東方紅魔郷 〜 Fate or Destiny.   作:あめじすと

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EPISODE3:早苗と過ごした日

 

─翌日

 

「さてと、今日もごろごろしよっかなぁ〜」

 

相変わらず彼は呑気に過ごしている。

早苗が明日に幻想入りすることも知らず、蝉の声に耳を傾け、そよぐ風に心を癒している。

とても気持ち良さそうに楽しんでいるようだ。そんな中、

大の字に寝転んでいると早苗がやって来た。

 

「仁くん、今日は何の日かわかりますか?」

 

「今日?う〜ん......あ、そうか!」

 

「はい、今日は花火が上がる日です!夜になったら一緒に見ましょう!

 

そう、今日は年に一度花火が上がる日だ。

花火は街の方で上がっているが、ここからでも見える。

 

早苗の両親は最後に彼と過ごさせるため、神社の仕事を休ませている。

なので今日は彼と一日中過ごせるのだ。

彼と過ごす最後の日を、早苗は明るく振る舞う。

心の内は溢れる悲しさで押しつぶされそうだが、彼にそんな思いはさせまいと、今日この一日を存分に楽しむことにしたのである。

 

「夜までまだあるけど.....どうする?」

 

「そうですねぇ.....よかったら川遊びにいきませんか?」

 

「そうだな.....久しぶりに行こうか!」

 

「はいっ!」

 

朝食はもう済ませてあるので早速川に行くことにした。

湖もあるが、川の方が近く、歩いて行けるのでそっちにする。

ここの川は非常に澄んでいて、流れも緩やかな上、それほど深くないので極めて安全だ。

ましてやこの田舎、高校生は俺たちだけなので、二人っきりで遊べる。

ここ以外に選択肢はないだろう。

 

ガラガラガラ

 

「「いってきます!」」

 

「いってらっしゃい早苗ちゃん、仁太郎君。楽しんでらっしゃいな」

 

おばさんに挨拶を済ませ、川へと向かう。川までは徒歩で十数分ほど

で、緑に囲まれた神秘的な場所だ。

SNSに上げればたくさん人が来るだろうが、俺と早苗の特別な場所なので誰にも教えたくない。

小学生の頃に指切りもしたしな。

 

─道中

 

「暑いですねぇ......仁くんは大丈夫ですか?」

 

「ああ、早く入りたいな......」

 

日本の中では避暑地のはずが、近年の温暖化で、ここも例年以上に暑くなっている。

(あぜ)道を歩いているのだが、田んぼの水は一部が干上がり、目線の先には陽炎が立っている。

蝉の声は悪くないが、暑さに拍車をかけているようにさえ感じる。

他にも風景の感想を言いあったりしながら歩いていると川に着いた。

 

「仁くん、着替えてる時に見ないでくださいね......あっ、でも仁くんになら......」

 

「おっ......おい!あんまり揶揄(からか)うなよ......」

 

思春期真っ只中な二人のことなので、こう考えてもおかしくはない。

しかし早苗が積極的でも彼は消極的なのでそんなことはできないのだが。

そんなやりとりを済ませ、互いに着替え終わると早速川に入る。

 

「冷たっ......でも気持ちいいな」

 

さすがに冷たさの方が先に頭に入るが、やはり早苗の水着に目が行ってしまう。他の人より発育がいいため視界に入るのも仕方ない。ていうかこんなにあって大丈夫か?

見守るという名目で早苗を見る彼、側から見れば変態だが早苗の方はまんざらでもない様子だ。

 

「も、もう仁くん!あんまり見ないでくださいっ!」バシャ

 

「おっと!やったな......それっ!」バシャッ

 

「きゃっ!もう......えいっ!」ザパァーン

 

おい、今のだけ音が明らかにおかしいだろ。

巨大魚でもいるのか?

