「エッジショット!!」
シンリンカムイの悲鳴が空と海と大地に木霊し、消えた。
倒れた忍者ヒーローはぴくりとも動かない。死んだのではなく気絶しただけだが、戦いの場においてそれらは大した違いを持たない。
「助かりました、ミルコさん」
淡々とした『声』にミルコがぶっきらぼうに答える。
「いーってことよ。ま、これで二対二だしな。すっきりはしねーけど文句ねーだろ」
彼女の言う通り──卑怯、と罵ることはできない、とシンリンカムイは思った。
敵の人員はあらかじめ把握できていた。
『透明』の葉隠透が含まれていることも当然知っていたし、不意打ちがあるだろうことも予測できていた。にもかかわらず「不意打ちされたら防げない状態」まで追い込まれた彼らの側に落ち度がある。敵はルールにもレギュレーションにも違反していないのだから。
だが。
シンリンカムイが動けない状態で、満身創痍とはいえ意識のあるミルコと、怪我さえ負っていない葉隠。二人に敵うはずがない。
「我を、どうするつもりだ」
「は? どうもしねーよ」
覚悟を決めて問えば、返ってきたのはあっさりとした言葉。
「なに?」
「エッジショットは倒れた。お前が自分で『自分は戦闘不能だ』ってんならこれで決着だろーが。トドメ刺す必要がどこにあんだよ。私らは悪役だけど
「それに、向こうももう終わります」
言われて、視線を向ければ──確かに、巨大同士の戦いに決着がつこうとしていた。
巨体に無数の爪痕を残し、遂に力尽きたかのように倒れたのは、Mt.レディ。大型に変身する者同士の死闘を制したのは、爪や牙などの生体武器を有するリューキュウの方だった。
勝利を告げる咆哮が空気を震わせる。
(だが、ならば何故、彼女らは平然としている?)
勝ったのがリューキュウである以上、シンリンカムイ達の加勢に来る。そうすれば形勢は逆転しうるというのに──。
(まさか、まだ何かあるのか!?)
その予測が正しいことは、直後に証明された。
ずん、と。
唐突に地面を震わせた『巨体』に、シンリンカムイも、リューキュウも目を瞠る。
「強者、よ」
『彼』の名は知っていた。
どころか、シンリンカムイは交戦した経験さえある。かつて、かの
その名を、ギガントマキア。
行った犯行がはっきりとせず、また、
考えてみれば、彼がここにいるのは当然の成り行きだ。
「勝負だ。竜の娘よ」
「冗談じゃない、と言いたいところだけど──」
ぼやいたリューキュウはちらり、と、シンリンカムイ、エッジショットに視線を送り、
「いいわ。相手をしてあげる!」
「有難い!」
ぶつかり合う巨体と巨体。
だが、Mt.レディとの戦いで疲弊しきったリューキュウは簡単に持ち上げられ、どん、と、地面へ叩きつけられる。それでも起き上がってくらいつかんとするが、勝負の行方は明らかだった。
(これが結末か)
かつて経験したことのない大敗。
このままリューキュウが負ければ、ミルコ達は他の戦いへ応援に行くだろう。数で勝っている以上、他の者も悪い戦いはしていないだろうが──そう思っていたシンリンカムイ達がこのザマだ。二重三重の罠が貼られている可能性がある。
ならば。
(このまま寝ていて、本当にいいのか?)
自問する。
答えは、考えるまでもなかった。
「ミルコ」
震える声で「戦うべき相手」の名を呼ぶ。
「待て。我々はまだ、負けていない」
「……へえ?」
踵を返しかけていた女が立ち止まり、シンリンカムイを振り返る。
心底面白そうな顔をした彼女は、傍らにいるであろう葉隠に「手ぇ出すな」と告げる。
「構いませんけど。いいんですか?」
「あぁ。男の意地だ。買ってやらなきゃ女が廃るだろーよ」
「全くもう……」
嘆息しつつも、葉隠の声もまた弾んでいるように聞こえる。
(楽しいというのか)
圧勝している状況が? 否、逆だ。ここからひっくり返されるかもしれない、と期待している。
生憎、そこまで期待には沿えないのだが、
「行くぜ、シンリンカムイ。防げるもんなら防いでみやがれ!」
両手両足を失って倒れた彼へ、ミルコの蹴りが来る。
自由になる首を動かし、シンリンカムイはタイミングを計った。
(今!)
