死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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入寮

 透ちゃんの家に行ってから数日後。

 八月下旬に差し掛かろうという頃、私達A組は一斉に入寮となった。

 

 家庭訪問が始まった頃には造り始めていたとしても物凄く速い。

 使える“個性”を総動員したんだろう、さすが雄英。

 

「大きい建物だねー」

 

 寮の名前は「ハイツアライアンス」

 校舎から徒歩五分。

 普通科やサポート科、経営科も含め1クラス1棟。私達が入る寮には大きく「1-A」と書いてあるので、迷うことは絶対にない。

 正面入り口の向かって右が女子寮、左が男子寮。

 一階は共同スペースになっており、食堂やお風呂、ランドリーなどが纏められている。

 

「そうですわね。我が家より少し小さいくらいです」

「そう聞くとあらためて規格外だなあ……」

 

 私はその八百万家から百ちゃんと一緒にやってきた。

 やってきた、と言っても車で送ってもらっただけなので凄く楽だったんだけど。

 

 合宿から一か月も経ってない。

 途中で先生の顔も見ていたせいか、登校するのはあんまり久しぶりな気がしない。

 

「永遠ちゃん、元気だった!?」

「うん。ご心配をおかけしました。この通りだよ」

「すごく元気そうね。少し安心したわ」

 

 お茶子ちゃんや梅雨ちゃん、他のみんなから質問攻めにあい、わいわいやっているうちに相澤先生もやってきた。

 寮を前にして集合する。

 

「無事にまた集まれて何よりだ」

「先生もね」

「ああ。二学期からもお前らの顔が見られて嬉しく思う」

「顔が全然嬉しそうじゃねえな!?」

「わかっていると思うが、全寮制への移行は先の襲撃を受けての措置だ。特に1-A(うち)には誘拐された奴までいるからな」

「………」

「見ての通り、その当人はこうして無事だ。救出できたのはオールマイト先生を始め、多くのプロヒーローが骨を折ったからだ」

 

 うん。

 レディさんやオールマイト、みんながいなかったら、私はどうなってたかわからない。

 AFO(オール・フォー・ワン)だって捕まってないだろう。

 

「お前達がこれから目指すのはそういう職業だ。むざむざ(ヴィラン)に捕まった挙句、救出を受けた奴だけでなく、全員が『今、自分がどうしてここにいて、何を目指しているのか』改めて考えるように」

「………」

 

 相澤先生らしい合理的かつ端的な指導に、思わずみんなが黙り込む。

 爆豪とかは「けっ」て顔してるけど、面と向かって反抗するほど彼も子供じゃない。

 それぞれに考えているはずだ。

 ヒーローになるという、その意味を。

 

「それとその綾里だが、近々戸籍が変わる」

「は?」

「八百万の家に養子に入る。だから新しい性は八百万だ」

「はああ!?」

 

 私と百ちゃん以外のみんなが声を上げて驚く。

 透ちゃんもカモフラージュのため、不審がられない程度に驚くフリをしてた。

 

「手続きには時間がかかるが、面倒なので今後は新しい性で統一する。姉は副委員長の方だから、適当に呼び分けろ」

「マジかよ……」

「妹の方、新しい学生証を渡すから取りに来い。正式に戸籍が変わるまでは両方使い分けろよ」

「わかりました」

 

 セキュリティを抜ける時は新しい方が必要だけど、公共機関で提示を求められた時は現状古い方が有効。

 これからは校門を通る機会が激減するから、それが救いだ。

 

「あ、あの! 綾里さん――八百万さんの“個性”は大丈夫だったんですか……?」

 

 デクくんが手を挙げて尋ねた。

 

「ああ。こいつは見ての通り『しぶとい』からな」

「そ、そうですか。……良かった」

 

 私の“個性”の詳細については公にされないことになった。

 なので、これからも私は『しぶとい』で通すことになる。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 話が終わったところで寮の中へ。

 寮は五階建て。二階以降が部屋になっていて、各階四部屋。部屋割りは学校側から指定があった。

 私は二階。

 透ちゃんは三階で百ちゃんは五階なので二人とも別の階だ。というか、二階には私一人だけ。なんだろう。夜這いに入られそうな順に上からなのかな……? 透ちゃんはスタイルいいけど、透明だから覗く意味がないし。いや、それだと私が透明人間以下になっちゃう。

 

 部屋の中はエアコンにトイレ、冷蔵庫、クローゼット付きの贅沢空間とのこと。

 実際かなり豪華だ。

 普通、トイレなんて各階一つで十分だし、冷蔵庫は食堂に共用のがあるだけとか珍しくないと思う。キッチンはないけど電子レンジとかホットプレートは置けるので、部屋だけでもかなり生活できる。

