ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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矛先

 有志連合戦から、早くも3日が経過した。

 

 最後にアヤメと少しだけしか言葉をかわせずに終わったシンヤは、周囲が有志連合戦の成功に沸き立つ気持ちにつられることもなく、彼女と連絡がつかないことを不安に感じていた。

 

 アヤメとは学校が同じではあるものの、土日を挟んで学校には行けず、やっと月曜日を迎えたと思えば体調が悪いから休んでいると聞かされ、何も得られずにいる。

 

 また、GBNにダイブしてもアヤメのログイン状態は非表示。フレンド同士でやり取りできるメッセージにもなんの反応もない。

 

 やきもきする気持ちのまま、シンヤはキョウヤに呼ばれてAVALONのフォースネストに顔を出していた。事件のその後について、話しておきたいことがあるのだとか。

 

 

「やぁ、急に呼び出してすまない」

 

「いえ。それで、お話しと言うのは?」

 

 

 キョウヤに促されてソファーに腰掛けると、付き添いをしてくれたエミリアが紅茶を出してくれる。早々に話を切り出すかと思ったが、キョウヤに口を開く様子が見られないため、紅茶を一口。

 

 喉を潤したところで、ようやくキョウヤが話を切り出してくれる。

 

 

「君にも、個人的に伝えておきたいと思ってね」

 

 

 言いながら、キョウヤが電子パネルを操作すると、シンヤの目の前にとあるリストが表示される。少しずつスライドさせていく内に、それがブレイクデカールに関するものだと分かった。

 

 

「これは……」

 

 

 ブレイクデカールの販売ルートや購入者のリスト。購入者のダイバーネームは伏せられてあるのは、公にするつもりがないからだろう。

 

 

「実は、匿名でリークがあってね。恐らく、彼女からだろう」

 

「アヤメが……」

 

「事情はリクくんから聞いている。彼女も、相当辛かったはずだ」

 

 

 キョウヤ曰く、GBNのログデータにはブレイクデカールの使用履歴が残らないため、簡単に罰することはできないそうだ。運営もその方針は変えず、今はとにかく修正パッチの完成を急いでいるのだとか。

 

 

「君は最後まで戦場にいられなかったから知らないだろうが……これを見てくれ」

 

 

 新たなパネルが表示される。そこには温かい緑色の翼をはためかせるダブルオーダイバーの姿が。

 

 

「この翼が確認された直後、ビグ・ザムは停止。ブレイクデカールによるサーバーへの影響も、瞬く間になくなったそうだ」

 

「そんなことが」

 

「もっとも、リクくんも同乗者のサラくんも、これについては何も分からないと言っている」

 

 

 この時の戦闘データを元に修正パッチが作られているとのことで、完成までそう時間はかからないらしい。

 

 

「と、ここまでは単なる報告だ」

 

 

 キョウヤの声音が変わる。シンヤは思わず居住まいを正して向き直るが、彼は笑みを零さない。畏まらなくていいと言われているみたいだが、真剣な表情を前にしては無理な話だ。

 

 

「改めて、協力してくれてありがとう」

 

「え?」

 

 

 思ってもいなかった一言。シンヤは呆気に取られて、思わず間抜けな返事をしてしまう。

 

 

「初めて出会った時から今の今まで、君はずっと僕に手を貸してくれた。そのお礼をしたくてね」

 

「そんな! 僕の方こそ、前を向く機会をくださって……ありがとうございます」

 

 

 ブレイクデカールが出回り始めたばかりの頃、キョウヤと出会い、ひたすらにマスダイバーを狩り続けた。自分で傷つけてしまったガンプラへの贖罪と答えを追い求めた日々をくれたのは、誰であろうキョウヤだ。

 

 

「結局、僕は君に答えを渡せなかったが」

 

「いいえ。辿り着くための道を示してくれました。例えそれが険しくても、辿り着けると信じてくれたから、導いてくれたんですよね」

 

「あぁ。君なら……いや、君と君のガンプラなら、必ず成し遂げられると信じていたさ」

 

「それで充分です。僕には、とても充分過ぎるほどの信頼です」

 

 

 固い握手を交わし、シンヤは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

 

「それで、アヤメくんのことなんだが……どうやら、GBNにログインこそしているものの、リクくん達とは会っていないみたいでね」

 

「そうでしたか。僕も、彼女とは会えていなくて……」

 

「戦闘データを見せてもらったが、きっと君の言葉は届いているはずだ」

 

「だと、いいんですけど」

 

 

 そこまで言って、はたと気付く。あの時自分は、アヤメになんと言ったのかを思い出した。

 

 

『誰かがアヤメを傷つけるのなら、例えその人を敵に回しても……僕がアヤメを、護ってみせるからぁっ!!』

 

