びっくりしたけど、考えてみればありえない話じゃない。
デクくんはオールマイトの後継者だ。
オール・フォー・ワンの“個性”も知ってるので、譲渡という発想が出てもおかしくない。
と、数秒の間を置いて落ち着いたところで――私は首を傾げた。
「……どういう意味?」
「……違う、の?」
きょとんとした顔になるデクくん。
誤魔化すつもりの私も同じようにきょとんとする。
「違うも何も、“個性”は生まれながらのものでしょ?」
「オールマイトから言われたんだ。君は
「え」
ちょっ、オールマイト……!?
言うのはいいけど、事後報告して欲しい。
というか、後継者の指導を私に投げられても。
「……そうだったんだ」
「じゃあ……」
「うん。色々聞いたよ。“個性”のこと。オールマイトのこと」
微笑んで頷く。
知ってるなら少しは話してもいいだろう。
「緑谷くんは、オールマイトから
「……うん」
デクくんが手のひらを持ち上げて、ぐっと握る。
「託されたんだ。オールマイトから。……この力を」
「それで、私も似たような境遇なんじゃないかって思ったんだ?」
「違う……の?」
「違うよ。むしろ、どうしてそう思ったの?」
「それは……。
一般に、No.1ヒーロー、オールマイトの“個性”は超パワーだとか怪力だとか言われている。それも決して間違いじゃないんだけど、本質はそこじゃない。
代々の継承者が鍛え、次の後継者に譲り渡すことで連綿と培ってきた正義の力のバトン。その発端は、初代
あらためて思うと。
『個性を譲る』個性が一緒に引き継がれてるんだから、歴代継承者独自の“個性”も一緒に引き継がれるのは全然不自然じゃないよね……。
と、いずれ目覚めるはずのデクくんの新しい力については置いておいて。
でも。
私の“個性”について詳細は秘密なのだ。
「私の“個性”は生まれつきだよ」
「でも……!」
デクくんは粘る。
座卓を挟んで、どこか必死な表情で私を見てくる。
「君は強い。また、強くなった!」
「強くなんてないよ。合宿では攫われちゃったし、一対一で戦ったら緑谷くんの方がずっと強いと思う」
パワーでもスピードでも
デクくんの機転と発想力はそれだけで脅威だ。
耐久性と回復力では分があるけど、超パワーでぶっ飛ばされたら気絶しかねないし、戦闘中に回復しきるのは無理だと思う。
シュートスタイルに移行したことで余計相性が悪くなった。
ストロングスタイルでガチガチの殴り合いをしてくるタイプの方が、私はむしろ戦いやすい。
「でも……っ!」
「前にも少しだけ話したよね。私の“個性”」
表向きは『しぶとい』ということになっている。
大まかな効果は合宿でもデクくんに話した。
「私の身体は、いじめればいじめるだけ強くなるの。ちょっとずつだけどね」
「……それだけ、なのか?」
「それだけだよ。私だって努力してるんだから、だんだん強くなるのは当たり前だよ」
デクくんにだったら言っちゃってもいいかもだけど――できるだけ、秘密は洩らさない方がいい。
原作で爆豪相手に口を滑らせてるあたり、口が堅い方じゃないんだろうし。
「だから、ごめんね。同じ立場からアドバイスはできないよ」
「……っ」
唇を噛むデクくん。
藁をも掴む思いで来たんだと思う。
仮免を取ったばっかりなんだから、もっと浮かれていてもいいはずなのに。
――焦れてる。
合宿での奮闘がなくなり、爆豪救出も経ていない。
成長を実感する機会がなくなったのに、敵の脅威は見せつけられてる。
彼も無力を感じてるんだ。
なら、私と同じだ。
「でも、素人考えで良ければ相談には乗れるよ」
「本当……!?」
「うん」
私程度の意見で何が変わるかって言ったらアレな気がするけど。
五分経った天ぷらそばの蓋をぺりぺり剥がしながら、私は微笑んだ。
「シュートスタイルはもともと、君に言われたことがきっかけなんだ」
「私の?」
「うん。オールマイトと違うスタイルってなんだろうって考えたら、足技かなって」
「そうだったんだ……」
ずるずる。
「今は、シュートスタイルで撹乱しながらのスマッシュを検討してるんだ」
