「きゅう……」
「あ……あああ……」
「いやあ、危機! 一髪だったね!」
「うわあ……」
駄目だった。
ビッグ3の名前は伊達じゃない。不意を打ったはずの透ちゃんとデクくんの攻撃はギリギリのところで迎撃され、後には死屍累々のA組メンバーと、立っているミリオだけが残った。
そして。
そうやって自分の力を見せつけた上で、ミリオは言った。
「俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ! ので! 恐くてもやるべきだと思うよ一年生!!」
◆ ◆ ◆
「……というわけで。インターンについて、雄英としては生徒の自主性を重んじることとした」
「せんせー、つまりどういうことですかー?」
「もともと課外活動だからな。最低限、事務所の選別はするし指導もするが、基本的なスタンスとしては『おススメはしないがやりたければどうぞ』ってことだ」
あ、ちょっと条件が優しい。
原作だと「インターン受け入れ実績の多い事務所のみ」っていう条件だった。
Mt.レディさんの事務所はできたばかりで、当然、実績なんてないから弾かれそうだったけど――この条件なら大丈夫そう。
もちろん、私のために緩和されたわけじゃないだろうけど。
「情勢が情勢だ。学校としては本来なら禁止したい。だが、世論は強いヒーローを求めている。自ら試練を望む者を遠ざけていいのかって声もあってな」
で、校外での事故にまで責任持ちきれません、という態度を取るわけか。
「だが、くれぐれも問題は起こすな」
相澤先生は念を押す。
「問題が起きれば、校外での出来事だろうと学校側が責任を問われる」
「オトナノジジョー……」
「ああ。だが、重要だ。来年以降のインターン方針にも影響するからな」
私達の二年目、三年目だけじゃなく、後輩達にまで迷惑がかかるってことだ。
「怪我もしちゃいけねーってのか?」
「いや。ヒーロー活動に負傷はつきもの。多少の怪我は『そういうもの』と許容される。リカバリーガールもいるしな。だが、間違っても死ぬな」
死。
ヒーローをやっていれば、それは決して絵空事じゃない。
だって、敵は大概、こっちを殺す気で来る。
「過去、インターン中に死亡した生徒もいる。名誉の死亡、なんて格好いいものじゃない。生きていれば多くの敵を逮捕できたかもしれない。そっちの方が余程合理的だ」
「―――」
「いいか。繰り返し言うぞ。何があっても死ぬな。お前達はまだ仮免段階。一人前と認められたわけじゃない。学校にも、監督するプロヒーローにも、お前達を守る義務がある」
「……はいっ!」
「よし」
相澤先生の言葉は、ミリオの激励に水を差すものでもある。
しかし学校側としては言わないといけないのだ。
子供たちを守り、育てるのが学校の役割だから。
でも、子供っていうのは無鉄砲なもの。
もっと先を目指したくて仕方のない生き物だ。
◆ ◆ ◆
「インターンに行きます」
「……まあ、もう『待て』とは言わないが」
今度こそ、相澤先生は申請用紙を受理してくれた。
「Mt.レディ事務所か」
「はい。先方もそのつもりでいてくれてますし」
職場体験で指名をくれた他の事務所でも、きっと受け入れてくれるだろうけど、一度行った事務所の方が馴染みやすいし、何より通いやすい距離なのが嬉しい。
他の地方とかになっちゃうと授業を休むことになりかねない。
「姉の方や葉隠は一緒じゃないのか?」
「お姉ちゃんはまだ迷ってるみたいです。透ちゃんは私と一緒に行きたがってましたけど、他の事務所に連絡してみることにしたようですよ」
「……そうか」
百ちゃんにはウワバミをはじめとした色んなコネがある。
戦うだけがヒーローの仕事じゃない。CM撮影が百ちゃんに向いてるかはともかく、Mt.レディ事務所以外にいいところがあるだろう。
透ちゃんはだいぶ迷ってた。
忍としては主人の傍に……っていうのがあるし、前に冗談っぽく話したコンビネーションも悪いアイデアじゃない。
でも、持ち味を生かすならやっぱり他の事務所がある。
ということで、エッジショットの事務所に掛け合ってる。葉隠家の名前を出せばOKしてくれるだろうって。忍者繋がりでコネがあるんだろう。
「他にお勧めがありますか?」
「いや」
何か悩んでるっぽかったから尋ねてみると、相澤先生は首を振って。
「そういうわけじゃないが……。八百万妹、お前に指導がある」