 

 報告のためとは言え、あんなことを言ったのだと改めて実感し、シンヤは顔を赤くする。キョウヤはそれに気付いているのかいないのか、どちらとも言えない表情でニコニコと笑っていた。

 

 

(いや、気付いているよね、あれ……)

 

 

 茶化されるよりはずっとマシだろう。シンヤは出されている紅茶を一気に飲み干して、さっさと帰ることにした。

 

 

「では、これで」

 

「あぁ。急に呼び立ててすまなかったね」

 

 

 キョウヤに一礼し、部屋を出ようとする。その時、ピコンと軽やかな電子音が部屋に響いた。シンヤが、アヤメから連絡が来たらすぐ分かるように設定しておいた電子音だ。

 

 

「アヤメから……!」

 

 

 届いたのは、1通のメッセージ。しかし几帳面な彼女らしくなく、件名が何も記されていない。何を書こうか悩んで、そのまま送ってしまったのだろうかと思い、開いてみる。

 

 

「え?」

 

「どうした?」

 

 

 シンヤの不思議そうな声に、キョウヤも異変に気付いたのかメッセージを覗き込む。しかし本文にあるのはURLだけ。それ以外には何もない、なんとも不可思議なメッセージ。

 

 しかしシンヤは次第に焦りを覚える。何か嫌な予感が付き纏い、嫌な汗が背中を伝う。

 

 

「このURLは……」

 

「GBNのもの、ですね」

 

 

 クエストカウンター、ラウンジ、フォースネスト、モビルスーツハンガーなど、様々な場所が点在するGBNの仮想世界。それらへすぐさま移動できるよう、URLが予め設けられており、クリックすることで瞬時に移ることが可能になっている。

 

 アヤメから届いたメッセージにあるものも、GBNでのみ使えるURLだ。もしも万が一、それしか送れないのだとしたら───。

 

 

「隊長!」

 

 

 静寂を破るように、焦りを滲ませた声が響く。キョウヤが応えるより早く扉が開き、副隊長のカルナが慌てて入ってきた。

 

 

「これを見てください」

 

「なっ!?」

 

 

 カルナが見せた電子パネルに映るのは、何かの生中継の映像のようだ。タイトルは、【ブレイクデカール工作員の処刑】。

 

 

「アヤメ!?」

 

 

 映像の中央に座らせれているのは、ぼかしこそ入っているが間違いない。大事な友達だ。アヤメだ。

 

 シンヤは静止の声を振り切ってフォースネストを飛び出し、外部のURLへアクセスが可能になったところで届いたメッセージに添付されているURLをクリックする。

 

 途端に景色が様変わりし、シンヤはいつの間にかキマイラに乗り込んでおり、目の前には真っ暗な海が──宇宙が広がっている。

 

 予め招待されている人物しか来られない設定なのか、シンヤの後に続く者は誰もいなかった。

 

 

「アヤメは……あのコロニーか?」

 

 

 宇宙には、コロニー以外は何もない開けた空間が広がっていた。映像は零丸のコクピット内部ではなかったから、きっと宙域を漂ってはいないだろう。

 

 

「シンヤさん!」

 

「リクくん?」

 

 

 通信越しに響いた声に振り返ると、そこにはダブルオーダイバーを始めとするビルドダイバーズのガンプラが集まっていた。パネルが表示され、リクと、一緒に乗っているサラが映る。

 

 

「ついさっき、俺たちビルドダイバーズ宛にメッセージが届いたんです。裏切り者を処刑してやるって」

 

「裏切り者って……」

 

「多分、アヤメのこと」

 

 

 サラの切なそうな声に、自然と沈痛した面持ちになっていく。しかしコロニーから幾つものスラスターの光が見えたことで、強制的に気持ちを切り替えさせられる。

 

 先陣を切るのは、金色のガンプラ。戦闘機にも似た、いわゆるウェーブライダー形態で接近してくる機体は、リクたちの前でモビルスーツの姿へと変形。そして、訝しむような声が聞こえてきた。

 

 

「何だ? あんたらも処刑を見にきたのか?」

 

 

 デルタガンダム──対ビームコーティングが施された輝かしい黄金の装甲と赤いツインアイは、百式を思わせる風格を漂わせる。Z計画のコンセプトを元に、可変機構を備えたそのガンプラは、値踏みするようにシンヤたちをじっくり眺めている。

 

 

「あのコロニーに、彼女が?」

 

「あぁ、そうさ。もうすぐ裁かれるんだ」

 

 

 楽しみだろとでも言いたげな雰囲気に、リクは恐ろしさを感じて思わず尻込みする。だが、退こうとは思わなかった。

 

