ガンダムビルドダイバーズ -once more-   作:雷電丸

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祝! ビルドダイバーズリライズ再開!

ヒロトとイヴの出会いと別れ、とてもくるものがありましたね。
最初で最後の約束を破ってしまったヒロトの後悔、見ていて辛かった……。


当作品は前作にあたるビルドダイバーズが主軸なので関わるとしたらラストの第二次有志連合戦ぐらいでしょうね。


2つの再会

 タイガーウルフ、シャフリヤールの元で過ごした経験はシンヤの心持ちを少しだけ変えた。思わずガンダムベースに自転車を走らせ、気付けば顔見知りのコウイチを見つけて声をかけていたほどに。

 

 

「まさか、初仕事が君にガンプラを渡すことになるなんてね」

 

 

 ふっと微笑むコウイチの言葉に、シンヤはやっと違和感に気付いた。いつもの私服姿ではなく、店のエプロンをかけている。つまり彼は、ガンダムベースで働き始めたと言うことだ。

 

 彼に案内されながら、まだ人気のないロッカーへ足を運ぶ。朝一で来たからシンヤとコウイチ以外には誰もおらず、喧騒には程遠い中、コウイチは1つのロッカーを指し示した。

 

 

「ここだよ」

 

 

 代わるようにしてロッカーの前に立った瞬間、シンヤの心臓がドクンと跳ね上がった。自分で決めたことなのに、今更ながら尻込みしてしまうなんて情けない。

 

 

「じゃあ、外で待ってるから」

 

 

 何かを察してくれたのか、コウイチはそれだけ言い残して出て行く。感謝の言葉を伝えることも忘れてしまうほどに、今のシンヤには目の前のロッカーしか頭になかった。そして、意を決して取っ手に手をかける。ゆっくりと開くと、そこにはずっと手にするのを恐れていたガンプラが2つ、雄々しく直立した姿で収められていた。

 

 

「遅くなってごめん」

 

 

 しばらく無言で眺めていたシンヤは、絞り出すようにそれだけ言うと、2機のガンプラをそっと手に取る。鮮やかさはないが、印象深い蒼で染められた身体は記憶に焼きついているのとまったく変わらない。

 

 ペイルライダー。シンヤが初めてGBNで使用したガンプラであり、傷つけてしまったガンプラでもあった。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「シンヤくん、GBNでペイルライダーは使うのかい?」

 

 

 ラウンジエリアに通されたシンヤは、逡巡する。せっかく迎えたのだからそれが理想的なのは分かっている。しかし、人前で乗るのは少しばかり抵抗があった。黙っているのを肯定と受け取ったのか、コウイチがおずおずと口を開く。

 

 

「実は……折り入って君にお願いがあるんだ」

 

「僕に、ですか?」

 

「もしよかったら、久しぶりにペイルライダーに乗るリハビリがてら、僕のランク上げに付き合ってもらえないかな?」

 

「えっ……でも、コウイチさんは確か……」

 

 

 シンヤの記憶が正しければ、コウイチはガンプラバトルから引退していたはずだ。理由は聞かなかったが、その決意は固く、そう簡単に覆るとは思っていなかっただけに驚きを隠せない。

 

 

「実は、知り合いに触発されてね。今は、フォース設立のためにランクを上げてる最中なんだよ」

 

「フォース、ですか」

 

 

 ふと、シンヤの脳裏にかつての記憶が蘇る。仲間──フォースメンバーとして信じて疑わなかった彼らの、嘲るような笑い声とともに。

 

 

「もちろん、無理にとは言わないよ」

 

 

 無意識の内に握り拳を作っていたのに気付いたのか、コウイチが慌てた声を出す。その声にハッと我に返り、シンヤは首を振る。

 

 

「いえ、大丈夫です。僕で良ければ、いくらでもお力添えします」

 

 

 せめてもう1度──もう1度だけでいいから、このガンプラでGBNに臨みたいと思ったのだ。その機会を自ら手放すなど勿体ない。なにより、コウイチが見込んだ人物らが結成したフォースならば、心配もいらないだろう。

 

 ミッションを行う日取りが決まったら改めて教えてくれるとのことで、コウイチと連絡先を交換するとシンヤは2機のペイルライダーを鞄へ丁寧にしまい、その場を後にした。

 

 

(戦えるといいけど……)

 

 

 ペイルライダーを駆り、GBNで自分がしてきたことを思い出すだけで、足が竦みそうになる。フルフルと弱々しく頭を振って気持ちを切り替えようと顔を上げると、ふと1人の少女が目に入った。

 

 

(あれって……フジサワさん?)

