死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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AFO vs OFA (3)

「『神の右手』」

 

 『夜』に染まった世界の向こうに夕焼けが見える。

 色んなことがあったけど、まだ一日も経っていないんだ。ううん、むしろ日が暮れようとしていることに驚くべきなのかもしれないけど。

 幾つものカメラと私、そして見守っている人々に向けてデクくんは告げる。

 

「僕は仮にそう呼んでる。この右手は異形型以外の全ての“個性”を無効化する」

「“個性”で作られたものに触ったら?」

「消滅する」

 

 相澤先生の“個性”と違って『二倍』で作った分身にも対処できる、ということだ。

 

 ──元々はそれも大した“個性”ではなかったらしい。

 

 右腕に対する直接的な影響だけを無効にする程度。

 握手した相手を精神支配する“個性”なら防げるけど、目を見た相手を支配する“個性”は防げない。“個性”で作った炎も消せない。そんな力だったけど、継承によって強化された今は、それが“個性”の産物であれば全て消し去る。

 視線による支配さえも、視線に触れることで無効化する。

 手を離せばまた使えるようになるけど、

 

AFO(オール・フォー・ワン)も、僕の右手には効かない」

「……まるで、AFOに対抗するために集められた“個性”みたい」

「案外、その通りなのかもしれない」

 

 相手が飛んでも追い縋れる『浮遊』。

 手で触れずに捕まえられる『黒鞭』。

 戦いのダメージを自分で癒すための『筋線維操作』。

 視界を塞いで自由を奪うための『夜』。

 戦闘力を底上げする『武具作成』。

 触れている間だけとはいえ悪魔の個性を無効化する『神の右手』。

 

 無個性の八代目・オールマイトが、初代から引き継がれてきたOFA(ワン・フォー・オール)本体でオール・フォー・ワンに大きな傷を残した。

 そして、やっぱり無個性のデクくんが、OFAの真の力を開花させた。

 

「歴代の継承者達は今の自分に──いや、()()()()足りないものを求めてきたんだ。オール・フォー・ワンを倒すために」

 

 積み重ねてきた力は膨れ上がり、あの男が危険視するようになった頃にはもう、手に負えないものと化していた。

 

 ──どうしてOFAを奪わなかったのか。

 

 奪えなかったんだ。

 単純計算でも七つ分の“個性”を秘めたその力は、オール・フォー・ワンの“個性”容量でも賄いきれないまでに強くなっていた。

 だから、戦って倒すしかなかった。

 でも、返り討ちに遭った。

 

 私に“個性”容量はない。

 OFAがどれだけ大きくても受け止めきれる。でも、完全開花したOFAはそれさえ許してくれない。

 

 輝く右手をデクくんが突き出す。

 

「AFOがどれだけの“個性”を集めても、OFAは負けない。僕が、僕達が、AFOを打ち砕く」

「オールマイトにも成し遂げられなかったことを?」

「やるさ。僕はオールマイトの後継者だ。今こそみんなに言ってみせる。『僕が来た』って。何の心配もいらない。もし永遠さんが暴れたら僕が止める。だから怖がる必要はないんだ、って」

「……ああ」

 

 私は深い息を吐きだした。

 

「あなたを選んで良かったよ、デクくん」

「僕も君が相手で良かったよ、永遠さん」

 

 私の言って欲しかったことを彼は言ってくれた。

 やっぱり彼は主人公だ。

 全てが今日ここで終わる。決着がつく。

 

 私達は同時に動きだした。

 最後の戦いに向かって。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

「……まったく。あいつらときたら好き放題やりやがって」

 

 雄英高校ではその日は終日授業を中止し、中継映像を全校生徒で鑑賞することになった。

 大騒ぎする生徒、言葉を失って見入る生徒。

 彼らを見渡しながら、相澤は「かつての生徒達」をスクリーン越しに見つめて深い溜め息を吐いた。

 

「まあまあ、いいじゃないか。二人とも楽しそうだし」

 

