死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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期末試験(前編)

 透ちゃんとはメールで連絡を取った。

 世間話に偽装し、特殊な暗号(難しいのは私が読み解けないので、縦読みと斜め読みの複合だったけど)で話を聞いたところ、保須の件に助力してくれたらしい。

 死柄木に一発食らわせた後、すぐにステインの方に移動してこっちにも一発入れたとか。

 こんなことならもうちょっとぶん殴っとくんだったよ! って憤慨してたけど、それをやったら警戒されそうだし、やらなくて正解だと思う。

 

 次の登校日、デクくん達はちゃんと登校してきた。

 休み時間に皆と職場体験の感想を言いあったり、普通に授業を受けたり、まるで保須の件がなかったような日常を過ごして――。

 

「永遠ちゃん! 永遠ちゃん永遠ちゃん……! 会いたかったよう!」

「久しぶりトガちゃん。良い子にしてた?」

「はい。誰も殺したりチウチウしたりしてませんよう」

 

 放課後にはトガちゃんと会った。

 相澤先生が気を利かせてくれて、何度か電話だけはさせてもらってたんだけど、会うのは一週間と少しぶりだ。

 

「よく我慢できたね。えらいえらい」

「えへへ……。お肉とかパンとかザクザクしてました」

「そ、そっか」

 

 で、久しぶりということで、念入りにザクザクされた。

 治るからいいけど、痛いものは痛いし血も足りなくなる。カツ丼食べてから帰ろうと思いつつ、トガちゃんと拘束部屋に戻ってくると、

 

「仲が良いのはいいが、もうすぐ夏休みだぞ」

「えー、また永遠ちゃん忙しいんです?」

「別に夏休みだろうが校舎は解放されてるが、合宿があるからな」

「ああ、またお泊まりですね」

 

 合宿所が遠いからトガちゃんには会えなくなる。

 

「私もイク! いきます!」

「駄目に決まってるだろう馬鹿か」

 

 ストレートだった。

 はあ、と相澤先生は溜め息をついて、

 

「トガヒミコ。お前、こいつを切り刻んでるせいで自分の刑期が伸びてる自覚あるか?」

「?」

「お前の動向はあまさず録画されてるんだぞ? 同年代の女子を嬉々としていたぶる奴なんぞ、精神に問題ありと見做されて当然だ」

「私はいわゆる錯乱状態にあると主張します」

「自分で言っちゃった……」

 

 まあでも、そりゃそうだ。

 リハビリのためとはいえ、私の身体ざくざく切り刻んでたら見るからに猟奇犯罪者だ。

 でも、社会復帰するためにはリハビリが必要だし……。

 

「永遠ちゃんが会いに来てくれるなら懲役百年でもいいのです」

「こんな特殊な面会が許されるかは校長と警察が交渉中だ」

 

 駄目です、って言われても「そりゃそうですよね」って話だ。

 できれば通って欲しいところだけど。

 

「永遠ちゃんが合宿行かなければいいんだよ!」

「そりゃ名案だ」

「相澤先生!?」

「半分くらい冗談だ」

 

 トガちゃんと手を振って別れ、二人でエレベーターに乗った後、相澤先生は話の続きをしてくれる。

 

「お前、合宿で何するのかわかるか?」

「? ええと、“個性”の強化ですか?」

「そうだ。お前、今更あらたまって必要あるか?」

「……そう言われると、ない気もします」

 

 原作では合宿半ばくらいで襲撃を受けたわけだけど、訓練の様子もある程度描かれていた。

 身体能力や戦闘技術ではなく“個性”そのものの強化。

 どうやって強化するかといえば、主に“個性”を使いつづけるというアバウトかつストレートなもの。

 

 で、私の場合は何をするかというと――文字通り、徹底的に身体を痛めつけることになると思う。骨を折ってみたり、切り傷刺し傷を作ってみたり、硬いものを殴ったり硬いものに殴られたり。

 気のせいか、さっきまで似たようなことしてましたね……? 個性強化なら二十四時間トガちゃんと一緒にいればいいんじゃ? っていう話だ。

 

「いや、でも、私だけ特別扱いは」

「そうだな。非合理的だが仕方ない」

 

 良かった、ちゃんと合宿行けそう。

 

「そもそも候補地の選定、合宿を実施するか否かが審議中だけどな」

 

 あ、それも私のせいですよね……。

 

「ご面倒おかけします」

「そう思うなら面倒を増やすな」

 

 相澤先生はこういう時、全然優しくない。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「期末試験の割り振りですが、残り二人で少し迷っています」

「瀬呂・綾里か」

「余ってるミッドナイトじゃ駄目なのかYO?」

「女の子だと眠り香の効果が落ちるのよねぇ」

「なるほど」

 

