東方紅魔郷 〜 Fate or Destiny.   作:あめじすと

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EPISODE35:紅い館へ

 

「ちょっと待った。せっかくだから私の話を聞いていけ」

 

近くの岩に腰掛けたチルノは、手足を組みながらそう告げる。

いつになく真剣な表情で告げられては、こちらも聞く他はない。

 

「それじゃあ......頼む」

 

その言葉を聞くと、彼女は当時の状況をつらつらと語るのだった。

 

「最初はそうだな......1ヶ月くらい前かな?お前に初めて会ってから

何日か経った頃、いつもみたく大ちゃんと遊んでたんだ」

 

随分と覚えてるなる......

あれ?もしかして庭園で会った時にこいつの名前を間違えた自分の方がバカなんじゃないか?

 

「どうしたんだ?まさか体の芯まで凍っちゃったのか!?」

 

「いや、何でもない......続きを......」

 

「ふ〜ん......あ、そうそう!そしたら紅魔館のコウモリ女と連れの鬼上司が通るのを見て、声をかけに行ったんだ」

 

コウモリ女に鬼上司......?

コウモリ女の方はレミリアのことを言ってるとして、鬼上司は咲夜のことか?どう考えても美鈴が吹き込んだんだろうな......

 

「私と大ちゃんは挨拶したんだ。でも鬼上司のやつ、挨拶も返さずに黙ってにっこりしたままでさ。会う時はいつも挨拶返してくれたんだけどな〜」

 

「お嬢......じゃなくてその......こ、コウモリ女の方はどうだったんだ?」(さすがにこの呼び方は気が引けるな......でもこいつ、二人の名前知らなそうだし......)

 

「ああ、レミリアの方はだな......同じようにずっとニタニタしてたぞ。でもなんか張り付けたような感じで気持ち悪かったな」

 

「そ、そうか......」(名前知ってるのかよ......)

 

彼女曰く、レミリアと咲夜の二人に違和感を感じたのは約1ヶ月前。

自分が幻想郷に来て間もない頃からのようだ。

たびたび目にする二人は普段と異なり、変に機嫌良く見えるらしい。

終始笑顔のままで、どこか人形めいた不気味さがあったという。

 

「他に知ってることはないのか?例えば、この紅い霧とか......」

 

「ああ、この霧か。うん......?前にもこんなことがあったような......それはともかく、この霧は昨日から出てるな。で、ここに来る前に他の妖精や妖怪も倒してきたんだけど......みんな苦しそうになったり凶暴になったりしてたな。ま、私は最強だからどうってことないけどな!」

 

「なるほど......?」

 

「............ぉーぃ!チルノちゃーん!!」

 

ふと、遠くから誰かがこちらへ呼びかけていることに気づいた。

 

「ここにいたんだねチルノちゃん!もう、急にいなくなるから心配したんだよ!?あ、天澄さんもお久しぶりです!」

 

「げっ......説教は勘弁してくれよ......」

 

現れたのは大妖精だった。

急いできたのか息を切らしているが、愛想良く振る舞う姿は心に癒しを与えてくれる。

 

「こちらこそ久しぶり......大妖精ちゃん?」

 

「大ちゃんでいいですよ。......っとその怪我は!?ちょっと待ってくださいね......」

 

そう言うと彼女は傷口に手をかざした。

すると徐々に痛みが引いていき、気にならない程度にまで落ち着いた。

 

「ありがとう。凄いな大ちゃんは......」

 

「いえいえ、簡単な治癒をしたまでです!お気になさらないでください」

 

「気にした方がいいと思うけどな。ほら、見てみなよ」

 

「「............え?」」

 

大妖精とやりとりをしていると、不意にチルノが口を挟んできた。

彼女の指差す方を見ると、先程まで氷漬けになっていたルーミアが今まさに起き上がらんとしているところだった。

 

「あんたたち、さっきはよくもやってくれたわね」

 

「ひっ......」

 

むくりと上体を起こすと、首をこちらに向けて恐ろしい形相で睨んでくる。

大妖精は小さく悲鳴を上げると、背中側に隠れてしまった。

こうなっては再び戦うしかないと、腰を上げる。

するとチルノが目の前に躍り出て、こう告げるのだった。

 

「仁太郎......ここは私にまかせて先に行け」

 

「で、でもチルノちゃん......!」

 

「私、この戦いが終わったら栄光の志望校に入るんだ......」

 

何だこの死亡フラグ的な流れは......いや、この場合は不合格フラグか?

