ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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墓場

「ガンプラの、墓場……」

 

「あぁ。ここがどれだけ寒々しいところか、君になら分かるのではないかな?」

 

 

 宇宙空間をたゆたう幾つものガンプラ。そこに意思は感じられず、誰も乗っていないことがよく分かる。問題はその数だ。4つ、5つと片手で数えられる程度ではない。20、或いは30近い無人のガンプラが、その宇宙を音もなく漂っていた。

 

 

「寒い……」

 

 

 その光景に、思わず呟きが漏れていた。ぎゅっと操縦レバーを握り締めて、心を落ち着かせる。シンヤは機体スピードを落とすと、1機ずつ目に焼き付けるように、ゆっくりと眺めていく。

 

 

「何で、こんなことに」

 

 

 自身が駆るガンダムアヴァランチエクシアダッシュを通じて、無機質な塊と化したガンプラに手を当てる。データで出来上がったものだからこそ、その全身に傷は残っていないが、シンヤにはどこか痛々しく傷ついているように見えた。

 

 

「君にも感じるようだね。この場に散らばったガンプラの、悲しみを……」

 

 

 通信越しに聞こえてきた声に機体ごと後ろを振り返る。図体が大きく、それでいて繊細さを感じさせる美しい造り。白亜の城を思わせる堅牢な四肢とそこに彩られた美麗な水色の装甲が目を惹く機体──セラヴィーガンダムシェヘラザード。そして、そのパイロットであるシャフリヤール。

 

 シンヤは今、マギーを通じてシャフリヤールから連絡をもらい、彼から「墓場に来て欲しい」と言われて、こうして共に行動している。最初墓場と言われた時は何かと思ったが、今こうしてこの場にいるだけで、その意味が理解できた。

 

 

「君はどう思う?」

 

「……怒りが、わいてきます」

 

 

 正直な気持ちをシャフリヤールに伝える。誰かのために怒れるのは一概に悪いとは言えないが、いいとも言えない。それがどんな形であれ、怒りに呑まれればそれは危険でしかない。

 

 

「怒り、か。君らしい回答だ」

 

「シャフリヤールさんは、違うのですか?」

 

「私は……おっと、どうやら主がおいでなさったようだね」

 

「え?」

 

 

 シャフリヤールが機体を向けた先に、シンヤも機体を向ける。スラスターの光が見えた。青い光は美しく、しかし脅威として一直線にこちらへ向かってくる。次第に大きくなっていくその陰は、真紅を基調とした絢爛な機体、シナンジュだった。

 

 

「なんだぁ、ポイント稼ぎに来たのか?」

 

「ポイント?」

 

「そうだよ。ここのガンプラは、引退者から俺がもらったものだ。アカウントごと、な」

 

 

 GBNとて最初から最後まで遊び続けるものはいないだろう。年月を重ねれば、プレイヤーも当然歳を重ねていく。学生だったものは進学もあれば、社会人になった者もいるだろう。リアルが忙しくなれば、当然引退する者も出てくる。そんな彼らは本来であればアカウントを削除するのだろうが、恐らくそうせずにこの墓場の主にアカウントを売り払ったのだろう。ガンプラは適当なものを用意し、アカウントをそのままに誰かが代理でログイン。そして主の贄として動かない的として撃破。そうして主は、ここまで大きくなったと言うことだろう。

 

 

「誰だか知らねぇが、ここは俺の狩り場だ。とっとと失せろ」

 

「いやはや、動かない獲物ばかりのここを狩り場とはね。狩人は余程狩猟が下手らしい」

 

「んだとっ!」

 

 

 シャフリヤールのあまりに見え透いた挑発。それでも主は簡単にそれに乗っかり、ビームライフルを構えて躊躇いもなしに引き鉄を引いた。ジオンモビルスーツらしい、黄色く眩い閃光。しかしセラヴィーガンダムシェヘラザードはそれを容易くかわすと、右手に構えていたGNフィジカルバズーカが火を吹いた。予てから反撃を決めていただけに、その動きに無駄はなく素早い。

 

 しかし───

 

 

「直撃……いや!」

 

 

 まっすぐに放たれた光は吸い込まれるようにしてシナンジュを捉えたが、その身体に紫色の不気味な光がまとわりついたのを見て、シャフリヤールは視線を鋭くする。

 

 

「ブレイクデカール……!」

 

 

