ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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その手に輝きを

 こんな風に“彼”と関わり続けるなんて、思いもしなかった。1度だけ、たった1度だけ頼ろうと思っただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 

 

(後悔してる……? そんなこと、私には赦されないのに)

 

 

 後悔がないと言えば、嘘になる。でもそれが何に対しての後悔なのかは、まだ分からなかった。

 

 “雇い主”から通信が入る。【前を走るダブルオーベースのガンプラを近づけさせるな】と。

 

 仲良しごっこは、もう終わりにしなくては。

 

 目の前にいる彼らとも。

 

 そして、今は別の場所で戦っているであろう“彼”とも。

 

 一瞬、“彼”がこのことを知ったらどう思うのかと気になってしまう。操縦桿を握る手が、微かに震えた。

 

 しかし振り払うように頭を振り、鋭い視線で仲間の前に立つ。

 

 

「リク、これ以上あなた達を進ませるわけにはいかないわ」

 

 

 武装装甲八鳥、RX-零丸。2機のガンプラを駆り、アヤメはただただ冷徹に告げるのだった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ユークリッドとの戦闘を終え、シンヤは改めて資源衛星に入り込む。突入しようと思った出入口は既に封鎖されており、唯一開いていたのはユークリッドが出てきたところだけ。

 

 

(マップは……ダメだ、味方のマークも出ない)

 

 

 衛星内部のマップは確認できたものの、ブレイクデカールの影響なのかジャミングを張っているのかは分からないが、味方の位置が表示されない。ひとまず、目的地となるロンメルの部下の信号が消失した地点を目指していく。

 

 

(不気味なほど手薄だ……)

 

 

 手厚い反撃を予想していたが、それがまったくない。先に突入した部隊へ力を割いている可能性が高いだろうが、油断はできない。極力急ぎながら、敵意を見逃さないよう周囲に気を配る。

 

 ふと、目の前にぼんやりとした光を見つけた。

 

 

「赤い、光……?」

 

 

 何かこの迷路を打破するものかもしれない。そう思って光へ近づこうとして、シンヤは咄嗟に機体を翻した。直後、目の前から赤黒い閃光が襲いかかる。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 正に間一髪。真横を掠めるビームの光に、シンヤはキマイラの速度を上げて主へと急速に近づいていく。

 

 

「ヤークトアルケー……」

 

 

 僅かだが、視界に敵の姿を捉える。遠目でもその異形な造りは目立ち、さらにはトランザム特有の赤い光を纏ったうえ、ビームの色が敵の正体をはっきりと物語っていた。

 

 ガンダム00の外伝作品に登場する、ヤークトアルケー。アルケーガンダムの発展機で、ベースとなったガンダムスローネのアイン、ツヴァイ、ドライ、それぞれの武装を有している。単機で戦局を覆すことすら可能とされる機体スペックをもつが、機体に対して積まれた武装が多く、扱いが非常に難しくもあった。

 

 

「レーダーが機能しないのは、こいつか」

 

 

 GNステルスフィールド。コンテナからGN粒子を広域に散布し、レーダーを無効化する巨大なジャミングフィールドを形成する力を持つ。そのせいで、キマイラはレーダーはもちろん、仲間への通信すら許されないわけだ。

 

 

「貧乏くじを引かされたと思ってたが……まさかこっちからも敵がおでましとはなぁ!」

 

 

 マスダイバーの声と共に、GNファングが射出される。近づいていたキマイラはすぐさま速度を落とし、襲いくるGNファングをγナノラミネートソードと左腕で対処していく。

 

 

「背中を向ける余裕があるか!」

 

「くっ!」

 

 

 GNバスターソードを振り上げ、ヤークトアルケーが迫る。上段からまっすぐに閃いた一撃を紙一重でかわし、キマイラもγナノラミネートソードを振り抜くが、ヤークトアルケーは爪先に装備したGNビームサーベルを展開して斬撃を弾いた。

 