 

 

 シンヤと同じクラスに在籍する少女、フジサワアヤ。クラスメートと呼ぶにはまともに会話したことがないし、彼女自身がどこか人を寄せ付けない気配を纏っているようにも見える。それでも、艶やかな髪と整った目鼻立ちや、凛とした雰囲気と合致したきりっとした表情が素敵だと、誰かが言っていた気がする。

 

 アヤは何かじっくりと見ている様子だが、言われてみればなるほどと納得する可愛さだった。もっとも、シンヤには人をじろじろと見る趣味などないので、さっさとその場を立ち去るつもりでいた──彼女が、視線に気がつくまでは。

 

 

「あっ……」

 

「あ……」

 

 

 シンヤが見ているのに気がついたのか、アヤが振り向く。見入っていたシンヤは視線を外すのも忘れていたわけで、当然ながら視線が重なり、声も重なる。その瞬間、アヤは慌ててその場から走り、まるで脱兎の如く出入口まで駆け抜けていくのだった。

 

 

「悪いことしちゃったよね……」

 

 

 次に学校で会ったら謝ろう。強く心に決め、シンヤは逃げていったアヤとは真逆でゆっくりとした足取りで店を出て行った。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 数日後───。

 

 コウイチから連絡をもらったシンヤは、自宅からGBNへとログインする。待ち合わせの場所と、アバターの特徴を事前に聞いておいたお陰で、すぐに彼と合流できた。どうやら他のメンバーは先にハンガーで待っているらしい。

 

 

「連戦ミッションはこれだけど、難易度とかは……聞くまでもないよね」

 

「はい、大丈夫だと思います」

 

 

 恐らくランクを見たのだろう。ミッションの難易度が高いことはなさそうだ。シンヤも、コウイチに許可をもらってプロフィールを見せてもらう。名前はリアルにだいぶ近いものだが、このGBNではあまり珍しくないことだった。シンヤなどはそのままだし、一文字だけ変えて済ませる人もいるぐらいだ。

 

 

「みんな、お待たせ」

 

「あっ、コウイチさん」

 

「早かったですね」

 

「うん、すぐに合流できたからね」

 

 

 コウイチへ駆け寄る4人の少年少女。もっと同年代で組んでいると思っていただけに、シンヤは思わず呆然としてしまう。そんな様子にも気づかず、青い服の少年がゆっくりと歩み寄り、一礼。

 

 

「はじめまして。俺、リクって言います」

 

「僕は、ユッキーです」

 

「私はモモ! それでこっちが……」

 

「サラ、です」

 

「あぁ、はじめまして。シンヤです」

 

 

 立て続けに名乗られて、思わず尻込みしそうになる。それでも、誰もが柔和な笑みを浮かべ、自分を歓迎してくれているのが分かると、不思議と緊張感も和らいでいく。

 

 

「あの! 早速なんですけど、シンヤさんのガンプラを見せてもらってもいいですか?」

 

「ちょっと待ってね」

 

 

 催促され、シンヤはハンガーの1つの前に立つとペイルライダーを具現させる。仮想世界なのだから具現とは言い難いのだろうが、実際に目の前に現れるとその表現がぴったりな気がした。

 

 瞬時に現れる、蒼い機体。懐かしさと共に込み上げる不安に、足が竦みそうになる。しかし、隣に並んでいたリクたちが「わぁっ!」と楽しそうな声を上げると、まるで一陣の風となってはその不安をさらって行った。

 

 

「ペイルライダーだ!」

 

「しかも、陸戦型の重装備仕様だよ」

 

 