「他の組と入れ替える手もありますが……」

「綾里永遠は得手不得手が非常に極端です。例えば、パワー不足だからとセメントス先生のところへ放り込むと――」

「閉じ込められただけで詰みですね。そして、そうしない理由がない」

「むう……」

「補いようのないピンチを作るのは本意ではないね」

「オールマイト先生に宛がうのは意外とアリなんですが、緑谷・爆豪ペアは崩したくない」

「ですね」

 

「………」

「ま、なら、あたしがそのまま担当するわよ」

「いいんですか?」

「効かないわけじゃないしね。小さい身体なら回りも早いでしょ」

「では、それでお願いします。殴ってこない敵への対策を強いるのも悪くない」

「了解。たっぷり可愛がってアゲル」

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 イベント目白押しすぎて本当にあっという間だったけど、期末試験がやってきた。

 

 期末までの日々は特筆することはなく。

 授業を受けて、トガちゃんに会いに行って、休日は自主練もしくは透ちゃんと特訓。一つ終わったと思ったら次のイベント準備でスケジュールが埋まるっていう、雄英の過酷さがよくわかる。

 その間、私が重点的に鍛えたのは機動性と攻撃力。

 とにかく足腰の強化、それから少しでも力をつけて一発の威力を上げる。太ったりして体重増やすことも考えたけど、カロリー消費量を考えて断念した。

 

 期末は筆記試験と実技試験の二段構え。

 二人ずつに分かれてプロヒーローと戦うっていう鬼畜仕様で、組み合わせが原作通りなら私は瀬呂君とミッドナイト先生に当てられる。

 ただ、そのまま私に当ててくるかというと微妙なところなので、これに関しては「予想するのは無理」と結論づけた。

 外部からMt.レディさん呼んできました、とか言われる可能性もあったし。

 

 ――で。

 

 筆記試験は可もなく不可もなく済んだ。

 結果発表はまだだけど、十分な点数は取れてると思う。百ちゃんのお宅にお邪魔して勉強会をさせてもらったのも効果があったかも。

 

 肝心の実技試験だけど、組み合わせと担当教師は原作通りだった。

 

 

 

 

 

 

「綾里とか。よろしくな」

「うん。よろしく、瀬呂君」

 

 ペアは瀬呂君と私。

 担当教師はミッドナイト先生。場所はUSJの山岳エリアの一角。

 どうしてだろう、と、相澤先生の様子を窺ってみるけど、彼は私に一瞥もくれなかった。

 

「それじゃあ二人とも。移動するわよ」

「は、はい」

「はいっ」

 

 実技試験は三十分の時間制限つきだ。

 勝利条件は「ペアのどちらかがステージから脱出すること」もしくは「ペアに一つだけ支給されるハンドカフス(いわゆる手錠)を教師にかけること」。

 ステージは壁で囲まれ、出入り口は小さなゲートが一つきり。

 教師陣はハンデとして、体重の半分の重さのウェイトを付ける。

 

 相手はプロヒーロー。

 彼らを敵と仮定し、打倒するか逃げて応援を呼ぶ――というのが想定するシチュエーションだ。

 

 ぶっちゃけ超キツイ。

 頑張ったら勝てるようには設定されてるんだけど、その「頑張る」ががむしゃらに立ち向かうこととは限らない。多くの場合、生徒には「苦手な状況をどうにかすること」あるいは「ペアとの連携を密にすること」が求められる。要は頭を使ったりコンビネーションを駆使しないと勝てないかもしれないということ。

 

「ミッドナイト先生の“個性”知ってるよな」

「うん。眠り香……嗅いだ人を眠らせちゃう香りだね」

「とにかく嗅がないようにしないとな」

「でも、息をするなって相当厳しいよね……」

 

 ステージはそれなりの広さがある四角いエリアだ。

 生徒ペアは中央あたりに配置され、教師側は不明だけど生徒から離れた場所からスタートする。普通は一つきりのゴールを守るだろう。

 USJ山岳エリアは剥き出しの地面のあちこちから岩が突き出したような地形だ。

 勾配も地面の凹凸もあり、走りにくいことこの上ない。移動にいつもより体力を使う分、全力疾走したり激しい運動をすると()()()()()はず。

 

『皆位置についたね』

 

 放送は救護班、リカバリーガールのもの。

 

『それじゃああ今から雄英高1年期末テストを始めるよ!』

 

 私と瀬呂君は頷き合う。

 

『レディィーー、ゴォ!!!』

 

 試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

「どうする!?」

「いったん作戦会議しよう!」

 

 私達はゲートから逆方向に歩いて移動しながら方針を話し合う。

 ステージが広いとはいえ、端から端まで走っても多分、五分くらいしかかからない。チャンスは多くないけど時間は十分ある。

 

「眠り香を吸わないのが一番なんだけど……。瀬呂君が飛びまわれるような高い障害物もないんだよね」

「ああ。岩はあるけど高さがないから方向が限られる」

 