己の『樹木』の身体が持つ再生力を一点集中、更に精魂を注いで急加速させ、腕一本分だけを高速再生。更に過剰再生することで枝を伸ばし、ミルコの首を絡め取る、
「うお!? これは──」
「我にできるのは、これが精一杯」
遂に捕まえたミルコの身体を引き寄せると、己の生命力を注いで全身を
シンリンカムイの奥の奥の手。
捕縛して引き渡すのではなく、命を賭して「ただ捕縛する」技。
「
シンリンカムイの身体は『心臓を核とした一本の樹』と化す。
捕まえたミルコの身体を拘束したまま、幹を伸ばし、根を広げ、栄養のある土の地面を求めて這う。エネルギーの供給が続く限り成長するが故に容易に破壊することはできず、また、シンリンカムイ自身にも止められない。
「あー、こりゃどうしようもねえな」
いい加減、ミルコも体力の限界だったのだろう。
しばらくもがいていた彼女は諦めたように身体の力を抜いた。
「……でなければ、やった甲斐がない」
「おいシンリンカムイ。これ元に戻れんのかよ」
「さあ、な。命が尽きなければ不可能ではないだろうが」
「ふーん。なら、ギガントマキア!」
リューキュウをノックアウトした巨人が「応」と応え、アスファルトの上にあるシンリンカムイの身体を土の地面まで運ぶ。
根が土に入り込み、養分を吸収する感覚にシンリンカムイは息を吐き、言った。
「感謝する」
こうして、港付近にて行われた第一の戦いはMt.レディ、ミルコ、リューキュウ、エッジショット、シンリンカムイの『全員戦闘不能』という形にて幕を下ろした。
ただし、『エタニティ』側の増援二人をほぼ無傷で残して──だが。
◆ ◆ ◆
「あー、今のは危なかったです」
女の大きな声が、割れた窓ガラスの向こうからレストラン
尾白の秘奥義によって破壊された空間。
どうにか被害を免れた出久と切島だったが、当の尾白はボロ布のように転がったまま気絶しており──対峙していたトガヒミコは、
「レディさんの血が無かったら死んでたかもしれません」
Mt.レディに変身した状態で、タワーの横へ立っていた。
一瞬。
尾白の九尾に襲われながら咄嗟に『変身』し巨大化したのだろう。人間サイズでアレを受けるのと巨大化して受けるのではダメージ量には天地の差が出る。大きくなりながら直撃を喰らい、狭いタワーから脱出しつつ立ち上がった。
「尾白の技、あれなら大抵の
「じゃあ、私は『大抵』にあてはまらなかったってことです」
床の淵を掴んだトガは変身を解除、優れた身体能力でひょい、っと床の上に乗った。
彼女はじっと、倒れた尾白を見下ろし、
「仕切り直しましょうか、永遠ちゃん」
告げた直後、どこからともなく声が聞こえた。
「ん、そうだね、トガちゃん」
「!?」
「永遠さん──!」
音もなく現れたのは、黒い魔法少女コスを纏った少女。今度こそ本物の八百万永遠だ。
彼女は
「やったのか、ヤオトワ。お前が」
「うん」
永遠は当然のように答えた。
「ねじれ先輩も天喰先輩も手強かったよ。“個性”に制限をかけてたら絶対負けてた」
「………」
かけなかった結果が『完勝』なのだとすれば、ねじれと天喰は「馬鹿にするな」と憤慨するかもしれないが。
「やっぱり、永遠さんは凄い」
「凄いのは“個性”で私じゃないよ。でも、そうだね」
少女は笑みを浮かべた。
人懐っこい彼女本来のものではない、悪役めいた笑み。
「この程度の人数で私達に勝とうなんて、甘かったんじゃないかな? ヒーローさん達」
「───!!」
倒れている尾白、ねじれ、天喰の姿。
更に永遠が指を鳴らすと頭上の空間がスクリーンになったかのように複数の光景が映し出される。
倒れているエッジショット。
樹に変じミルコを取り込んだまま動けなくなったシンリンカムイ。
力尽きたMt.レディとリューキュウ。
「港付近の戦いは相打ちだけど、加勢に行ってくれたギガントマキアと透ちゃんのお陰で、こっちの実質勝ち」
爆発の影響で荒れた森林地帯。
『無重力』で浮かされた爆豪と飯田。
爆豪の方は『爆破』で無理矢理移動して一矢報いようとしているが、自由に動けるお茶子にあしらわれている。
「ハメ技だけど、浮かされちゃったら何もできないよね」
天井に穴の開いたドーム内。
