「……そろそろ限界かな」
「そうですわね。潮時かと」
結局、ゲリラ戦術っていうか待ち伏せ戦法になった。
ビル内に潜伏したまま戦い続けた私達は、十二人目の犠牲者を見下ろして判断した。
ついさっき、外ではすごい暴風が吹き荒れていた。
夜嵐イナサが風を操って大勢を狩ったらしい。受験者が一気に脱落した報せが会場アナウンスで流れている。
ライバルが減れば仲間が楽になると粘ってたけど、市街地の人が一気に減ってしまった。
これ以上頑張ってもあんまり意味ないだろう。
まとまって気絶させていた三人にボールをタッチし、クリア。
クリアすると自分のターゲットが三つとも光りだし、一次選考合格を伝えてくれる。
合格後は控え室まで移動して待機する手はずだ。
「良かったぁ! なんとかなったね!」
「うん。透ちゃんとお姉ちゃんのお陰だよ」
「永遠さんがわたくし達を誘ってくださったからこそですわ」
「そう言ってもらえると嬉しいな」
控え室には飲み物と軽食が用意されていた。
「カロリー!」
「脂質!」
「永遠ちゃん達って、時々すごく姉妹っぽいよね!」
はい、腹ペコ姉妹です。
背に腹は代えられないと遠慮なく食べていたら、先に通過していた轟君が呆れ顔で寄ってきた。
「……何やってるんだお前ら」
「エネルギー補給」
「ですわ」
腰に小さなポーチを装備してブロック栄養食を用意してたりはするけど、外部から補給できるならその方がいいのだ。
「程々にしとけよ」
「轟君は食べないの?」
「蕎麦があれば食べるんだが」
「お蕎麦が好きなんだ?」
「……まあ」
とかやっているうちに、他のみんなも続々と通過してきた。
爆豪・切島・上鳴組は途中危なかったけど、結果的には危なげなく。
密かに心配だったのはデクくん。合宿と神野の分の経験値が減った上、ケミィちゃんが本物になってることでどういうバタフライエフェクトが起こるかと思ったけど、お茶子ちゃんと一緒に仲良く通過してきた。二人の顔が微妙に赤かったところを見ると、ちょっと進展があったのかも。
なお、瀬呂君は犠牲になった。いや、見せ場がなくなっただけで、他のみんなと一緒に通過したんだけど。
◆ ◆ ◆
「えー、百人の皆さん。これをご覧下さい」
モニターに映し出されたのは、失格者の撤収が終わったフィールド。
市街地あり山あり滝ありだった広い舞台が轟音と共に爆破された。
「次の試験でラストになります! 皆さんにはこれからこの被災現場で、バイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます」
二次選考は災害救助。
さっきまで無事だったフィールドは阿鼻叫喚の地獄絵図。そこにはこのために雇われた「要救助者の演技」のプロ達が配置されている。
彼らが民間人の役と採点者を兼ね、受験者を待っている。
破壊され、火の手の上がるフィールドは神野の一件を模しているようにも見える。この歴史では市街地での激戦の割に少ない被害で終わったので、実際の事件より凄惨な現場を作っていることになるけど。
想定は敵による
規模は一つの市の全域。
建物倒壊による死傷者多数。
道路の損壊が激しく、救急先着隊の到着に著しい遅れ、到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮をとり行う。
一人でも多くの命を救いだせ――とのこと。
「入試の時と同じだね」
呟くと、反応した人がいた。
デクくんだった。
「同じって、あの時とは全然違うんじゃ……」
「同じだよ」
敵がいて、街を壊してる。
入試の時は一般の人がいないってわかってたから、その点では違うけど。
「私達は与えられた状況に沿って、相応しいロールプレイをする。それだけだと思う」
「ロールプレイ……」
意味を掴もうとするように、デクくんが呟く。
私は微笑んで彼に言う。
「深く考えなくてもいいよ。それより、今回はとりあえず一緒に行動しよう」
「指示があったら遠慮なく言ってね!」
「え? えええ!?」
「一次で皆に声をかけておいて今更慌てなくても」
「まあ、私と永遠ちゃんは、いざとなったら勝手に動くと思うけど!」
