私達はタワーから少し離れた街中に着地した。
空には何機ものヘリコプターやドローン。
他の戦いが終わったので集まって来てるんだと思う。
「おあつらえ向き、だね」
誰が見ても「最終決戦が始まるんだ」ってわかる。
誰にも止められない戦い。
泣いても笑っても、この戦いの後にはどっちかが倒れている。
私から数秒遅れてデクくんが着地。
やりたい放題のトガちゃんを上手くかわしていたのでほぼ無傷の状態。
格好良くなったと思う。
身長や体格はオールマイトほどにはならなかったけど、全体的に引き締まっていて無駄なく筋肉が付いている。今や100%の
在学中に比べて数段洗練された装備もかなりの性能のはず。作ったのは発目さんだ。一時期はお茶子ちゃんと恋のライバルになったものの、今はすっぱり気持ちを諦めたとか。
「準備はいい、デクくん?」
「───」
尋ねると、彼は驚いたように目をぱちぱちさせた。
「デクくん?」
「あ、ごめん。……永遠さんにそう呼ばれるの、不思議な感じがして」
「あ。ごめん、つい」
「いいよ。むしろ嬉しかった」
内心と呼び方を使い分けてたんだけど、ついにやってしまったらしい。
でもデクくんは笑って首を振って、
「そうさ。……これから君と戦うのは、ただの緑谷出久じゃない。プロヒーローのデクだ」
「そうだね」
頷く。
「なら、私は『ただの永遠として』戦うよ」
イモータルもヒーローも、八百万の肩書きも抜きで。
「全開」
注目しているはずの人々の視線を置き去りに、私はデクへと突っ込んだ。
◆ ◆ ◆
接近と同時に振るった右の拳に、デクくんは正面から拳をぶつけてきた。
衝突。
空気がぴりぴりと震え──私の拳が勝って、見た目以上に硬い男の子の拳を押しのける。
刹那。
瞬き程度の間を置いて、無数の応酬が行われる。
拳を、つま先を、肘を、膝を、つま先を。身体に染みこませてきた無数の戦闘経験に従って、考えるより先に振るっていく。
互角。
最初は私が多少勝っていたのに、だんだんとデクくんのパワーが上がって、完全に釣り合う。
「69%」
呟かれた数字の意味は考えなくてもわかった。
「約七割か。私の身体能力も捨てたものじゃないね」
「ああ。むしろ──」
強かに打ち付けられた拳が私の腕を押し、身体さえも押し流す。
「たった三割のアドバンテージしか無いんだ」
69%とは、
『膂力増強』や『瞬発力』、その他の“個性”を組み合わせたフルの身体能力でも、デクくんの七割に届かないってこと。
私がいくつの“個性”を重ねてると思ってるんだこの化け物、って話だけど、全盛期どころか残り火を振り絞った状態のオールマイトがオール・フォー・ワン相手にあれだけ戦えてたわけで、100%引き出した上に自分の成長分を重ねたデクくんなら不思議でもなんでもない。
逆に言えば「身体能力だけで」ある程度釣り合ってしまっている、ということでもある。
「十分だと思うけど……っ!」
言いながら飛び込んだ私はもう一度右腕を繰り出しながら『衝撃反転』を合わせる。
ぶつかり合う拳と拳。
デクくんの拳速がさっきより速く、パワーが乗り切らない。でも、腕に伝わってきたダメージはさっきよりずっと小さい。受けた衝撃が相手に返ったからだ。
「くっ!?」
衝撃を逃がすように後ろへ跳ぶ彼。
逃がさない。
こっちから接近して連打。当然のように反応されるけど、衝突が起これば起こるだけデクくんへと一方的にダメージが蓄積していく。
でも。
──おかしい。
一度目の『衝撃反転』の時点から予測されるダメージが出てない。
一撃受け止められるごとに、私に来るダメージの量がちょっとずつ増えてる。何度も積み重なれば気のせいでないことはもう明白。
対応されてる。
“個性”による、どうしようもないはずの効果が!