 

二人で水のかけあいをする。

水の冷たさはどんな暑さも忘れさせるようだった。

二十分ほど水をかけあった後、彼が蟹に挟まれたり、早苗が泳いでる蛇を捕まえたり......色々なことがあったが、楽しんでいるようで何よりである。

そんな二人を樹上から見守るものが2人いた。

 

「あの二人楽しそうだね、私も遊びたいなぁ......」

 

「そうだな、本当に楽しそうだな......」

 

「神奈子、二人のこと気にしてるの?」

 

「あぁ......可哀想で仕方がないんだ。彼の今後もどうなってしまうのか......」

 

「神奈子......」

 

樹上では神奈子と諏訪子が彼らを見守っていた。

諏訪子は自分も遊びたそうにしているが、神奈子に至っては2人のことを気にしているようだ。

再従姉妹であるものの、恋人のような二人のことを。

彼に対して何の予告もなく切り離してしまうので、彼女には罪悪感があった。

気力の弱った神奈子を見て、諏訪子はとうとう神奈子に切り出す。

 

「神奈子、いつまでもでウジウジしてどうするの?可哀想って思うだけじゃ救われないんだよ?二人のことを思うなら、いつもみたいな威厳を出しなよ!」

 

昨日、本殿の中で考えていた彼女だったが、現状維持で彼に幻想郷のことは話さないようにしたのだ。

 

「諏訪子......」

 

諏訪子に説得された彼女は改めて二人のことを考えるようにした。

早苗が幻想入りするのは必然的なことなのだ。

辛くても自分達は二人を切り離さなければならない。

彼はどうするか?自分の力で生きることこそ強いことだ。

そう自分に言い聞かせ、神奈子も二人を離す決意をした。

決意をした神奈子の顔は真剣だった。

それを見て諏訪子も頷いて納得した。

 

「決意できたようだね。それじゃあ......ってもう帰ってるじゃない!?」

 

どうやら二人がやりとりをしている間、早苗と神太郎は遊び終わり来た道を戻っていたようだ。

まだ遠くまで行ってない彼らを二柱は追うのであった。

 

─東風谷家

 

ガラガラガラ

 

「「ただいま〜」」

 

「あら、おかえりなさい。スイカ用意してあるからよかったら食べてね」

 

家に帰るとおばさんがスイカを用意してくれていた。

縁側に座り、一緒にスイカを食べ始める。

スイカは近所の農家の人が栽培しているもので、毎年こちらに分けてくれる。

 

「美味しいですね、仁くん」

 

「そうだな、夏と言えばスイカだもんな」

 

水々しいスイカは喉を潤してくれる。

今日のような暑い日なんかに食べると最高である。

例えるならば砂漠にあるオアシスのような......

スイカを食べ終えた後は談笑をして、夜まで一眠りすることにした。

もちろん畳の上で隣同士になり大の字で寝たのであった。

 

「ふふ、本当に仲が良いわねぇ......」

 

気持ち良さそうに寝ている彼らを見て、おばさんも微笑むのであった。

 

─夜

 

「ふぁ......仁くん、そろそろ花火が上がりますよ。起きてください」

 

「んん......ああ......」

 

時間は午後七時前、そろそろ花火が上がる時間だ。

少し肌寒いが、これから花火が上がるので、心はホッコリしている。

そんなこんなでいると、おばさんが夕食を持ってきた。

 

「はい、今日の夕食は手打ちそばよ。私達は向こうで食べてるから」

 

「ありがとうございます!じゃあ......」

 

「「いただきます!」」

 

─ 一方その頃

 

「ねえあなた、早苗は向こう(幻想郷)でうまくやっていけるかしら?」

 

「そうだな......二柱がいるなら問題はないが、仁太郎君にどう説明しようか......」

 

ヒュウゥゥゥ............ドーーーーン!!

 

不意に大きな花火が上がる。

色とりどりの光が辺りを包み、それは華やかで儚いものであった。

 

「......綺麗な花火ですね。ねえあなた、辛気臭いのはやめませんか?ほら、あの子達のように輝いている花火ですもの......きっと大丈夫ですよ......」

 

「こうして花火を見ていると、あの頃の僕達を思い出すなぁ......」

 

「ふふっ、あなたったら......」

 

二人のことを考えていた彼らだったが、今はこの美しい花火に心を寄せることにしたのだった。

 

─縁側

 

今日の夕食は郷土料理の手打ちそばだ。

つるりとした喉ごしに、つゆの旨味とワサビの辛味が効いていて、夏にはピッタリだ。

早速早苗と一緒に食べていると......

