ガンダムビルドダイバーズ -once more- 作:雷電丸
「シンヤ殿、そちらに向かいました!」
「分かりました」
タイガーウルフの弟子に言われ、迎撃にうつる。マシンガンで牽制、ツイン・ビームスピアで応戦。昨日と同じ戦い方をしているはずなのに、自分でも分かるぐらいに雑な戦い方になっていた。
「くそっ!」
大振りな一閃をかわされ、思わず舌打ちする。ガンプラが自分についてこない──いや、ついてこられるはずがないのだ。あまりにも粗雑で、あまりにも無駄の多い操作。端から見ていても分かる程の戦い振りは早くから敵の知るところとなり、シンヤは次第に精神的にも追い込まれていく。
「次は……!」
なんとか迎撃に成功したかと思えば、既に新たな相手がすぐ傍にまで迫っていた。蒼を基調としたカラーリングが目を引く。特徴的なモノアイと、鋭利なスパイク付きの肩。
「イフリートか!」
接近戦を得意とするイフリートにここまで肉薄されたのはまずいと判断し、取り回しの良さを考えてビームサーベルを引き抜く。だが、その動作に気付いたイフリートはすかさずショットガンの引き鉄を引く。
「ぐっ、うっ!」
対格闘戦用に厚くされてある装甲を貫通することはなかったが、花咲くように散らされた弾丸はバランスを崩させるには充分過ぎた。
よろけと言う大きすぎる隙。イフリートがそれを見逃すはずもなく、片手に握ったヒートサーベルを閃かせる。
「うおおおぉぉ!!」
それが振り下ろされる寸前、シンヤの前に弟子のジム・トレーナーが割って入った。柄の部分を片手で受けたことで生じた僅かな時間。その一瞬を掻い潜り、光刃がイフリートの胴体を突き貫いた。
「ご無事ですか?」
「す、すみません。ありがとうございます」
爆散するイフリートには目もくれず、無事を確認すると安堵の息をもらした。それがますますシンヤを気落ちさせたのだが、彼に非がある訳ではない。頭をふって集中しようとするシンヤだったが、彼方の空に信号弾が放たれたのを目にする。
「あれは……」
「撤退?」
信号弾があると言うことは彼らを指揮する何者かがいることになる。撤退はありがたいことだが、タイガーウルフが不在の今、次にいつ仕掛けてくるか分からない不安が押し寄せてきた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「シンヤ殿」
「あ、お疲れ様です」
ガンプラから降りたところで、先程助けてくれた弟子から声がかかる。彼は少し遠慮するような顔色で口を開く。投げられた言葉は当然、先程の戦い振りを問うものだった。
「何かあったのですか? 今しがた見せた戦いは、以前の貴方らしからぬもののように感じました」
「そうですよね」
自嘲し、シンヤは片膝をつく愛機をじっと見上げる。話せば楽になることもあるのは、理解しているつもりだ。それでも自分の恥をさらすのは、やはり抵抗があった。その心情を察してくれたのか、特に言及はされず、僅かな間だけ静寂に包まれる。
「GBNで、辛い出来事があったんですが……それを、思い出してしまって」
その内容までは話さない。そんなことで──と言われるのが怖いのもあるが、話しても解決しないと分かっていたから、話したいとは思えなかった。
「シンヤ殿は今、己と戦っているのですね」
「え?」
「虎武竜では、敵を知り、その上で己を知ることで百戦危うからず……つまるところ、無敵だと教わるのです」
「無敵……」
「滑稽と思われるかもしれませんが」
そう簡単に無敵になれるはずがない──きっとそう笑い飛ばす者もいるかもしれないが、シンヤは寧ろその信念を尊敬した。自身が組み上げたであろうジム・トレーナーを見上げながら、彼は言葉を続ける。
「GBNでは疲れを知らず、怪我もしない。虎武龍ではダイバーと同化することを目指し、日夜修行に励んでいます」
一見すれば無意味と思われそうな数々の修行。それらは仮想世界だからこそうまれる、リアルとの差を少しでもなくすものだった。
「ダイバーと、同化する……」
シンヤも同じように、ガンプラを見上げた。自分にもそれができるのか、心の中で何度も反芻する。
(いや、できるかできないかじゃない。やってみせなきゃ)
翌日───。
タイガーウルフと約束した3日目、最終日がやってきた。彼が虎武龍に戻ってくるのは日付を跨ぐ頃なので、シンヤは会わずに終えることになる。本人から「挨拶は不要だ」と言われているし、時間になったら早々に切り上げても大丈夫だろう。
「もう1度、僕と戦ってくれ」
ジム・ストライカーに乗り、静かに言葉を紡ぐ。何も返らないことは百も承知している。しかし、シンヤは言わずにはいられなかった。昨日の無様な戦い方はもうしない。ガンプラの可能性をねじ曲げていた自分に応えてくれるかは分からないが、シンヤはとことん信じる道を選んだ。