 続く一撃で大きく蹴り飛ばされ、2機の距離が自然と開く。そのタイミングで、控えていたGNファングが再びその牙を見せた。ビームを剣で弾き、刺突しようと迫る物は腕で握り潰す。そうして少しずつ数を減らそうとした矢先、ヤークトアルケーがさらに距離を取って背面右側に装備したビーム砲を展開する。

 

 

「くくっ、デカいの見せてやるよぉっ!」

 

 

 砲口から今にも飛び出しそうな、赤黒い獣。マスダイバーの愉悦に満ちた声と共に放たれたそれは、獰猛な勢いを抱えてキマイラを丸々呑み込もうとする。

 

 

「くっ、うぅ……! この火力!」

 

「ブレイクデカール様々だぜ。パワーアップだけじゃねぇ、トランザムの制限時間も関係なくなるんだからなぁ」

 

 

 ヤークトアルケーが背中に装備するGNランチャー。単体でも充分な火力を誇るが、展開することでGNハイメガランチャーとなり、破壊力をさらに増すことができる。

 

 元となったGNランチャーはスローネアインが有し、またハイメガランチャーを使う場合はスローネツヴァイ、スローネドライからエネルギーを供給してもらわないと使えず、ヤークトアルケーもトランザムによって粒子放出量を増加させなくては使用できない。

 

 だが、ブレイクデカールによってトランザムの制限時間をなくし、粒子残量を気にしなくてよくなったヤークトアルケーは、なんの気兼ねもなくGNハイメガランチャーを使えるわけだ。

 

 

「この人、強い!」

 

「当たり前だっての!」

 

 

 ただ闇雲に力を振るうような戦い方ではない。GNファングで翻弄し、隙を作り出したところを強襲。シンプルだが確実なやり方に、シンヤは冷や汗を禁じ得ない。

 

 

「金稼ぎしてんだから、弱くちゃ話になんねぇだろうがっ!」

 

「金……!?」

 

 

 GNバスターソードを左腕で受け止め、γナノラミネートソードを一閃。しかしヤークトアルケーは爪先のGNビームサーベルを展開し、互いの得物が火花を散らす。

 

 

「ポイントやイベント報酬を欲しがる奴らに、俺が恵んでやってんのさ」

 

「そんなことを……!」

 

「簡単に稼げるんだぜ。敵を倒せばいい、シンプルな仕事だぁ!」

 

 

 γナノラミネートソードが、ヤークトアルケーの踏み付けによってミシミシと嫌な音を立てて軋む。壊されるか離れるかの二択に、シンヤは武器を失うことへの躊躇いから、すぐに距離を取った。

 

 それと同時に襲いかかってくると予期していた通り、迫りくるGNファングに向けてレールガンを放って破壊。壊れた武器が黒煙を上げるが、すぐに形を取り戻していく。

 

 ブレイクデカールの再生能力を前に、思わず舌打ちしてしまう。

 

 

「背中がガラ空きだぜ?」

 

「くっ!」

 

 

 トランザムによって向上した機動性を活かして背後に回り込んでくるヤークトアルケー。GNバスターソードが叩きつけられるように振るわれ、通路を陥没させる。紙一重でかわしたはいいが、また背中をとられては敵わない。壁に背中を向けながら、キマイラを少しずつ奥へ進ませていく。

 

 

(誰かと合流できれば……!)

 

「逃げても無駄だぜ。お仲間はみんな、倒されただろうさ」

 

「そんなこと、あるもんか!」

 

「あるんだよ。なにせスパイがいるからな」

 

「え……?」

 

 

 思わぬ一言に、一瞬思考が奪われる。その隙はマスダイバーにとって都合の良いものでしかなく、GNバスターソードが思い切り叩きつけられる。

 

 

「ぐっ、うぅ!」

 

 

 再現された大きな振動が、機体全体を襲う。ギリギリで直撃は免れたものの、胸部の装甲が少しばかりひしゃげてしまっていた。

 

 バランスを崩し、通路に倒れ込むキマイラ。追撃を警戒して急いで立ち上がらせるが、間髪入れずGNビームサーベルが閃き、右側のスラスターウィングを斬り飛ばされる。

 

 

「うわあああぁぁ!」

 

「心配するな。お前もすぐに仲間の後を追わせてやる!