「どう、やってるの!?」
「殴った衝撃が返ってくるなら、一撃目の衝撃を返された後、二撃目で相殺すればいいんだ!」
うん、何言ってんのこの人。
理屈はわかる。
『衝撃反転』は常動型じゃないので、接触の瞬間に起動しないといけない。なので、例えばコンマ秒の間に同じ箇所が二発以上殴られた場合、一発目の分しか反転できない。反転した一発目の衝撃が身体に伝わりきるまえに二発目を繰り出せれば自分へのダメージを回避し、私へのダメージを増やすことができる。
つまり「ガン、じゃなくてガガン」。
わかる人にはわかる言い方をするなら二重の極みである。
思いつくのはともかく実行して成功させられる意味がわからない。
「でも、腕痛いでしょ!?」
「まあね! でも、君を攻略するには必要だ!」
「なら、どっちが早いか!」
私の本気の攻撃をデクくんは全ていなしていく。
私達の身体がぶつかり合う度に回りの建物のガラスが割れ、建物には罅が入り、足場がめり込む。決して生半可な攻撃をしてるわけじゃない。でも、一発もまともに通らない。すごい動体視力と反射神経だ。
──練習に使われてる。
このまま「ガガン拳(仮)」を習得するつもりだとわかっていても、私は攻撃を続ける。向こうのダメージが多い以上、こっちにとっても悪い勝負じゃない。
そして。
ドン!!
ひときわ大きな衝突音。
連撃なのに「ドドン」と響かないあたり、どれだけ高速なのかを物語っている。腕に伝わってくる衝撃はまるで『衝撃反転』を使っていないかのようで、私は引っ張られる身体に従って後ろに跳んだ。
たぶん、一撃目を69%、二撃目に100%を叩きこんできた。
数字で計算すると69%ふたつぶんに100%一発で勝ってることになるけど、実際そうなってるんだから仕方ない。反転した威力が瞬時に相殺されるせいでまるまる機能していないんだろう。
「修得されちゃったかぁ」
「ああ! これで君の『衝撃反転』は効かない!」
デクくんはここぞとばかりに攻撃に転じた。
速い。
おそらく100%かそれに近い速度で迫ってきた彼は、そのまま何の捻りもなく右ストレートでぶっ飛ばしに来る。『
ここで『衝撃反転』を使わないとどうなるかというと、
──ぐしゃ。
あっさりと、まるで紙くずか何かのように右腕が潰れた。
「あ、やっぱり!?」
「わかっててやったのか!?」
「一応実験したいじゃない!」
向こうは私が反転しようとしまいと連撃を放ってくる。そうしないと反転された時に困るからだ。で、私が反転しなかった場合、合わせて169%分のダメージを受けることになるわけで、そりゃ何の対策もしなかったら「ぐしゃ」っと行くに決まってる。
瞬時に腕を再生して拳を握りながら、私は次の手段に転じた。
『二倍』。
次々に私の分身を増やし、デクくんへと挑みかかってもらう。
前から後ろから右から左から上から下(足元)から。
わらわらと小動物か何かのように群がろうとする『私』にデクくんは超反応を見せ、近い者から順に殴って蹴って重傷を負わせて消滅させていく。
ダース単位で自分が殺されていく様は見ていて気分がいいものじゃないけど、さすがのワン・フォー・オールでも追いつかないのか、デクくんの対応がコンマずつ遅れていく。このままいけばそのうちに『私』の攻撃をもらうことになるけど──。
ぶわっ、と。
彼の身体から広がった
「黒鞭──!」
伸びる腕が何本も生えた、と思えばいい。
殲滅効率はさっきの比ではなくなり、デクくんの周りから一気に『私』がいなくなる。
「私!」
作戦を変更。
まだ生き残っている分身を私の傍に留まらせて『空気を押し出す』からの定番コンボを起動。かつてオールマイトを吹っ飛ばした技の波状攻撃。
当たればひとたまりもないけど、
「はっ!」
デクくんはふわり、と浮き上がって射線上から逃れることでこれをかわした。
『浮遊』。
「やっぱり、そうなるよね」
私は笑って、これから始まる第二ラウンドに備えた。
◆ ◆ ◆
「そういや、あれって結局なんなんだ?」
港では『エタニティ』メンバー、ヒーローチーム、特殊部隊『零』が入り乱れた避難準備が始まっていた。
百の用意した脱出艇、ヒーローチームの乗ってきた客船、『零』の潜水艦に分かれて乗り込む中、切島がスマホで中継を眺めながら疑問を発した。
(なお潜水艦は『持ち帰るため』というのが大きいため、乗るのは最小限の人員だけとなる。今となっては捨ておいてもいいのだが、これだって国の貴重な資源だ)
