死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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入学試験

 というわけで、やってきました雄英高校。

 

「……すごい人」

 

 さすが倍率三百倍以上。

 一般入試での合格者が三十六人。その三百倍って、冷静に考えるととんでもない。最低でも毎年それだけのヒーロー志望者がいるってことだもん。

 そんな大勢の中で合格を勝ち取らないといけない。

 定員が決まっている以上、受かるには原作組の誰かを蹴落とさないといけない。

 

 ――それでも、やる。

 

 あらためて覚悟を決め、一歩踏み出した時、

 

「おい君! ここは雄英の入試会場だぞ!?」

「?」

 

 誰かに呼び止められて振り返る。

 立っていたのは、四角い顔に四角い眼鏡をかけた、いかにも委員長風の少年。

 

「受験生に混じっても雄英には入れないぞ! ちゃんと受験資格を得てから出直して来るんだ!」

 

 私は彼を知っている。

 直接の面識はないし、絵姿しか見たことはないけど、間違いない。

 飯田天哉。

 原作キャラの存在が、早くも確認できてしまった。

 

「………」

「ん? どうした? 黙っていても駄目だぞ。大人の人に怒られる前に――」

「小さくてごめんなさい。私、受験生なんです」

 

 いきなりのエンカウントにしばし呆けてしまったけど、我に返って受験票を差し出す。

 それを見た飯田くんは目を「くわっ!」と開いて驚いた。

 

「何と! それは失礼をした!」

「いいんです、気にしないでください」

 

 未だに小学生に間違われかねないから、しょうがない。

 場を和ませるために笑みを浮かべて、私はその場を離れた。

 

 ――いるんだ、原作キャラ。

 

 飯田くんの存在が確認できたことで予感は確信に変わった。

 この分だとデクくんとかお茶子ちゃんとかもいるよ、絶対。

 

 

 

 

 いました。

 午前の筆記試験を無難に終え、お昼休憩を挟んで大ホールに移動した私。

 なんかぶつぶつ言ってる地味な少年と、無駄に殺気を放っている不良っぽい少年を発見。どう見てもデクくんと爆豪です、はい。

 

『今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバヒセイヘイ!!!』

 

 生で聞くと予想以上にうるさい。

 プレゼントマイクの登場から、実技試験概要の説明。幾つかの演習場に分かれ、十分間の「模擬市街地演習」。ばらまかれた仮想(ヴィラン)()()()()にしてポイントを稼ぐ、マンガで見たアレだ。

 0Pの四種類目もちゃんといる。

 

 ――予想通り。

 

 前世知識から心を落ち着けた私は、マイクの締めの文句を聞いた。

 

『“Plus Ultra”!! それでは皆、良い受験を!!!』

 

 

 

 

 

 演習場。

 どうやらデク君達とも爆豪とも別らしく、彼らの姿はなかった。

 中学の体操着に着替え、得物を手にした私はスタート地点の人混みの一番前に陣取った。

 

 ――得物は金属バット。

 

 簡単に手に入る武器と言ったらこれだろう。

 ゴルフクラブもリーチと遠心力的に魅力はあったんだけど、打点が小さいのと、柄でメカを殴ると折れそうなので断念した。

 硬くて太くて握りやすいこれなら、身体の小さい私でもある程度の打撃力が出る。

 

 金属バット持った幼女が自信満々で最前線にいる光景が他の人からどう映っているかは若干怖いけど。

 体力気力は十分。

 お弁当と浩平の水できっちりエネルギーは補給できている。

 

『ハイスタートー!』

 

 来た。

 声から一瞬だけ遅れて走り出す。来るとわかってても「え? 今の合図?」ってなるくらい自然でわかりづらかった。これに初見で反応できる人は凄いと思う。

 私が走り出したせいか、後続もさほど遅れずにスタートする。わかってはいたけど、大してリードはできなかった。

 

 と、前方から駆動音。

 自走型のモノアイメカが私と、後ろにいる受験生達を睨む。形からして1Pだけど、大きい。成人男性以上の全長に、太った男性並の巨腕。

 ちょっとやりすぎじゃないかと思うほどの脅威に対し、私は――スピードを落とさず走り抜けることを選んだ。

 

「スルーかよ!?」

 

 誰かが叫ぶのが聞こえた。

 

「その子はお任せします!」

 

 一応、叫びかえしておく。

 ここで立ち止まる意味はない。入り口付近で固まってもお互い効率が悪いし、人の多い状態では金属バットが振りにくい。

 加えて言えば、この演習の想定は「街に敵が散らばっている」状況。

 敵を一体見つけたからって、寄ってたかって叩きのめしてどうするという話。迅速に、最短で、全域に十分な戦力を広げるべきだ。

 

 だから、私は走る。

 

 運動神経自体はそこそこ悪くないものの、足の長さの関係でリードは徐々に削られていく。

 それでも、走れば走るほど受験生は各地に散らばっていき、なんとか奥の方まで先頭のままに到達した。

 

