東方紅魔郷 〜 Fate or Destiny.   作:あめじすと

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EPISODE36:紅い道程

 

「見えてきたっ......!」

 

全力で走り続けていると、昨日、妖怪の元に向かっていた時のように体が軽くなり、あっという間に森を抜けることが出来た。

これも能力の一環なのだろうか、普段の感覚で走れば間に休憩を挟み三十分以上かかるところを、ものの数分で走り抜けてしまった。

自らの能力(ちから)に驚くのも束の間。

目の前の一本道の先には、紅い霧に覆われた大きな館があった。

 

「よし、このまま突っ走れば......っとあの二人は......!」

 

道中、館の上空から霊夢と魔理沙の二人が降りてくるのが見えた。

迷うことなく、その場でお互いを認識し呼び合う。

 

「おーい!二人とも〜!!」

 

「こっちだ仁太郎!!」

 

門の付近まで来ると、二人もそれに合わせて地面に立つ。

そして思い思いにこれまでの経緯を説明する。

ひとしきり話し終えると、霊夢は神妙な面持ちで相槌を打つのだった。

 

「なるほどね......チルノの言う通りなら、その頃からレミリアと咲夜は入れ替わりつつあったわけね」

 

「入れ替わり?それってどういう......」

 

「さっきまでレミリア......いえ、もう一人の彼女と話していたのよ」

 

彼女の口から出たのは、衝撃的な事実だった。

レミリアの中にはもう一人の存在......エミリア・スカーレットなる人物がいるということ。

異変を起こしたのも、そのエミリアという人物だそうだ。

そして理由は不明だが、彼女は人間の抹殺を望んでいるらしい。

咲夜にはまだ会っていないというが、持ち込んだ情報から察するに彼女もまた、もう一人の人格を宿している可能性があるという。

宴会の時から彼女らを警戒はしていたが、今回その懸念が現実のものとなってしまったようだ。

 

「そんな......まさか......」

 

「そのまさかよ......何でこんなことになったのかはわからないけど、このまま放置するわけにもいかないわ。それに......」

 

「友達だから......だろ?」

 

『魔理沙......』

 

一瞬、辛い表情を浮かべた自分と霊夢。

だが、すぐに魔理沙のフォローのお陰で少しだけ前向きになれた。

必ず二人を元に戻し、この異変を終わらせなくてはならない。

 

「先に言っておくわ......この門の内側に入れば、もうあちらの狩場よ。すでに何人も犠牲になってるわ。それこそ目を覆いたくなるような光景が広がってる......それでもあんたは行くつもりなの?」

 

「それは............」

 

真剣な眼差しで思わず気圧される。

周囲に満ちる紅い霧と、それに混じった血の匂い。

冷たい空気が肌を刺し、手足が痺れるような感覚に陥る。

怖い......本当は今すぐ安全な場所で待機していたい......

そんな邪念が頭をよぎる。

でも............

 

 

 

「やらなきゃいけないんだ......」

 

理不尽な理由でこの幻想郷に来た。

何度も命の危機にあった。

何ならこの後、いつ死んだっておかしくない。

それでも今ここに立っていられるのは、助けてくれた人達がいたお陰だ。

俺はそれに応えたい......「ありがとう」とただ伝えたい。

それに、もし元の世界に帰って早苗に心配されるだけじゃカッコがつかないしな......

 

「俺はやるよ......霊夢さん。必ずやってみせる......!」

 

「ひゅ〜決まってるぜ仁太郎。流石、私が見込んだだけあるな!......って霊夢、どうしたんだ?」

 

「ええと、仁太郎だっけ?あんた、身内に神様とかいるの?」

 

「......はい?」

 

突拍子もない質問に首をかしげる。

確かに、早苗のところは一家で神職をしているが、当然ながら神様など見たことがない。

父方の先祖も寺を運営していたらしいが、心当たりはない。

ここに来て妖怪やら妖精やらには会ったが、神様も本当にいるのだろうか?

 

「いや別に......親族で神職をしてる一家ならいるけど、身内に神様はいないと思う......」

 

「......そう、まあいいわ。それと呼び捨てで結構よ、私も今さらあんたの苗字に興味ないし」

 

何か酷いこと言われた気がする......

そんなことより魔理沙も待ってるし門の前に行ってと......

