東方紅魔郷 〜 Fate or Destiny. 作:あめじすと
「はあああっ!!」ドッ
「ぐっ!?」ズザァァァ
戦いが始まってすぐ、俺は美鈴に吹き飛ばされる。
当然だ、何の技量もない自分では彼女に敵うはずがない。
これまで戦ってこれたのは、あの謎の人物の手助けがあったからこそだ。
勝ち目のない相手に退くことも出来ない状況......自分で作り出しておきながら情け無い......
「さっきまでの威勢はどうしたんですか!?こんな程度じゃ肩慣らしにもなりませんよ!!」
「......っ!」ダッ
彼女の挑発に乗り、全力で駆け出す。
そして思いつきと言わんばかりに拳や脚を繰り出す。
「ふっ......!はぁっ!!」ヒュッ ブンッ
「............」ヒラッ ヒラリ
武術の心得のある彼女に攻撃が当たる訳もなく、涼しい顔で避けられる。
反対にこっちは焦りと苛立ちで疲れる一方だ。
冷静になれと頭の中で自分に言い聞かせても、体がいうことを聞かない。
再び感情に押し潰されていく。
「当たれっ!!当たれよぉぉぉ!!」ブンッ
「天澄さん......」ヒラッ
「行かなくちゃいけないのに......」フラッ
無理に激しい動きをしたために、すぐに疲労が溜まり足元が覚束なくなる。
そんな俺の様子を見て彼女は悲しそうな顔を浮かべる。
あいつが言っていた俺の能力......心を通わせた相手と一心同体になること......どうすりゃいいんだよ......それよりも......
「どうして......力を引き出してくれないんだ......」
「............?」
俺自身の能力はともかく、これまでの戦いの中であいつは俺の中に眠る力を引き出していた......
そのおかげで妖怪という障害に立ち向かうことができたのに......どうしてこんな時に限って何も干渉してこないんだよ......
「あ......ああああああっ!!」グワンッ
「天澄さん、どうしたんですか!?」
「早く俺に力をよこせぇっ!!聞こえてんだろ!?返事くらいしろよぉっ!!」
感情の赴くまま、俺は叫ぶ。
こんな事をしたって何にもならない。
時間だけが刻一刻と過ぎていく。
「うわああああああ!?」
諦めないって決めたばかりなのに、自分のことを止めてほしいとさえ思っている。
今、この場にいるのは俺なんかじゃない。
力を求めるだけの哀れな獣だ。
これじゃあ、あの妖怪と一緒じゃないか......
俺は......俺は............
「......っ歯を食いしばってください!!修正します!!」バキィッ
「ごふっ!!?」ズガッ......ドサッ......
不意に頬に鋭い痛みが入ったかと思うと、俺の体は宙に浮いていた。
受け身をとる暇もなく、地面に叩きつけられる。
何が起きたのか理解できず大の字になっていると、美鈴がこちらに歩いてきた。
俺はその顔を直視することが出来なかった。
「さっきから聞いていれば......力、力と......貴方は一体何をしに来たんですかっ!!?」
俺の前で立ち止まると同時に、彼女は声を張り上げる。
我を見失い、欲に溺れる自分に対し怒るのは当然だろう。
そう思っている間にも彼女は続ける。
「貴方は言いましたよね?皆を助けるため......大切な人を守るために戦いたいと。それに私も応えたはずです......手加減はしない、全力でねじ伏せると......。貴方が私に勝てないことくらいわかってます............でも、貴方の心の強さを信じたからこそ、あえて試練を乗り越えさせようと......いや、乗り越えてくれると思っていました。なのに............なのに貴方は目先の力を求めてばかり!!あの妖怪から人を守るために戦っていたときとはまるで違う......他者を想う心のない醜い気を感じます!!」
「............っ」
今まで聞いたことのない程の彼女の怒声は耳をつんざくようだった。
彼女の言うことはもっともだ。
自分が一番わかっていることもあり、悔しさに唇を噛み締め、目からは涙が零れる。
返す言葉もなく、俺はただ仰向けのまま視線をそらすことしかできなかった。
すると彼女は俺の枕元まで歩み寄ってきた。
そして上体を起こすと、そっと抱きしめてきた。
「貴方はそんな人じゃない............初対面の私にも心配して声をかけてくれた......子供を守るために妖怪に立ち向かうことだってできる、優しくて強い人だって知ってます............最初から止めるまでもありませんでしたね......」
彼女の温もりが伝わってくる......と思ったその時だった。
「......っ!」バッ
彼女は突然、何かに気づいたかのように---の体から離れる。
いや、---が離れさせた......---は---のはずなのに......?
視界が............黒く............
「この気......天澄さんじゃない......貴方は何者ですか!?」
「............ふっ」
彼女の目に映るのは、不適な笑みを浮かべる彼?の姿だった。
ただならぬ雰囲気を纏う彼に気づいた彼女は、咄嗟に距離を離したのだ。
臨戦体勢をとる彼女に対し、彼は口を開く。
「小娘よ、礼を言うぞ。おかげで手間が省けた」
「礼......?誰だか知りませんがあなたは......っ!?」バッ
いつの間にか背後に回り込んでいた彼から距離をとる。
彼は今、確かに目の前にいたはずだ。
動く素振りもなく、どう移動したのか。
いくら高速で移動しても目で追い対応できる......気で動きを察知することもできるはずだが、彼女にはそれが出来なかった。
己の力が及ばない存在に彼女は戦慄する。
「くっ......前言撤回です!!天澄さんは通しますが、貴方は通しま......!?」ゾワッ
「邪魔をするな......」スッ
「うっ......くそ............」ドサッ
再び背後に回り込まれた彼女は、対応する間もなく首に手刀を打たれ気絶するのだった。
そして門前へと移動した彼は光に包まれるとその場から姿を消すのだった。
─霧の湖付近の森
「............足りないわ。ここ何ヶ月も食べてなかったもの」
暗い森の中を漂う影が一つ。
地面にはまだ真新しい血の痕がポトリ......ポトリと続いていた。
やがて空けた場所にたどり着いたその影は、何かに気づいたかのようにふと立ち止まった。
そして自らを覆う黒いモヤを取り払うと、期待に満ちた目と三日月のように上がった口角という表情でポツリと呟いた。
「この匂い......久しぶりね。今度は逃がさないようにしなくちゃ」
両手を十字架のように広げ、影は宙へと浮かぶ。
食べ損ねたご馳走を求めて......