 話を聞くために火力を弱めていたからなのか、ブレイクデカールの力を発揮したシナンジュの身体には傷の1つもない。入れ替わるように前へ出たシンヤは、GNソードを閃かせて肉薄する。単調な一直線の攻撃。容易くかわされて当然のそれは、シンヤに注視させることで意識外からセラヴィーガンダムシェヘラザードが砲撃するための隙を作り出したものだ。

 

 

「もらう!」

 

《硬くなっただけじゃあねぇんだよ!》

 

 

 GNフィジカルバズーカが放たれるものの、砲火は紙一重でかわされてしまう。すかさず、シンヤが畳みかけようと迫るも、その行手を阻むように1機のガンプラ──ザクⅢ改が漂ってきた。

 

 

「くっ……!」

 

 

 邪険にすることもできず、シンヤは思わず動きを止めてしまう。GBNにあるならば宿っているはずの命の煌めきはそこにはなく、不規則に点滅を繰り返すモノアイが不気味にこちらを見ている気がした。

 

 

「下だっ!」

 

「なっ!?」

 

 

 シャフリヤールの叫びにつられてカメラを向ければ、赤い閃光がビームライフルを放ちながら迫ってくる。なんとかギリギリのところで回避に成功するが、目の前を通り過ぎていくシナンジュは猛スピードで墓場を駆け抜け、シンヤには簡単に捉えられそうもない。

 

 

《そらよっ!》

 

 

 一瞬だけ何かに着地してスピードを殺したシナンジュ。しかしシンヤがライフルを構えるより早く再び機動力を活かしてその場を離れてしまう。その代わりとでも言うように、シナンジュが着地につかったデブリが飛んでくる。

 

 

「この人……!」

 

「慣れているな、墓場での戦いに」

 

《当たり前だろ。ここは俺が狩人になる戦場だぜ? お前らは、ただの獲物なんだよぉっ!》

 

 

 GNフィジカルバズーカで進路を妨害するが、シナンジュはその尽くをかわし、セラヴィーガンダムシェヘラザードとの距離を詰めていく。しかしシャフリヤールは機体を下がらせず、ひたすらにバズーカを放ち続けるが、次第に放たれる砲火は弱々しくなっていった。

 

 

(GN粒子を使いすぎないようにしてるのか)

 

 

 機動戦士ガンダム00の作中で登場するガンダムタイプが装備する太陽炉によって生成される粒子を指すGN粒子。作中でこの粒子は多くの特性を有しており、粒子を圧縮して解き放つことでビーム兵器として扱うことができ、或いは形成することでGNフィールドなどのバリアとしても転用することができる。GBNでもその設定は健在で、ガンプラの出来によって粒子量を左右されてしまう。シャフリヤール程のモデラ―ならば、粒子量をセーブしながら戦う必要はないのだろうが、相手は高機動のシナンジュだからなのか避けられることを考えているようだ。恐らく、ここぞと言うところで大火力を放つつもりなのだろう。

 

 援護すべく、シンヤもアヴァランチエクシアダッシュを駆ってGNソードで幾度となく接近戦を試みる。粒子残量を気にしているのは、シンヤもまた同じだった。アヴァランチエクシアダッシュはGNコンデンサーを摘んで本来のエクシアよりも粒子量は多くなっているが、それはあくまで高機動戦闘を行うためのものとなっている。出し惜しみして撃墜の機会を逃しては元も子もないが、相手も高機動を売りとしているシナンジュだ。ブレイクデカールの力も相まったその機体に、迂闊にGN粒子を消費するわけにはいかなかった。

 

 機動性はそこまで劣っていないはずなのに、周囲を漂うガンプラに何度も動きを阻害されるせいで、シナンジュへの痛烈な当たりは未だにない。だが、シンヤもシャフリヤールも簡単にやられるほど柔ではないため、決めきれないのはお互い様と言えた。

 

 

《クソが……!》

 

 

 先に苛立ちを明らかにしたのは、シナンジュの方だった。この墓場での戦いに慣れているからこそ、シンヤとシャフリヤールのどちらにも大したダメージを出せていないことに焦りが出てきたのだろう。左手にビームサーベルを掴み、アヴァランチエクシアへと斬りかかる。下がるのは簡単だが、後ろを浮遊しているガンプラに気付き、シンヤもGNビームサーベルを引き抜いて刃をぶつけ合った。刃と刃とが噛みつき合い、閃光を虚空に散らす。

 

 

《はっ、やり合おうってのかよ!》

 

「くっ……パワー負けする!?」

 

 

