東方紅魔郷 〜 Fate or Destiny.   作:あめじすと

28 / 36
EPISODE28:レミリアの過去 前編

 

─紅魔館 大図書館

 

コンコン

 

「パチュリー様、いらっしゃいますか?」

 

「......来たわね」

 

異変が始まって数時間後、ようやく呪文を唱え終えたパチュリーの元に、来訪者が現れる。

わざとらしく丁寧な口調で、来訪者は問う。

 

「......来たわね」

 

彼女はポツリと呟くと、その来訪者が入ってくるのを待つ。

 

「入りますよ」

 

ガチャ

 

「......こんばんは♪パチュリー様」

 

「ええ、こんばんは......偽物さん」

 

入ってきたのは咲夜だった。

しかしパチュリーは、彼女が他人であるかのように振る舞う。

それもそうだ、彼女はもう一人の咲夜(・・・・・・・)なのだから。

あしらう彼女に、咲夜は訂正する。

 

「偽物はあの娘の方よ?本物は私......」

 

「そう......興味ないわ。ところで、要件は何かしら?」

 

彼女がそう聞くと、咲夜はニヤリと口角を上げる。

そこには完全で瀟洒な従者の姿はなく、狂気に満ちた殺人鬼の姿があった。

その手には、妖精メイドの切り落とされた頭が握られていた。

 

「ああ、失礼しました。......これは邪魔でしたね」

 

ゴトッ......

 

血が滴り、図書館の床を汚していく様にパチュリーは不快感を示す。

 

「大方の予想はついているけれど......聞くだけ聞いてあげるわ」

 

「そう言っていただけると助かるわ......ねぇ貴女......親友を助けたいとは思わない?」

 

彼女が提案してきたのは、やはり親友(レミリア)に関することだった。

無言のまま、睨み続ける彼女に咲夜は続ける。

 

「知っての通り、私たちは今宵動き始めた......それも全て私たち自身を守るために......」

 

「貴女の私情に付き合っている暇はないの......無駄話をするなら帰ってくれるかしら」スッ

 

そう言いつつ、手をかざすパチュリー。

しかし、次の言葉に彼女は手を下ろさざるを得なかった。

 

「まあそう言わずに......貴女も知りたくない?親友の過去を」

 

「レミィの......過去?」

 

レミリアの過去と聞き、手が止まる。

彼女とはもう何十年も友人で、知り合う前の話なども全て聞いている。

今さら聞いたところで、何の足しにもならないはずだ。

しかし、こうして手を止めている自分がいる。

自分の知り得ない何かに期待してしまっている。

きっと長い間、知識欲に溺れた結果なのだろう。

 

「特別に教えてあげるわ」

 

「私......は......」

 

戸惑う私をよそに、彼女は親友の過去をつらつらと語り始めた。

 

 

 

─15世紀頃 ヨーロッパのとある国

 

「もうすぐ生まれるぞ......頑張れ......!」

 

「ええ......貴方......ぐっ!?」

 

とある地方の屋敷で、今まさに新たな命が生まれようとしていた。

苦痛に耐え、我が子を産まんとする母親と、それを隣で支え続ける父親。

助産婦や従者の手も借りながら、奮闘し続けること数時間......ようやく、(せい)が日のもとに誕生したのであった。

 

「う、産まれた......産まれたぞ......!」

 

「ええ......ええ......嬉しい......!」

 

生まれ落ちた二つの生を、両親は大切に抱える。

たとえ世の中が不吉と言おうが、忌み子と言おうが関係ない。

ただ、生まれてきてくれたことが、彼らにとって何よりの幸せだったのだ。

貴族としては失格だが、我が子の誕生は名誉や世継ぎよりも大切だった。

......大きな声で泣き続ける二つの命に、彼らは初めてのプレゼントを送る。

 

「はじめまして、エミリア......」

 

「フランソワーズ......♪」

 

エミリアとフランソワーズと名付けられた命......明るく照らす日の光は彼女らの門出を祝うようであった。

 

 

 

─数年後

 

「まってよおねえさま〜!」

 

「フランがおそいのよ!」

 

野原で走り回る二人の少女。

その様子を、木陰で優しく見守る両親。

 

「元気ですね......あの娘たち」

 

「ああ、将来が楽しみだな」

 

一家はよく、外に出かけた。

家庭教師が、元気の有り余る姉妹に手が負えないため、両親は彼女らを好きなようにさせることにしたのだ。

 

「おねえさま、このお花はなんていうの?」

 

「ええと......かえったら本でしらべてみるわ。そしたらフランにおしえてあげるね!」

 

それが功を成したのか、彼女らは、興味を持ったこと(・・・・・・・・)に自ら取り組む姿勢が身についたのであった。

しかし、その一方で懸念もあった。

 

「............」

 

「どうも、こんにちは......今日も......」

 

「............」スタスタ......

 

それは領地の農民たちの目だった。

生まれた時から双子という、縁起の悪い出たち......また、町の貴族に比べれば貧しいものの、彼らの生活は農民からすれば何不自由ないものであった。

そこには、恐れと妬みがあった。

 

「ねえ貴方......やっぱりあの娘たちが心配だわ......」

 

「ああ......だが、かといって屋敷に閉じ込めておくわけには......」

 

姉妹がここまで主体的なのも、こうして外で様々なことを経験したためだ。

ましてや育ち盛りの彼女たちから、それを取り上げることは果たして良いと言えるだろうか。

葛藤の中、彼らは日々を過ごすのであった。

 

 

─数年後

 

それからさらに、あっという間に時が流れ、姉妹は10歳を超えていた。

妹の方はまだまだぎこちないものの、姉は次第に教養を身につけていった。

ただ、未だに好奇心旺盛な一面も残っており、自ら進んで取り組むことを何よりのモットーとしていた。

 

「お姉さま、行きたい場所があるんだけど......連れて行ってくれるかしら?こんなに太陽も明るいし」

 

「今度は何を見つけたのかしら?こんなに太陽も明るいから本気で付き合うわよ」

 

期待の眼差しで見つめる妹と、それを片目でチラリと見る姉。

互いの口から、同時に言葉が発せられる。

 

「楽しい昼になりそうね」

 

「永い昼になりそうね」

 

姉妹の息はピッタリで、そこに入る余地などなかった。

最も、この時(・・・)までは......

 

たった一夜にして全てを失うことを、彼女らは知らない。

運命(Fate)の歯車が今まさに、音も立てずに回り始めたのであった......

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。