 

ヒュウゥゥゥ............ドーーーーン!

 

大きな花火が一つ上がった。

 

「わぁ.....綺麗ですね、仁君」

 

夜空に咲く花は闇夜を照らし、人の心にも力強く美しい花を咲かすようだ。

色とりどりに夜空を飾る花はまるで夢のような.....儚いような.....そんな光景を目に焼き付ける。

 

ヒュウゥゥゥ..........ドドドドドーーンッ!

 

ヒュウ ヒュウ..........ドーン ドーン!

 

次々と花火が上がる。

絶えず上がるのではなく、日本らしく“間”のある上がり方だ。

ただそれだけの単純なことだが、不思議と飽きずに見ていられる。

そして時が経ち、もうそろそろ花火もクライマックスだ。

なんだか切なくて儚い気分だ。

そんな中、早苗が不意に肩に頭を寄せ、こう尋ねてきた。

 

「ねえ仁くん.....もし私が遠い場所に行っても忘れたりしませんか?」

 

「いきなりどうしたんだ?忘れたりするわけないだろ」

 

意味深な言葉に気を取られていた彼だが、早苗はその場で「ううん、何でもありません。聞いてみただけです」と、一言いった。

だが彼は気づいていた。早苗の頰には一筋の涙跡があり、儚いような表情をしていた。

彼は無意識にその場で優しく肩を抱いた。

特に引っ越しするなど聞いていないので、どういった意味かはわからないが、何となくこうしたくなったのである。

彼は早苗の温もりを感じるのだった。

 

ヒュウゥゥゥゥゥ..........ドーーーーーーーーン!!

 

最後の花火が上がり、花火の打ち上げは幕を閉じた。

静かになった縁側に、月の明かりが差し込んだ。

月の光は優しく二人を包んでいた。

 

─和室

 

「仁くん、今日も一緒に寝てくれますか?なんだか肌寒くて.....」

 

「俺は別にいいけど、狭かったらごめんな」

 

その夜、二人は一緒に眠ることにした。

早苗はもちろん最後なのでこうしたのだが、当然彼は知らない。

最初は別々の布団にいたが、次第に距離が縮まり、いつしか抱き合っていた。先程のように、普段奥手な彼でも今日は不思議とこんなことができた。

人肌の温もりが伝わり、身体が火照り、やがて二人の唇が重な.....ることはなく、二人は眠りに落ちた。

 

─早朝

 

「早苗、準備はできたか?」

 

「はい、神奈子様」

 

彼が寝ている間、早苗と二柱の見送りに、早苗の両親は来ていた。

彼はまだ寝ていて、起きそうな様子も無かった。

 

「諏訪子ちゃん、早苗ちゃんをよろしくね」

 

「まかせて、それと神太郎が悲しまないように」

 

「お父さん、お母さん、今まで本当にありがとうございました。私、東風谷早苗は行って参ります」

 

早苗は改めて彼の方を見る。安らかな笑みを浮かべて寝ている愛しい人.....その姿を心に焼き付けた彼女は深呼吸すると最後の言葉を彼に告げた。

 

「仁くん、さようなら.....いつまでも愛しています.....」

 

そう言うと、早苗と二柱はその場からゆっくりと消えていった。

早苗を見送った両親もまた寂しく感じるのであった。

 

「とうとう行ってしまったな.....」

 

「そうですね.....」

 

その後、早苗の両親は居間に戻って行ったが、同時に彼の体も消えかかっていることに気付かなかった......





人物紹介

八坂神奈子(やさか かなこ)
守矢神社の祭神の一人。
昔から諏訪子と共に早苗の遊び相手になっていた。
第二の保護者のような存在。

洩矢諏訪子(もりや すわこ)
守矢神社の元本来の祭神。
神奈子と同じく、よく早苗の遊び相手になっていた。
早苗と同様に子孫である仁太郎のこともよく気にかけていた。
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