 ブレイクデカールで増した強さは生半可なものではない。それを表すように、シナンジュは徐々に徐々にアヴァランチエクシアを押していく。援護しようにも2機の距離があまりに近すぎるため、シャフリヤールはビーム兵装を使えないでいる。このままでは押し負ける──そう思われた瞬間、アヴァランチエクシアが動いた。押し切られる力を利用して既の所でビームサーベルの一閃をかわすと、その場で一回転しながらGNソードを展開。ビームサーベルを振り切ったばかりのシナンジュへ向けて、今度はシンヤから斬りかかる番となる。

 

 

「これで……!」

 

《させるかよぉ!》

 

 

 途端にバーニアを吹かし始めたシナンジュ。GNソードが振り下ろされる前に、一気にアヴァランチエクシアに飛び込むと、そのまま背後のガンプラを巻き込んでデブリに衝突させられてしまう。

 

 

「がはっ……!」

 

 

 大きな振動を再現するように、コクピットがデタラメに揺れる。それでもシナンジュから視線は外さずにいると、シールドに懸架しているビームアックスがその刃を閃かせて振り下ろされてくるのが目に入った。真上に逃げれば行手を阻まれるのは必至。GNシールドは背部に懸架しているせいですぐには取り出せない。

 

 

「このっ……!」

 

 

 それでも、アヴァランチエクシアなら──押されてばかりで惨めな自分に舌打ちし、シンヤは懸命にアヴァランチエクシアを駆って機体を翻させる。ギリギリで回避したアヴァランチエクシアだったが、自分と共にデブリにぶつけられたガンプラが──ガブスレイがたちまち一刀両断されて一瞬の閃光を見せた。

 

 

《チッ……仕方ねぇか》

 

 

 溜め息交じりの呟きが通信越しに聞こえてくる。諦め、落胆、そんな感じはあるが、武装は構えたまま。互いににらみ合いが続くかと思われたが、先に動いたのはシナンジュだった。シールド裏に装備していたバズーカをビームライフルの下部にセットすると、1発、2発と立て続けに放っていく。

 

 

「その程度!」

 

 

 すかさずシャフリヤールが前面に出て、GNフィールドを展開しては次々と迫りくる弾丸を受け止めていく。堅牢なシールドをバズーカが打ち破ることは叶わず、はじけた銃弾によって辺りが黒煙に包まれていった。

 

 

「うん?」

 

「この、反応は……!?」

 

 

 周囲が煙で満たされていく中、新たな敵性反応にシンヤ達は眉を顰める。反応は本来のモビルスーツのサイズとは違う。明らかに大きく、強大なもの。“ソレ”がなんなのか、2人にもすぐに察しがついた。敵はシナンジュを駆っているのだから、その機体を知るものならば誰もが想像するのは容易いだろう。

 

 

「やれやれ……そんな大物を引っ張り出してくるとはね」

 

「ネオ・ジオング……!」

 

 

 黒煙が晴れる。その時には既に、目の前に巨体が現れていた。中央に鎮座するシナンジュ。それを強大な真紅の身体が取り囲んでいる。絶望を体現したようなその姿を前にして、しかしシャフリヤールはなおも笑みを浮かべていた。

 

 

《こいつでお前らをぶっ潰してやるよぉ!》

 

 

 愉快に笑い、ネオ・ジオングはその両腕に備わった5本指のような筒に光が集束していく。距離をとってもビーム砲が貫こうと追いかけてくるのは必至。ならばと出現したばかりの姿勢制御の時間を活用して、一気に真下へ入り込んでいく。

 

 

「Iフィールドは利かない!」

 

 

 ビーム兵器を防ぐとされるIフィールドを常時展開しているネオ・ジオング。その堅牢なバリアはガンプラの出来によって性能が様変わりするようになっているが、ブレイクデカールを使用しているあの状態ではビーム主体のセラヴィーガンダムシェヘラザードからの攻撃はあまり通らないだろう。

 

 

「はあぁっ!」

 

 

 GNソードでネオ・ジオングの真下に位置する大型のプロペラントタンクに刃を突き立てる。脆い造りはしていないが、アヴァランチエクシアの振るうGNソードもそれは同じ。十字に切り裂き、最後に切り飛ばすように一閃。労することなくプロペラントタンクは尖端からバラバラと崩れ去っていく。がら空きとなったそこへ、GNビームバルカンを斉射して火の手を巻き起こした。

 

 いくらIフィールドが堅牢であろうと、これだけ接近した上で破損した場所を重点的に撃ち続ければ耐えられまい。

 

 

《鬱陶しいんだよぉ!》

 