「え、腕大丈夫?」
「腕? うん、体育祭では無茶したけど、よほどのことがない限りは無茶しないようにはしようと……」
「あ、そっか。合宿の件がないから……」
「合宿?」
「ううん、こっちの話」
ずるずる。
「……うん。腕って、簡単になくなるんだなって思ったんだ」
「え。えーっと、もしかして神野の時の私?」
「ああ。警察に保護されてからの映像はテレビで何度も流れてたから」
「あー……恥ずかしい所を見られちゃったね」
ずるずる。
「そんなことないよ! あの時の綾里さん――あ、えっと、何かいい呼び方ないかな……。永遠さん、は失礼だよな……?」
「失礼じゃないけど止めて。そういうのはお茶子ちゃんとかにしてあげて」
「え? う、麗日さんを呼ぶのはハードル高いっていうか」
「え、私だったらいいの……?」
ずるずるずる……。
「っていうか美味しそうだな天ぷらそば!?」
「食べていいって言ったじゃない!」
「おーい二人ともー。そろそろ寝た方がいいんじゃないかな!」
「「え、もうそんな時間!?」」
なんだかんだ話しこんでしまった私達は、透ちゃんの声で我に返った。
相談とか、組み手とかならいつでも付き合うからと約束して、デクくんと別れる。
「付き合ってくれてありがとね、透ちゃん」
「ううん! 永遠ちゃんは私が守らなきゃだからね!」
言いつつ、透ちゃんはなんとなく眠そうだった。
一緒にいることが多いせいか、服の揺れだけでなんとなく彼女の状態がわかるようになってきてる。
「透ちゃん、部屋行くの面倒だったら一緒に寝る?」
「そう言ってくれるのを待ってたよ!」
洗い物なんかを済ませてから、透ちゃんと一緒に寝た。
透ちゃんは寝る時は全裸派らしく、抱き枕みたいだったというか、私が抱き枕にされたというか、そんな感じだった。
◆ ◆ ◆
そうして、翌日から二学期が始まった。
インターンについてはHRでざっと説明があった。
実際にプロヒーローの事務所へ行ってヒーロー活動について学ぶ、いわば職場体験の延長みたいな制度なんだけど、違う点がいくつか。
まず、学校行事じゃないので授業は休みにならない。休日を使って行くことになる。
次に、体験じゃなくて仮免持ち――半人前とはいえヒーローとして行く。どこかお客様感のあった職場体験と違い、よりちゃんとしたプロ意識を求められる。もっとわかりやすく言うと「使えれば戦力、使えなければお荷物」ということだ。
あ、多少だけどお給料も出るらしい。
詳細な説明会は二日後と指定された。
内容が原作通りなら、ビッグ3の予定もあるだろうし仕方ないと思う。
でも、
「早くインターンに行きたいです!」
「お前、前にも増して遠慮がなくなりやがったな」
直談判してみたらため息をつかれた。
「どっちにしても今週末は無理だろ。向こうの受け入れ準備もある」
「Mt.レディさんから話来てませんか?」
「………」
「あ、目を逸らした!」
「うるせえ。いいからもうちょっと待っとけ」
最終的に問答無用だった。
仕方ないので納得した。納得したけど不満は不満なので、頬を膨らませてアピールしたら睨まれた。
「ガキか。もうちょっと落ちつけ」
「ジリジリしてても何にもならないので、言いたいことは言おうかと思いまして」
「長生きしないぞ」
「長生きなんてしてもいいことないですよ」
「……世の中の役に立ちたいなら、一人でも多くの敵を捕まえろ」
「なるほど。頑張ります」
果たして、何人の敵を捕まえたら世界が平和になるんだろうか。
◆ ◆ ◆
「君たちまとめて、俺と戦ってみようよ!!」
「え……、ええ~~!?」
二日後。
私達は、雄英の現三年生のトップに位置する三人――通称“ビッグ3”を教室に迎えた。
見覚えはあるけど、こうして対面するのは初めてだ。
訓練の進度上、仕方ない措置なんだろうけど……この学校って体育祭さえ学年別だから、上級生に会う機会どころか見る機会もあんまりない。
『透過』の通形ミリオ。
『再現』の天喰環。
『波動』の波動ねじれ。
良く言えば馴染みやすい、悪く言えば平凡な顔立ちをした長身の青年。