 カスタマイズしていないのに、リクもユッキーも興奮気味にペイルライダーを見上げる。モモとサラはガンプラに詳しくないのか、可愛らしく小首を傾げているものの、真剣な眼差しで見詰めてくれていた。

 

 

「かっこいいですね!」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 あまりに素直で、まっすぐな賛辞。シンプルな言葉なのにどこかくすぐったい。それだけこのガンプラには思い入れがあるし、なにより一生懸命に取り組んできた。カスタマイズせずとも、誰かの目に触れ、少しでも魅力を感じてもらえたこなら嬉しいに決まっている。

 

 

「じゃあ、今日のミッションを説明するよ」

 

 

 コウイチの言葉に全員が振り返り、彼が表示したディスプレイに視線を移す。プレイするのは至ってシンプルな連戦ミッションだが、各ステージごとに出撃制限が設けられているもの。リーダーとなる1人を選出し、その人物はラストステージまで連続で戦うことになる。

 

 

「このミッションはリーダーが撃墜されただけでも失敗になる。しかも、その機体は途中でダメージを回復できないから、相当負担がかかることになる」

 

「うー、私には向いてないかも」

 

「ぼ、僕も」

 

 

 コウイチの説明に自分たちには不向きだと判断し、僅かに後ろに下がるモモとユッキー。残るはコウイチとリク、そしてシンヤになるが、コウイチは味方の連携具合を確かめたいからと後ろで見ていることに徹するらしい。

 

 

「じゃあ、よかったらシンヤさん、お願いします」

 

「え、僕?」

 

 

 リクの思わぬ提案に、シンヤは不思議そうに首を傾げる。実力を知らない相手に任せるのはかなり大胆だと思ったが、彼はまっすぐに見詰めながら頷く。

 

 

「はい、シンヤさんが適役だと思うんです」

 

「そう言ってもらえるのはありがたいけど……」

 

 

 リクが信用しようとしてくれている。それに応えたいシンヤだったが、思わず振り返り、ペイルライダーを見上げる。かつて傷つけてしまった愛機が、そんな自分に応じてくれるがどうか、不安が募る。

 

 

「大丈夫」

 

「え?」

 

「その子、あなたと一緒がいいって言ってる」

 

 

 サラの、すべてを見透かしたような物言い。しかし不気味な気配はなく、寧ろその言葉は信頼に足るように思える。眩しいほどに美しいサラの姿と言葉、そして微笑みがシンヤの中で決意を促した。

 

 

「分かった。やってみるよ」

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「リク、ダブルオーダイバー、行きます!」

 

 

 快活な声と共に出撃していく機体と、その中にいるであろう少年を見送り、シンヤは操作レバーを強く握る。先程、サラが声をかけてくれたからだろうか。不思議と、緊張感はない。

 

 そして───

 

 

「シンヤ、ペイルライダー、出ます」

 

 

 ───蒼いガンプラはGBNの世界へと、再び身を躍らせた。

 

 先行するリクが駆るダブルオーダイバーは原型にかなり近い造りをしていた。太陽炉と呼ばれるエネルギー機関が備え付けられている両肩部分には、両刃の大剣が一振りずつ搭載されており、格闘戦に特化しているのがよく分かる。

 

 背部も多少の変更はあるが、リク曰く「まだ未完成なんです」とのこと。どうやら機動性はそれで補うつもりらしい。

 

 

「見えてきた!」

 

 

 リクの声に視線を彼から外し、モニターに映る敵影を見る。数は2桁は行かないが、それに迫る9機はあった。サンドブラウンを基調とし、そのどれもが違う姿をしている。無骨だが、禍々しさはなく力強さ溢れる姿勢でこちらを見やる。

 

 

「マグアナック!」

 

「9機ってことは……」

 

「ラストステージの隊長機はサンドロック、ですね」

 

 

 ガンダムサンドロックを隊長として、40機のマグアナックからなる大部隊。サンドロックは独特な格闘兵装、ヒートショーテールを有し、マグアナックはそれぞれ独自のカスタマイズを行っていて1つとして同じ姿はないとされている。

 