 

 残る1本も破壊してしまおうと刃を振りかぶるアヴァランチエクシア。しかしネオ・ジオングの背部に懸架されている4本のアームユニットが稼働し、有線式の大型ファンネル・ビットが襲い掛かる。1つのアームユニットに5つ存在するファンネル・ビット。その全て──20ものファンネル・ビットが一斉に襲撃してくる様は、不気味でさえあった。

 

 

「くそっ!」

 

 

 退くしかない状況に、シンヤはGNソードで退路を塞ごうとするファンネル・ビットを切り落としながら道を開く。もうすぐでシャフリヤールと合流できるところまで来た。が、突如として2人の間に10機のガンプラが押し寄せてきた。

 

 

「何だ!?」

 

「まさか……!」

 

 

 すべてのガンプラに繋がれた、ファンネル・ビット。有線式のそれは、3本爪のワイヤーアンカーを射出して機体に取り付くことで、操作を乗っ取る“ジャック”の機能を有している。墓場と称させるここは、数多のガンプラが漂っている。胸部、背部に、ファンネル・ビットが取りつき、動きをジャックする。

 

 

「くっ!」

 

 

 目の前にいたリーオーが、ぐぐっと不気味な動きを見せる。右手に持っていたマシンガンをアヴァランチエクシアに向けて連射しながら肉薄してくる。ジャックされたことに驚いたせいで距離を稼げなかったシンヤは弾丸をかわすこともできず、シールドで防ぐ。だが、2機の距離は見る見るうちに近づいていき、遂にはリーオーがビームサーベルを引き抜いて切りかかった。

 

 

「このっ……!」

 

 

 しかも避けた先にはグレイズリッターが待ち伏せていて、引き抜いたサーベルを振りかぶってリーオーと挟み撃ちをしようと迫っていた。

 

 GNソードで充分対応可能な距離だ。しかし、シンヤは反撃せすにアヴァランチエクシアを下げた。リーオーとグレイズリッターはネオ・ジオングにジャックされたままぶつかり合い、互いの胴体に刃が突き刺さってしまう。

 

 

「あっ……」

 

 

 その光景を目の当たりにして、シンヤは短い悲鳴を漏らした。自分が避けなければ、操られたまま傷つけ合うこともなかったはずだ。

 

 

「っ……だけど!」

 

 

 しかし、反撃しても結果は同じだろう。斬った人物が味方からシンヤに変わるだけ。結局は切り裂かれるしかなかったのだ。

 

 ジャックする相手を失っておきながら、ファンネル・ビットは迷うことなく次なる獲物に食らいつき、その身を蝕んでいく。目の前で偽物の生を授かるガナーザクウォーリアとドラッツェ。2機は隙だらけとなったシンヤに狙いを定めると、一気にけしかけてきた。

 

 ドラッツェが迫り、アヴァランチエクシアの周りを何度も駆け巡る。それだけで終わるはずもなく、背後に回り込んだ瞬間からマシンガンが火を吹いた。高速で移動を続けるドラッツェから、取り囲むように放たれる弾丸。シールドで要所は守られているが、ファンネル・ビットを通じてブレイクデカールの力を得た弾丸は思っていた以上に鋭利で、不要な動きをすればたちまち装甲を削られそうだ。

 

 

「しまっ……!」

 

 

 逃れるタイミングを掴もうとすれば、ガナーザクウォーリアが行手を阻んだ。肩についたシールドを前面に押し出し、アヴァランチエクシアへとタックルをかます。虚空へ放り出されるようにして弾かれたシンヤは、強い衝撃に呑まれてモニターから視線を外してしまう。

 

 慌てて顔を向けたが、もう遅い。ガナーザクウォーリアが構えたビーム砲、オルトロスの砲口が眩いばかりに光った。

 

 やられる──そう直感し、なんとはなしに身構えてしまう。しかし、自分と愛機とを貫くであろうと思われた閃光は、間に入った1機のガンプラによってなんなく弾かるのだった。

 

 

「シャフリヤール、さん……」

 

「さっきまでの威勢はどこへやら。あぁ、いや。別に呆れてるわけじゃないんだ。ただ、あまりに落差があったからね」

 

 

 言いながら、シャフリヤールはセラヴィーガンダムシェヘラザードのGNフィールドを展開し、アヴァランチエクシアを守護する。温かな緑閃光が包み込む空間で、シャフリヤールはシンヤと向き直った。

 

 

「シンヤくん。何故、手を動かさないんだい?」

 

「それは……」

 