「きます!」
弟子の声に顔を上げ、迫る敵機を見据える。1度だけ深呼吸。そして───
「行くぞっ!」
───シンヤとジム・ストライカーが駆け出す。
突出するジム・ストライカーに敵の目が集中する。それぞれの武器を構え、攻撃を開始しようとトリガーに指がかけられた。しかし引き鉄が引かれる早く、ジム・ストライカーのマシンガンが火を噴いた。火線は的確に敵の火器を撃ち抜き、無力化させていく。
「よし」
ある程度敵を引き付けたところで、岩山に姿を隠す。次はそこから敵に横槍を食らわせながら、虎武龍の弟子らに撃墜を任せる。
「っ!」
耳に響くアラート。慌てて身を踊らせると、先程まで立っていた場所をビーム砲が駆け抜けていった。
「あれか!」
射撃のために下げられていたバイザーが上がり、ガンダムタイプの双眸が現れる。左右で連結されたビームライフルを構え直し、肉迫していくシンヤに牽制を浴びせてきた。
「ヴェルデバスター……!」
射撃に特化したその機体は、シンヤが攻撃をかわしたのを見ると、モスグリーンを基調としたモビルアーマー、アンクシャに飛び乗り、フォースへと向かっていく。
「まずい……!」
慌てて追いかけようと機体を翻す。しかしその行く手を阻むように、別の同型機が旋回し、襲撃してくる。
「流石に速い」
機動性に優れたモビルアーマーの形態をとかずに、左右についたビーム砲を次々と撃ってきた。それらをかわし、或いはシールドで防ぎながらも、シンヤは機体のスピードを緩めないまま、ヴェルデバスターを追いかけていく。
「シンヤ殿!」
程なくしてタイガーウルフの弟子が増援に駆けつけてくれた。劣勢と判断するや、アンクシャは距離を取るべく離れていく。
「ありがとうございます」
礼もそこそこに、再びフォースへ一直線に向かっていく。ヴェルデバスターの牽引が済んだのか、もう1機のアンクシャが戻ってくる。
「仕掛けてきた!?」
アンクシャはモビルアーマーからモビルスーツへと姿を変える。特徴的な頭部のメインカメラが光り獲物目掛けて襲来してきた。ビームサーベルを両手に握り締め、一閃──しかしシンヤが機体の速度を上げて懐に飛び込む方が速かった。そのまますれ違い様にビームサーベルを振るい、アンクシャを胴体から真っ二つに叩き斬る。背後で起こる爆発。立ち上る黒い煙に目もくれず、ただ一直線に駆けていく。
「見えた!」
既にフォースネストの前まで来ていたヴェルデバスターを捉えるシンヤ。相手も接近されていることに気がついたのか、両肩に備えられたミサイルを一斉に放ってきた。
「くっ!」
ジム・ストライカーを取り囲むように放たれたミサイルの雨。立ち止まれば迎撃は可能だろうが、その間にフォースネストに被害が及ぶのは間違いない。
「なら!」
ぐっと力を籠めてレバーを前へ押し込む。
「駆け抜けるだけだぁ!」
更にスピードをあげたジム・ストライカーは間一髪のところでミサイル群を回避する。一拍遅れる形で、真後ろで爆発が起こるが、背部へのダメージがあるかどうかを気にする余裕はなかった。
ヴェルデバスターはかわされると思っていなかったのか、次の攻撃を仕掛けてこない。
「この距離なら……はあああぁぁっ!!」
左手に装着したシールドの尖端が鋭い光を見せる。そして───
「くらえっ!」
───限界寸前のスピードが籠められたパイルバンカーは、その胴体を易々と貫いた。深くめり込んだパイルバンカーを見て、一瞬だけ苦い過去がフラッシュバックする。自分の手で貫いた訳でもないのに、嫌な感触が伝わってきた。
「っ!」
爆発に巻き込まれないように素早く距離を取る。フラッシュバックした記憶と目の前の光景が重なり、思わず吐きそうになった。
「……嫌いだ」
目を離したいはずなのに、どうしても視線を逸らせない。爆散し、燃える残骸が転がってくる。黒焦げになった腕のパーツが落下し、まるで助けてと訴えているように見えた。“あの時”みたいに───。
「うる、さいっ!」
怖くて、思い出したくなくて、シンヤは機体の残骸をマシンガンで撃ち抜く。走る弾丸、バラバラと零れ落ちる薬莢。既に残骸は消え失せているにも拘らず、シンヤは手を止められなかった。
程なくして弾切れを知らせるアラートが響いた。そうしてやっと我に返ったが、自分のしたことを思い出して項垂れる。
「……ごめん」
弱々しい声で謝る相手は言葉を返すはずもないジム・ストライカーに向けられていた。“また”自分の弱さに呑まれ、こんなバカげたことをガンプラにやらせてしまった。波のように押し寄せる後悔と自責の念に駆られ、もう身体を支えることもかなわない。溢れ出した涙は留まることを知らないように、ポタポタと落ちては消えた。
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