 ――途端、現れる1P。

 

 おあつらえ向き。

 私が、この世界でどれだけやれるか、

 

「確かめさせてねっ!」

 

 走って接近、アームによる打撃をかわし、跳躍。

 こいつは胴体と腕、頭を繋ぐ部分が伸びる仕様になっており、そこの装甲が脆い。体重を乗せ、上段から金属バットを叩きつければ、あっさりと接続が断たれた。

 よし、いける。

 片腕を無くした1Pのもう片方の腕を断ち、頭突きと体当たりしかできなくなったところでメインカメラを叩き割る。モノアイが沈黙すると、キュウウ、と音を立てて停止した。

 カメラの近くに頭脳も内蔵されているらしい。

 

「それならっ!」

 

 走って次の標的を探し、攻撃をかわし、カメラに打撃!

 サソリ型? 恐竜型? の2Pは動きが変則的で読みにくいけど、それさえ注意すれば同じ方法で相手ができた。

 重装甲・重武装の3Pは正直、私には荷が重い。カメラ部分も打撃を受けにくい構造で、一撃必殺も狙えない。木刀とかで刺突攻撃できればまだ違ったけど、二つも武器を持つと重いから仕方ない。こいつは比較的弱い部位に打撃を加えて弱らせたら、なるべく他の受験生に任せるようにした。

 

 ――それにしても、動きまわりながら戦闘ってキツイ!

 

 私は近接打撃しかできないから余計だ。

 身体を鍛えてなかったらあっという間に息切れしてた。弱い部分を狙ってるとはいえ硬いものを殴ってるから腕も疲れる。

 それでも、

 

「これで、15P!」

 

 何体目かの1Pを叩き壊したところでカウント。

 今までに怪我らしい怪我は負ってない。殴られても平気とはいえ、ダメージが入ると動きが鈍る。時間制限のきついこの状況では避けたかった。

 なので、ここまでは順調といっていいんだけど。

 ちらりと時計を見れば、残り時間二分。

 

 そろそろ、アレが来るんじゃないだろうか。

 

 思った直後、中央付近から轟音が響いた。

 そっちを見る。その巨体が遠目にもわかった。ビル並みの大きさがある歩く災害。下手な脳無より強いんじゃないのかこいつって感じの巨大ロボこと、0P。

 忘れた頃にやってくるのがいやらしい。

 

「……増強系とか一部の異形系以外が相手したら死んじゃうよね、アレ」

 

 その辺、パワーセーブしてるのかどうなのか。

 色々気になるところではあるけど、私は、そいつを見るやいなや走り出した。

 

 0P(そいつ)に向かって。

 

 あれは敵だ。

 そういう想定である以上、放っておくわけにはいかない。得点にならない――報酬が出ないから何もしないなんて、実際の現場で通用するわけがない。

 もちろん、何もできずに犬死にするくらいならスルーする方がマシだけど。

 何もしないうちから「何もできない」と決めつけるわけにはいかない。

 

 向かう間に複数回の地響き。

 

 0Pが移動するだけで衝撃が来ているのだ。

 逆方向に向かって逃げる受験生とも何度かすれ違う。アレを無視して他のターゲットを倒す受験生とも。

 それはそれで、一つのやり方だ。

 

「……着いたっ!」

 

 見回し、見上げる。

 瓦礫。

 周囲の建物には頓着せず、ゆったりとしたスピードで、途轍もない威圧感を伴って、0Pがそこにいた。

 大きい。

 人より小さい私は、思わずガリバー旅行記を思い出した。手にした金属バットのなんと頼りないことか。ここまでの戦いであちこちへこんだこの武器では致命傷どころか有効打すら難しいだろう。

 なら、

 

「誰か! アレを倒せる人はいませんか!?」

 

 他の手を借りる。

 けど、返ってきた声は無情。

 

「アホか! 倒す必要がどこにあるんだよ!」

「逃げなきゃ! そんなに小さい身体じゃ死んじゃうよ!?」

「敵ですよ!? 倒さなきゃ駄目じゃないですか!」

 

 叫びかえす。

 そんな中を、何人もの受験生が逃げていく。彼らのうちの何人かは、私のことを「気でも狂ってるのか」という目で見ていた。

 きっと私も、逆の立場ならそう思う。

 

「後一分ちょっとだ! 逃げて、1Pでも多く……!」

 

 逃げればいい。

 その間に、私は私にできることをする。

 

 ――あいつは、何をしようとしている。

 

 ゆっくり移動しながら巨大な頭を巡らせている。

 索敵。

 受験生をサーチして狙う機能があるなら。

 

「こっち!」

 

 走り寄りながら再び叫ぶ。

 反応なし。聞こえていない? なら、足が地面を踏みしめた瞬間を狙って駆け寄る。間近からの振動によろめきながら、大上段に構えたバットを叩きつける。

 がいん、と、やばい音を立てて弾かれた。

 宙を飛ぶバット。根元から折れ曲がっていて、拾ってももう役に立たない。

 