どこか影があるというか、ぶっちゃけ暗そうな感じがする細身の青年。
馴れ馴れしいと思えるほどにフレンドリーなロングヘアーの美少女。
――中三の時、体育祭の中継でミリオを見たのが遠い昔のことのようだ。
三人から自己紹介をされた後、ミリオがインターンへの心構えを話し始めたんだけど、私達がピンと来ていないのを見た彼は方針を転換。
さっきの台詞に繋がることになった。
体操着に着替えた私達。
石柱の立ち並ぶ体育館γに移動すると、ミリオと相対する。
そう、ミリオ一人と。
「いつどっから来てもいいよね。一番手は誰だ!?」
余裕。
ううん、違う。これは自信だ。
血の滲むような努力を続け、それだけの力を培ってきたという確信。
考えてみればいい。
私達一年生でさえ、スパルタ特訓でプロヒーローと戦い、仮免取得にこぎつけた。
彼――通形ミリオが強ければ強いほど、私達に伸びしろがあるということでもある。
「よろしくお願いしまーっす!!」
思いは人によって様々だろうけど。
とにかくみんな覚悟を決めてミリオに挑みかかろうとして――。
突然、ミリオが全裸になった。
『透過』の“個性”のせいで普通の服はすり抜けてしまうからなんだけど、私は原作知識のお陰で知ってたわけなんだけど、ほぼ大人の身体をした男性の「アレ」を見せつけられて、一瞬硬直してしまわないかと言ったら嘘になるわけで。
女性のプロヒーローはこういうハードルも越えなきゃいけないんだとしたらひどい話だ。
ミッドナイト先生やMt.レディさんがあんなにスレてしまったのも無理はないんじゃないかと……って、話が逸れた。
一番手で向かったデクくんの攻撃を、ミリオは『透過』でスルー。
後ろの方にいた遠距離型、特殊型のみんなのところへ一瞬にして移動すると、僅か一分足らずで叩きのめした。
「いや、その」
ちょっと落ち着いて欲しい。
原作では天喰が「ミリオは必死に鍛えて強くなっただけで別に強個性じゃない」とか言ってるけど、成長や応用の余地があって、強い使い方ができるならそれは強個性だよね……?
その理屈だと
「何か勝ち筋があると思うよ!」
呆然とする接近戦組を鼓舞するようにデクくんが分析する。
「……うん。通形先輩の“個性”は『透過』だったはず。ワープして見えたのも、攻撃をすり抜けるのも、全部“個性”を精密制御してるからだと思う」
「なるほど……。なら、“個性”を使っていない時なら……!」
「後は場所。二点以上を同時攻撃したり、フェイントが有効かも」
「ヤオトワがそーゆーの参加すんの意外だけど、サンキュー二人共!」
視線の先で、ミリオが笑むのがわかった。
好戦的な笑み。
――来る。
瞬く間にやってきた彼はデクくんの背後に出現。
読んでいたデクくんはカウンターを狙うも、ミリオは
みぞおちを殴られたデクくんは悶絶。
ミリオは即座に地中へ消え、また誰かの背後へ――。
「……ここっ!?」
「正解」
あてずっぽうで裏拳を放つと、私の拳ががっしりと受け止められた。
「男女平等パンチ!」
「ごふっ!?」
容赦ないお腹へのパンチ。
食べた物は死んでも吐かないけど、呼吸が止まり、思考が中断するのは避けられない。
堪えて拳を握った時にはミリオはもういない。
「がっ!?」
「どげっ!?」
「ぐはっ!?」
ドガガガガガガガ……!
格ゲーのコンボでも見せられてるような連打で次々悶絶していくみんな。
予想はしてたけど、予想以上にきつい。
でも、ちょっとだけわかった。
「点の攻撃より、線の攻撃……っ!」
そして、しぶとい私を一発KOできると思わないで欲しい。
声を上げて飛び掛かる私。
「おっと、我慢強い子がいたか」
「っ……はっ!?」
腹部により強い一発。
私は眩暈と共に吹っ飛びながら、にやりと笑う。
ミリオが訝し気な表情を見せ、
「ナイス永遠ちゃん!」
「線なら――蹴りと、手刀だ!」
咄嗟に全裸になって逃れていた透ちゃんと、ギリギリ復帰してきたデクくんの、同時攻撃が炸裂した。
※合宿からの一連の流れに一段落ついたので、投稿間隔を落とします。