 陽気に言ったのはオールマイトだ。

 生年月日から考えると既にかなりの高齢なのだが、若い頃から鍛えた筋肉+永遠によって五年分若返らせてもらったお陰で今なお若々しい。

 

「OFAとAFOがこんな風に真っ向勝負するなんて考えもしなかったよ」

「それはそうですが……」

「HAHAHA! 相変わらず心配性だね、相澤()()!」

 

 彼らに並んで笑ったのは二足歩行するネズミ。

 生物的な寿命で考えると、むしろ危険なのはオールマイトよりも彼の方かもしれない。

 

「せっかくだから見守ろうじゃないか。ヒーロー同士の頂上決戦なんてなかなか見られるものじゃないよ」

「……そうですね」

 

 頷いた相澤は、再び視線をスクリーンに向けた。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 雄英高校だけでなく、世界中の人々が出久と永遠の戦いを見守っていた。

 

 かつて(ヴィラン)に親を殺された少年も。

 かつて“個性”に悩まされていた少女も。

 

 ヒーローに憧れる者も、嫌悪する者も、老若男女が、この戦いがどこへ行きつくのか、固唾を飲んで見守った。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

「全開・OFA(ワン・フォー・オール)!!」

「全開・AFO(オール・フォー・ワン)!!」

 

 『浮遊』と『剛翼』で浮かび上がった私とデクくん。

 OFAの産物じゃなかったら邪悪にしか思えないような黒く太い触手が宿主の周りへと無数に湧き出して地面や建物をえぐり取る。

 私の半身から噴き出した冷気と炎が空気を、地面を凍らせ、焼いて破壊していく。

 翼から射出された羽根が()()()()()切り裂くと、噴き出した鮮血から無数の蝙蝠が生み出されて滞空する。

 

 更に『二倍』。

 空中に生み出された分身が落下しながら『空気を押し出す』と、もうそんなものは役に立たないとばかりに黒鞭が薙ぎ払って片っ端から消滅させる。

 代わりに私は背中の羽根と蝙蝠の群れを飛ばす。一時的に飛行力が失われるも、足場に『雲』を生み出して即座にリカバリー。むしろ『弾性』を付与して一気に跳ぶ。

 羽根と蝙蝠を薙ぎ払ったデクくんもまた私に向かってきて、無数の攻撃がぶつかり合った。

 

 戦闘本能と『全知の魔(ラプラス)』をフル稼働してもなお届かない。『衝撃反転』が連撃によって挫かれ、隙をついて手のひらからの崩壊を狙っても右手に阻まれるか、そもそも手を払われてしまう。

 炎で焼こうと試みれば瞬時に防御膜のような鎧が形成されて全身をガード。

 要所で『夜』の闇が私達の間に生まれて視線を隠す。

 闇から離れ、飛び出してきたデクくんに『目からビーム(仮称)』、熱と冷気を同量スパークさせてつくりだした究極の極大エネルギーを向かわせるも、右手に打ち払われて消滅させられる。『念動』による絞殺を試みても、謎の超反応によって見えない力線を消滅させられる。

 

「キリがない!」

 

 『転送』でデクくんを呼び寄せる。

 

「待ってた!」

 

 すかさずフルパワーの()スマッシュが叩きこまれるも、私も『衝撃反転』を準備していた。きっちり入った連撃が反転したダメージを打ち消し、私の腹をぶち抜く。驚くデクくん。そろそろ『ショック吸収』を併用すると思った? 残念。

 私はお腹にデクくんの腕を受け入れたまま『自爆』する。

 この自爆や目からビームはハイエンドから手に入れた“個性”だ。

 

「───っ!?」

 

 これは、さすがに入った。

 大部分の爆風は右手に打ち消されてしまったものの、デクくんは確実に喰らって身体を焦げさせている。

 本体が離れざまにけしかけられてくる『黒鞭』を薙ぎ払いながら、私は欠損した肉体を修復。すぐに治る身体じゃなかったらできない荒業で若干のアドバンテージ。

 

「分身!!」

 