 でも、気づいた。

 

 巨大な頭がこっちを向いた。

 時計は、ちょうど後一分。

 

「来い!」

 

 僅かに距離を取って待ち受ける。

 大きく逃げるわけにはいかない。街の被害も考慮すべき。なら、できるだけこの場で食い止める。

 足が浮く。

 踏みつぶし、違う、蹴りだ! 飛びのいて回避。足の動きが歩行時より速い。足先がほんの僅かにかすめた。衝撃。脳をぐらぐら揺らされながら吹き飛ばされる。

 二、三メートル離れた地面に叩きつけられた私は、間髪入れずに起き上がった。

 

 ――うん、生きてる。

 

 脇腹がズキズキいってるけど、折れてはいないだろう。動ける。痛みや苦しみを我慢するのは割と慣れてる。

 後三回も耐えればタイムリミット。

 

「まだまだ!」

「……な、なにやってんだ、あいつ」

 

 誰かの声が少し遠くから聞こえた。

 見てるなら手伝って欲しい。それか、早く逃げた方がいい。でも、そんな話している暇はもうない。

 

 二回目の蹴りを回避。

 三回目。ギリギリかわした。でも、体勢が崩れた。

 四回目は、避けきれない。

 

 当たらなければどうということはない、とは言えない。

 それなら「死ななきゃ安い」だ。

 斜め後ろに飛びながら両腕をクロスする。誰かの悲鳴。つま先が当たり、一瞬、意識が吹き飛ぶ。気づいた時には宙を吹き飛んでいて、近くのビルの壁に叩きつけられる。

 ぐらり、と。

 ボロ雑巾のように落ちた私は、地面に倒れた。

 

 死んで、ない。

 

『終、了~~!!!!』

 

 制限時間の十分が経過し、プレゼントマイクの声が響く。

 同時、あの0Pも他のターゲットも全て機能を停止。演習場に作られた仮の街は、急速に静けさを取り戻していった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 タイムアップの直後、演習場には複数のスタッフが担架や救急箱を持って駆け込んできた。

 

「……なるほど」

 

 デクくんの演習場にリカバリーガールが歩いて来てて「他のところは?」と疑問に思ったものだけど、多分、あそこが一番、被害が酷かったから彼女が直接向かったのだろう。

 他の演習場の負傷者は他のスタッフが応急処置を施すか、リカバリーガールのところまで運ぶのだ。

 

「君! 大丈夫か!?」

「無茶をしたな! 身体は動くか!?」

 

 私のところにもスタッフさんが来てくれた。

 心配そうに呼びかけてくる彼らに微笑み返しながら、私はゆっくりと身を起こした。

 

「はい、大丈夫です。……すみませんが、消毒液と包帯だけ分けていただけますか?」

「それだけでいいのかい? ちゃんとしたお医者さんのところへ連れて行くことも――」

「大丈夫です。私は『しぶとい』ので」

 

 しばらく安静に座っていれば歩けるようになる。

 リカバリーガールの“個性”は治癒力の促進だから、デフォで似たような身体の私には基本的に必要ない。一応、もらった包帯と消毒で外傷の手当てをして、しばらく休んで、多くの受験生が撤退してがらんとした演習場を歩いて出た。

 

「……あのロリコンの方が怖かったなあ」

 

 今回の演習は楽なセッティングだった。

 街も専用のセットだし、敵は命のないロボット。悪意を向けられることもなければ、守るべき人や大切な人が近くにいるわけでもない。

 怖かったのは即死だけだ。

 

「体操着ボロボロ。勿体ないの我慢して予備を注文しておいて良かったなあ」

 

 最終獲得P、15。

 確か爆豪が70とかだっけ。彼の得点の二割取れたなら結構凄いんじゃないだろうか。筆記もそこそこ良かったし、後は救助(レスキュー)Pが入ってくれるのを祈るだけ。

 個人的な解釈で正しいことをしたつもりだけど、見ようによったらただの無謀だったし。その辺は音声とか細かい動きまで拾って慮ってくれるのに期待。

 

 何はともあれ、ひとまず終わった。

 

「……おうちのご飯が食べたい」

 

 家に帰ってみんなに報告した私は、お父さんとお母さん、浩平の三人から「無茶はするなって言っただろう!」とサラウンドで怒られ、怪我がないことをお腹をまくってアピールしたら浩平から殴られ、ようやくありついたご飯を美味しくいただいた。

 疲れたせいか、白米はいつもより多くおかわりしてしまった。

 

 

 

 

 そして、一週間後。

 私よりもお父さん達が落ち着かず、そわそわふわふわしていた日々の末、私は雄英からの結果通知を受け取った。

 封筒に映像機器を入れて郵送という、ハイテクなんだかローテクなんだかよくわからないそれを確認した結果は――。

 

「お父さん、お母さん、浩平! 私、合格したよ!」

 

 綾里永遠。

 春から雄英高等学校に通うことがめでたく決定しました。

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