「え、久しぶりにお説教ですか」
「ああ。お前には幾ら言っても言い足りないようだからな」
「……わーい」
げんなりと肩を落とすと、ミッドナイト先生が「いい気味よ」とでも言いたげなウインクをくれた。
職員室を出ると、結構なスピードで先生は歩いていく。
スマホでどこかへ連絡を取りつつ向かう方向は生徒指導室じゃない。
「………」
「………」
何か言っても「黙って歩け」と言われるだろうから、何も言わない。ちょっとは学習したのだ。
――この道順って。
一学期に何度となく通った道だ、忘れるはずがない。
「カードキーはまだ持ってるか?」
「はい。ちゃんと持ってます」
セキュリティを通過して地下へ。
取り調べる相手がいなくなったため、警察の人はもういない。地下の部屋は無人だった。
トガちゃんが監禁されていた部屋は綺麗に掃除され、新たにテーブルと椅子が置かれていた。明らかに密談用といった感じ。
校長や相澤先生ってば、ちょくちょく使ってたっぽい。
「座れ」
「奥ですか?」
「当たり前だろ」
つまり私が上座ってことですね、なんてボケはしない。
わざわざ奥に追いやられるのは出口を遠ざけて圧迫面接するために決まってる。
げんなりしつつ腰かけて、
「話、始めますか?」
「いや」
「やあやあ待たせたね! みんなのアイドル校長の登場だよ!」
ぱちぱちぱち……。
「………」
「………」
「いや、相澤先生も拍手してくださいよ!」
「時間が勿体ない」
「HAHAHA! 相澤君はいつも容赦がないね!」
校長と相澤先生は私の向かいに腰かけた。
「……久しぶりな気がします」
「状況が、君の予言からズレ始めているからね」
「そうですね」
少なくとも、敵連合には打撃を与えた。
原作と同じような動きはできないとみていい。
「で? 今日はインターンの件かな?」
「はい。彼女のインターン先はやはりMt.レディ事務所だそうです」
「ふむ、そうか……」
話を聞いた校長は顎に指を当てて考え込む。
一体なんだろう。
インターンの件が問題だけど、行って欲しいところがあるわけじゃない……?
「あの……?」
「ああ、すまないね。実は、ちょっと状況に動きがあったんだ」
「動き?」
「ああ」
校長は頷いて、
「死穢八斎會への強制捜査が決まった」
「っ!」
思わず、がたっと立ち上がってしまった。
「じゃあ」
「うん。約一か月。早いとはいえないかもしれないけど、助けられそうだ」
「……良かった」
ほっと息を吐き、椅子に座り直す。
助けられる。
また一つ流れを変えられる。
もちろん、強制捜査が成功しないといけないんだから、決して楽ではないだろうけど……って、待った。
「あの……戦力は足りているんですか?」
問題はそこだ。
原作でもナイトアイ事務所、ファットガム事務所、リューキュウ事務所等、幾つもの事務所が警察と協力してチームを結成し、そこにビッグ3やデクくんたちを含む何人ものインターン、相澤先生を加えてギリギリで成功させた。
ギリギリ、だ。
タイミングが変わっている以上、同じ戦力で上手くいくとは限らない。
ううん、っていうか、そのままだったら戦力は減る。
「強制捜査に参加する事務所には、一年生のインターン受け入れを延ばしてもらうことになっている。インターンの初仕事がヤクザへのカチコミ、なんて酷すぎるからね」
「……ですよね」
原作で参加していた一年生はデクくん、切島君、お茶子ちゃん、梅雨ちゃん。
四人分の戦力減は痛い。
特に、原作で敵のリーダーを倒したのはデクくんだった。彼が欠けるのは大きな損失だ。
「だからもちろん、君の予言にあった事務所以外にも協力を要請するつもりだ」
「それは、どこに……? あ……っ」
もしかして。
さっき、校長達が思案していたのは。
「パワー系のヒーロー不足が懸念される。となると、フットワークが軽い若手のヒーローから有望株を引っ張ってくるのが得策だろう」
「それなら、一人思い当たります。神野の件でも活躍した人なんですが……」
「おや。気のせいか、君のインターン受け入れ先だったような気がするね」
校長が悪い顔をしている。
だけど、そんなこと気にならない。
続く言葉への期待に胸が躍っている。
「永遠君。強制捜査、Mt.レディと一緒に参加するかい?」
「いいんですか? 一年生は不参加だって――」
