死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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ナイトアイ事務所

 サー・ナイトアイ。

 

 『予知』の“個性”を持つプロヒーロー。大のオールマイトファンで、以前は彼のサイドキックを務めていた。考え方の違いから道を違えた後もその想いは変わっておらず、自身が予知した「オールマイトの死という運命」を変えたいと思っている。

 性格は理性的で堅実。

 ただ、オールマイトの死を予知したことをずっと悔やんでいたり、事務所内ではユーモアを重んじていたりと感情的なところもある。

 むしろ、情に篤い性格を抑えて理性的に振る舞っている、という方が正しいかもしれない。

 

 そんなナイトアイの事務所は、

 

「……大きい」

「やり手だし、活躍期間も長いもの」

 

 私を連れたMt.レディさんはふん、と鼻を鳴らした。

 

「でも私、あの人苦手なのよね」

「あー……。礼儀作法とか服装とかうるさそうな方ですもんね」

「そうなのよ。何だその格好は、人々を鼓舞する目的もあるとは言え、もう少し貞節というものを弁えて――とか、ごちゃごちゃうるさいったら!」

「それでホテルからコスチュームなんですね」

「? コスチュームはヒーローの正装よ?」

 

 強制捜査の打ち合わせなんだし、外で目立ったら駄目なんじゃ……?

 と思ったけど、他にもヒーローコスチューム姿の人がうろうろしてたので、私は考えるのを止めた。

 

 この世界、ヒーロー事務所なんてコンビニより一杯あるわけで、その一つ一つを監視なんかしていられないし、ヒーローの移動一つで一喜一憂してたら身がもたないんだろう。

 うん、そういうことにしておこう。

 

 ちなみに私は制服。

 別にコスチュームでも良かったんだけど、学生は制服が正装だ。

 

「さ、行くわよトワちゃん。失礼の無いようにね」

「……はい」

「よし。その間は気にしないでおいてあげる」

 

 私よりレディさんが心配、とか思ってません。本当です。

 

 

 

 

 

 

 ナイトアイ事務所の会議室に、多くのヒーローが集まっていた。

 

 サー・ナイトアイ。

 ファットガム。

 リューキュウ。

 シンリンカムイ。

 エッジショット。

 Mt.レディ。

 イレイザー・ヘッドに、その他数名。

 

 更に、それぞれの事務所のサイドキックやインターンも含めると数十人規模。会議室が一杯に近い状態だ。まあ、インターンはビッグ3と私を含めて五人だけなんだけど、

 

「って、透ちゃん!?」

「やっほー永遠ちゃん、来ちゃった!」

 

 慣れ親しんだ姿(雄英の女子制服だけ浮いてる)に驚いた次の瞬間には、透ちゃんが明るく手を振ってくれていた。

 来ちゃったって……あ、そっか。

 

「エッジショットさんの事務所に入れてもらえたんだね」

「うん! 滑り込みセーフだよ!」

「おめでとう、透ちゃん」

「ありがと! へへー、びっくりさせようと思って黙ってた甲斐があったよ!」

 

 本当にびっくりした。

 

「私とシンリンカムイとエッジショットさんはチームアップの話を進めてるのよ。で、まとめて話が来たってワケ」

「なるほど……」

 

 そういえばそんな話が原作でもあったっけ。

 それでその三人が追加、代わりにデクくん達とグラントリノが不在。彼らについては時期のズレが原因だと思う。

 原作で名前の出てないプロヒーローもいるので、具体的な増減はわからないけど、増えてるのは間違いない。

 

 でも、デクくんとか切島君の活躍も大きかったし……。

 

「うるさいぞインターン」

「「すみません」」

 

 二人で謝ってから大人しく座る。

 所属ごとだから透ちゃんとは別だ。さすがにこういうところで我が儘は言わない。

 全員が揃い、時間になったところで会議は始まった。

 

「忙しい中、集まって頂き感謝する」

 

 進行役を務めるのはナイトアイ。

 七三分けに硬そうな眼鏡をかけたスーツ姿の男性。サラリーマンかな? って思ってしまうような格好で、組んだ腕に顎を乗せている。ロボットアニメか何かで見た姿勢。

 

「急遽、参加してもらうことになったヒーローもいるため、あらためて概要を説明させてもらう」

 