 今の時点で9機のみ現れていると言うことは、4ステージ目までは9機のマグアナックだけだろう。そうなると、ラストステージは恐らく残り4機のマグアナックと隊長機のサンドロックがくるはずだ。

 

 

「よぉしっ!」

 

 

 意気込み、リクはダブルオーダイバーの速度を上げてマグアナック部隊に向けて駆けていく。尻込みなどしない、思い切りの良い動きだ。まるで、初めてGBNにログインした時の自分を見ているような気分だ。今ではすっかりその姿勢が欠落してしまっただけに、羨ましく思う。

 

 

「行こうか、ペイルライダー」

 

 

 それでも、もう1度──そう決めたのだから、引き返すなどと情けないことは言わない。まっすぐに前を見据え、シンヤも戦闘の渦中へと身を投じた。

 

 突っ込みすぎないよう、中心部から少し離れた場所に降り立ったダブルオーダイバー。すかさずスーパーGNソードⅡを一閃し、ライフルに指をかけていたマグアナックの腕を斬り落とす。一時的に戦力を削いだら、そのマグアナックには目もくれず、奥に控えていた次の目標へ向かってもう片方の手に握られたスーパーGNソードⅡをライフルモードに切り替え、引き鉄を引いた。放たれた色鮮やかな光線は真っ直ぐにマグアナックの胴体を貫き、爆発させる。

 

 

「よしっ!」

 

「リク!」

 

 

 自分の思い描いた通りに事が運び、リクは笑みを浮かべる。そんな彼と同乗していたサラに呼ばれて振り返ると、先程片腕にしたマグアナックがアックスを振り上げているのが目に入った。避けられる──が、それは恐らくギリギリだろう。致命傷は受けないかもしれないが、それでも甘んじて受け入れる気は毛頭ない。

 

 今にも眼前に迫るアックス。しかし、振り下ろされるより早く、マグアナックの巨体が真横へと少し吹っ飛んだ。

 

 

「リクくん、大丈夫?」

 

「シンヤさん! ありがとうございます」

 

 

 マグアナックが飛ばされたのとは逆の方向に視線を向けると、背部に備えた180ミリキャノンを片手に構えているペイルライダーがいた。助かった──そう思ったのも束の間、今度はシンヤの周りに2機のマグアナックが迫る。示し合わせたように同時に火を噴くライフル。しかしシンヤは慌てる様子もなく、片方はシールドで弾き、もう片方は身を捻ってかわす。そして振り返りながら展開させたままの180ミリキャノンが再び放たれ、1機はあっという間に沈黙した。

 

 

「す、すごい……」

 

 

 リクが驚く中、残ったマグアナックがアックスを手にして接近戦を仕掛けにペイルライダーへと肉迫する。シンヤはそれもたやすくかわすと、ブルパップ・マシンガンを下から上へ構えながら撃っては怯ませ、ビームサーベルを引き抜き様にその胴体を真っ二つに切り裂いた。

 

 

「あと5機、か」

 

 

 冷静に呟くシンヤは再び前線へと赴くリクを援護しようと、折り畳んだ180ミリキャノンを今一度展開する。もっとも、彼の動きを見る限り手助けはいらなさそうだった。

 

 まだ粗いが、伸び代は充分と言った感じだ。

 

 

(まぁ、僕は素人なんだけど)

 

 

 チャンピオンであるキョウヤ、フォースの頭をつとめるタイガーウルフ、まとめ役のコウイチたちならともかく、シンヤは人を見る目に関してはまったくの素人だ。しかし、だからこそリクはすごいとも言える。そんな素人にすら、まだまだ強くなると感じさせるのだから。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「次でラストですね」

 

「割と早く進んで良かった〜」

 

 

 各々の機体の修復は既に済んでいるのだが、ここまで休憩を挟まなかったのでシンヤ達は思い思いにのんびりとしている。

 

 シンヤは少し離れた場所でペイルライダーを見上げ、続いて和気藹々と話し込んでいるリク達に視線を向けた。リク、モモ、ユッキー、コウイチとステージが変わるごとにタッグメンバーを入れ替えてきたが、彼らの長所はどれもバラバラだ。

 