準備の指揮を執っていた八百万百は元クラスメートに答えようとして、
『ワン・フォー・オールの歴代継承者の“個性”だね』
中継から聞こえてくる永遠の声が代わりに答えた。
もちろん、今の彼女は戦いに集中しているため、話題が被ったのは偶然なのだが。
『うん』
出久もまたしっかりとした声で答える。
黒い鞭のようなものと浮遊能力を見た者達の中からは「ワン・フォー・オールってなんだ?」という声も上がるが、
『オールマイトがデクくんに継承した“個性”は人から人に引き継がれる特殊なもの』
『ワン・フォー・オールには歴代継承者の残留思念と“個性”が宿っていて、超パワーを使いこなすことで他の“個性”が使えるようになるんだ』
集まる視線に百は「事実ですわ」と答えた。
彼女をはじめとする『エタニティ』メンバーは前もって知らされていた。どうせ明らかになることだから、と。
「“個性”まで使えるようになったのは緑谷さんが初めてのようですが」
『全部で幾つあるんだっけ?』
『超パワー自体と合わせて七つ』
出久自身も含めて継承者は九人だが、無個性が二人含まれているために“個性”は七つとなる。
『じゃあ、あと四つか』
『三つだよ。使った三つ目は『筋繊維操作』だ』
名前の通り筋線維を操作する“個性”。
『もともとは強化にも修復にも微妙な“個性”だったみたいだけど、継承によって強化された今は、自分の肉体なら元通りに修復できる。千切れた腕をくっつけたりとか』
『腕のダメージはそれで無視できるってことだね』
永遠の『不老不死』や『超再生』に比べれば微妙だが回復系の“個性”があるというアドバンテージは大きい。
『残り三つはどんな“個性”なのかな』
『さあね。それは自分の目で確かめればいいんじゃないかな』
『確かに』
静かな言葉の応酬が続く。
見ている者の理解が追いつくのを待っているかのようだった。
「……いや、待ってくれ。では、これは、オールマイトの継承者とオール・フォー・ワンの継承者の戦いということか!?」
飯田がはっとしたように言い、周囲にざわめきが広がる。
百は笑みを浮かべて頷いた。
「その通りですわ。ある意味ではこれは運命」
『OFAは、オール・フォー・ワンから生み出された“個性”だった』
『うん。戯れに与えられた『力を蓄える』個性と、もともと持っていた『個性を引き継ぐ』個性が偶然合わさって生まれた、平和のための力』
歴代のOFA継承者達はオール・フォー・ワンに対抗するために自らを鍛え、また、平和のために多くの敵と戦ってきた。
彼らは戦いの運命によってことごとく短命で終わったが、それでも希望の火が絶やされることはなく、遂にオールマイトの代で転換点が来た。
死闘の末にオール・フォー・ワンは重傷を負い、オールマイトもまたヒーロー生命の殆どを奪われ、
『君と、僕が現れた』
『私は、死柄木の役目を横から攫っただけだけどね』
OFAとAFOはそれぞれに受け継がれ、
『それぞれの継承者である僕と君がこうして今、戦っている』
『皮肉だよね』
『そうだね。でも、この戦いはオール・フォー・ワンに導かれたものじゃない。僕と君が、自分の意思で選んだものだ』
『うん。そうだよ。それはもちろん』
ここで再び二人は会話の間を置く。
「あのチビはなんでAFOを使わねーんだ」
と、爆豪。
「あのいけ好かねーお手て野郎の“個性”でもいい。使や勝ててるだろ」
「暇がなかったのでしょう。どちらも最低五指で触れる必要があります。殴る蹴る程度の接触では発動できません」
『巻き戻し』も同様だ。
というか、デクも承知の上で殴り合い以上の接触を避けているはず。
「それに、これは殺し合いではありませんから」
画面の中の永遠は楽しそうに笑っている。
「お互いが全力を出し切る前に終わってしまってはつまらないでしょう?」
悪堕ちルートを投稿するとしたら?
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同作品内で注意事項明記
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別作品として投稿
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要らない