いやいやそんなことよりもチルノが時間稼ぎしてくれるんだ......このチャンス、無駄にする訳にはいかない。

 

「チルノちゃん......わかった。私も全力でサポートするよ!天澄さんもどこに行くかは知らないけど、ここは私たちに任せてください!」

 

「チルノ......大ちゃん............恩に着る!」

 

ようやく、紅魔館への道のりに復帰することができた。

このまま全力で突っ走れば、そう遠くはないはずだ。

 

「お嬢様に咲夜さん......何があったかは知らないけど、必ず元に戻さないとっ......!!」

 

紅い霧の満ちる暗い森を、彼は駆けていくのだった。

 

─ 一方その頃 霧の湖上空

 

「見えてきたわね」

 

「ああ......」

 

霊夢と魔理沙、二人の視線の先にあるのは湖畔に佇む紅い館。

背後からは紅い霧が絶えず立ち上り、雲のように周囲に広がっている。

その光景は、かつての紅霧異変を想起させるに十分だった。

 

「なぁ霊夢、紅霧異変って......」

 

「いつだっていいわよ。そんなことより今は急がないと......」

 

「............ああ」

 

魔理沙の問いに応える暇もなく、霊夢は飛ぶのを速める。

渋々、魔理沙は彼女の背中を追い空を翔る。

あっという間に湖の上空を抜け、紅魔館のルーフバルコニーに降りたとうとする。

だが、館の主人はそれを良しとしなかったようだ。

 

「......っ来る!」

 

「わかってるぜ......っと!」

 

前方から飛んできた紅い斬撃をひらりと躱す。

斬撃が通った場所からは冷気が漏れ、空気を垂直に真っ二つに切られたのだと実感する。

 

パチパチパチパチ

 

「まあ、お見事ですわ......でも、礼儀がなっていないのではなくて?」

 

拍手と共に現れたのは、紅魔の館に住む主人(吸血鬼)

その佇まいからは気品が溢れ、見る者を虜にするような、紅く美しい双眼が輝いている。

 

「礼儀?んなもん知らないな。飛んでる最中の斬撃はこーくうほう?違反だぜ」

 

「あら、魔女は存在そのものが違反ですのよ?」

 

「魔女が違反だなんてのは時代遅れだぜ。それに私は魔女じゃなくて魔法使いだ」

 

「まあ、それは失礼しま............と、お連れの方が待っていますわよ?」

 

霊夢の方へ顔を向けると、彼女は腰に手を当てながら半目でこちらを睨んでいた。

慌ててレミリアの方へ向き直ると、魔理沙は本題に入る。

 

「そ、そうだ......レミリアお前、スペルカードルールはどうした!?紅霧異変の時に負けた(・・・・・・・・・・)んだから大人しく身を引け!」

 

「はぁ......そうじゃないわよ。......あんたはレミリアじゃない。だから異変を起こすのは初めてだし、負けとして数えられてもいない。そうでしょ?レミリア似の誰かさん」

 

「ええ、改めて自己紹介いたしますわ。(わたくし)の名前は......エミリア(・・・・)・スカーレット。いずれこの幻想郷を......いえ、穢らわしい人間どもを駆逐する者ですわ」

 

一礼をするでもなく、真っ直ぐにこちらを凝視する彼女。

本来なら先に挨拶されるべきは自分であると主張するかのように、腕を組み顎を上げている。

 