 実直で力強さ溢れるリク、戦い方は素人だが思い切りの良いモモ、的確な射撃とタイミングで援護するユッキー、素早い判断力とバランスの良い武装を使いこなすコウイチ。どれかに偏りすぎることはなく、非常にバランスが取れている気がした。

 

 

(そう考えると、自分の長所がよく分からないな)

 

 

 ある程度は理解しているところもあるし、憧れている要素もある。自分は接近戦を好むが、飛び道具が皆無では心許ない。そして機動性に優れた機体への憧れがある。これは恐らく、チャンピオンからの影響かもしれない。

 

 

(まぁ、可変機は合わなかったんだけど)

 

 

 何度か乗ったことはあったが、変形する適切なタイミングが掴めなかった。可変機を乗りこなすダイバーの動画を見ても、それは明らかだった。彼らは変形へかかる時間、変形後の機体特性の変化、武装の位置の変更などを瞬時に理解している。シンヤには、それらがうまくできなかったのだ。

 

 そうなると、人型でも機動性に優れた機体を探す方がいいだろう。簡単に思いつくのは、フリーダムやシナンジュ、トールギスだろうか。

 

 

「シンヤ」

 

「あ……サラちゃん、どうかした?」

 

 

 思案に耽っていると、涼やかな声で我に返る。振り返った先にはニコニコと微笑むサラが愛らしく立っている。サラはシンヤの横に並ぶと、彼ではなくペイルライダーを見上げる。

 

 

「この子と戦うの、まだ怖い?」

 

「怖くはない、けど……でも、まだできてないことがあるんだ」

 

「それは、難しいこと?」

 

「どうかな。僕の踏ん切りがつかないだけだと思う」

 

 

 シンヤも同じようにペイルライダーに視線を向ける。今は静かに佇んでいるが、シンヤはバイザーの奥にある双眸をじっと見詰めた。

 

 

「じゃあ、次はそれができるといいね♪」

 

「…そうだね」

 

 

 シンヤには未だに迷いがあるものの、サラが気軽に言ってくれたお陰でもう少し頑張ってみようかと思えてくる。

 

 コウイチから間もなく出発すると聞かされると、シンヤは迷いを振り払うように頭を振ってからペイルライダーへと乗り込んだ。

 

 

「最後のミッションだ。よろしく、ペイルライダー」

 

 

 シンヤの言葉に応えるように、バイザーで守られているツインアイが光り輝く。その光景を足元で最後まで見守っていたサラは、嬉しそうに笑みを零した。

 

 連戦ミッションの最後のステージは油田基地。タンクは一纏めにされて所定の場所に置かれており、その近くで火器が放たれれば、たちまち爆発に巻き込まれるのは必至だが、ミッションの難易度からして突っ込みさえしなければ敵に誘導されることはないだろう。

 

 しかし、ミッションを開始したにもかかわらず、いつまで経っても敵が現れない。広大なマップだから、すぐに接敵しないのか──そんな風に考えていたシンヤの耳に、敵にロックされたことを知らせるためのアラートが鳴り響いた。

 

 

「くっ!」

 

 

 瞬時に回避行動を取ったペイルライダーのすぐ傍を、一条の光が駆け抜けていった。目の前を駆け抜けて行った輝きが収まるも、コクピットでは未だにアラートが鳴り止まない。

 

 

「危ない!」

 

 

 コウイチの叫びに視線を走らせると、彼が駆るガルバルディリベイクがシールドを構えて前面に立つ。それに一拍遅れる形で飛来したバズーカの弾丸が炸裂し、爆炎を撒き散らす。

 

 放たれたビームとバズーカはどちらも同じ方向から来ていた。機体を向けると、モノアイを光らせて1機のモビルスーツが高速で迫ってくる。サンドブラウンで彩られた巨体は、その大きさには似つかわしくない俊敏な動きでシンヤ達の前へやって来た。

 

 

「ドム・トローペン……!」

 

「ビームを撃ってきた機体も確認した。どうやら、ヴァイエイトのようだ」

 

「登場作品がバラバラだなんて……」

 

 