 いや、それともお前が仲間を迎えられるようさっさと倒してやろうか!」

 

「ぐっ……どっちも、お断りだっ!」

 

 

 取り囲むように展開されたGNファングを斬り裂き、握り潰す。それらが再生しきるより早く、ヤークトアルケーとの距離を詰めて互いの剣をぶつけ合った。

 

 

「突入部隊の中にそのガンプラがいるのも聞いてたよ。マルコシアスベースで、近接戦闘に主軸を置いているってな」

 

 

 マスダイバーは言うが、シンヤはそれを信じようとは思わなかった。それくらいの情報なら、今までの戦いで把握できる。スパイなど、まやかしに過ぎない。

 

 

「信じてないってか」

 

「当たり前だ!」

 

「ならお前、忍者のルックスをしたダイバーはどうだ?」

 

「忍…者……?」

 

「ははっ、心当たりあるみたいだなぁ!」

 

 

 忍者と言われて真っ先に思い浮かんだのは、アヤメだった。彼女の他にも忍者を思わせる服装のダイバーはいるだろうし、彼女がスパイとは限らない。それでも、身近に知る誰かを連想できてしまえるだけに、シンヤにとってそれは大きな動揺となって襲いかかった。

 

 

「名前までは知らねぇけど、確か……そうそう、SDガンダム使いの女だったよ」

 

 

 見事なまでにアヤメと情報が一致し、シンヤは呆然とする。

 

 GNバスターソードが下段から上段へ向かって振り上げられ、受け身もまともに取れないまま、キマイラは大きく吹っ飛ばされた。

 

 

「アヤメが、そんな……」

 

「終わりだ」

 

 

 一歩一歩、武器を手に近づくヤークトアルケーはまるで悪魔のような恐ろしさを秘めている。

 

 高らかに振り上げられた刃が、キマイラの頭を粉々に打ち砕く──はずだった。

 

 

「なにぃ……?」

 

 

 苦々しく呟くマスダイバーの前で、GNバスターソードが動きを止める──いや、そうではない。キマイラの巨腕が、真っ向から受け止めているのだ。

 

 

「このっ! なんだ、こいつ……動かない!?」

 

 

 いくら動かそうと、掴まれたGNバスターソードはびくともしない。次第に、大剣を鷲掴みにしているキマイラの腕が、紅く染まっていく。

 

 

「トランザム!? いや、違う……なんだよ、なんなんだよぉっ!」

 

 

 急に自分の思うような動きを禁じられた焦りなのか、マスダイバーは見るからに狼狽えている。だが、シンヤは相手の気持ちを汲むことすらなく、ぽつりと呟いた。

 

 

「……謝らなきゃ」

 

「は?」

 

 

 通信越しに聞こえた言の葉に、マスダイバーは訳がわからなくなり、思わず聞き返す。しかしシンヤは答えない。ただただ申し訳なさそうに、声を絞り出した。

 

 

「アヤメに、謝らなきゃ」

 

 

 彼女がもし、本当に裏切り者だとして。自分は、彼女に何かしただろうか。

 

 

「何もない……何もないんだ。何も───」

 

 

 何度かそばにいたのに。いつも自分が聞いてもらうばかりで、アヤメのことを何も聞こうとはしなかった。

 

 謝りたい。

 

 なにより───

 

 

「僕は! アヤメに!」

 

 

 ───会いたい。

 

 

「会わなくちゃ、いけないんだっ!」

 

 

 シンヤの決意に応えるように、キマイラの左腕に配されたモールドが紅く光り輝く。ミシミシと嫌な音を立てたいたGNバスターソードは、遂にその刀身を握りつぶされた。

 

 

「チッ! ファングゥ!!」

 

 

 砕かれたGNバスターソードをすぐに手放し、後退しながらGNファングを放つ。四方八方から不規則な軌道を描いて迫る鋭利な牙。

 

