな……俺は、ここが! 第七機甲師団が、好きなんだ!」

 

 

 バズーカを連射し、ダイナが叫ぶ。こめられている弾丸をありったけ放ち、弾切れを起こしたら次は腕部に備えたビームガトリングを浴びせた。黒煙が立ち上って、前が見えなくなる。

 

 それでもダイナは攻撃の手を緩めない。やがて連射速度に耐えきれず、砲身が焼き付いた。濛々と立ち込める煙が、風によって運ばれていく。

 

 

「で?」

 

 

 晴れた視界の先には、攻撃をする前とまったく変わらない光景が。

 

 

「それだけか?」

 

 

 ドライセンの攻撃を、ダイナの想いを嘲笑うように、サイコザクが何事もなく足を上げる。

 

 

「壊させて、たまるかあああぁぁ!!」

 

 

 ビームランサーを突き上げ、自分に向かってくる足を狙うダイナ。雄叫びを上げ、今にも逃げ出したい自分を奮い立たせる。

 

 だが───

 

 

「…あっそ」

 

 

 ───その姿勢は、跡形もなく踏み潰され、そして消え去った。

 

 

「まったく、ブレイクデカール様々だぜ」

 

 

 嬉々とした声音で進撃を始めるサイコザク。ロンメルとクルト、クレハが進路を阻むように前に立ち塞がる。

 

 

「そんなんでやれると思ってるのか?」

 

「無論、やれるとも」

 

 

 強大な敵を前に、ロンメルはいつもと変わらぬ声音ではっきりと答えた。仲間の避難が終わったのだから、遠慮はいらないだろう。

 

 

「行くぞ、クルト!」

 

「ハッ!」

 

 

 グリモア・レッドベレーが無限軌道を活かして足元へ素早く入り込む。そしてティルトローターパックの機動力を駆使してプラズマナイフを突き立てながら一気に上昇する。そして僅かにできた傷口へ、ギラ・ドーガがビームマシンガンを浴びせていった。

 

 しかし、分厚い装甲は僅かな傷など物ともせず、鬱陶しそうに払われた手によってロンメルは大きく弾かれる。

 

 

「隊長!」

 

「構うな!」

 

 

 クルトが駆けつけようとするが、ロンメルは一喝してそれを制する。追撃に放たれたバズーカの弾をアサルトライフルで撃ち落とし、機体を立て直そうと急ぐ。

 

 ふと、頭上が陰る。顔を上げれば、悪魔のような禍々しさを宿したサイコザクがヒートホークを振り上げているところだった。赤熱をの刃が、触れるもの全てを焼き尽くす勢いを持ち、まっすぐに迫り来る。

 

 GBNを長くプレイしてきたロンメルでさえ、こんなにも恐怖心を煽る光景は見たことがない。必殺技のような眩しい煌めきなど、欠片も持ち合わせていないそれに、思わず足が止まってしまう。

 

 

「あばよ、隊長さん」

 

 

 嘲笑うように言い残し、刃が一閃された。

 

 

「頭を潰せば後は簡単……ん?」

 

 

 レーダーを見て、ギダリは違和感を覚える。ロンメルに向かってヒートホークを振り下ろし、撃墜したはずなのに、レーダーに映る敵機のマークが表示されたままだ。

 

 

「何だ? バグ、か?」

 

 

 倒せていなかった──その事実を受け止めきれず、思わず狼狽える。そんなギダリへ、微々たる振動が伝わってきた。視線を向ければ、ヒートホークを握る手に、微かな損傷が。

 

 

「なっ!? 誰だ!」

 

 

 狼狽する心を見透かしたかのように、ヒートホークが弾き返される。サイコザクの拳の下から現れたのは、漆黒のガンプラ。ガンダムタイプの頭部をもつことから、量産機が集う第七機甲師団の機体ではない。ヒートホークを受け止めたであろう大剣を一閃し、腰に携えているレールガンを元に戻す。

 

 真紅の双眸が、ギダリをゆっくりと見上げた。

 

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