死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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合宿2

 魔獣の森は雄英地下にしっかり再現されてました。

 

 たぶん、セメントスやプッシーキャッツが頑張ったんだと思う。

 手前には鬱蒼とした森。

 奥には山がそびえ立っており、人工フィールドとは思えないインパクトがある。さすがに樹木は用意しきれなかったのか、半分以上がコンクリのオブジェだったけど。

 

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」

 

 彼女らは四人組のヒーローチームだ。

 名前の通り猫をモチーフにしたコスチュームに身を包んでおり、うち三人は女性である(残りの一人は女性から性転換した男性)。

 

 テレパスのマンダレイ。

 土流のピクシーボブ。

 軟体の虎。

 サーチのラグドール。以上四名。

 

 応用の効きやすい個性ということで、原作でも人手不足を補うために合宿に協力していた。そのため雄英の教員ではない外部のヒーローだ。

 合宿場所を作ったついでなのか、セメントスも一緒にいる。

 彼の作成物の多いこのフィールドなら、その力は何倍にも高まるだろう。

 

 現時刻は午前九時半。

 

「悪いが、もう合宿は始まっている」

 

 私に下から睨まれたまま、相澤先生が告げれば。

 マンダレイとピクシーボブが声を上げる。

 

「あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

「今から午後一時までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

 

 一方的に宣言された修行開始。

 A組、B組の生徒達がぽかんと口を開け、しばし顔を見合わせた後――入試を思い出したのだろう、わっ! と、一目散に走りだした。

 私と、それから気を遣ってくれた透ちゃんだけを残して。

 

「行かないなら参加放棄とみなすぞ」

「……先生」

「言ったはずだ。合宿場所の変更はセキュリティ上の理由。()()()()()()()

「っ」

 

 私は憤りに任せて奥歯を噛みしめた。

 叫びたくなるのを必死に堪え、くるりと足を森へと向ける。

 

 ――中は阿鼻叫喚。

 

 微笑んで透ちゃんを振り返る。

 

「ごめんね。行こう、透ちゃん」

「永遠ちゃん。いいの?」

「うん。仕方ないよ」

 

 透ちゃんは僅かな間を置いて「わかった」と頷き、率先して走り出した。

 私もすぐにその後を追う。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 セキュリティ上の理由だと先生は言った。

 内通者からの情報漏洩を警戒してるんだ。

 

 ――内通者は生徒かもしれない。

 

 合宿に参加する生徒が誰も知らなかった合宿場所。

 地下のため通信機器は圏外。

 眠らされている間に発信機その他は徹底的に調べたはず。この状況でもし合宿先が襲われたら、生徒はほぼシロだと断定できる。

 ()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 だから、ないがしろにされたわけじゃない。

 単に特別扱いをされなかっただけ。

 

 わかってる。

 わかってるけど、気持ちがついてきてくれなかった。

 

 私には教えてくれなかった。

 私はあんなにたくさん情報提供したのに。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 力があっても資格がないと何もできない世界。

 理不尽を。

 憤りを。

 何もできない私という存在の無意味さを。

 全部。全部飲み込んだ。

 

 強くなればいい。

 強くなるしかない。救いたければ、仮免を取ればいい。前代未聞の飛び級でヒーロー試験を認められるくらい、成果を上げればいい。

 

 そうしなければ、私は、世界に対して何もできない。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「十二時五十三分。第一号到着、っと」

 

 目的地に着いた途端、私はその場に倒れた。

 誇張ではなく本当に全身が動かない。

 限界をとっくに超えた筋肉を「まだ動かないといけないから」と無理やり()()()()()()()()()()()()際限なく動かし続けたツケだ。

 肺と心臓が動いているだけよくやった方だと思う。

 全身が再構築される激痛に耐えながらなんとか呼吸を整え、仰向けになって荒い息ができるようになったのが、約十分後。

 

「大丈夫? お昼ご飯、食べさせてあげるにゃん」

 

 おにぎりが口に運ばれて来る。

 一口、二口。

 食べると塩加減が絶妙で、疲れた身体に染みてくるのがわかる。運動の後を想定してちょっと塩を強めに作ってるのが心憎い。

 食べ進めるにつれて元気が出てきて一口が大きくなる。最後のひとかけが放り込まれると、ああ、もう終わっちゃった……と残念な気持ちになった。

 

「おかわりいるかにゃ?」

「いります」

 

 都合三つ食べたところで、なんとか身体が動くようになった。

 他のみんなはまだ誰も到着してない。

 原作だと全員揃ったのが午後五時半とかだっけ? だとしたらまだまだ到着は先だろう。

 