 

「遅いぞ霊夢!早く行こうぜ?」

 

『一瞬だけど......こいつの中に神性を感じたわね。土着神?いや、もっと複雑な何か......?』

 

霊夢の胸中も露知らず、魔理沙は呼びかける。

三人は門前に立ち、一呼吸置くと、重い木の扉をゆっくりと開くのだった......

 

 

 

「これは...........」

 

「く.....るし..........助.....け.....」

 

「うぅ.....あ.....あぁ.....」

 

扉の先には霊夢の言った通り、凄惨な光景が広がっていた。

磔にされた人々の呻き声が静かに響き、濃い血の匂いが鼻をつく。

それを囲む妖精メイドやホフゴブリン達の顔も恐怖に満ちている。

思わず目を背けたくなるが、それでも助けようと前に出る。

 

「待ってろ.....今助けて..........」

 

「ま、待って.....!」

 

槍を持った妖精メイドから制止を受ける。

何かに気づいた様子の二人は足を止め、彼女の言葉を待つ。

それに習い、待機していると彼女は震える声でこう告げた。

 

「み.....なさん.....これ以上.....進まないでください.....木の棘の.....飛び出す罠が.....仕掛けられて.....」

 

この先の地面には木の棘が飛び出す罠が設置されているらしい。

彼女の足元にも木の棘が用意されているようで、昨晩から一睡も出来ず、動くことも出来ないという。

他の彼らも同様に、その場に拘束されてしまっているのだ。

 

「そんなこったろうと思ったわ。人間を怨んでるあいつが、そう易々と人質を解放させるわけないものね」

 

「どうすりゃいいんだ.....」

 

彼女達なら、空を飛べば罠を無視して紅魔館の入り口に到達できるだろう。

しかしそれでは人質を無視することになる。

かといって人質を助けようとすれば罠の作動は免れない。

万事休すと思われたその時、ふと頭にある事が浮かんだ。

 

「そういえば..........二人とも、試したいことがあるんだ」

 

「お、おいお前......そいつらの言ったこと聞いてなかったのか!?」

 

「待って魔理沙、私もあいつのことで確かめたいの」

 

魔理沙を制止した霊夢は、彼を先に進ませる。

人質達は罠の作動を恐れ、止まるように懇願するが、今はそれも雑音でしかない。

一番手前の妖精メイドと磔にされた人の側につくと、彼は地面に手をついた。

 

ズズズズズゥゥゥ!!

 

「ひぃっ!?」

 

すると地面が波打ち、鈍い音と共に足元から木の棘が勢いよく飛び出した。

思わず目を瞑る妖精メイドだが、その棘が彼女に到達することはなかった。

 

「こんのっ......逸れろぉ!!」

 

「......っ!」

 

恐る恐る目を開くと、彼の手が木の先端を食い止めていた。

木の棘は今にも手を貫かんと小刻みに震えながら顔を出すが、それでも構わず彼は軌道を逸らさんとする。

やがて地面が脈打つと、木の棘は流れるように逸れて全貌を現した。

 

「おい、そこのお前!早くこっちに来い!」

 

魔理沙の呼びかけに反応し、妖精メイドは武器を捨て一目散にその場を離れた。

一連の流れを目にした霊夢は顎に手を当て彼を観察する。

 

『やっぱり......加護を受けてるわね。道理で普通の人間が死なずにここまで来れるわけだわ』

 

彼女の目には、彼の纏う加護という名の鎧が見えていた。

誰かを守ろうとする(・・・・・・・・・)強い意志が、その鎧を形成しているようだ。

そうこうしているうちに彼の手により人質は次々と解放され、庭園の片付けは粗方済んだようだった。

 

「はぁ......上手くいった......?」

 

「あんた達も動けるようになったんだから、怪我人を連れてさっさと逃げなさい。じゃないと私があんた達を退治するわよ」

 

霊夢の助言(脅し)で人質達が門外へ出ていくと、その場には三人が取り残された。

ようやく紅魔館の中へ足を踏み入れる時が来た。

そして一歩を踏み出した......正確には、踏み出そうとした時だった。

 

 

 

ドォォォォォォ......バリリリリィィィ!!!

 

地下からの大きな振動と共に、建物が崩れる音が聞こえた。

まもなくして紅魔館中央付近からは煙が上がり、内部で何かが起きたことを告げる。

 

「猶予はないみたいね......行くわよ魔理沙、仁太郎!」

 

「「おうっ......!」」

 

扉の先に広がる闇へ、三人は足を踏み入れた。

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