「何だ、お前レミリアじゃないのか。私は霧雨魔理沙だ」

 

「......博麗霊夢。これで満足かしら?」

 

「はぁ......挨拶の仕方もろくに知らないのかしら............まあいいわ。あ、そうそう......先程の礼儀というのは、私に挑むのでしたら門からお入りになってくださる?私は礼儀にはうるさい方ですの」

 

相も変わらず、上からの目線で告げられる。

しかし異変を、その首謀者を退治しに来た以上、大人しく言う通りにするわけにもいかない。

 

「礼儀礼儀ってうるさいなぁ〜......お前の方こそ不意打ちしてきて、礼儀がないんじゃないのか?」

 

「エミリアだか何だか知らないけど、あんたが異変を起こすのなら私達は止めるまでよ。もちろん、今ここでね......!」

 

「............まぁ、貴女達の言う通りかも知れないわね。でも、いいのかしら?」

 

「どういうこと............っ!」

 

彼女が顎でしゃくった下の庭園を見ると、そこには大きな血溜まりが広がり、地中から飛び出た木の棘には串刺しにされた人々の姿があった。

まだ生きている者は木の十字架に磔にされ、それを取り囲むように武器を持ったホフゴブリンや妖精メイドの姿もある。

彼らの体は小刻みに震え、その行為が本心からではないことが窺える。

 

「あんた......こんなことしておいてタダで済むと思ってないでしょうね?」

 

「霊夢の言う通りだ。私が言うのもなんだが、紅魔館の奴らはレミリアにとって家族同然だ。こんなことしてるってあいつが知ったらお前、本気で殺されるぞ?」

 

「ふっ......家族?私にとって家族はあの娘(フラン)だけ............他がどうだろうと知りませんわ。それと......本来の人格は私ですの。今までずっと私を奪ってきた吸血鬼のことなどどうでもいい......ま、この力はありがたく使わせていただくけど......」

 

視線を掌に移し、握っては開く悪しき者。

彼女にとって人間は、復讐という名の美酒(ワイン)のために果汁を搾り取られる存在でしかないのだ。

 

「どうしてもというなら、今ここで戦ってあげてもいいけど?その代わり下にいる劣等種は皆殺しよ。さあ、どうする?」

 

「..................ええ、わかったわ。その代わり、人質は解放する。もちろん、紅魔館の住民達も......」

 

「お好きにどうぞ............と、下の階が騒がしいわね。あの魔女をまだ殺せていないのかしら?......それではお二方、私は館内でお待ちしておりますわ。ご機嫌よう............」

 

彼女は黒い霧に姿を変えると、その場からスッと消えてしまった。

取り残された二人は今一度、状況を確認し合う。

 

「なあ霊夢、本当に門から入るつもりなのか?今ならあいつもいないし、このまま紅魔館に入れるだろ?」

 

「いいえ魔理沙、ここはあいつの言う通りにするべきだと思う。あの木の棘の根元、土が盛り上がってるわ。たぶん地中から飛び出したんじゃないかしら?それに人質も解放しないと......見ていられない......」

 

「..................悪い」

 

妖怪退治を生業にする霊夢は、これまで多くの死を目にしてきた。

妖怪に喰われた人間、あるいは自身が消滅させた妖怪。

双方、この幻想郷で生きる限り避けて通れないものだ。

しかし、今回は違う。

とって喰われるわけでもなく、ただ嬲られ、甚振られ、無惨に散らされた命がそこにはあった。

 

「さっきも言った通り、入ったらまずは人質を解放するわ。そしたら順に、紅魔館の内部をくまなく探索するわよ」

 

「おう、紅魔館の中のことなら霊夢より知ってるからな。ほら、さっさと......と、あいつも来たみたいだぜ?」

 

森の方から紅魔館へと続く一本道に、走って来る人影があった。

それを確認した二人も門の方へと降りていくのだった。

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