「リーオーの時もドラッツェの時も、明らかに動きが遅かったが……君は、彼らと戦うのが怖くなった。そうだね?」

 

「……はい」

 

 

 言い当てられ、弱々しく肯定する。かつて自分のガンプラを傷つけてしまった経験から、シンヤは例えデータの中であろうとガンプラが傷つくことを恐れた。戦いの中被弾するのは当たり前だと理解していても、納得ができないのだ。なにより、今シンヤらを狙うのはジャックされたガンプラで、そこに意思が宿っていないと思うと尚更だった。

 

 

「傷つくことも、また愛があるからこそだよ」

 

「え?」

 

「誰だって、1度の傷もつけずに強くなった訳じゃない。傷ついても次を考え、次を見据え、そのために直し、挑み、その果てに勝利を掴むものさ」

 

「果て……」

 

「そう。傷ついたのなら、傷つけたのなら……それに相応しい愛を見つければいい!」

 

 

 GNフィールドを解き、フィジカルバズーカでドラッツェを撃ち貫く。その射撃に躊躇いも迷いもなく、こうするべきだと確信をもって引き鉄を引いた姿勢は光り輝いて見えた。

 

 

《最後の会話は済んだかよ》

 

「無論まだだとも。彼とはこれからも話すからね。

 それより、待たせた非礼を詫びよう。全力をもってね!」

 

 

 シャフリヤールの啖呵と共に、セラヴィーガンダムシェヘラザードの背面に備えていたプトレマイオスが動き出す。

 

 

「トレミー、砲撃モード!」

 

 

 引き鉄にあたる部分を握り締め、前面に展開されたプトレマイオスの砲口が光を集束していく。その輝きは瞬く間に強大な力を内包し、膨れ上がった。

 

 

「アルフ・ライラ・ワ・ライラ!」

 

 

 必殺技の名が、虚空に轟く。放たれたビームはプトレマイオスがもつ砲口の大きさからは想像できないほどに強大で力強く、ジャックされていたガンプラはその悉くを塵芥へと姿を変えていった。

 

 

《バカが! こっちにはIフィールドがあるんだよぉっ!》

 

 

 その言葉を証明するように、ネオ・ジオングに迫ろうとしていたビームは、Iフィールドによって弾かれてしまう。

 

 しかしシャフリヤールは砲撃をやめない。それどころか涼しい顔で言ってやった。

 

 

「確かにIフィールドは堅牢のようだ。だが……“それがどうした?”」

 

《なっ、にぃ……!?》

 

 

 見る見る内に出力を上げていくビームの奔流。Iフィールドを気にする素振りすら見せず、少しずつだが確実にフィールドを貫こうとしていく。

 

 

《あり得ない! こっちはブレイクデカールも使ったIフィールドなんだぞ!?》

 

「おやおや。目の前で起きていることすら信じられないとは。

 所詮は愛のないダイバーと言うことか」

 

《何が愛だ! 必要なのは力だ!》

 

「その力とやらはすぐに打ち砕かれるさ。

 覚えておくといい。愛は、常識を凌駕する!」

 

 

 シャフリヤールの宣言通り、遂にビームはIフィールドの壁を突破してネオ・ジオングの腹部を撃ち貫いた。ぽっかりと大きな穴が空いたかと思えば、徐々に爆発を起こしてその巨体を揺らした。

 

 

「あとは君に任せよう。頼めるかい?」

 

「……はい!」

 

 

 答え、シンヤはアヴァランチエクシアを駆った。ネオ・ジオングに収まっていたシナンジュは早くも離脱しており、シンヤはその後を追いかけていく。

 

 バズーカを構えたシナンジュの真上を取り、その砲身に向かって脚部の追加ユニットからGNクローを展開して掴みかかる。そしてもう片方の足も同様に追加ユニットを駆使してビームサーベルを繰り出し、バズーカを叩き斬る。

 

 

《ちくしょうが!》

 

「逃がさない!」

 

 

 ライフルを掴んだ時にはもう、シナンジュはそれを手放していて、再び身を翻して宙域を駆け抜けていく。

 

 

《どけっ! どけぇ!》

 

 

 通信越しに聞こえてくる男の声はかなり切羽詰まった危機感を感じさせるものだが、進路を漂うガンプラを不器用に蹴散らす姿はシンヤにとって心苦しくもある。

 

 

「ごめんね」

 

 

