東方紅魔郷 〜 Fate or Destiny. 作:あめじすと
─紅魔館 大図書館
コンコン
「パチュリー様、いらっしゃいますか?」
「......来たわね」
異変が始まって数時間後、ようやく呪文を唱え終えたパチュリーの元に、来訪者が現れる。
わざとらしく丁寧な口調で、来訪者は問う。
「......来たわね」
彼女はポツリと呟くと、その来訪者が入ってくるのを待つ。
「入りますよ」
ガチャ
「......こんばんは♪パチュリー様」
「ええ、こんばんは......偽物さん」
入ってきたのは咲夜だった。
しかしパチュリーは、彼女が他人であるかのように振る舞う。
それもそうだ、彼女は
あしらう彼女に、咲夜は訂正する。
「偽物はあの娘の方よ?本物は私......」
「そう......興味ないわ。ところで、要件は何かしら?」
彼女がそう聞くと、咲夜はニヤリと口角を上げる。
そこには完全で瀟洒な従者の姿はなく、狂気に満ちた殺人鬼の姿があった。
その手には、妖精メイドの切り落とされた頭が握られていた。
「ああ、失礼しました。......これは邪魔でしたね」
ゴトッ......
血が滴り、図書館の床を汚していく様にパチュリーは不快感を示す。
「大方の予想はついているけれど......聞くだけ聞いてあげるわ」
「そう言っていただけると助かるわ......ねぇ貴女......親友を助けたいとは思わない?」
彼女が提案してきたのは、やはり
無言のまま、睨み続ける彼女に咲夜は続ける。
「知っての通り、私たちは今宵動き始めた......それも全て私たち自身を守るために......」
「貴女の私情に付き合っている暇はないの......無駄話をするなら帰ってくれるかしら」スッ
そう言いつつ、手をかざすパチュリー。
しかし、次の言葉に彼女は手を下ろさざるを得なかった。
「まあそう言わずに......貴女も知りたくない?親友の過去を」
「レミィの......過去?」
レミリアの過去と聞き、手が止まる。
彼女とはもう何十年も友人で、知り合う前の話なども全て聞いている。
今さら聞いたところで、何の足しにもならないはずだ。
しかし、こうして手を止めている自分がいる。
自分の知り得ない何かに期待してしまっている。
きっと長い間、知識欲に溺れた結果なのだろう。
「特別に教えてあげるわ」
「私......は......」
戸惑う私をよそに、彼女は親友の過去をつらつらと語り始めた。
─15世紀頃 ヨーロッパのとある国
「もうすぐ生まれるぞ......頑張れ......!」
「ええ......貴方......ぐっ!?」
とある地方の屋敷で、今まさに新たな命が生まれようとしていた。
苦痛に耐え、我が子を産まんとする母親と、それを隣で支え続ける父親。
助産婦や従者の手も借りながら、奮闘し続けること数時間......ようやく、
「う、産まれた......産まれたぞ......!」
「ええ......ええ......嬉しい......!」
生まれ落ちた二つの生を、両親は大切に抱える。
たとえ世の中が不吉と言おうが、忌み子と言おうが関係ない。
ただ、生まれてきてくれたことが、彼らにとって何よりの幸せだったのだ。
貴族としては失格だが、我が子の誕生は名誉や世継ぎよりも大切だった。
......大きな声で泣き続ける二つの命に、彼らは初めてのプレゼントを送る。
「はじめまして、エミリア......」
「フランソワーズ......♪」
エミリアとフランソワーズと名付けられた命......明るく照らす日の光は彼女らの門出を祝うようであった。
─数年後
「まってよおねえさま〜!」
「フランがおそいのよ!」
野原で走り回る二人の少女。
その様子を、木陰で優しく見守る両親。
「元気ですね......あの娘たち」
「ああ、将来が楽しみだな」
一家はよく、外に出かけた。
家庭教師が、元気の有り余る姉妹に手が負えないため、両親は彼女らを好きなようにさせることにしたのだ。
「おねえさま、このお花はなんていうの?」
「ええと......かえったら本でしらべてみるわ。そしたらフランにおしえてあげるね!」
それが功を成したのか、彼女らは、
しかし、その一方で懸念もあった。
「............」
「どうも、こんにちは......今日も......」
「............」スタスタ......
それは領地の農民たちの目だった。
生まれた時から双子という、縁起の悪い出たち......また、町の貴族に比べれば貧しいものの、彼らの生活は農民からすれば何不自由ないものであった。
そこには、恐れと妬みがあった。
「ねえ貴方......やっぱりあの娘たちが心配だわ......」
「ああ......だが、かといって屋敷に閉じ込めておくわけには......」
姉妹がここまで主体的なのも、こうして外で様々なことを経験したためだ。
ましてや育ち盛りの彼女たちから、それを取り上げることは果たして良いと言えるだろうか。
葛藤の中、彼らは日々を過ごすのであった。
─数年後
それからさらに、あっという間に時が流れ、姉妹は10歳を超えていた。
妹の方はまだまだぎこちないものの、姉は次第に教養を身につけていった。
ただ、未だに好奇心旺盛な一面も残っており、自ら進んで取り組むことを何よりのモットーとしていた。
「お姉さま、行きたい場所があるんだけど......連れて行ってくれるかしら?こんなに太陽も明るいし」
「今度は何を見つけたのかしら?こんなに太陽も明るいから本気で付き合うわよ」
期待の眼差しで見つめる妹と、それを片目でチラリと見る姉。
互いの口から、同時に言葉が発せられる。
「楽しい昼になりそうね」
「永い昼になりそうね」
姉妹の息はピッタリで、そこに入る余地などなかった。
最も、
たった一夜にして全てを失うことを、彼女らは知らない。