 今回の連戦ミッションは事前に敵機がどの作品から出るかは知らされないタイプのミッションだが、難易度が高くなければ登場作品は統一されているのが暗黙のルールになっている。ましてや、今までのステージで登場した敵はすべてマグアナックだったのに、今更複数の作品を合わせるのはあまりに異様だった。

 

 

《なんだ、低ランクばっかりじゃないか》

 

 

 通信越しに聞こえた男の声は不満げで、それを隠す様子もなくため息まじりに呟かれる。その言葉に応えるように、ドム・トローペンのモノアイが後方に控えているヴァイエイトへ向けられた。

 

 

《油断するなって》

 

《そーそー。せっかくの玩具なんだからさぁ》

 

 

 ドム・トローペンのパイロットが注意するのに合わせて、ヴァイエイトの隣に佇んでいアリオスガンダムが楽しそうに機体を飛翔させ、モビルアーマー形態へと変形し、シンヤ達の頭上をゆっくりと旋回し始める。

 

 

「あなた達は、いったい……!」

 

《まぁ、言っちまえば俺達はマスダイバーだよ》

 

「マスダイバー!」

 

 

 不正ツールであるブレイクデカールを使用するダイバーの通称が出た途端、リクはダブルオーダイバーの武器を構えるが、3機ともまったく意に介さない。それどころか、この状況を楽しんでいるようだった。

 

 

「そのマスダイバーの方々が、何か用ですか?」

 

《用がなきゃ現れないさ。お前達がここまでミッションで稼いだポイント、全部寄越せよ》

 

「そんなのお断りよ!」

 

《だろうなぁ。だから……ここでお前らを潰してやるよぉっ!》

 

 

 啖呵を切ったモモカプルに向かって、ヴァイエイトが銃口を光らせる。引き金が引かれるかと思われたが、それより早くユッキーのジムⅢビームマスターが牽制して少しでも時間を稼ぐ。

 

 

「リクくん!」

 

「分かってる!」

 

 

 ユッキーの掛け声に合わせて、リクはダブルオーダイバーを駆ってヴァイエイトへと迫ろうとする。だが───

 

 

《やらせないよ》

 

 

 ───空中で様子見をしていたアリオスガンダムがその進路を阻むように、GNツインビームライフルを放った。

 

 

「くぅっ!?」

 

《どうした、その程度か!》

 

「させるかっ!」

 

 

 ドム・トローペンが怯んだダブルオーダイバーへラケーテン・バズを構えるのを見て、ペイルライダーが脚部に備えていた3連装のミサイルを解き放つ。ドム・トローペンはそれを機体への負荷も気にせず、スピードを上げて回避。ヒートサーベルを片手に、ビームサーベルを引き抜いて迫ってくるペイルライダーとぶつかり合う。

 

 鍔迫り合いは僅かな間だけ。押し負けると判断したシンヤは機体を下がらせながら、ブルパップ・マシンガンで装甲を削ろうと試みる。

 

 

「速い!」

 

 

 すべてをかわされた訳ではないが、ダメージはほとんど入っていない。目の前で素早く回避行動を続けるドム・トローペンに内心舌打ちし、シンヤは今の状況を確かめてみる。

 

 遠距離から砲撃を繰り返すヴァイエイト。その援護として、周囲を高速で駆け抜けるアリオスガンダム。そして縦横無尽に動き回るドム・トローペン。見事な連携を見せる上に、彼らはまだブレイクデカールを使ってすらいない。

 

 

《お前はやる方だな》

 

「それは……どうも!」

 

 

 明らかに劣勢だ。このままでは確実に撃墜されていく。いつの間にか背中合わせになっていたコウイチのガルバルディリベイクと共に敵を警戒しながら、シンヤは決心する。

 

 

「コウイチさん、みんなを連れて少しずつ後退してください」

 

「えっ!? だけどそれじゃあ、シンヤくんが……!」

 

「僕個人よりも、全員が撃墜されることを避けなければなりません。ドム・トローペンとアリオスは抑えますから、ヴァイエイトの砲撃に注意してください」

 

「……わ、分かった!」

 

 

