東方紅魔郷 〜 Fate or Destiny.   作:あめじすと

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EPISODE8:紅魔の恐怖

 

─玉座の間

 

「ここに来て少し経ったけど、成長が早いわね。感心するわ」

 

「ありがとうございます、お嬢様。それではお茶をどうぞ......」コトッ

 

「気が効くわね。どれどれ......美味しい......貴方が淹れたの?」

 

「はい、今日はレディグレイです」

 

今日のお茶はレディグレイ。

アールグレイに柑橘系の香りを足したものだ。

ここに来るまでハーブティーは苦手だったが、最近飲めるようになり、今ではお気に入りの一つだ。

 

紅魔館へ来ておよそ3週間。

彼はこの短い間にも関わらず仕事の腕が上達していった。

もちろん咲夜に比べれば程遠いが、妖精メイドと同じかあるいはそれ以上になっている。

彼が得意な仕事はお茶を淹れることだ。

咲夜のように珍しい茶葉は使わないので、実は彼女は彼のお茶の方が好きだったりする。

そんな中、彼女は紅茶の香りに身を委ねながら彼に問いかける。

 

「ねぇ......貴方は誰か想う人がいるの?」

 

「はい?」(なんだこのよくありそうな展開....)

 

こう問いかけたのも、彼のことを早く知りたいためだ。

もっと早くに聞きたかった彼女だが、緊張している彼を気遣い仕事に慣れるまで待っていたのだ。

彼にとってはあっという間だった1週間も、気が変わりやすい彼女にとっては長かっただろう。

しかしそんな気が変わりやすい彼女でも、今回の“興味本位で恋をしたい”という考えは変わらなかったようだ。

返答を待っているレミリアに彼はこう答えた。

 

「まあ、いるにはいるんですが......元の世界に戻れない今じゃいないのと同じかもしれません。あっ、でも嫌いとかじゃないですよ。むしろ両想い......的な?」

 

さすがに再従姉妹と言うと引かれるかもしれないので、深く言わないようにしよう。

 

「そう......」プイッ

 

そう一言いうと彼女はそっぽを向いてしまった。

何か彼女の気に触ることを言ってしまっただろうか?

彼は頭を悩ませつつ、すでに空になったティーカップに紅茶をそそぐのであった。

......扉の向こうから足音が聞こえる。誰か来たみたいだ。

 

コンコン

 

「お嬢様、失礼します。十六夜咲夜です」

 

「入りなさい。......さて、今日は何の用事かしら?」

 

やって来たのは咲夜のようだ。

よくレミリアとは仕事や談笑、相談など幅広く付き合っていて、お似合いだ。

そんな二人のやりとりを見るのも、なんだか微笑ましい。

どうやら手紙を持っているようだ。

 

「本日の夜、博麗神社で宴会があります。招待状も届いていますが、お嬢様は行かれますか?」

 

「もちろん行くわ。最近身に覚えのない誤解があるようだから、それを晴らすためにも......そうね、貴方もついて来なさい。他の人達にも紹介しないと」

 

「は、はい。わかりました」

 

咲夜が伝えに来たことは宴会のことだった。

宴会について話を聞いてみると、月に1、2回のペースで行うそうだ。

会場は博麗神社という所で、幻想郷で最も重要な場所でもあるらしい。

......と言ってもあまり裕福でなく、金に執着のある巫女がいるらしいが。

しかし裕福でなくとも、色んな繋がりを持ち、みんなが楽しく過ごせる場所と聞き、内心とても楽しみだ。

 

「......あら、随分と楽しそうな顔をしているわね」

 

「ええ、楽しいことは大好きですから」ニコッ

 

「そ、そうね......待ち遠しいわね......」プイッ

 

あれ、また気にさわったかな?

 

普段は仕事に集中してあまり笑顔を見せない彼だが、この時の笑顔に彼女は思わず照れてしまった。

真面目な彼でもこんな良い顔を持っているという事を知り、彼女は嬉しくなるのだった。

ただ、館の主としてのプライドからすぐ顔をそらしてしまったが。

 

「天澄さん、そろそろお嬢様に昼食の準備を」フフッ

 

「......?わかりました。それではお嬢様、昼食の準備をしてきます」

 

「ええ、いってらっしゃい......」

 

背を向けて部屋から出て行く二人。

その背中を彼女は微笑ましく見ていた。

自分に忠実であんなに良い顔を見せてくれる。

そんな彼が気になる自分に対して、彼女は疑問を持った。

"興味本位で恋がしたい"のではなく、一目惚れしているのではないか?これは主としてのプライドが崩れかねない事態だが、この時だけはどうでもよかった。

それはともかく、威厳を保つためにも、従者達の前では彼に気がある素振りを見せないようにしようと誓う彼女だった。

最も、咲夜はすぐに気付いたようだが。

そんなことも露知らず、彼女は昼食を待つのであった。

 

 

 

食堂に着くと、二人は妖精メイドと協力して、早速昼食の準備に取り掛かる。

今日は夜から宴会なので量は少なめだ。

メニューで言えばワインと何種類かのパンといったところだ。

パンは早朝に妖精メイド達が焼いたものを用意するのだが、ワインは咲夜が作っているらしい。

製造方法は秘密らしいが。

 

「咲夜さん、ワインお願いします」

 

「ええ、わかったわ。」スタスタ.... ガチャン

 

それにしても手作りのワインか......凄いな咲夜は。

どうやって作ってるんだろう?吸血鬼だけに生き血のワインだったりして......

なんて、そんなことないか......な?

そんなことない......?

 

「............」

 

特に気にしていなかった彼だが、ここでふと我に帰る。

レミリアは吸血鬼、なら血を飲むのも当然だろう。

一体自分は数週間も何をしていたんだ?

 

彼は再び考えてみる。

執事服が置いてあったのも、過去に自分と似たような境遇を辿(たど)った人が?

あの時咲夜についてたケチャップは?製造方法が秘密って言うのも妙に怪しい。

まさか自分も生き血を抜き取られるのではないか?様々な思考が浮かんできて思わず冷や汗が流れる。

 

「天澄さん、どうかしました?」

 

「うわ!?いっいえ、何でもありません!」

 

知らぬ間に戻って来た咲夜に思わず驚いてしまう。

依然として冷や汗は流れたままだ。

さっきまで何も気にしていなかった自分が本当にバカバカしく思えてくる。

今は身の危険を感じている状態だ。

 

「......?それではお嬢様の所へ」

 

「は、はい......行きましょうか」

 

玉座の間に行く途中も、芽生えた恐怖心がおさまることはなかった。

 

 

 

「............」

 

「......どうしたのかしら?」

 

「あ......いや、少し考え事をしていまして......」

 

また、吸血鬼(レミリア)が食事を終えるまでの間チラチラとこちらを見ているのが、とても恐ろしかった。

いつ血を飲もうか様子をうかがっているのか?

そういえば......

 

 

 

『ここにあんまりいない方がいいぞ』

 

不意に名も知らぬ誰かの言葉を思い出す。

確かにそうかもしれない......いや、そうだ。

......今日の宴会でどうにか逃げれないだろうか。

そんな思いを抱き、彼は夜が来るのを待つのであった。

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