この転生少女に武器を!   作:皐月の王

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第7話 優しいリッチーに祝福を

「……冷えてきたわね。ねえカズマ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな小物じゃなくて大物が出そうな気がするんですけど」

 

月が昇り、時刻は深夜に回った頃。目に入った砂埃をなんとかしたアクアがポツリと呟く。……雰囲気が雰囲気だけに、そんな事は言わないでほしい。

 

「おい、そういう事言うなよ、それがフラグになったらどうするんだよ。今回はゾンビメーカーの討伐。そして、とっとと帰って寝る。イレギュラーが起きたら迷わず帰る。いいか?」

 

カズマの言葉に私を含めた皆が頷く。私達のレベルは決して高くない。イレギュラーな出来事が起こってすぐに対応出来る経験もない。何事も無く終わる事を願うしかない。

 

そして、時間が来る。

 

カズマを先頭に、私達は墓地に向かう。

 

「何だろう、ピリピリ感じるな。敵感知に引っかかったな。数は一、二……三、四体?」

 

聞いていたよりも多い気がする。

 

「カズマ。ゾンビメーカーの仲間って二、三体って言ってなかった?」

 

「ああ。その筈だ。まあ、このくらいは誤差の範囲だろ」

 

そんな会話をしていると、墓地の中央で青白い光が走る。黒いローブの人影が見え、青い光の……魔法陣?

 

「……ゾンビメーカーって、魔法使うの?」

 

「……いえ、そんな筈はないと思うのですが……あの人影はゾンビメーカーでは……ない気が……するのですが……」

 

私の問に自信なさげに答えるめぐみん。黒いローブの周りには、ユラユラと動く人影が数体見える。

 

「突っ込むか? ゾンビメーカーじゃなくてもこの時間に墓場にいる以上、アンデットだろう。こっちにはアークプリーストのアクアがいるんだから問題無い」

 

カズマの言葉に私も納得し、木刀を右手に持つ。アクアの回復魔法は凄いってカズマが言っていたから大丈夫なはず……。

 

隣で大剣を胸に抱えたままソワソワするダクネスには、少し落ち着いてほしい。

 

 「あーーーーーっ!!」

 

 突然叫んだアクアが、何を思ったのか立ちあがり、ロープの人影に向かって走り出す。

 

 「は、え!?ちょっと待って!」

 

 「ちょっ、おい待て!」

 

 私とカズマの制止の言葉も聞かず、飛び出して行ったアクアは、ロープの人影に近付くと、ビシッと人影に差し。

 

 「リッチーがノコノコとこんな所に出てくるなんて不届きな、成敗してやるっ!」

 

「リッチー?」

 

「知らないのか?魔法を極めた大魔法使いが魔道の奥義で体を捨てることで成る、ノーライフキングと言われるアンデットの王だ。ラスボスみたいな超大物モンスターだ」

 

聞く限りこの上なく危ない敵と遭遇したのだが、

 

「や、やめやめ、やめて! 誰なの!?いきなり現れて私の魔法陣を壊そうとするの!?やめて!止めてください!」

 

「うっさい、黙りなさいアンデット! どうせこの怪しげな魔法陣で碌でもないことしていたんでしょ!こんな物! こんな物!!」

 

そのリッチーが、魔法陣を踏みにじるアクアの腰に、泣きながらしがみつき、食い止めていた。よく見ると周りのゾンビも、そんな二人をぼーっと眺めているだけ

 

「やめて!やめてー!!この魔法陣は、成仏出来ていない魂達を、天に還してあげるためのものです!ほ、ほら、たくさんの魂達が魔法陣から空に昇って行っているでしょう!?」

 

魔法陣の方を見ると、リッチーのいう通り、白い人魂の様な物が魔法陣に入ると天に吸い込まれていく。

 

「リッチーの癖に生意気よ!そんな善行はこのアークプリーストの私がしておくからあんたはひっこんでなさい!見てなさい、この墓場ごとまとめて浄化してあげるわ!」

 

「え、ええっ!?ま、待ってっ!?」

 

アクアの宣言に、慌てるリッチー。待って、今それをしたら、リッチーまきこむよね!?

 

 「『ターンアンデット』!」

 

墓場全体が光りに包まれた。アクアから湧き出すように溢れた光は、リッチーの取り巻きのゾンビに触れるやいなや、凄い速さで掻き消える様にその姿が消滅していく。

 

リッチーの作った魔法陣の上に集まっていた人魂も、アクアの放つ光を浴びると消えていく。その光はリッチーにも及び。

 

「きゃー!身体が消える!?止めて止めて、私の身体が無くなっちゃう!!成仏しちゃう!」

 

「あはははははは、愚かなるリッチーよ!自然の摂理に反する存在、神の意に背くアンデットよ!私の力で欠片も残さず消えるがいい!」

 

流石にこれはヤバイ。事情も何も聞いていないのに、このまま消されるのはまずい!

