ガンダムビルドダイバーズ -once more- 作:雷電丸
「え?」
一方、次第にできた距離を活かそうとキャノン砲を構えようとしていたシンヤは、離れたビルが轟音と共に崩れ落ちるのを見て動きを止める。その間に崩れていくビルに1番近いビルが、大きく揺れ動いていた。
「な、なんだ?」
ビームでも撃ったのかと思ったが、ネモ・ストライカーはライフルやビーム砲を所持していなかった。射撃兵装はショットガンがあるようだが、それでビルが立て続けに壊れるとは思えない。
何か情報はないかとレーダーを見ると、さっきまで離れていたはずのネモ・スラストとの距離がだいぶ縮んでいる。
「ま、まさか……」
ある可能性がシンヤの頭をよぎった。しかしそれは可能性としてあまりにあり得ないものだ。
(いや、でも……)
あり得ないと切り捨てるのは簡単だが、この短いやり取りの中でも少なからずヨルアを知った身としては言えることがある。
彼なら───。
(ヨルアさんなら、あり得るかも)
そんな物思いに耽っているシンヤの前で、突然ビルが土煙を上げて何かを吐き出した。いや、正確には“突っ込んできた何かが飛び出してきた”のだ。
「見つけたぜぇ?」
「や、やっぱり……」
目の前でゆっくりと立ち上がるガンプラ──ネモ・スラスト。
ヨルアは、5つ程のビルにガンプラを突っ込ませたのだ。普通ならモビルスーツが通れる道をひたすら進むところを、彼は最短距離で直線的に突き進んできた。その執念とやる気は、はっきり言ってシンヤには一生かかっても手にできないと思う。
「これで終わりにしてやらあっ!」
「くっ!」
ビームアックスを手に、ネモ・スラストが斬りかかる。その場を下がるシンヤだったが、すぐ背後に建物があり、それ以上後ろには行けなかった。肉薄するネモ・ストライカー。尖端を突き立てようと迫るが、シンヤもペイルライダーを突っ込ませる。
「おらぁっ!」
串刺しにしてやる。一思いにやってやろうとするヨルアだったが、ペイルライダーがシールドのスパイクを構えたことで状況が反転したのを察する。リーチで言えば圧倒的に自分が勝っているが、シンヤの正確な動きを見てきたヨルアは迷わずビームアックスを胸元に持ってきてガードしようとした。
「HADES!」
「なにっ!?」
が、シンヤはペイルライダーに搭載されているシステム、HADESを使ってさらに機動力を底上げして一気に迫る。鋭利なスパイクがネモ・スラストへ差し向けられ、今にも届きそうなところまで来た。
「ぐっ!?」
「浅いか……!」
果たしてヨルアの判断は正しかった。彼のガードはギリギリで間に合い、スパイクで抉られることはなかった。しかし左手を捉えられ、強い衝撃によってビームアックスが手から溢れてしまう。
このまま畳みかけようとするシンヤはしかし、ビームアックスの柄を右手で掴み直したのを見て戦慄する。
(速い!)
思考が、判断が、自分なんかとは比べ物にならないぐらいに速いヨルア。彼の実力は、誰が見ても本物だと認識できるほどに洗練されたものだった。
柄の終わりの方を思い切り引っ張ると、ビームアックスから外れてしまう。だがそれは、故障や武器の脆さによるものではない。
「ビーム、サーベル……!?」
「終わりだぁっ!」
ビームアックスの柄に内蔵されていたビームサーベルが、シンヤとペイルライダーに襲いかかる。咄嗟に腰部にあるビームサーベルを引き抜いてそのまま受け止めるが、思い切り振るわれた一閃はペイルライダーを跪かせるには充分過ぎた。
「やるじゃねぇか」
「あなた程では……」
「ったりめーだ、ボケ!」
このまま鍔迫り合いをしていれば、間違いなく負かされる。HADESは発動すれば一定時間が経過するまで自分で解除することができない。また、システムの終了後は機体性能が著しく低下するため、発動中にヨルアを倒さなくてはならない。
(いや、これは無理かも)
ペイルライダーには悪いが、ヨルアと自分とでは実力差がありすぎる。HADESの終了までに撃墜するのは難しいだろう。
「でも……やろう!」