 

「俺たちは、仲間を助けに来たんです」

 

「そうよ!」

 

「お願いです。道を開けてください」

 

 

 リクが、モモが、ユッキーが、口々に言う。仲間を助けたい──この気持ちを分かってもらえると信じているから。

 

 だが───

 

 

「仲間、だと? まさかお前ら……!?」

 

 

 ───突如として、銃口が突き付けられる。

 

 

「させない!」

 

 

 引き鉄が引かれ、銃口から閃光が飛び出す。咄嗟にコーイチのガルバルディリベイクが射線を遮るように前に出て、ハンマープライヤーでビームを弾いた。

 

 それと同時にシンヤがキマイラを駆り、巨大な左腕でデルタガンダムのビームライフルを握り潰す。

 

 

「何するんですか、いきなり!?」

 

「僕たちに戦う気は……」

 

「うるさいっ!」

 

 

 デルタガンダムはビームライフルを捨てて、すかさずビームサーベルを手に取る。それが振るわれるより早く、キマイラが両腕を掴んで身動きを封じた。

 

 

「お前ら、あいつの仲間ってことは、マスダイバーだろ!」

 

「え?」

 

「ち、違うわよ!」

 

「嘘つけ!」

 

 

 信用ならないとわめく相手を前に、コーイチは冷静に現状を整理する。

 

 

「リクくん、みんな。アヤメくんのことが露呈した経緯は分からないけど……彼らはマスダイバーを、ブレイクデカールを憎んでいるんだ」

 

「憎んで……」

 

 

 これまでリクたちが見てきたダイバーは、ブレイクデカールを悪とし、間違いだと言っていた。有志連合戦の時だってそれは同じで、口々に意気込みを叫んでいた。

 

 しかし、誰も憎悪を持ってはいなかった。許せないと口にする者も、ブレイクデカールを使うのを止めれば許せるものだと思っていた。

 

 

「その中に僕らがアヤメくんの仲間であり、助けに来たと言えば、こうなるのは必然だ。確実に助けたいのなら……仲間じゃないフリをして一気に懐に入ることも出来るかもしれない」

 

 

 コーイチの言葉に、リクは顔を伏せる。確かにそれなら無駄な戦闘は避けられるし、うまくすれば誰も傷つけずにアヤメの元へと辿り着ける可能性すらある。

 

 それでも───。

 

 

「いえ。それはできません」

 

 

 面を上げ、ダブルオーダイバーの視線をコロニーに向ける。行き先は、変わらない。

 

 

「だってアヤメさんは、俺たちの仲間だから!」

 

「……了解だ!」

 

 

 リクの決意を聞いて、コーイチはガルバルディリベイクのハンマープライヤーをデルタガンダムの右腕に噛み付かせる。ニッパーのように開いた口が肩に牙を立てて、一気に圧壊させる。

 

 

「みんな、今回は籠城戦だ! アヤメくんを助け出すまで、持ち堪える!」

 

「分かりました!」

 

「それなら、アタシにも出来るかも」

 

 

 コーイチの指示に、ユッキーが真っ先に動き出す。ジムⅢビームマスターが携行しているミサイルを、デルタガンダムに続いていたガンプラに向けてありったけ放つ。

 

 

「シンヤさん。行ってください」

 

「え、僕が?」

 

「行って。アヤメはきっと、シンヤを待っているから」

 

 

 リクとサラの声音に、揺るぎない決意を感じて、シンヤは「ありがとう」と言い残してキマイラをコロニーに向かわせる。

 

 刹那、その行手を阻むように実弾が遠距離から飛来してくる。機体を1回転させて弾丸をかわすが、敵の姿はまだ遠く、視認は叶わなかった。

 

 その射撃を活かすように、死角からビームライフルを連射しながら重量感のあるガンプラが迫った。

 

 

「クラウダか!」

 

 

 『ガンダムX』に登場する登場する機体で、量産数は少ないものの量より質を重視したモビルスーツだ。実弾にもビーム兵器にも強く分厚い装甲を持ちながら、各所に配された大型のスラスターによって高い運動性を維持しているのが強みだ。

 

 ライフルで牽制しながら、クラウダは背部に装備している対艦用のビームカッターを手に、キマイラへ斬りかかる。

 

 

「ぐっ!」

 

 

 対艦用とされているだけあって、大型のビームカッターは重たく、バスタードメイスγで受け止めても勢いを殺しきれない。

 

 

「お前、何で邪魔をする!」

 

「彼女は、僕の仲間だからです!」

 

 

 助けに来たのが不可解で仕方ないのだろう。クラウダを駆るダイバーは苛立ちを隠さないまま、ビームカッターを振るう。

 

 