 わらわらと現れた私の分身が『剛翼』をはためかせて次々にデクくんへと向かっていく。

 右腕を槍に変形させた彼女達は当然『黒鞭』に狙われるも、多少のダメージは無視してそれをかいくぐる。ある程度本体に近づくことができたら迷わず『蒼炎』や『自爆』を起動。次々に黒い触手を吹き飛ばしながら本体への道筋を作っていく。

 分身を使い捨てる戦法はさすがに予想外だったのか、デクくんが動揺するのがわかった。

 なんとか『私』を叩き落とそうと腕や足、『黒鞭』を振るうも、戦いを俯瞰している本体の私も何もしていないわけじゃない。空気を押し出して黒い触手を散らし、あるいは逃げ道を断って追い込む。一か八か『夜』を展開されても、何度か見た私のピント調節は何の支障もきたさない。

 

 そして遂に。

 

 一人の『私』がデクくんに抱きつく。

 でも、稼げた時間は一瞬。すぐに()()()肩を掴まれた分身は自爆することすら封じられ、

 

「……ごめんっ!」

 

 ぐしゃ、と、肩を潰されて消滅した。

 

「残念。もう一瞬稼げればなあっ!」

「残念だけど、そうはいかない。同じ手も食わない」

 

 言って、デクくんは『浮遊』を解除した。

 荒れ放題の地面に降りる彼。

 比較的マシな状態の地点に立つと、ぐっと拳を固める。一見隙だらけ。でも、固めているのは左手。右手は油断なく開けられていて、更にプロテクターと『黒鞭』の二段構えに守られている。

 

「最後の一撃、ってこと」

「ああ。これ以上は時間をかけるほど不利になるからね」

 

 私は足場をいくらでも作り出せる上、翼もある。でもデクくんの空中移動は『浮遊』に頼っている。この“個性”も強化されてるからふよふよ浮くだけじゃなくて『飛行』と言っていいレベルになってるんだけど、それでも、パターンが限られてしまう。

 右手以外には“個性”も効くわけで、私に学習の機会を与えれば与えるほど不利になる。

 

「付き合う義理はないんだけど」

「無視できるならすればいいさ」

「言ってくれるね」

 

 私にとっても悪い話じゃない。

 向こうが「この一撃に全てを賭ける!」と言っているのだ。実際には二撃か三撃くらいはあるとしても、余力を振り絞るのはほぼ確定。

 突破すれば戦局はこっちに傾く。

 

「わかった。いいよ。やろう」

 

 デクくんの狙いはだいたいわかる。

 右手の力で『超再生』を無効化して私の身体をぶち抜く。さすがに『不老不死』だけだと再生速度がかなり落ちるし、再生のためにエネルギーが必要になる。何より正面から完膚なきまでにぶっ飛ばされたら心の方が満足してしまって動けなくなりかねない。

 なら、私は。

 

「ありがとう」

 

 笑って、力を溜め続ける彼を空から見下ろして──『二倍』を起動。

 馬鹿の一つ覚えって言われそうだけど、結局、私という個体が強い以上、この“個性”が一番シンプルに強力だ。

 わらわらと作り出す分身の数は、いっぱい。

 

 『哀れな行進(サッドマンズパレード)』ならぬ『不死者の行進(イモータルパレード)』。

 

 こらそこ。「もうゾンビものの敵じゃん」とか言わない。

 現れた私の分身が更に自分の分身を作り出し、ある時、一斉に羽ばたく。私達──八百万永遠はもはや群体に等しい。本体さえ残っていればそれで勝利。圧倒的な物量をもって敵を圧殺するのは、最後にして最強の攻撃手段。

 

 対するデクくんは、ただ強く地面を蹴ると、信じられないスピードで一直線に突っ込んできた!