私達は便利系の“個性”じゃないからね……。
「わ、わかった。……八百万さんは?」
「わたくしは永遠さん達とは別行動で。“個性”で様々な物を作らなければいけませんので。……ですわよね?」
「うん、ごめんね、お姉ちゃん」
「何を言うのですか。むしろ、危険なところをお任せすることになるというのに」
「? それって……」
デクくんが言い終わる前に控え室が展開し、開始の合図が聞こえた。
◆ ◆ ◆
「よーっし、頑張ろうね、永遠ちゃん!」
「うん。頼りにしてるよ、透ちゃん」
全裸になった透ちゃんと声をかけあう。
脱いだコスチュームは私が受け取る。
味方からも見えなくなっちゃうけど、私と一緒に動けば問題ない。むしろ、今回は隠密能力が役に立つと思う。
「緑谷くん」
「っ、と、とりあえず一番近くの都市部ゾーンへ行こう! なるべくチームで動くぞ!」
「了解!」
一番人が多いのは都市部だろうから、まずはそこへ。
A組メンバー(爆豪とか轟君は除く)とダッシュで向かうと、先頭のデクくんが怪我した子供(役の人)を発見。助けようとして駄目出しをくらう。
その間に私は、
「砂藤君! 私を高く上に投げてくれないかな?」
「は? お前を? なんで?」
「索敵だよ!」
「よくわからんが……わかった!」
砂藤君の怪力で空高く放り投げられる。
空中で素早く周囲を見渡して状況を確認。
「三時方向と十一時方向に負傷者を確認! でも障害物も多いから他の箇所も要確認! 見える範囲に
「敵って……これ救助ミッションだろ!?」
「敵が起こしたテロ現場での救助ミッションだよ! 妨害は警戒しないと!」
「!?」
確かに、という顔になるみんな。
救助するだけでも大変なのに敵まで出てくるなんて考えたくないよね。
でも、自己判断は危険だ。
敵が起こしたテロなら、その敵はどこに行ったのかという話。
事前情報に「敵は逃亡済み」となかった以上、確認・警戒もしておくべきだ。
……まあ、私が言えるのは原作知識のお陰なんだけど。
原作知識に頼りすぎるのも危険だ。
情勢が微妙に変わっている以上、試験内容にも差が出るかもしれない。
あくまで与えられた条件下で考えるべき。
すとんと着地し、考えを纏める。
「敵は見つからない。逃げたか、隠れてるか、離脱して機を窺ってるか」
「隠れてるなら見つけないとダメだね」
「うん。それと、何かを狙ってるとしたら何を狙うか――」
街は既に破壊されてる。
事前情報に重要施設については含まれていない。指示されたのは一般人の保護。
来た道を振り返る。
応急手当の技能を持ってる人を中心に、スタート地点に簡易避難所が作られてる。火の手が及んでいない開けた場所だから、そこが使われるのは当然。
当然なら、予想もできる。
「……避難所が狙われるかも?」
結論ありきだけど、無理のある推理じゃないはず。
「でも、救助も進めないと。特に燃えてるあたり」
「なら、私は救護のお手伝いしながら襲撃に備えておくよ!」
「ありがとう。なら、私は突っ込んでくる」
透ちゃんと役割分担。
忍として手当ても心得てるから、向こうでも活躍できるはず。
「永遠ちゃん、危ないよ? 水出せる人探した方が……」
「大丈夫。それに、時間もないから!」
「わかった。でも、無理はせんといてね?」
デクくんもさっきの子を運んで行ってる。
お茶子ちゃん達に伝言をお願いして、走りだした。
瓦礫の散乱する道は走りにくいけど、鍛えているお陰で結構スピードが出る。
火の手のきついエリアにはそう時間をかけずについた。
「誰かいませんか! 救助に来ました!」
反応はなし。
ならばと、燃える一軒家へ足を踏み入れる。
熱い。
暑い。
酸素が薄いうえ、煙も充満している。
手近な窓を壊して外気を確保。
「誰かいませんか! 聞こえたら返事をしてください!」
小走りに探索。
火をどうにかしたいけど、根本的な解決は難しい。
まずは逃げ遅れた人の救出が優先。
「……けて!」
奥の方から、かすかに人の声が聞こえた。
急行する。
女性が一人、キッチンにうずくまり咳き込んでいた。
「今運びます。もう少しだけ我慢してくださいね」
声をかけて抱き上げ、来た道を戻る。