「何が仲間だ! お前も裏切られただろうに」

 

 

 確かに自分は、アヤメに何も聞かされていなかった。ブースターズにブレイクデカールが渡った時、彼女が関わっていたことも衝撃的だった。

 

 しかし、少なくともアヤメに悪意はなかったはずだ。たった1つ残された、ル・シャノワールの絆とも呼べるガンプラを取り戻すため、自らを偽りながら協力してきた。その事情を知れば、きっと分かってくれるかもしれない。

 

 

(けど、時間がない……)

 

 

 助けが来たとすれば、アヤメに危害が及ぶ可能性が高い。一刻も早く、彼女の傍に辿り着かなくては。

 

 なにより───。

 

 

「約束したんだ。アヤメを、護ってみせる!」

 

 

 ビームカッターとバスタードメイスγとがぶつかり合い、火花を散らす。互いの得物が激突しただけで決定打には至らないが、シンヤはキマイラの進路をコロニーに向けた。

 

 

「行かせるか!」

 

 

 すかさず、クラウダが追いかけてくる。連射されるビームライフルの火線をかわす内に、2機の距離は次第に近づいていく。クラウダが接近戦を試みようと、再びビームカッターに手を出した瞬間、シンヤはキマイラを転身させた。

 

 

「何っ!?」

 

 

 大型で取り回しの悪いビームカッターを抜くより先に、キマイラの左腕がクラウダの動作を一時的に封じる。驚く隙を見逃さず、右腕で頭を鷲掴みにすると間髪入れずにパイルバンカーを打ち込んだ。

 

 頭部をもがれ、ビームカッターを取ろうとしていた右腕も壊された。クラウダは撃墜されることを覚悟していたが、シンヤはそれ以上構うことなくコロニーへ急ぐ。

 

 

「さっきの奴は、あそこだ!」

 

 

 クラウダとぶつかり合う前、キマイラに向けて遠距離から砲撃してきた相手を見つけ、一気に距離を詰めていく。その間にまた実弾が飛んでくるが、それを掻い潜って次発に気をつけながらレールガンで応戦する。

 

 

「ダガーLか」

 

 

 『ガンダムSEED』シリーズに登場する、地球連合軍が有する量産機。その最大の特徴が、バックパックを自由に換装できること。シンヤの目の前に迫るダガーLは、長射程の攻撃を行えるドッペンホルンと呼ばれるもので、先程の攻撃はそれだろう。

 

 接近されたダガーLは、ドッペンホルンでの攻撃を止め、ビームカービンで的確にキマイラを狙う。ライフルよりも小型で連射性に優れるカービンから放たれる光をかわし、或いは対ビーム兵器に強い左腕で薙ぎ払いながら、さらに進んでいく。

 

 

「なんなんだよ、お前らは! 邪魔しやがって!」

 

「貴方達こそ! 処刑と言う言葉に、何も感じないのか!?」

 

 

 キマイラが振り下ろしたバスタードメイスγを、逆手で振り抜いたビームサーベルで受け止めるダガーLは、戦い合うことに少なからず疑問を持っていた。

 

 

「それは……」

 

「彼女がしたことは確かに間違っている。でも、私刑を下されていい理由にはならないはずだ」

 

「だとしても! 俺たちにだってあるんだよ。それだけの理由が!」

 

 

 ビームカービンを投げつけ、キマイラがそれに気を取られた僅かな隙を狙い、ダガーLが力任せに押し返す。

 

 

「例え、私刑だって後ろ指指されてもなあっ!」

 

 

 シールド越しにタックルを決められ、弾き飛ばされたシンヤは姿勢制御に移ろうとして、ダガーLが腰部に格納しているスティレットを手にしたのを見て、慌ててバスタードメイスγを機体の前に持ってくる。

 

 突き刺さったスティレットが鞘を貫徹し、途端に炸裂。鞘がバラバラに砕け散っていく。しかし中のγナノラミネートソードまでは破壊させまいと鞘を捨てて剣を抜き、そのままダガーLへと斬りかかった。

 

 

「うわぁ!?」

 

 

 別の武器が内蔵されているとは思わなかったのだろう。攻勢に転じたキマイラに慄き、ダガーLはシールドを構えることも忘れて刃が振り下ろされるのをただ黙っているしか出来なかった。

 

 

「っ!」

 

 

 コクピットを引き裂くと思われた一閃は、しかし直前でその軌道を変えて両足を斬り落とすだけに留まった。

 

 

「な、何で……?」

 

「戦いに来たんじゃないんです。僕はただ、アヤメを助けに来ただけだから」

 

 

 それ以上は言わず、相手の言葉にも耳を傾けぬまま、シンヤは再びコロニーへの道を急いだ。

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