 逡巡を見せたコウイチだったが、旗色が悪くなる一方だと判断したのだろう。装甲の厚いガルバルディリベイクを前面に、リク達を引き連れてゆっくりと距離を取っていく。

 

 

《行かせないよっ!》

 

 

 その動きに逸早く気付いたのは、アリオスガンダムだった。高機動のモビルアーマー形態のまま、下がっていくコウイチ達へと迫る。

 

 

「それは、こっちの台詞だっ!」

 

 

 素早く180ミリキャノンを構えて、引き金をひく。しかし照準が甘かったのか、アリオスガンダムには掠めることもなく無情にも弾丸は彼方へと駆け抜けていった。

 

 

《ふん》

 

 

 それを嘲笑うかのように、アリオスガンダムはあっという間に高度を上げていく。そして入れ替わるように肉薄するドム・トローペン。ビートサーベルを一閃し、当たらないと分かると一気に加速してその場を離脱する。

 

 

「くっ!」

 

 

 このまま翻弄されていては、後退したリク達へすぐ向かわれてしまう。ペイルライダーに搭載されている“アレ”を使わなければ、尚更だ。

 

 

(でも……)

 

 

 その迷いを見抜いたのか、ドム・トローペンが再び迫ってきた。また接近戦か──腰に携えているビームサーベルに手をかけた瞬間、ドム・トローペンは素早い動作でリアスカートに懸架しているシュツルムファウストを構えて解き放った。

 

 飛来する弾頭をブルパップ・マシンガンで迎撃してから反撃に転じようと決めたシンヤだったが、マシンガンによって撃ち落とされた弾頭が予想していたよりも多くの煙を吹き出したのを目にして、狼狽えてしまう。

 

 

「しまった!」

 

 

 ぶわぁっと視界を覆い隠す真っ白な煙。煙幕弾(スモーク・ディスチャージャー)だと気付いた時には周囲も囲まれてしまい、どう動くか悩んでしまう。とにかく前面を守ろうとシールドをコクピット近くまで持ってきた瞬間、煙を突き破って何かが躍り出てきた。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 強い衝撃。踏ん張ったにもかかわらず、一気に押し込まれていく感覚。やっと冷静になれた時、シールドに食らいついている何かの正体が分かった。

 

 

「アリオス!? いつの間に……!」

 

 

 モビルアーマー形態となったアリオスガンダムの機首は、尖端から左右へ開いて敵を挟み込むことができる。シールドに噛み付く牙を取り払おうとブルパップ・マシンガンが火を噴く。しかし弾丸はすべて弾かれ、振り払うどころか傷すら付けられない。牙に纏わり付くように、紫色のオーラがそれらを弾いたのだ。

 

 

「ブレイクデカールか!」

 

 

 ここで時間を取られたままでは、リク達と合流するだけでも面倒になる。シールドをパージしようと決めた矢先、アリオスガンダムが急に離れた。いきなり放されたことでバランスを崩すペイルライダー。その大きな隙に向かって、空中からモビルスーツの姿へ切り替わっていたアリオスガンダムが腕部にあるGNビームマシンガンを、ドム・トローペンがラケーテン・バズを、ヴァイエイトがビーム砲を。様々な火器が絶え間なく解き放たれた。

 

 

「うわあああぁぁっ!!」

 

 

 直撃こそないが、身動きすら赦されない状況。しかし彼らの真の狙いはペイルライダーを動けなくすることではない。

 

 ドォンッと背後で大きな爆発音が振動とともに駆け抜けてくる。それも1つや2つではない。次々と巻き起こるそれは、少しずつシンヤ目掛けて襲いかかるように近づいていた。

 

 

「なっ!?」

 

 

 振り返った時、自分がアリオスガンダムによって油田の詰まったタンク地帯まで運ばれていることにやっと気がついた。先程の爆発は、マスダイバーが放った火器で引き起こされたものだろう。

 

 気付くのがあまりに遅すぎた。そんな浅はかさを嗤うように、業火にも似た紅蓮の炎がシンヤを呑み込んだ。

 




ペイルライダー、そしてマスダイバーとの再会。
次回もお楽しみに♪
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