東方紅魔郷 〜 Fate or Destiny. 作:あめじすと
─人間の里
コソコソ......
「ねぇ、この前また何人か殺されたそうよ?怖くて仕方ないわ......」
「ったく気持ち悪い話だぜ......館の連中のしわざって噂もあるしなぁ......」
「あぁ恐ろしや......恐ろしや......」
ここは人間の里、通称
人や
そうというのも、ここ最近で人々が殺される・あるいは行方不明になるという事態が何度も起きているのである。
その殺され方は残忍で、腹部を切り裂かれ内臓が飛び出ていたり、串刺し状態になっていたりとどれも恐ろしいものだ。
ターゲットとなるのは主に若い女性で、いずれも残忍な殺され方だった。
そんな人里にはある噂が流れていた。
その噂とは館の連中、つまり紅魔館の住民たちが関わっているのではないかというものだ。
誰かが殺される前日、人里に訪れるメイドと日傘を差した吸血鬼を目撃した人が何人もおり、このことについては博麗の巫女も疑っている。
"吸血鬼異変"と"紅霧異変"、2つの異変を起こした彼女らが真っ先に疑われるのも無理は無かった。
─翌日 紅魔館 玉座の間
「ねぇ貴方、悪いけど人里へ行って食材を調達してほしいのだけど。調達する食材はこれに書いてあるわ」ピラッ
「はい、かしこまりました。それでは行ってまいります」
レミリアの昼食が済んだ後、彼は人里へのお使いを頼まれた。
人里へは咲夜や妖精メイドと何度か行っており、最短ルートだと往復1時間くらいだ。
幸い調達するものが少なく、今回は一人でも問題なさそうだ。
ただ彼はどうしても気になることがあった。
人里に活気が無い上、なぜか白い目で見られるのだ。
何かしたわけでも無く、警戒されているようだった。
疑問を抱きつつ、紅魔館の門を後にする。
「あ、天澄さんいってらっしゃい......ふぁ......」
「ああ、行ってくる」
この前の指導を受けてから、美鈴は以前より起きるようになった。
この前の指導が効いたのか、まだ居眠りはあるものの、大半を寝て過ごすということはなくなった。
そんな彼女を見ていると、こちらも頑張ろうと思えてくる。
さて、考え事はこの辺にして早いとこ済ませようか。
─人間の里
ザワザワ......
「ふぅ......やっと見えてきた......あれ?なんか今日は人が多いな。どうしたんだろう?」
人里に着いてすぐ、見えてきたのは人だかりだった。
いつも静かな人里だが、今日は祭事でもあるのかと足を進めた彼だったが、その予想は大きく外れる。
「なんだよ......これ......」
彼が見たものは遺体だった。
しかもただの遺体ではなく、損傷の激しいものだった。
体はズタズタに切り裂かれ、ちらほらと骨まで見えるくらいだ。
また、顔は特にひどく原形をとどめていなかった。
例えるなら中身を抉り取られたジャガイモのような......そして周りには乾いた赤黒い血の池ができていた。
そんな光景を見て、その場に立ち尽くしていると人々がこちらを見る。
「お前のところのしわざか?」
「え?............ち、ちが」
「ひ、人殺しぃぃぃ!!」
「え、ちょっ、待っ......」
「追い出せぇ!!」
「人の皮を被った悪魔め!とっとと消え失せろ!......」
「............!?」ダッ
頭に血が上った人々は俺を追い出そうと追いかけてくる。
追い出せとは言っていたが、あの様子じゃ捕まったら良くて拷問、最悪殺されかねない。
恐怖と混乱に苛まれつつ、無我夢中で走った。
大通りを抜け、角を曲がり狭い路地に入ると、ちょうどいい隠れ処になっており、そこに隠れることにした。
そして深呼吸をした後、今の状況を整理する。
まず人里に着いた。
人だかりができていたので、祭事かと思い近づいた。
そこで見たのは人の遺体だった。
唖然として立っていると、人々がこちらを見るなり俺を疑い追いかけて来た。
人里に来るときにいつも白い目で見られていたのと関係がありそうだな。
ということは何度か似たような殺人があって俺はその犯人、あるいは共犯者といったところか....
「おい、この辺で奴を見なかったか?」
「くそっ、どこに行きやがった!見つけたらただじゃおかねぇ!」
「............!」
近くで声が聞こえ、思わず息を潜める。
隠れ処と言っても見つからないという保証はない。
その不安から、心臓の鼓動も激しくなっていき、ますます動きにくくなってしまった。
途中、何度か隙を見て移動したが、それでも人々はまだ自分を探しているようで人里から出ることは叶わなかった。
そして数時間が経ち、夕方になった。
─紅魔館 玉座の間
「いくらなんでも遅いわね......」
一方その頃、紅魔館ではレミリアが彼の帰りを待っていた。
数時間前に紅魔館を出たきりで帰ってこないのだ。
宴会後の様子を思い出すかぎり、彼はもう逃げたりしないはずだ。
となると何かトラブルがあったのではないか?不安とイライラが交差している。そんな時だった。
ガチャ
不意にドアが開く。
玉座の間に入るときは、必ずノックをするのがルールだが、無作法にもそれがなかった。
そんな無礼な行為にイライラを増しつつ、振り向いた彼女だったが......
「誰なの?ノックくらいしなさ......い?」
─人間の里
「さすがにもういなくなったか......そういえば昨日も奴らを見たってやつがいるんだ。そろそろ帰ろう」
「そうだなぁ、帰るとするか」
ザッザッザッ......
