御剣は暁を裂く~沖ノ島の鬼神~   作:夜芝生

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今回は非常に短く戦闘描写のみ。
次回あたりからもう少し長く出来ると思います。


鬼神の娘御達

 

 

 沖ノ島に程近い、東南アジア近辺から輸送された資材を皇国本国へと送るための輸送用航路。

 20年前に深海棲艦が現れて以来、皇国が血を吐く思いで安全を確保し、開拓したものである。

 国内に主要な資源を持たなかった皇国が今まで生き残って来れたのは、この航路があったからに他ならない。

 

 

 

……しかし、安全が確保されている、と言えば聞こえはいいが、そこには『ある程度』という言葉を付けるのが正しい。

 

 

 

 深海棲艦は基本的には神出鬼没――一説に寄れば、艦船が沈没した事のある場所ならば何処にでも現れると言う。

 そのため、未だに艦娘達による護衛は必須であり、航路上に再び深海棲艦の巣が発生して変更を余儀なくされる事も多い。

 

 

 

 

――しかし、皇国海軍の中で艦娘を有する艦隊の数は決して多くは無く、彼ら輸送艦隊全てを網羅する事は出来ない。

 

 

 

 そのため、突如として現れる奴らに襲撃を受け、大量の資材を抱えたまま沈んでしまう艦船も多く存在している。

 

 

 

 

……そして今日この日、不運にもそういった事態に直面してしまい、絶体絶命の危機に立たされている艦隊があった。

 

 

 

 

 

――南西諸島海域 輸送用航路上

 

 

 

 

 

 皇国海軍所属の護送船団を伴ったタンカー船団が、激しくジグザグの航跡を描きながら、機関部も焼付けとばかりに全力で逃走していた。

 

「機関最大船速!! 絶対に行き足を止めるなっ!!」

 

 この船団を率いるタンカーの船長が、操舵室の全員に向かって必死に号令を下す。

 その間に、レーダーと、映しだされるモニターで後方を確認――そこには、最早海の支配者となった異形の群れがいた。

 

 

 

 その後方から迫るのは、砲塔を生やした巨大な口から、前腕が異様に発達した女性の上半身を生やした深海棲艦――軽巡ホ級と呼ばれる、駆逐艦に次いで軽量級の個体と、複数の駆逐艦から成る水雷戦隊だ。

 

 

 

 軽巡ホ級の巨大な両腕が、海面を掴むかのように叩き付けられる――砲撃の体勢だ。

 それに併せて、周囲の駆逐艦達も砲口を一斉にこちらへ向ける。

 

「敵艦砲撃砲撃体勢!! 予測発射時間はあと約30秒!!」

「面舵一杯!! 少しでも照準から逃れろ!!」

 

 そうは言っても、所詮はタンカー……素早い奴らの砲撃から逃れる事は殆ど不可能だ。

 だからこそ、少しでも多くの悪あがきをしなければ、待っているのは『沈没』という残酷な現実だけである。

 

「護送船団、砲撃を開始しました!!」

 

 船員からの報告に併せて、至近の護衛船団が一斉に深海棲艦目掛けて攻撃をかける。

 無数の砲弾と、ミサイル発射管が唸りを上げ、猛烈な勢いで敵目掛けて殺到する。

 

 

 

――しかしそれらは全て、敵の機銃と装甲によって阻まれ、一つとして彼らを傷つけるには至らなかった。

 

 

 

 決して護送船団の武装が劣っている訳では無い――しかし、その武装は『人類の作った』モノに対してのものであり、奴らの持つ装甲と、迎撃能力を乗り越えるには至らない。

 深海棲艦がたった数年で人類の海上保有戦力の殆どを壊滅させた理由がここにある――奴らの中で最も軽量とされる駆逐艦でも、人類側の戦力と比べれば、そのキルレシオは絶望的な数値を叩き出すのだ。

 

 

 

 

 だから、護送船団が狙っているのは奴らの撃退や撃沈、迎撃などでは無い。

 ただ、その照準を少しでも狂わせるための目眩ましなのだ。

 

「――敵砲撃、来ます!!」

 

 報告と共に、風切り音を立てて砲弾が次々と飛来する――必死に護送船団が迎撃のために機銃や迎撃ミサイルを発射するが、全てを撃ち落とす事など到底出来はしない。

 

 

 

 その間に船長達に出来る事は……ただ、祈るだけ。

 