「豚汁もあるけど食べるかにゃん?」

「食べなかったら罰が当たります」

 

 マンダレイに肩を借りてよろよろと宿舎に入り、まだ温かい豚汁をいただく。

 美味しい。

 具材の旨味。豚肉の油はもちろんのこと、何よりも水分が嬉しい。あっという間に一杯食べきってお代わりをもらい、ついでに「バターないですか?」と尋ねると、快く出してくれた。

 

「豚汁にバターとはなかなか通だにゃ」

「洋食屋の娘なので」

 

 二杯目を平らげると人心地ついてきたので、三杯目にバターを投入し、おにぎりと一緒にゆっくり味わうことにした。

 幸いなことにおにぎりと豚汁はいっぱいあった。

 全員時間内に着いてもいいように、と、準備してくれていたらしい。必要なかったら必要なかったで夕食の際に供されるという寸法である。

 原作では夕飯に土鍋ご飯が出てたはずだけど……まあ、高一の腹ペコが四十人ならおにぎりの他にそれくらい余裕か。

 

「どうやって突破した?」

 

 私が落ち着いたのを確認した相澤先生が尋ねてくる。

 無視してやろうかと思ったけど、馬鹿馬鹿しいので普通に答える。

 

「真っすぐ行ってぶっ飛ばしました」

「……わかるように言え」

「荷物に方位磁石が入っていたので、森に入る前に方角を確かめました。土くれの魔獣は耐久力がそれほどでもなかったので、さっさと殴って動けなくして次々先に進みました」

 

 森にはピクシーボブ謹製の魔獣――土でできてるので、どっちかというとゴーレムに近い――がうようよしてたけど、これの存在は原作で見ていたから知っていた。

 数が多い上に遠隔操作なので一体一体は複雑な動きをしないし、硬度も決して高くない。

 OFA(ワン・フォー・オール)5%のデクくんが腕を怪我せずぶち抜ける硬さなので、私だって「腕の疲労を加味しなければ」ダース単位で倒せる。

 

 どんなに疲れていても足さばきを衰えさせない技術は透ちゃんから鍛えてもらってる。

 師匠の透ちゃんは目立たないようにわざと苦戦してるので、肉体ダメージや疲労を押して進める私の方が先に到着したわけだ。

 

「私はしぶといですから」

 

 笑顔を浮かべていつもの台詞を口にする。

 

 おにぎり七個に豚汁三杯を完食した私は、食後のお茶を美味しくいただいてから立ち上がった。

 お父さんが作ってくれたお弁当も荷物にあるけど、それはおやつにしよう。浩平が水筒いっぱい入れてくれた水は勿体ないけど飲み干してしまう。

 時刻は午後二時半。

 

「相澤先生。今日の予定は他にありますか?」

「……ない」

 

 うん、そうだろう。

 魔獣の森を突破するだけだって十分なハードワーク。

 “個性”を使いまくって心身ともにボロボロで到着するだろうから、せめてその後はゆっくりと休ませてくれるはず。そうでないと逆に効率が悪い。

 ならば、

 

「あの、虎さん」

「ぬ?」

「もしお時間があれば稽古をつけていただけませんか?」

 

 現状は割と暇だろう、プッシーキャッツの黒一点にお願いしてみる。

 生徒達の奮戦の様子を観察して明日以降の指導に生かす……っていう話なら、今この場を離れられないかもだけど。

 

「……よかろう」

「ちょっ!? まだ休んでないと……!」

「大丈夫です」

 

 ぐっと拳を握って腕をぐるぐる回してみせる。

 豚汁が具だくさんだったこともあり、十分栄養補給できたので元気は戻った。

 

「……化け物かよ」

 

 片隅に立つ小さな男の子――マンダレイの甥っ子、洸汰君の呟きには、黙って微笑みだけを返した。

 っていうか、連れてきたんだ。

 わざわざ雄英に呼んだ以上、プッシーキャッツには襲撃の危険性を伝えているはず。洸汰君は置いてくる選択肢もあったと思う。下手に留守番させる方が危険と判断したか、適当な預け先が見つからなかったのか。

 

 誘拐された洸汰君を解放する代わりにラグドールを寄越せ、なんて要求される可能性もある。

 ならば雄英の中、自分達の手元に置いた方が安全と判断したのかもしれない。

 

「来るがいい」

 

 良く聞くと若干高いような気がする渋い声に導かれ、私は表に出て――みんなが到着するまでの間、嫌と言うほど虎さんにしごかれた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 生徒達は午後三時半前後から続々と到着し始めた。

 早めに着いた子もその場にぶっ倒れるので、最後の子が到着した時にはまだ全員が外にいた。私は虎さんにぶっ飛ばされた後、お弁当でおやつを食べてた。

 休憩の後、回復した順に荷物を運び入れ、六時過ぎくらいに夕食になった。

 