「君のインターン受け入れは以前から半確定していたんだろう? それに、Mt.レディに協力を打診するのはこれからだ。ギリギリセーフというかアウトというか。大義名分は立つさ」
「お前の“個性”はオーバーホールや、実験対象の娘へのカウンターになるかもしれない。俺がお守りにつく言い訳にもなるしな」
あからさまな特例だ。
でも、チャンスがあるなら、
「やらせてください。お手伝い、させてください」
「わかった。Mt.レディ事務所に打診をしておこう。……その結果、彼女が『ノー』と言うようなら諦めてもらわないといけないが」
「あの野心的な女が断るとは考えにくいですね」
うん、レディさんならきっと喜んでくれると思う。
「強制捜査はいつの予定ですか?」
「来週の日曜だね。今週日曜に顔合わせをすることになってる」
ビッグ3は連れて行くわけだから、それが限界かな。
「……当日までに再生能力を上げておきたいですね」
オーバーホールの“個性”は触れたものを一瞬でバラバラにできる。しかも、私が前にされたみたいなバラバラ殺人じゃなくて、分子レベルだか原子レベルだかの分解だ。
あらためて考えても「馬鹿じゃないの?」って言いたくなるくらい強い。
分解の難易度が質量なのか情報量なのか、溜め込んでいたエネルギーが分解されるとどうなるのかにもよるけど、そこまでバラバラにされたら再生にはかなりの時間がかかってしまう。
触られないよう心掛けるのは当然として、再生時間もできるだけ短くしておきたい。
私が独り言のように言うと、校長と相澤先生がこっちをじっと見てきた。
「……自殺を繰り返す気じゃないだろうね?」
「精神科にでもぶちこんでやろうか」
「や、やだなあ。“個性”の訓練じゃないですか」
何度も人の死を見せられ、自分自身も殺されて、それでも人を気遣う余裕があった壊理ちゃんを思えば、痛いとか苦しいなんて言ってられない。
できる対策は立てておかないと。
「体術を鍛える方がどう考えても合理的だろ」
「もちろんそっちもやりますよ」
要は私を捉えられなくなればいいわけだから、気配を消す動きが役に立つ。
「……ふむ。となると、やはり『そう』なるか」
「不本意ですが、そうですね」
「? まだ何かあるんですか? ……異能解放戦線の方も動きがあったとか?」
「いや。そちらも進んではいるが、今、動くのは難しいんだ。あまりにも規模が大きいしね」
街一つ分の“個性”持ちだもんね……。
八斎會の件が終わってからじゃないと動けないヒーローも多い。
「要は、気配を消す体術を訓練しつつ、効率的に『死ねれば』いいわけだろう?」
「えっと……はい。そうですけど」
言うほど簡単じゃない。
考えられる範囲だと透ちゃんに相手をお願いするしかないだろうか。理想を言うならトガちゃんにお願いしたいけど――。
「あ……!」
思い浮かんだ名前にピンときた。
「あの、もしかして……!」
校長達の意味ありげな会話パート2。
パート1が私にとっていい話だったんだから、今度のだってそうかもしれない。
だとしたら。
私の想像も、そう大きく外れていないんじゃないか。
きらきらした目で見つめると、二人は顔を見合わせて溜め息をついた。
「トガヒミコへの取り調べが一段落した。その結果、未成年であることも鑑み、一定の条件下での減刑を行うべきだとの意見が出ている」
合宿の時、トガちゃんが連合に協力したのは事実。
でも、トガちゃんは誰も殺してない。警備の警官は全員、死柄木の“個性”でやられていた。唯一刺された私も急所を外されていて、殺意があったとは判断できない。
センスライの“個性”によって保証された私の証言により、バーでのトガちゃんの行動がむしろ私を守り、連合を牽制するものであったこともわかっている。
私と会う前の罪についてはどうしようもないけど、校長が言った通りトガちゃんは未成年。
大人の犯罪者と同様に裁くべきではない、という話らしい。
「条件というのは?」
「警察への協力。犯罪者の視点から捜査に意見を提供するとか、場合によっては変身能力で囮捜査に関わるとか、そういったことだね」
「目いっぱいこき使われるやつですよね、それ……?」
囮捜査って、それこそ未成年使ってやることじゃないような。
「そうかい? 君も仮免とはいえヒーローになったことだし、Mt.レディ事務所への協力要請扱いで、特訓の機会を作ろうかと思ったんだが」
「是非お願いします」
この時ばかりは国家権力に魂まで売り渡してもいいと思った。