 

 

――そして、轟音と共に敵の第一射が着弾する。

 凄まじい水飛沫が次々と上がり、巻き起こった衝撃が激しくタンカーの船体と、操舵室の空気をビリビリと叩いた。

 

「ぐぅ……損害報告っ!!」

「当艦に被弾無し!! 一部積み荷が崩落しましたが、航行には問題ありませんっ!!」

 

 その報告に胸を撫で下ろす暇も無く、再び砲弾が飛来する――そして、それは至近で迎撃していた護送船団のうちの1隻に直撃した。

 

 

 

――猛烈な勢いの爆炎が上がり、船体を真っ二つに砕かれた護衛艦が、まるで吸い込まれるかのように海底へと没していく……轟沈である。

 

 

 

 見れば、護送船団の半数が撃沈、もしくは大破し、残る艦艇も殆どが損傷している。

 そして大破し、行き足の止まった者達は、すぐさま落とされ、群がった駆逐艦達の顎によって噛み砕かれ、飲み込まれていく。

 

 

 

……このままでは、数マイルと進まずに護送船団は全て撃沈され、このタンカーも後を追う事になるのは明らかだった。

 

 

 

 その上、船員から再び絶望的な報告が飛んだ。

 

「敵艦隊、魚雷を発射!! 数20!!」

「何っ!?」

 

 魚雷は駆逐艦や軽巡といった軽量級の艦艇にとっては必殺の武装――恐らく半数以上の『邪魔者』を排除した事で、止めを刺そうという思考に至ったのだろう。

 しかも、砲撃と比べて魚雷の命中率は高く、迎撃も難しい。

 

「弾着まで10……っ!!」

 

 最早これまでか……悟ったかのように目を閉じ、衝撃と最後の時を待つ船員達――しかし、その衝撃はいつまで経っても訪れなかった。

 

 

 

 

「敵魚雷群消滅――海域上空に友軍の識別反応!!……内1機、当船に近づきます!!」

 

 

 

 

――代わりに聞こえてきたのは、魚雷が迫っていた砲口から吹き上がる水柱と……船上を掠めるように飛んで行く、レシプロ式の飛行機。

 

 

 

 しかし、凄まじく疾い――その速さは音速を遥かに超え、描く軌道は正に飛燕の如し。

 陽光に煌めく様は、高空に浮かぶ五色の雲……その名は。

 

「あれは……彩雲!!」

 

 それは、旧軍において活躍した海軍最速を誇った艦上偵察機――この時代において博物館(アンティーク)級の代物になった機体で、そんな芸当をやってのける者達はこの世で一つしか無い。

 

 

 

 

「――皇国海軍の識別信号を確認!! 艦娘です!! 艦娘による艦隊です!!」

 

 

 

 

 その瞬間、全ての船員が、将兵が、歓喜の声を上げる――彼らに落ちかけていた絶望の帳を打ち払う、最強の援軍の到着であった。

 そしてその声は、続けて成された報告によって最高潮に達する。

 

「識別は……御剣第2機動艦隊!!」

「――来てくれたか……沖ノ島の鬼神!!」

 

 それは、この周辺海域において名を轟かせる御剣 健次郎少将率いる艦隊であった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 タンカー船団から、数キロ離れた海域で、2隻の軽空母と重雷装巡洋艦2隻、そして軽巡洋艦2隻から成る艦隊の姿があった。

 その中央に位置する軽空母の飛行甲板上では、巫女服を身に纏った女性が、独自の認識によって彼らの様子を捉えていた。

 

「やーれ、やれ……出撃帰りに、まさか襲撃されてる友軍に出くわすなんてねぇ。

……ようやく、帰って提督と一杯やれると思ったのにさー」

 

 紫がかった癖毛の長髪をバリバリとかきながら、憂鬱そうに呟くのは、軽空母『隼鷹』。

 その言葉を窘めるように、無線が繋がる――映像には、傍らに飛行機の形をしたカラクリを入れた巨大な箱を携えた、額に鉢金を巻き、長髪を後ろで無造作に纏めた少女の姿が映しだされた。

 

『ちょっと、隼鷹――不謹慎よ? 私達がいなかったら、あの人達は救えなかったんだから文句言わないの』

「わーってるって『千代田』……大体、アンタだって愛しのお姉に一刻も早く会いたかってたじゃないのさ」

 