 プッシーキャッツ(ぷろひーろー)が手ずから腕を振るったご馳走に一年ヒーロー科の面々は大歓喜。疲労困憊の上にお昼抜きで、持ってきたお菓子を食べ尽くして飢えを凌ぐような有様だったので、土鍋ご飯に山盛りのオカズは天の助けだっただろう。

 カロリーはあればあっただけいい。

 甲斐甲斐しく世話をするのは今日だけ、という意味深な宣言もあって、私も含めて全員、お腹が物理的に膨れるくらい食べまくった。

 

 お前今日何食目だって? 聞きたくないです。

 

 夕食の後はお風呂。

 わざわざ露天風呂まで作ったらしく、男女別のお風呂にクラス別で入浴。なんとちゃんとした温泉らしい。どこでもだいたい深く掘れば温泉に当たるとはいうけど、まさか雄英の地下で温泉に入れるとは。

 峰田君がいないせいか覗き騒動は起こらず。

 隣の男子風呂から「今、隣で女子が入ってんだよな……」みたいな声が聞こえたりはしたけど、それはまあ、聞かなかったことにしてあげた。妄想するくらいは仕方ない。

 

「一番スタイルいいのは八百万さんかなあ……」

「なっ!? 綾里さん、そういう話題はデリケートですのよ?」

 

 恥ずかしそうに胸を隠す百ちゃんが可愛い。

 とはいえ、他のみんなも決して負けてはいない。最近の女の子の発育の良さについては原作参照だ。なお、ワーストは決まりきってるので省略。

 

「透ちゃんも実はスタイルいいよね?」

「ケロ。人型に空いたスペースが意味深ね」

「ふっふっふ。バレちゃあ仕方ない! 代わりに永遠ちゃんはもらっていくよ!」

「きゃー、さらわれるー」

 

 と、わいわい声を響かせながら、ひとときの安らぎを満喫した。

 

 

 

 

 

「永遠ちゃんだったっけ? こっちこっち」

 

 お風呂上り。

 一階に設置されていた自販機でフルーツ牛乳でも買おうとしていたら、ラグドールからこっそり手招きされた。

 なんだろうと歩いていくと、小部屋に引っ張り込まれて施錠され、更に服を脱がされた。

 

「え」

「時間かけると怪しまれるからさっさと済ませるにゃん」

 

 耳の付け根とうなじあたり、後は腿の裏に何やら小さな機械を取り付けられる。

 

「発信機ですか?」

「ご名答」

 

 何で今更私にだけ、そこまで信用されていないのか……と、再び気分が沈んだものの、ラグドールが言うには逆らしい。

 

「キミだけは特別だって言われてるにゃん」

「特別?」

「宿舎の裏、五分くらいのところにエレベーターがあるでしょ? そこ、雄英発行のカードキーがあれば使えるにゃん」

「あ……」

 

 トガちゃんに会いに行くのに使ってるやつ。

 

「イレイザーから『野暮用があるなら好きに使え』だそうだにゃ。愛されてるにゃん?」

「相澤先生、ツンデレ……?」

 

 発信機は地上に出す代わりらしい。

 一つでも外すか、信号が途絶えた時点でアラートが鳴るようになっている。ちなみにスマホは念のために全員分が回収済みだ。

 上に行っても外部との連絡はできない。

 

 できるのはトガちゃんに会いに行くことくらい。

 でも、それが大きい。

 

「ありがとうございます」

「伝えとくにゃん」

 

 ラグドールはそう言ってウインクしてくれる。

 

「あの、ラグドールさん」

「にゃ?」

「私の弱点って見えますか?」

 

 百人分の位置情報や弱点を丸裸にする『サーチ』のラグドール、本命の発信機であろう彼女は、数秒だけ首を傾げた後で答えてくれた。

 

「食いしん坊だにゃ」

「……あー、それはどうしようもないですね」

 

 私は苦笑して部屋を出た。

 

 

 合宿中、女子は二人ずつの小部屋で寝泊まりすることになる。

 奇数人のためにあぶれることになった一人が私だ。たぶん、これも先生方が気を遣ってくれたんだと思う。

 人目を避けながらエレベーターに乗り、私はトガちゃんに会いに行った。

 

 しばらく会えないと言っていたので大喜びされ、いつもの交流をした後、私はトガちゃんに一つのお願いをした。

 

「ねえ、トガちゃん。気配を消す方法教えてくれないかな?」

 

 トガちゃんはきょとん、とした表情をした後で「いいですよぉ」と答えた。

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