外に出ると空気のおいしさをあらためて感じた。
女性も何度も呼吸を繰り返して空気を取り入れている。その間に外傷を確認。火傷はほぼなし。煙を吸ってるから、見た目だけじゃなんとも言えないけど。
「首を振るだけでいいので教えてください。お家に逃げ遅れた人はいますか?」
女性は首を横に振った。
私は微笑んで頷く。
「わかりました。じゃあ、一緒に避難所まで行きましょう」
と、その時、
「おーい! 手伝えることはないか?」
二人の受験者が走ってきてくれる。
速そうな人と、腕っぷしが強そうな人だ。
「ありがとうございます。この人を避難所まで運んでもらえませんか? 怪我はほとんどないんですが、煙を吸ってます」
「わかった。お前はどうする?」
「引き続き捜索と延焼防止をしようかと」
「なら、俺はそっちを手伝うぜ」
速そうな人に女性を預け、強そうな人に家の破壊をお願いした。
炎が燃え広がるのを放置するより、燃えている家を壊す方がいい。
可燃物が上下左右に伸びているからあっちこっち行くわけで、壊してぺしゃんこにしてしまえば広がる危険は大きく減るのだ。
「私はあのビルを見てきます!」
「おう!」
強そうな人が壊し方に注意しつつ家を破壊して行く中、私は別の建物を捜索し、終わればそこの破壊をお願いする。
といっても、燃えているのがビルとなると壊しようもなかったけど。
そうやって三、四の建物を捜索、破壊したところで、
――BOOOOM!!
爆音が辺り一帯に響き渡った。
◆ ◆ ◆
音は会場の外周からだった。
適当な信号機によじ登って確認したところ、開いた穴から大勢の人が侵入してきている。はっきりとは見えないけど、非常に敵っぽい外見。
十中八九、ギャングオルカとそのサイドキック達だ。
出現位置は予想通り、避難所の近く。
「行かなきゃ」
救助をしている受験者達も徐々に行動範囲を広げている。
後は任せてしまっても大丈夫だろう。
私は敵のいる方へと全力で駆ける。
「認められないんスよォーー!」
着いた時には轟君と夜嵐イナサが敵を前に口論していた。
二人には因縁がある。
イナサは轟君の父親――エンデヴァーにサインを頼もうとして邪険にされたことがある。その時のエンデヴァーに轟君がそっくりだからと敵視しているのだ。
轟君としても、エンデヴァーと同一視されるのは気に食わない。
本来の二人ならそんなミスはしないはずなんだけど。
敵はやっぱりギャングオルカ達。
傑物高校の真壁君がやられてへたり込んでいる中、炎と風がぶつかり合い――軌道がズレて真壁君に向かう!
「何を、してるんだよ!」
飛び込んで真壁君を救出したのはデクくん。
彼の動きが見えていた私はそのままダッシュで前線に追いつき、
「まずはリーダーからっ!」
「む……っ!」
ぶん殴ろうとしたところでギャングオルカが振り返った。
ギャングオルカ。
個性“シャチ”を持つプロヒーロー。シャチっぽいことはだいたいできるらしく、がっしりした体格からの肉弾戦だけでなく超音波等の搦め手も使える。
そして、一番の特徴は、
「不用意に飛び込んでくるとはな」
「ぐ、がああっ!?」
見るからに鋭い歯。
顎に決まるはずだったストレートが、がぶり、と食いつかれた。
激痛。
一応、手加減はしてくれたみたいだけど、無数のカッターでざくざく刺された気分。
「こ、のぉっ!!」
「ぐっ!?」
でも、ただではやられない。
足を振り上げて顎を蹴り飛ばすと、ギャングオルカは口を開けて歯を離した。
と。
サイドキック達(揃いのコスチュームに身を包み、“個性”の使用を禁止されている)が私に向かってセメントガンを発射してくる。
「社長!」
その名の通り、固まっていないセメントを発射する銃だ。
殺さずに無力化する目的から警察などでも使われている。着弾後は急速に乾いて固まる。
べちゃっとしたそれを、私は怪我した腕で防御し、
「ぐあっ!?」
「どうした!? がっ!?」
「な、なんだっ!?」
サイドキックが『見えない何者か』に襲われて次々に声を上げる。
透ちゃんだ。
ギャングオルカが舌打ち。
超音波を放とうと口を開けて――。
「させない!」
「邪魔だ」
至近から、私に向かって超音波が放たれた。