ホークスの猛攻に対してミリオが奮戦中。
決して一方的な戦いではないが、常闇は全身ボロボロで地面に転がっており、ミリオもまたホークスの手数の多さに『透過』しきれないのか、小さな傷を積み重ねている。
「二対一でこの戦果なら、実質こっちの勝ち」
タワーの一階ホール内。
ジェントル、物間、拳藤、吹出がボロボロになって倒れる中、白雲が荒い息をしながら立っている。
「いい勝負だったけど、白雲君が温存してたワープが決め手だったね。ギリギリで戦ってたところに新戦法はキツイよ」
無数のロボの残骸をバックに、地下組の三人が探索を続けている。
「雑魚に消耗させられた上、百ちゃんだけ姿が見えない。どこにいるんだろうね?」
地上の各エリアで倒れ伏す残りのヒーローチームメンバー達。
応援に来ないと思えば、
「私の分身で奇襲してみたんだけど、ちょっとズルかったかな?」
唯一、勝利を収めているのはエンデヴァー。
やりきった晴れやかな笑顔で仰向けに倒れた轟を残し、ギガントマキアの巨体へと飛んでいる。彼のコスチュームもボロボロの状態だが、それでも確かな意志を感じる。
「残ってるのはミリオと、エンデヴァー、それから緑谷くんと切島君だけ、だよ」
「───」
「どうする? 降参する?」
大魔王の「世界の半分をお前にやろう」と似たようなものだと理解しながら、出久は一瞬迷った。
倒れた仲間を回収して船まで戻る分にはきっと、彼女達は邪魔をしないだろう。次はもっとたくさん連れてきてね、とでも言って終わりではなかろうか。
(ここで挑んで、勝てるのか?)
勝たなければいけない。
エンデヴァーの言っていた「本当の勝利」という言葉が脳裏を駆け巡る。ここで最も避けるべきは「全滅」という結果を残すことではないのか。そうなればヒーローの権威は失墜、
それならまだ敗走という形を取る方が、
「俺にやらせろ、緑谷」
「切島、君?」
「何ボケっとしてんだ。俺達はヒーローで、目の前には敵がいんだぞ。考えるのはいいが、迷ってる場合か?」
「っ!?」
はっとする。
エンデヴァーは「迷うな」とも言っていた。迷わず、それでいて考え続けろと。
あれは、どういう意味だった?
くすりと永遠が笑い、一歩踏み出す。
「格好いいね、切島君」
「おぅ。惚れたか? 駄目だぜ、俺には心に決めたヤツがいるからな」
「三奈ちゃんだよね? はいはいご馳走様です」
「てめえ秒でバラすなよ!?」
ツッコミを入れながら、突撃を開始する切島。
「待っ──」
言いかけた出久は、一瞬だけ振り返った友人の視線に口を閉ざした。
覚悟を決めた「漢」の目。
「
弾丸のように飛び出した身体が一瞬にして最高硬度に到達。相応の勢いさえついていれば壁だろうと戦艦の装甲版だろうと余裕で貫通する肉体があっという間に少女へ迫り──。
「『
永遠が呟く。
指定範囲、指定時間内の全存在の運動エネルギーを解析、動きを予測する。強力だが「迂闊に使うと脳が限界を迎えて死ぬ」という理由から禁則指定となった“個性”。
「『剛翼』『
背中から白い羽毛の翼を生やした永遠が急加速、右腕に生み出した異形の槍で切島の拳とぶつかり合う。
硬い金属にドリルを当てたような異様な音が響き渡り、一瞬の拮抗の後、
「オ、オオオオオオォォォッッ──!?」
押し負けた切島の身体がタワ―の外壁、窓ガラスを突き破って飛ぶ。
轟音。
近くの建物の壁に衝突し、ようやく止まった切島は完全に意識を失っていた。バイザーの望遠機能で確認したところ、胸はきちんと上下している。
生きてる。
ほっと胸を撫でおろす出久だったが、
「これで、一人減ったね」
淡々と告げる永遠の姿に、何か根源的な『恐怖』を覚えずにはいられなかった。
オール・フォー・ワンが復活したあたりで「百話ちょうどで終われるんじゃ?」とか思った記憶があるのですが、はい、終わりませんでした(ぇ
悪堕ちルートを投稿するとしたら?
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同作品内で注意事項明記
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要らない