 シナンジュに弾き飛ばされたジャハナムが、アヴァランチエクシアの目の前に転がり込んできた。さっきまでなら立ち止まってでも受け止めたところだが、シンヤは迷わずGNソードを一閃。呟くように謝りながら駆け抜けていく。

 

 しかしブレイクデカールで強固になった身体は、墓場に浮くガンプラとぶつかっても怯まないため、気にする必要もなく逃げに徹する。それに対してシンヤは進路上にあるものは排除しながら追いかけているため、次第に距離ができていく。

 

 

「……デブリに逃げるつもりか」

 

 

 向かう先に見えたのは、様々なデブリが散在する空間。シナンジュはさらに速度を上げていくが、ここで取り逃す訳にはいかない。しかしこのまま突っ込めば、間違いなくデブリで装甲が傷つくだろう。

 

 

「あのシナンジュを倒しても、傷を勲章だなんて偽る気はないよ。

 君の傷を忘れない。それが今、僕ができる唯一のことだと思う」

 

 

 アヴァランチエクシアに語りかけ、シンヤは強く操縦桿を握り直す。

 

 ガンプラは何も言わない。何も答えない。何も教えてくれない。これが正解なのか間違いなのか分からない。

 

 

「僕を信じて欲しいなんて言えないけど……でも、君のことは信じてる。

 だから……一時でもいい。君の力を、貸してくれ!」

 

 

 GNバーニアが展開し、アヴァランチエクシアが爆発的に加速する。迷わず一気にデブリ帯へと突っ込んでいき、シナンジュをモニターに捉える。ハイスピードで後ろに流れていくデブリ。小さなものは気にせず、大きなものはビームサーベルやロングソードを突き立てて破壊し、突き進む。

 

 

「まだだ。まだ、こんな物じゃない。

 そうだろう、エクシア!」

 

 

 まだ遠い。まだ届かない。

 

 しかし、シンヤは諦めない。強く吠えた彼に合わせて、アヴァランチエクシアの身体が赤く染まっていく。

 

 

「トランザム!」

 

 

 TRANS-AM──トランザムシステム。機動戦士ガンダム00に登場する一部の機体が有するシステムで、一時的に機体性能を著しく向上させるものだ。システムの起動時には機体が赤く染まり、太陽炉から出るGN粒子も多くなる。

 

 だが、システムには当然ながら制限時間が設けられており、GN粒子を多用することから終了後に機体の性能は通常よりも大きく下がってしまうデメリットも存在する。

 

 GBNでもその全てを再現しており、原作通りアヴァランチエクシアはその機動性を高めてシナンジュに迫った。

 

 

「GN粒子、最大解放!」

 

 

 アヴァランチユニットの各部を展開し、機体速度を限界まで引き上げる。あと少し──眼前にまで近づいたシナンジュの背中へ、アヴァランチエクシアが襲い掛かる。

 

 その時、唐突にシナンジュが振り返った。もうすぐ傍まで迫ったこのタイミングでわざわざこちらを向いたとなれば、目的は攻勢に転じることただ1つだろう。いくらガンプラの機動性が上がったとは言え、操縦者の反応速度は変わらない。そこに付け入る隙は充分にあった。

 

 突き出されるビームライフル。その銃口には既に自分とアヴァランチエクシアとを貫こうとする光が獲物を今か今かと待ち望んでいた。

 

 

(なんとかかわして……いや)

 

 

 迫られる判断。悩む時間はなく、誤った方向に動けば即座に撃たれてしまうだろう。迷ってる暇はない。やると決めたからには、最後まで貫き通す。

 

 

《墜ちろぉっ!》

 

 

 切望にも似た叫びが、耳をつんざく。放たれた砲火はアヴァランチエクシアを焼こうと一直線に走り抜ける。

 

 

「エクシア!」

 

 

 直撃する──いや、シンヤがそれを赦すはずがなかった。咄嗟にアヴァランチユニットを全てパージし、そこから脱したエクシアの真上を一筋の閃光が駆け抜けた。火線はそのままアヴァランチユニットだけを破壊する。

 

 

「うおおおぉぉ!」

 

 

 飛び出したエクシアは、トランザムを維持したままシナンジュへ突進していく。

 

 

《なっ!?》

 

 

 そして、GNソードがシナンジュの胴体へ深々と突き刺さった。モノアイは明滅を繰り返し、刃に貫かれた場所は立ち所に火をあげる。

 

 

「……ありがとう、エクシア」

 

 

 愛機に語りかけるシンヤの声は、どこか嬉々としていた。敵を倒したことの喜びではない。応えてくれたことへの感謝をこめて。

 

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