 

私が木刀でアクアを止めようとすると、

 

「おい、やめてやれ」

 

私が止める前にカズマがアクアの後頭部を剣の柄で小突いて止めた。

 

小突かれたアクアは痛そうに頭を押さえ、涙目でカズマに食ってかかる。痛みで集中出来ないせいか、光は出ていない。

 

 「痛、痛いじゃないの! あんたいきなり何してくれてんのよ!」

 

めぐみんとダクネスが来たのを見計らって、私はリッチーに声をかける

 

「だ、大丈夫ですか?えっと、リッチーで……いいんだよね?」

 

足元を見ると、半透明になって、消えかかっていた。私はそれを見て少し固まった。

 

 「だ、大丈夫です……。危ない所を助けて頂き、ありがとうございましたぁ……! えっと、おっしゃる通り、私はリッチーです。リッチーのウィズと申します」

 

言って被っていたフードを上げると、出てきたのは二十歳くらいの人間にしか見えない、茶色い髪の、整った顔をした女性だった。アンデットの王って聞いていたから、骸骨やゾンビみたいな人だと思ったけど……全然違った。

 

カズマの方を見ると、カズマも同じことを考えているような顔だった。

 

「えっと、……ウィズ?あんた、こんな墓地で何をしているんだ?魂を天に還すとか言ってたけど、それってリッチーのあんたがやる事じゃないんじゃないか?」

 

カズマがそう言って質問するが、アクアがいきり立ち。

 

「ちょっと二人とも! こんな腐ったミカンみたいなのと話なんかしてたらアンデットが移るわよ!ちょっとそいつに、ターンアンデットでもかけさせなさいよ!」

 

話したら伝染るって、いじめっ子のセリフみたいな事を言われても困る。

 

アクアがもう一度魔法をかけようとすると、私の背後に隠れ、怯えた様な困った様な顔をしながら。

 

 「そ、その………私は見ての通りリッチー、ノーライフキングなんてやってます。アンデットの王なんて呼ばれているくらいなんですから、私には迷える魂の声が聞こえるんです。ここの墓地の魂の多くはお金の問題とかで葬儀もロクにしてもらえず、天に還ることも出来ず、毎晩この墓場を彷徨っています。だから、一応はアンデットの王な私は、定期的にここに来て、天に還りたがっている魂達を送ってあげているんです」

 

……凄くいい人だ。

 

「それは凄くいいことだと思うんだけど……。アクアじゃないけど、それって街のプリーストに任せれば良いんじゃないの?」

 

私の言葉にカズマも頷く。私達、二人の疑問にウィズがアクアをチラチラ見ながら。

 

 「そ、その……街のプリーストさん達は、拝金主義……いえ、お金がない人は後回しと言いますか……その……」

 

アークプリーストのアクアが居るから言いづらかったのか……。

 

「つまり、この街のプリーストは金儲けが優先のやつがほとんどだから、こんな金がない連中が埋葬されているこの墓地なんて、誰もこないって事か?」

 

 「えっ……そ、そうです……」

 

私達の視線がアクアに集中すると、本人はばつが悪そうにそっと目を逸らす。

 

「それは仕方ないんだけど、ゾンビを起こすのはどうにかならない?私達が此処に来たのは、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだよ」

 

私の言葉に、ウィズは困った表情を浮かべ

 

「あ、そうでしたか。……その、呼び起こしているわけではなく、私がここに来ると、形が残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めてしまうんです。誰かがこれをやってくれれば、私がここに来る理由はなくなるんですが………どうしましょうか?」

 

――――――――――――――――

 

「納得いかないわ!」

 

アクアはまだ怒っていた。時刻は空が白みがかってくる頃。早朝の帰りだ。

 

「しょうがないだろ。あんな良い人を討伐する気にはなれないだろうに」

 

「うん、私も討伐はしたくないよ」

 

私達はリッチーを見逃すことにした。これからはアクアが定期的に墓地に行き浄化することで折り合いがついた。

シオンはもとより、モンスターを見逃すことに若干の抵抗があっためぐみんとダクネスも、ウィズが人を襲った事がないと知り、見逃すことは同意してくれた。

 

 「けど、リッチーのウィズが街で普通に生活してるとか、この街の警備はどうなってんだよ」

 

 「でも、穏便に事が終わってよかったです。いくらアクアがいたとしても、相手はリッチー。戦闘になっていたら私とカズマは間違いなく死んでいましたよ」

 

 何気なく言うめぐみんの言葉にぎょっとする。

 

 「ね、ねえ。リッチーってそんなに危険なモンスターなの?」

 

 「ヤバイなんてもんじゃないです。リッチーは強力な魔法防御、そして魔法の掛かった武器以外の攻撃の無効化。さらには相手に触れるだけで様々な状態異常をひきおこし、その相手の魔力や生命力を吸収する伝説級のアンデットモンスターです。むしろ、何でアクアのターンアンデットが効いたのか不思議なくらいです」

 

そうなんだ。人が良さそうだから安心したけど、あの人あれでも危ないモンスターの一人だもんね……。カズマがスキルを教えてもらうって言ってたから、その時はアクアを連れていくように言わないと。

 

 「カズマその名刺、私に渡しなさい! あの女より先に家に行って周りに神聖な結界を張って、家に入れなくしてやるから」

 

言わない方がいいのかもしれない。と言うか、ふと思ったんだけど

 

 

 「………ゾンビメーカーの討伐のクエストってどうなるのかな?」

 

 「「「「あっ」」」」

 

皆は頭から抜けていたみたいだ。どうあれ、ゾンビメーカーは居なかったし、倒してもいない。これは……

 

 クエスト失敗。

 

 

 

 




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あと、来週から二週間前後実習があるので次回がかなり遅れます!ご了承ください!
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