 

「避けられないのならっ!」

 

 

 レールガン、左腕、γナノラミネートソード。3つの武器を駆使するキマイラ。破壊し、進み、破壊し、進み──強く、着実に、歩んでいく。

 

 

「鬱陶しいんだよぉ!」

 

 

 トランザムによって増した機動性を活かし、ヤークトアルケーは一気に距離を取った。GNバスターソードを失い、GNファングのほとんどが壊れてしまったこの状況で接近戦は不利だ。

 

 GNハイメガランチャーを展開し、ありったけの粒子ビームを解き放つ。極太の閃光が、丸呑みする勢いで迫る。

 

 

「行こう、キマイラ」

 

 

 それを目の当たりにしても、シンヤは歩みを止めなかった。それどころか、自ら破壊の光に飛び込んでいく。

 

 大きな左腕を前面に突き出し、ビームの奔流に逆らう。いくらナノラミネートアーマーであろうと、トランザムとブレイクデカールの合わせ技で破壊力の増したビームを受け続けるのは非常に危険だと言わざるを得ない。

 

 それでも通路の全体を覆い尽くすほどに太いビームを避け続けるのは厳しく、シンヤは最短距離で進むことを選んだ。

 

 

「消えろおおおぉぉ!!」

 

「負けるかあああぁぁ!!」

 

 

 叫び、互いの意志をぶつけ合う。負けない。負けられない。

 

 それでも力を放ち続けるだけでいいヤークトアルケーの方が圧倒的に優位であることに変わりなく、ビームを浴び続けているキマイラは、次第にその姿を歪めていく。

 

 

「まだだ! まだ……まだ、行けるっ!」

 

 

 痛いだろう。苦しいだろう。熱いだろう。キマイラが感じる苦痛を一緒に背負えない辛さを噛み締めながら、それでもシンヤは歩みを止めない。

 

 

「キマイラなら……!」

 

 

 だって、信じているから。

 

 

「いや……僕と、キマイラなら!」

 

 

 自分を。ガンプラを。

 

 

「一緒なら!」

 

 

 必ず光を掴み取れると、信じているから。

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 

 遂にビームの奔流を抜け、キマイラの腕がGNハイメガランチャーの砲身をへし折る。

 

 

「バ、バカなっ!?」

 

 

 ボロボロになりながらも鋭い眼光を宿した猛獣を前に、マスダイバーは驚きの声を上げる。勝利を確信していたその姿勢が、大きな隙を生むことになるとは思いもしなかっただろう。

 

 

「これでっ!」

 

「させるかっ!」

 

 

 γナノラミネートソードを振り上げるキマイラ。ヤークトアルケーは爪先のGNビームサーベルを繰り出す。

 

 キマイラの左腕が、斬り飛ばされた。接続部が爆発し、バランスが乱れる。倒れ込む寸前、キマイラはさらに一歩を踏み出す。刃が、ヤークトアルケーを完全に間合いに捉えた。

 

 

「断ち切る!」

 

 

 振り上げた一閃が、ヤークトアルケーのコクピットを深々と切り裂く。見舞った刃の勢いを示すように、斜めに裂かれた上半身が崩れ落ち、大きな爆発を巻き起こした。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

 息も絶え絶えだが、止まっている時間はない。キマイラを休ませたかったが、せめてアヤメに真意を聞かなくては。

 

 

「我儘を言ってごめん、キマイラ。もう少し……もう少しだけ、僕に付き合って」

 

 

 GNハイメガランチャーに晒され、背部のウイングバインダーは4つともボロボロ。左腕は肩から切り裂かれたせいで、もう使えない。メインカメラもアンテナが歪んでおり、右目も壊れている。

 

 

(武器はレールガンとナノラミネートソードだけか)

 

 

 頼りないとは思わない。寧ろこれだけ使えることに感謝したいくらいだ。シンヤは使えなくなったバックパックを切り離し、なんとか姿勢制御させながら先を急いだ。

 

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