 隼鷹のからかいの言葉に、傍らに浮かぶ軽空母『千代田』は顔を赤くする。

 

『う……それは、そうだけど……と、ともかくそれとこれとは別っ!! すぐに第二次攻撃隊、発艦行くよっ!!』

「へーいへい、了解っ……と」

 

 ヒラヒラと手を振って千代田の言葉を受け流すと、隼鷹は手にした巻物に手をかざす。

 するとそこから『勅令』という文字が光りと共に浮かび上がり、巻物へと吸い込まれていき……同時に、そこに貼り付けられていた飛行機の形をした紙型がひらり、と浮かび上がる。

 そしてそれらは吹き荒ぶ潮風を無視して飛行甲板上に張り付き――次の瞬間、光の粒子が集まったかと思うと、型紙の数と同じレシプロ式の攻撃機と爆撃機……『流星・改』と『彗星・12型甲』が顕現した。

 

 

 

――そのコクピット上には、霊力を込められて人と同じ姿になった艦妖精達が乗っている。

 

 

 

 それを確認すると、隼鷹はそれまでのガサツな態度を一変させ、雄々しく彼らに向けて号令を発した。

 

 

 

 

「――第二次攻撃隊、全機発艦!! これは勅令である!! 目標前方敵水雷戦隊!!

一機残らず撃滅せよ!!」

『――了解!!』

 

 

 

 

 次々と発艦していく攻撃機と爆撃機達――それに併せて、傍らの千代田からも無数の艦載機が飛び立っていく。

 

『さあ艦爆隊、艦攻隊、出番よ!!』

 

 千代田はそれらに繋がった霊力の糸を、まるで操り人形のように操作しながら、彼らに指示を与えていた。

 

 

 

 

――そして全ての艦載機が発艦したのを確認すると、二人は一斉に艦載機達をタンカー船団を襲う深海棲艦達目掛けて攻撃を開始した。

 

 

 

 

 艦娘達が搭載する艦載機は、人類が有する如何なる航空戦力も及びも付かぬ程の性能を発揮する――音速で空を駆け、機銃の一撃で通常の艦船を打ち砕き、爆撃は全てを焼きつくす。

 その中でも、トップクラスの性能を誇る彗星・12型甲と、流星・改による攻撃は、例え深海棲艦であろうとも、軽巡、駆逐艦クラスならば容易に撃滅する事が可能だ。

 

 

 

 攻撃機による雷撃と、爆撃機による爆撃――雷爆同時攻撃が、眼前の駆逐艦、そして軽巡に向かって放たれる。

 爆撃を避けてもその先には魚雷の航跡が伸び、逆に魚雷を避けたとしても、その先には爆撃の一撃が迫っているという、回避不可能の攻撃だ。

 

 

 

 

――俗に死神の笛と称される独特の風切り音を響かせながら、爆撃が駆逐艦を、雷撃が軽巡をそれぞれ打ち砕く。

 

 

 

 一度の攻撃で、一気に敵艦隊の3分の1を轟沈させる大戦果であるが、当の隼鷹は不満げに舌打ちした。

 

「ちぇっ……やっぱり出撃帰りじゃ、霊力(だんやく)が足んないかー」

『仕方無いよ、今回は結構奥まった海域まで出撃した後だったし』

 

 慰める千代田の言葉通り、既に出撃し、沖ノ島周辺の深海棲艦達と戦った後の彼女達は消耗し、本来の力を十全に扱えていないのが現状だった。

 

「ま、それでも余裕だけどねー……後は頼むよ、神通」

『はい――後は、任せて下さい』

 

 隼鷹の言葉に答えたのは神通――今や健次郎の第二艦隊旗艦となった彼女の指揮の元、隼鷹と千代田の攻撃によって混乱する敵水雷戦隊に向けて、攻撃を開始した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「――砲雷撃戦……開始します!! では、お願いします、大井さん、北上さん」

『了解!! 海の藻屑となりなさいな!!』

『はいは~い、それじゃあ甲標的さん達、お願いね~』

 

 神通の号令に答えたのは、まるで針鼠の如き無数の魚雷を装備した、現存の艦娘の中では最強の雷撃能力を持つ2人の重雷装巡洋艦『大井』と『北上』だ。

 

 

 

――無数の魚雷に混じって彼女達に取り付けられていたものが、海中へと投入される。

 