「とりあえず落ち着いたようだな......あ、しまった」
一旦落ち着いたはいいが、彼はここで気がついた。
逃げることに夢中でどうやら入り組んだ場所に来てしまったらしい。
周りも見覚えがなく、完全に迷ってしまった。
日も暮れてきたようで、薄暗くなってきた。
「......仕方ない。とりあえず移動するか」
このまま人里にとどまるわけにもいかず、彼はその場を移動する。
しかし周りの静けさと、肌寒い風が通り抜ける道でますます不安は煽られた。
そしてしばらく歩き続けていると、あることが起こった。
「さっきよりは道が広くなったな......こっちはど」
「きゃあぁぁぁぁ!!」
「なんだ!?」タッ....
近くで悲鳴が聞こえる。
突然のことに彼は驚き戸惑う。
普段の彼なら、こんなことが起きればすぐに逃げるだろう。
しかし今回は何故かそんな気にならず、"助けたい"と強く思った。そして足が走り出し、声が聞こえた場所へと向かった。
─小道
「こ、こないで......殺さないで......お願いします......い、いやぁ......」
「............」スタスタ
「ひっ......!?」
声が聞こえた場所に着くと、少女が何者かに襲われていた。
何者かはボロボロの黒い外套をかぶっていて、顔はよく見えない。
手には赤錆びついた刃物が握られていて、今まさに振り下ろされそうになっていた。
「やめろ!!」
「............!」サッ......シュタッ......
その何者かに突進をしようとしたが、こちらに気づきかわされてしまった。
そして彼と何者かの両者は十数メートルほど離れて対峙する。
相手は刃物を逆手に持ち、こちらを狙っているようだ。
「あ、貴方は?」
「今はそれどころじゃない、それよりも......怪我してるのか?」
「ごめんなさい......私ってば転んじゃって......」
少女に逃げるよう言おうとしたが、彼女は足を怪我していた。
立てそうにもないので、庇うように前に立つ。
しかし内心非常に焦っていた。
自分はただ心に浮かんだ"助けたい"ということをしたまでで、その後のことは考えていなかったからだ。
彼女を背負うことはできるが、それは自殺行為に等しい。
「うぅ......私のことはいいよ、貴方は逃げて......」
「でも......俺が逃げたら君は......」
少女は自分に逃げるよう言うが、当然そんなことはできない。
自分も倒れていたところ、妖怪に襲われていたところを紅魔館の皆に助けてもらった。
なら自分もいつか誰かを助けたい。
心の中でそう思っていた彼は、少女を見殺しにすることなんて出来なかった。
「私のことなんていいから、逃げてぇ!!」ポロポロ
少女は泣きながら懇願する。
そんな彼女に気をとられた隙に、何者かは一気に駆け寄ってきた。
そして彼が振り向いた時には、頭にめがけて刃物が振り下ろされ......
「いやぁぁぁぁぁぁ!?」
ガキンッ!
「............?」
「必ず......必ず守ってみせる......!!」
「な、何が起こってるの......?」
刃物が振り下ろされる直前、彼は腕で頭を塞いだ。
それだけなら、腕に刃物が刺さり血が流れるだろう。
しかし彼の腕は刃物を貫通させず、鎧のように受け止めたのであった。
何者かはそれに驚き固まっている。今がチャンスだ。
「......っ!」バキッ
「ぐっ......」
隙をついて拳を打つと何者かは怯んだ。
この機会を逃すまいと次々と拳や蹴りを繰り出す。
まるで自分の意思とは別に、体が動くようだった。
「ふっ!はぁ!!」バキッ ズドン....
「ちっ......」ザッ......
とどめの一撃がきまり、何者かは闇に溶けるようにその場から去った。
そして残ったのは自分と少女の二人だけだ。
夜の帳が下り、さっきよりも肌寒くなる。
「はぁ......はぁ......大丈夫か?」
「う、うん......でもさっきのは?」
「俺にもわからない。急に力が湧いたかと思うと、体が勝手に。......あ、そうだ。君を送らないと」
話の途中だが彼女を送ることにした。
疲れきった身体だが、彼女を置いていくことなんてできない。
そうして彼女を背中に負ぶり、家路を聞きながら足を進める。
彼もまた、人里から帰るため彼女に道を聞くのであった。
幸いこの小道を抜ければ彼女の家があるらしく、そこからすぐに大通りへ出ることができるらしい。
それを聞いて彼はひとまず安心するのであった。
「............」(この人の背中、あったかいなぁ......)
「この家だな。着いたぞ......あれ、寝てるのか?まあいいや」
どうやらこの少女の家は本屋のようだ。
玄関の隣にぶら下がっている鈴を鳴らす。
チリンチリン......
「はぁい、どなた様でしょうか?」
「すみません、この娘が......こういうことがあって......
─帰り道
「はぁ......ろくな目に会わなかったな......それにしてもあの力はなんだったんだろう」
少女を家へと送り届けたあと、自分もようやく帰路についた。
お使いに出てからだいぶ経ってしまった。
人里であった出来事を思い出しながら、彼は歩み続けるのであった。
そんな彼の背中を見る者が一人。
「あの力は本当に一部だが......あの土着神の加護もあるようだな」
何者かはそう呟いて姿を消した。
─人間の里 少女の家
「う〜ん.... あれ?」
少女は目覚めると自分の部屋にいた。
そこに彼の姿はなく、月明かりだけが差し込んでいた。
そして少女はため息をつく。
「あの人の名前、聞いてなかったな......はぁ......それにしても、私を助けてくれたなんて......守ってみせる......だなんて」
「あらあら、若いっていいわねぇ」
ドキッ「ひゃあっ!?な、なな何の事かな......あはは......」
人里では名も知らぬ彼を想う人ができたのであった。