 

「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね……」

「豪邸やないかい」

「八百万妹、そうなの?」

「うん。あれに慣れたら普通の家に住めなくなるよ……」

 

 養女の私の部屋だってびっくりするくらい広かったし、服も何十着ってもらったし、エアコンやテレビやオーディオ機器なんか当然完備だし、なんなら使用人にお願いするだけでいつでもティータイムにできる。

 お姫様か! っていう好待遇だった。

 慣れる前に入寮できてよかったと思う。

 

「とりあえず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する。以上解散!」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 いや、普通に考えると一日で荷ほどきっていうのも無茶なんですが。

 

「あらかじめ考えておいてよかったなあ……」

 

 夕方。

 なんとか部屋を整えた私は事前準備の大切さを噛みしめた。

 私物が少ないのも良かったと思う。

 部屋の広さはだいたい想像がついていたので、それに合う家具やらを前もって注文させてもらった。

 

「永遠ちゃん。お部屋片付いた?」

「あ、お茶子ちゃん。うん。だいたいオッケーかな」

 

 ゴミ捨てなんかの関係もあって明け放していたドアからお茶子ちゃんが入ってくる。

 後ろには他のA組女子が続々と。

 

「あ、可愛い!」

「あ、ほんとだ。落ち着く」

「永遠ちゃんらしいね!」

「そうかな? ありがとう」

 

 フローリングの床には淡いクリーム色のカーペット。

 小さな座卓と、座布団代わりのふかふかクッション。ベッドには大きなクマが一体座っている。後は本棚や電子レンジ、電気ケトルにノートPC。

 家具、家電は可愛いのを選ばせてもらった。それでいてあまりピンクはしてないので、耳郎さんが言ってくれた通り落ち着く感じに仕上がったと思う。

 

 あと、部屋の隅にインスタント食品、菓子パン類、お菓子を分けて入れられる戸棚を用意したのが一番私っぽいポイントかも。

 夜、小腹が空いた時のために食料はいつでも確保しておかないと。

 

「葉隠ちゃんのところにちょっと似てるかも」

「仲良しだからね!」

「ねー」

「永遠さん……あなたのアドバイスをちゃんと聞いていれば」

 

 百ちゃんが落ち込んでる。

 

「何言ったの、永遠ちゃん?」

「たぶん、寮はうちより狭いから物を選ばないと、って」

「ああ……」

 

 百ちゃんの部屋は大半をベッドが占領してた。

 私の話は参考にしたけど、それでもイメージしてる広さが全然違ったみたい。お嬢様だもんね。

 

「ね、男子も集めて部屋を見せ合おうって話してるんだけど、どう?」

「うん。いいんじゃないかな」

「よし! じゃあ行こー!」

 

 その後、ノリで開かれた第一回お部屋コンテストは砂藤君が優勝した。

 引っ越し初日にお菓子焼き始める女子力には誰も敵いません。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「必殺技を作ってもらう!!」

「学校っぽくて、それでいてヒーローっぽいのキタァァ!!!」

 

 翌日からは仮免取得に向けた特別訓練が始まった。

 仮免を取れば限定的にだけどヒーローとして活動できるようになる。それだけに重要で、合格率は例年五割を切っているらしい。

 雄英でさえ例年二年時から目指すそれを私達は一年から狙っていく。

 

 連れて行かれたのは「トレーニングの台所ランド」通称TDL。

 講師は相澤先生、エクトプラズム先生、セメントス先生、ミッドナイト先生。

 セメントス先生がフィールド構築、プッシーキャッツが担当していた作業を行い、エクトプラズム先生が分身して仮想敵を作る。相澤先生が全体を把握し、ミッドナイト先生は……何するんだろ? 鞭でキビキビ訓練させるのかな?

 要は合宿でやるはずだった訓練の続きみたいな感じだ。

 今回はそこによりはっきりとした「必殺技の作成」という目標が加わる。

 

 ヒーローは一般の人に見られるのも仕事。

 自分が何ができるのかアピールしなくてはならず、そのために必殺技を作る。

 敵を相手にするには手の内を隠した方がいいんだけど、何ができるかある程度知られた上で敵を打ち破らないといけない、ヒーローの辛いところだ。

 

 で、必殺技だから、普通は“個性”を使ったものになる。

 ミッドナイト先生だと眠り香、相澤先生だと個性消去がそのまま必殺技になる。

 

 

 

 

 