 一番高いのが壁とゲート。

 ゲート付近まで近づければセロテープを貼り付けて一直線にいけるかも、っていうくらいだ。

 単に息を止めるっていうのも難しい。

 ミッドナイト先生は眠り香に頼りっきりのヒーローじゃない。だいたいいつも持ち歩いてる鞭は射程距離がある上、パワー不足を補える優秀な武器だ。

 

「綾里ならある程度耐えられるんじゃないのか?」

「女の子の方が効きづらいらしいけど、具体的にどのくらいかがわからないから……」

 

 男子なら一呼吸、女子なら二呼吸、とかだったらぶっちゃけ大差ない。

 

「先生をテープでぐるぐる巻きにすれば眠り香は出せないかもだけど」

「それができたらもう勝ってるだろ」

「ほんとだ」

 

 話し合ってもいい案は出なかった。

 百ちゃんがいればガスマスクを作るところ。爆豪なら爆発で眠り香を散らせる。飯田君やデクくんの機動力なら一瞬で懐に飛び込めるし、飛び道具が使える子なら眠り香の範囲外から攻撃できる。

 でも、私達の“個性”だとそれは厳しい。

 ミッドナイト先生を誘い出そうにも、出入り口が一つしかないから難しい。

 

 現実的な範囲で取れる作戦は、

 

「俺のテープで引きつけてる間に綾里が突破……くらいか?」

「……それくらいだね」

 

 実は私にはもう一つ、突破できる可能性があるんだけど――正直、全く確証がない話なので言えない。

 時には分の悪い賭けも必要だけど、前提条件さえ不明な賭けは危険すぎる。

 

「なら、瀬呂君。具体的な手順は――」

「――ん、了解」

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 永遠の予想通り、ミッドナイトはゲート前で待ち受けていた。

 彼女のヒーローコスチュームはSMの女王様が身に着けるようなボンデージ。豊かな乳房は肌色の極薄タイツを着ただけの状態で露出しており、男子生徒は目のやり場に困る。これは、厚着すると眠り香が散布しにくいためだ。

 手には愛用の鞭。

 かなりの長さがあるため、扱いには熟練が必要だが――ミッドナイトが使えば攻防一体、足りないパワーとリーチを補うことができる。

 

 もちろん、ミッドナイトには場を離れる気は毛頭なかった。

 

 接近距離は彼女の領域。

 見晴らしのいい場所に陣取り、息を止めて近づいてきた相手に二、三度攻撃、足止めして呼吸をさせてしまえば、それで終わり。

 女子である綾里永遠なら一息でこてんとはいかないだろうが、それだって意識は鈍る。

 戦闘経験の少ない未成年二人が相手など、ミッドナイトには児戯に等しい。

 

 と。

 

「……来たわね」

 

 右前方から駆けてくる小柄な姿。

 永遠は、呼吸を気にするように余裕のあるスピードで接近してくる。右手には魔法少女のようなステッキ、左手には瀬呂の出したものだろうテープを持っている。

 なるほど、あれを貼ればしばらくは呼吸を止められる。

 とりあえず一撃。

 鞭を振るうと、立ち止まってバックステップ。かわされた。

 

「職場体験、Mt.レディさんのところに行ったんです!」

「そうらしいわね」

 

 意図が読めない。

 奇襲を諦めたのか、世間話を始める。眠り香の有効範囲からは外れているが……本命の瀬呂の奇襲に備え、注意を逸らすつもりか。

 そうはいかない。

 何故、ここでMt.レディの話を持ち出してきたのか知らないが、冷静な思考を止めるつもりは、

 

「お二人を間近で見た感想ですけど、レディさんの方が綺麗ですよね!」

「っ、このガキ……っ! 今なんて言った!?」

 

 鞭でもう一撃。

 ステッキで弾かれた。距離が遠い。

 一歩踏み出しかけてはっとする。相手の術中に嵌まりかけている。あの女とミッドナイトが不仲――というか、ファンの奪い合いをしているのは周知の事実。そこを突いて怒らせようとしているだけで、

 

「Mt.レディさんは格好良かったです! 若くて、綺麗で、野心的で! 世代交代を感じちゃいました!」

「胸も身長もないロリが!」

「大きい人には絶対狙えない需要ですもんね!」

「そんなに鞭を味わいたいなら……イイわ! 教育してあげる!」

 

 試験とかなんだとか、頭から吹き飛んだ。

 前進しながら大きく鞭を一振りするミッドナイト。このロリ娘は耐久力が高いので大変だろうが、その分、長く楽しめるというもの。

 思わず嗜虐的な笑みが口元に浮かび――。

 

 横合いから放たれたセロテープが、鞭の柄付近に接着した。

 

「しまった!」

 

 驚きに頭が冷えた時には、瀬呂がミッドナイト自身に向けてセロテープを発射してきていた。

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