 

 拳も蹴りも必要ない。

 プロテクターを装着し、超エネルギーを纏った彼の身体が触れるだけで『私』の身体は千切れて消滅する。消滅前に飛び散った血は蝙蝠に変わって空を埋め尽くしていくも、その子達にデクくんを止める力はない。

 数十、数百の『私』がぶつかって、進路をふさいで、それでも止めきれずに散っていって。

 遂にデクくんが突き抜ける。

 

 彼は空を瞬時に見渡して──()()()()()()()()()ことに目を見開いた。

 

 分身は全て消滅している。

 紛れてしまったわけじゃない。別の可能性に彼が思い立ったかどうかはわからないけど、正しい答えは「いるけど見えていない」だ。

 『透明』。

 透ちゃんの“個性”で消えただけ。滞空していた位置から三十センチも移動していない。だけど、タネに気づいた時、その僅かな移動が致命傷になりうる。あてずっぽうで殴るには範囲が広すぎるからだ。まさか、余波で私を倒せるとは思わないだろう。

 

 振るえなければ、溜めた力は無駄になる。

 考えている時間はない。

 物凄い速さで上昇しているのだ。実際にデクくんが思考できた時間は刹那。彼は一瞬で迷いを振り払うと、足の裏に生み出した()()()()()()()()()()()を即座に分離、踏みつけることによって、ついた勢いを止めないままに進路を微妙に転換する。

 

 ──真っすぐ、私に向かって。

 

 見えているはずがない。

 静止している私の気配を感じられるはずもない。

 

 だから、それはただの勘だったのだろう。

 あるいは運命の力。

 

「本当、デクくんは凄いよ!」

 

 私は『万物創造』を使ってウォルフラム──タングステン製のハンマーを作り出して投擲。更に轟君の“個性”で『膨冷熱波』を放ち、『弾性』を付与した『雲』を盾にし、両手を変異させた槍を盾に向かって振りかぶった。

 

「ワン・フォー・オール 1000%!!」

 

 その、全てを突き破って、

 

GLOBAL(グローバル) SMASH(スマッシュ)!!

 

 AFO(オール・フォー・ワン)を持つ『不老不死』は、OFA(ワン・フォー・オール)を持った一人のヒーローに、敗北した。

 全身をぼろぼろにされて吹き飛ばされた身体はどうすることもできず、ゆっくりと地面へ落ちていった。

 

 落ちて、動けなくなった。

 動けない私の身体から輝く何かが浮かび上がって、天へと上り、どこかへと飛び去った。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 六年以上前。

 

 八百万永遠はドクターから、他の多数の“個性”と共にとある“個性”を与えられていた。

 

 元々はドクターが「とあるオールマイトフリークの少年」を騙して手に入れた“個性”。

 本人すら存在に気づいていなかった『それ』は圧倒的なまでの可能性を秘めていたが、ドクターはもちろん、あのオール・フォー・ワンでさえ使()()()()()()()()(使いこなすことが、ではない)、永遠もまた使えないまま眠らせていた。

 使えないのは当然。

 かの“個性”を用いられるのは相応しい所有者だけだったのだ。

 

 永遠が分身を抱きつかせた時。

 OFAを奪うよりも『崩壊』を用いるよりも『自爆』するよりも先に()()()()()()()()()されていたその“個性”は、敢えて名付けるなら、こうなる。

 

 ──『奇跡を起こす』“個性”。

 

 代償は、不可能を可能にするほどの心的エネルギー。

 原作にて彼、緑谷出久がサー・ナイトアイの『予知』を覆したのは、それだけの()()()()()()()()()()()が備わっていたから。

 注がれるべき“個性”を失った状態では「ほんの少し未来を変える」のが精一杯だが、認識しないまま、()()()()()()()()()を返された出久は、心のままに一つの奇跡を起こした。

 

 ──不老不死の少女の救済。

 

 雄英体育祭の試合のような一対一での決戦の末、敗北した少女は、一人の『最高のヒーロー』によって、その運命から解き放たれた。

 

 そして、この戦いの顛末は「ヒーロー新時代の幕開け」として、永く後世に語り継がれることになる。

 

 『平和の象徴の後継』。

 

 緑谷出久の名前と共に。

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