 というわけで、訓練開始。

 切り立った足場やら狭い決闘場やら不安定な足場やら、いろいろに作られたフィールドで、みんなが思い思いに試行錯誤を始める。

 “個性”をどういう風に使おうか考えるところからの子もいれば、とにかく実戦あるのみな子もいる。共通しているのはみんな一生懸命なことと、楽しそうなこと。

 

 さて、私はどうしよう……。

 

「どうしたの、小娘」

「その節は申し訳ありませんでした」

 

 ミッドナイト先生が眼光鋭く声をかけてきたので土下座する。

 

「何言ってるの。もう気にしてないわよ。これっぽち、これっぽちしか」

「してるじゃないですか!」

「冗談だってば。で?」

「ありがとうございます。……いえ、その、私って地味じゃないですか」

「そうね」

 

 先生は頷いて、私の格好を上から下まで見る。

 フリフリの魔法少女ルック。

 殆ど露出なく隠された身体は相変わらずの小ささだ。

 

「胸もお尻も身長もないし、地味としか言いようがないわね」

「根に持ってるじゃないですかぁ!?」

「アンタ意外にいじめると面白いわね」

「ううう……」

 

 この人と話してると変な性癖を植え付けられそうな気がする。

 

「雑談はこれくらいにするとして。“個性”と必殺技が結び付かないって話でしょ?」

「はい。そのまま『しぶとい』を必殺技にしていいならいいんですが」

「悪くはないんじゃない? あんたの場合、毒とか病気にも耐えられるんでしょ? 率先して盾になれるのは立派な才能よ」

「ミッドナイト先生……」

「まあでも、あんたが殴られたり毒を喰らったりしてるのって絵面的にアレよね」

「ですよね」

 

 見ててハラハラするから止めて、って言われそう。

 殴られても蹴られても刺されても耐えるのが必殺技です! って、ピンチにならないと見せ場が来ないって言ってるようなものだし。

 

「別に。必殺技が“個性”関係なくてもいいわよ。オールマイト先生とか、関係あるけど関係ないでしょ」

「確かに」

 

 基本的に「スマッシュって言いながら殴る」だけだし。

 怪力(ワン・フォー・オール)があるから必殺技に昇華されてる面はあるにしろ、やってることはただの格好いいパンチだ。

 

「ありがとうございます。ちょっと色々考えてみます」

「ええ。頑張りなさい。耐える必殺技に落ち着きそうになったら言って。いくらでも虐めてアゲル」

「で、できるだけそうならないように努力します……」

 

 私は一礼してその場を離れ、エクトプラズム先生に分身を一体お願いした。

 セメントス先生が気を利かせて、みんなから見えにくいフィールドを作ってくれる。

 

「何カ案ハ浮カンダノカ?」

「とりあえず片っ端から試してみることにします」

「アア、休ミ中ニ“個性”モ強化サレタノダッタナ」

 

 答えたエクトプラズム先生(分身)は腰を低く落として突っ込んできてくれる。

 私はそれに対して真正面から突っ込んで、右の拳を叩きつける。

 気分はスマッシュもどき。

 

「ブッ……!?」

 

 手ごたえあり。

 思った直後、ぼふん、と、煙のように掻き消えるエクトプラズム先生。

 

「一撃トハナ」

「……強力ですね、私の身体」

 

 “個性”三つ分だから当然といえば当然だけど。

 私はズキズキする手をぷらぷらしながら苦笑した。これまでパワー不足だったので、身体を痛める威力を出す癖がついちゃってる。

 治るからいいとはいえ、パワー調節を覚えないといけなさそうだ。

 

「デハ、瞬発力ハドウカ」

「っ!」

 

 今度は左右へ撹乱するように動き回る先生。

 私はその動きをじっと見つめ、

 

「ここ!」

「コッチダ」

「あいたっ」

 

 すこん、と、頭に一発、軽い一撃をもらった。

 

「速サハ申シ分ナイガ、動体視力ガ足リテイナイナ」

「精進します……」

 

 そんな風にして、私は一つ一つの動きを試していく。

 パワー系、スピード系、パンチ、キック、投げ技、関節技……。

 色々やってみる中で一番、必殺技としてしっくりきたのは、見た目としては地味、それ自体には攻撃力のない、一つの小技だった。

 

「良イデハナイカ」

「ありがとうございます」

 

 互いに相手へ自分の拳を向けた姿勢のまま、私とエクトプラズム先生は言葉を交わした。

 

「ソレニスルカ?」

「はい。この歩方を訓練してみます」

 

 そうして、私の必殺技開発はなんとか進んだのだった。

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