 

 

 それは、魚雷を搭載した小型の潜水艇――甲標的と呼ばれる、敵へと肉薄し、雷撃による先制攻撃を行う兵器だ。

 重雷装巡洋艦を始めとした一部の艦艇にしか搭載出来ない強力な兵器だが、その構造は非常に脆弱であり、攻撃を受ければ易々と撃破されてしまうという弱点も存在する。

 

「甲標的の肉薄を援護します!!――多摩さん、砲撃開始!!」

『了解にゃっ!!』

 

 その弱点を補うべく、神通の声に答えたのは多摩――十年前には未熟だった彼女も、今やこの第二艦隊の主力の一人だ。

 甲標的達の存在を気取られぬよう、絶え間なく20.3cm連装砲が火を吹き、敵の注意を引きつける。

 混乱から立ち直った敵の駆逐艦達もこちらに砲撃を加えるが、軽巡洋艦である神通達の方が射程が長く、奴らの攻撃は届く事は無く、逆に彼らの船体を削り取っていく。

 

『甲標的、目標海域に到達!! いつでも行けます!!』

 

 そして――無事全ての甲標的が敵を射程距離へと捉えた。

 

「――油断しましたね……発射して下さい!!」

 

 口の端を僅かに吊り上げながら、神通は号令を下す――同時に、甲標的から発射された魚雷が、傷付いた2隻の駆逐艦の船底を貫いた。

 うめき声を上げながら海中へと没していく駆逐艦――予想外の方向からの攻撃に、一瞬敵の動きが止まった。

 

 

 

 

「……魚雷も装填済みです――撃てっ!!」

 

 

 

 

 行き足の止まった敵目掛けて、神通は一切の容赦無く魚雷発射を命じる。

 

 

 

 

……敵水雷戦隊が全て海中に没したのは、その僅か10分後の事であった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 戦闘を終え、タンカー船団を安全な鎮守府近海まで護衛すると、神通達は彼らからいくつかの資材を報酬として分け与えられ、帰還の途に着いていた。

 

『ふぅー、思わぬ臨時収入もあったし、提督もこれで喜んでくれるかねー?』

 

 帰った後の振る舞い酒が上等なものになるのを期待しているのか、隼鷹はニヒヒ、と上機嫌な笑い声を上げた。

 

『きっと褒めてくれるわよ――それに千歳お姉も……』

『はいはい、アンタが期待してるのはどうせそれだろうね』

『――千代田さんと千歳さん、仲が良いものね……私は、北上さんがいればそれでいいのだけれど』

『ちょっとちょっと大井っち~、じゃれるのは帰ってからだよ~?

衝突したらどうすんのさ~』

 

 隼鷹の言葉を皮切りに、ワイワイと会話を交わす彼女達の様子を見届けながら、多摩はボソリ、と神通だけに聞こえるように呟く。

 

「――あそこへの出撃、いつまで続くのかにゃ……」

 

 その表情は、辛そうに歪められている。

 彼女達2人はあの日以来、数えきれない程に、あの沖ノ島海域へと出撃を繰り返していた。

 まるで、あの日沈んだ那智の仇を取るかのように。

 

 

 

 

……しかし、いくら奴らを沈めたとて、決して彼女が帰って来る事は無いのだ。

 

 

 

 

「それは、提督が十年前の過去を断ち切れるまでよ、多摩さん……」

「それは、何時になるにゃ……」

「いつか……きっと、いつかよ……」

 

 

 

 その問に答える神通の言葉は、虚しさと矛盾に満ちている――それに気付いているのか、彼女の表情もまた、多摩と同じように沈んでいた。

 健次郎の心は、未だに縛られている……十年前のあの日から、止まってしまったかのように。

 

 

 

 

(――それでも……)

 

 

 

 

 神通は、祈らずにはいられない。

 あの心優しい彼が、あの十年前の悪夢を乗り越える事を。

 

 

 

 

(信じていますよ……提督……)

 

 

 

 

 幾百、幾千回、その祈りは空へと消えていったか分からない……それでも、神通は祈る事を止めなかった。

 

 

 

 

 

……しかし、その10年間の祈りは予想外の形で叶えられる事になる。

 

 

 

 

 

 健次郎の横須賀鎮守府からトラック泊地への転属命令という形で。

 




多少メンバーは違いますが、自分の二軍は大体こんな感じです。
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