夢で逢いましょう。   作:め め

1 / 5


うらさびしい通りにひっそりとたたずむ茶店で、特にやることのない日はぼんやりと点心などを食べ、読書をするのが習慣化している。

 

昼間の人通りがないだけで、このあたりは土地柄か夜になれば賑わいだすから、静かに過ごすにはこの時間がいちばんいい。

 

客がふらりとやってくるたび、店主の雪龍はのんびりと飲茶を出し、時には暇をもてあました彼らの話相手をしている。

 

私はこの店に長いことやって来ているが、雪龍とあまり話さない。

いつもひとりで本を読んでいるからか、好き勝手にのんびりとさせてくれている。

 

「喪六さん、おかわりはいかがです?」

 

「ああ……」

 

私よりも先に、碗の中身が残りわずかになっていることに気付く。

生意気そうなつり上がった目をしているが、彼は私たちに優しげな微笑みしか見せたことがない。

 

以前、彼の生い立ちをなんとなく聞いたことがある。

この街は流れ者ばかりがやってくるが、彼も幼いころからあらゆる地を転々と渡りながら暮らし、紛争で早くに家族を失くした。

そしていつしかひとりでここにたどり着き、この店を開き、今もひとりで居るそうだ。

 

天涯孤独の人間に出会うことは珍しくもなんともないが、このように荒んだ町でまっとうに生き、そして清らかである人間を見たのは、雪龍がはじめてだ。

だいたいは皆この街のように小汚く薄汚れている。

 

雪龍は私の希望。

 

そうだと口にしたこともするつもりも無いが、私がこの店に来続けるのは、彼の顔を見たいから。私だけではなく、ここにやって来る者はほとんどがそうであろう。

 

ここは居心地がよく、清潔で、店がまるごと、雪龍という人柄をよく表している。

 

 

ー「よく来てるね、あの客。俺が来るときは必ず見るなあ。」

 

「ああ、喪六さんですか。お仕事がひと段落すると、よく来てくれます。」

 

「身なりをみるにずいぶんエライ人のようだ。」

 

「いろんな方が挨拶をしていきますから、きっとそうなのでしょう。」

 

「恐や恐や。そんなご大層なヒトに目をつけられて、平気か?」

 

「喪六さんはいつもああして本を読んでいくだけですよ。静かで、物腰も柔らかくて、とてもいい方です。」

 

 

夜。

薄暗い街に、ぽつぽつと看板の灯がともりはじめ、この街も少しだけ煌々となる。

 

喪六はその時間になると席を立ち、代金を支払い、店を出ていく。雪龍は外まで出て、彼が角を曲がるまで見送る。

 

彼がどんな人なのか知らない。

ただ、この街でそれなりに名を馳せて生きているのだから、自分とは真逆の生き方をしているのだろう。

 

けれど、しばらくは姿を見せないことがあっても、必ずまたここに来て、ひとり静かに過ごす喪六が好きだ。

 

彼がどんな人であるかは知らないが、知らなくてもいいと思っている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。