だが、諦める材料にはならない。シンヤは懸命にペイルライダーを動かす。体勢が崩れないよう細心の注意を払いつつ、右手にキャノン砲を構える。すかさず銃口を向けると、ネモ・スラストは後ろに下がった。
「好都合だ!」
構わずキャノン砲を放つ。それも1発だけではなく、2発、3発と立て続けに撃った。
「狙いが甘い──あぁ!?」
ヨルアの言う通り、シンヤのそれは照準が甘かった。しかしそれは、ネモ・スラストを狙っていた場合の話だ。
駆け抜けた弾丸はその後ろにあった建物の支柱を貫き、ガラガラと大きな音を立てて破片を降らせていく。
「こっちが本命かよ!」
毒づき、慌てて機体を翻す。それを見越して、シンヤはペイルライダーをネモ・スラストに向かって走らせていく。
「また突っ込む気か?」
左肩に装備しているビームブーメランを投げつけ、少しでも時間を稼ぐ。そして投げてすぐ、右手で取りやすいように斜めに背負った大剣を抜き、今度はヨルアの方からペイルライダーに突っ込んだ。
「同じ手は通用しないぜ!」
「でしょうね」
ペイルライダーはビームサーベルでブーメランを弾くと、そのままネモ・スラストへ放り投げる。そうすることで視線が逸れると踏んだからだ。シンヤの予想通りヨルアの注視がビームサーベルに向いたところで左へ大きく迂回する。
「どこだ!?」
一瞬でも視線を外した浅はかな自分を恨みつつ、ヨルアは周囲を見回す。そして1歩踏み出した瞬間、目の前から実弾が飛んできた。
「ぐっ、おぉ……!」
メインカメラで弾丸が飛んできた方を見ると、そこには自分が突っ込んできて崩れた瓦礫の山が築かれていた。そのうずたかく、不規則に積まれた瓦礫で出来上がった山には所々穴があり、大きな穴の向こうにペイルライダーを見つけることができた。
「はっ、いい射撃するじゃねぇか!」
しかし仕留められなかったからには2度目はない。ネモ・スラストは残った大剣とビームサーベルを手に、推進力を活かして瓦礫の山を悠々と跳び越える。
「とんでもないな」
予想以上の動きを見せるネモ・スラスト。HADESの限界時間に到達し、機体性能が低下しているペイルライダーで迎え撃つのはかなり無茶だ。
「でも、やるしかない!」
退路は残されていない。ビームサーベルを抜き、シンヤはペイルライダーを駆った。
互いの武器がぶつかり、文字通り火花を散らす。ネモ・スラストは片手であっても大剣を悠々と振るい、ビームサーベルと合わせてペイルライダーを圧倒する。
「接近戦なら負けねぇ!」
上から下へと一気に振り下ろされる一閃。シンヤはペイルライダーを左に動かしてかわす。ネモ・スラストは右手に持った大剣を振るったばかりだが、シンヤの動きに合わせて思い切り大剣を引き上げる。
「なんてパワーだ!」
ガリガリとアスファルトを削り、シンヤを間合いに入れさせない。このままでは大剣を持ち直すに違いない。旋回する速度を上げ、視界から少しでも逃れたと思ったところで脚部にあるミサイルポッドが火を噴く。
間近で放たれた3つのミサイルはネモ・スラストの足元で爆ぜてバランスを崩させた。その一瞬を突き、ペイルライダーは旋回をやめる。急制動に左足が悲鳴を上げるが、愛機を信じてネモ・スラストへ仕掛ける。
ビームサーベルの光が駆け抜ける。振り返ったネモ・スラストの左手に握られたビームサーベルがそれを防ぐが、ペイルライダーの二刀を受け切ることはできず弾かれる。
バランスが崩れ、たたらを踏むネモ・スラスト。目の前で大きくのけ反っていくのを見たからにはそのチャンスを逃す訳には行かないと、ペイルライダーを踏み込ませる。
「これでっ!」
「させるかよぉっ!」
倒れながらも追撃させまいと、ネモ・スラストの踵からヒートダガーが展開される。
「うっ!?」
斬り込めると思って強く前に出たのが災いした。先程の急制動からあまり時間が経過していないこともあり、再び身を翻すのは不可能だ。
回避は、間に合わない──遂にはペイルライダーの胴にヒートダガーが突き刺さり、受けたダメージがすぐに再現されてその場に倒れ込んでしまう。
「はっ、形勢逆転だな」
見上げた先には、大剣の切っ先を突きつけるネモ・スラストが立っていた。