うらさびしい通りにひっそりとたたずむ茶店で、特にやることのない日はぼんやりと点心などを食べ、読書をするのが習慣化している。
昼間の人通りがないだけで、このあたりは土地柄か夜になれば賑わいだすから、静かに過ごすにはこの時間がいちばんいい。
客がふらりとやってくるたび、店主の雪龍はのんびりと飲茶を出し、時には暇をもてあました彼らの話相手をしている。
私はこの店に長いことやって来ているが、雪龍とあまり話さない。
いつもひとりで本を読んでいるからか、好き勝手にのんびりとさせてくれている。
「喪六さん、おかわりはいかがです?」
「ああ……」
私よりも先に、碗の中身が残りわずかになっていることに気付く。
生意気そうなつり上がった目をしているが、彼は私たちに優しげな微笑みしか見せたことがない。
以前、彼の生い立ちをなんとなく聞いたことがある。
この街は流れ者ばかりがやってくるが、彼も幼いころからあらゆる地を転々と渡りながら暮らし、紛争で早くに家族を失くした。
そしていつしかひとりでここにたどり着き、この店を開き、今もひとりで居るそうだ。
天涯孤独の人間に出会うことは珍しくもなんともないが、このように荒んだ町でまっとうに生き、そして清らかである人間を見たのは、雪龍がはじめてだ。
だいたいは皆この街のように小汚く薄汚れている。
雪龍は私の希望。
そうだと口にしたこともするつもりも無いが、私がこの店に来続けるのは、彼の顔を見たいから。私だけではなく、ここにやって来る者はほとんどがそうであろう。
ここは居心地がよく、清潔で、店がまるごと、雪龍という人柄をよく表している。
ー「よく来てるね、あの客。俺が来るときは必ず見るなあ。」
「ああ、喪六さんですか。お仕事がひと段落すると、よく来てくれます。」
「身なりをみるにずいぶんエライ人のようだ。」
「いろんな方が挨拶をしていきますから、きっとそうなのでしょう。」
「恐や恐や。そんなご大層なヒトに目をつけられて、平気か?」
「喪六さんはいつもああして本を読んでいくだけですよ。静かで、物腰も柔らかくて、とてもいい方です。」
夜。
薄暗い街に、ぽつぽつと看板の灯がともりはじめ、この街も少しだけ煌々となる。
喪六はその時間になると席を立ち、代金を支払い、店を出ていく。雪龍は外まで出て、彼が角を曲がるまで見送る。
彼がどんな人なのか知らない。
ただ、この街でそれなりに名を馳せて生きているのだから、自分とは真逆の生き方をしているのだろう。
けれど、しばらくは姿を見せないことがあっても、必ずまたここに来て、ひとり静かに過ごす喪六が好きだ。
彼がどんな人であるかは知らないが、知らなくてもいいと思っている。