 強制捜査を行うのは「指定(ヴィラン)団体」(ヤクザ)である死穢八斎會の本拠地。

 彼らは「敵」と称されているものの、表立って具体的に悪事を働いているわけじゃない。裏ではあくどいことをいっぱいしてるだろうけど、表向きは企業運営をしたり、投資をしたりという体をとってる。

 だから、先に裏付け捜査をして「悪事を働いている証拠」を集める必要があった。

 

 八斎會を調べ始めたきっかけは「ある筋からの情報」。

 

「ある筋って?」

「雄英校長だ」

「なる」

 

 校長先生の顔の広さが窺えるやり取り。

 ヒーロー校のトップで校長をやっているだけあって、彼ならどんな情報を掴んできてもおかしくない、と思われているらしい。

 

「情報は、奴らが人体を素材に『個性を破壊する弾』を作っているかもしれない、というものだった」

 

 噂レベルの話ではあったが、校長の依頼で幾つかの事務所が調査を開始。

 片手間に少しずつ進めた結果、どうやら情報が正しいとわかった。

 

「八斎會の実質的なリーダー、若頭の治崎廻は一人の少女を監禁し、その身体の一部を使って『個性破壊弾』の研究をしている」

「女の子を……!?」

「ああ。その少女――壊理の身体を用いることで、彼女の“個性”を銃弾に影響させているらしい」

 

 ファットガム等が調査した結果、既に裏市場に粗悪品が出回り始めている。

 粗悪品でも、打たれた“個性”持ちは短時間“個性”が使えなくなる。

 もしも研究が進めば、もっと長時間“個性”を封じたり、あるいは名前通り「完全に破壊する」弾が出来上がるかもしれない。

 

「虐待、武器弾薬の密造・販売。強制捜査には十分な証拠だ」

「八斎會は全国に拠点を持っているはずだが、強制捜査は本拠地でいいのか?」

「ああ。壊理という少女が本拠地に監禁されていること、治崎廻も主にそこへ滞在していることがわかっている」

「どうやって調べたんです?」

「私の『予知』を末端構成員に用い、地道に情報を集めた」

 

 ナイトアイの“個性”は「観測した未来を変えることができない」という制約がある。

 なので使いどころが難しい(上がりやめのタイミングを間違えると、誰かの死を確定させてしまう)けど、ちまちま使えば危険はぐっと減る。

 別の構成員の未来を根気よく見ることで本拠地の構造や壊理の存在、治崎の研究内容などを、ジグソーパズルをくみ上げるように特定した。

 

「だったらすぐにでも行こうぜ! 一週間後なんて待ってられねえ!」

「駄目だ。相手は全国規模の指定敵団体。万全を期す必要がある」

「だとしても一週間後は遅すぎだろ! 高校生の休日を待つ意味があるのかよ!?」

「ある」

 

 うわ、断言した。

 言ったのはイレイザー・ヘッド――相澤先生だ。

 

「ルミリオン、サンイーター、そしてネジレチャン――どうにかならないのかこの名前――の三名の参加は大きい。それぞれ、下手なプロヒーロー以上の能力を有しているし、想定される障害へのカウンターにもなりうる」

「……じゃあ、そっちの一年生共はどうなんだよ?」

「各事務所でインターンの新規受け入れは中止したんじゃないのか?」

 

 相澤先生が嫌そうな顔をした。

 たとえ本当のことでもこいつらを褒めたくない、みたいな顔。失礼――でもないか。

 

「要請が来た時にはもう、この子を取るって正式に決まってたし」

 

 レディさんがしれっとした顔で言い、相澤先生が引き継ぐ。

 

「葉隠は潜入しての単独行動に長けている。やおよろ――綾里は打たれ強い上に治癒能力が高い。一撃必殺になりうる治崎に対抗できるかもしれない。できなくとも、増員としては適切だ」

「ふうん。……透明な方はともかく、そのチビはどうかと思うが」

「トワちゃんを甘く見ないでよね。この子は“個性”なしの私とほぼ互角よ」

「はっ。プロになって腕が鈍ったんじゃないのかMt.レディ」

「なんですって!?」

「れ、レディさん、落ち着いてください!」

 

 Mt.レディ事務所から来てるのは私達だけなので、ここは私が止めないといけない。

 尻尾踏まれた猛犬みたいになったレディさんを宥めた後、私は微笑む。

 

「私の実力が信じられないのは当然だと思います。……でも、お願いします。足手まといにはなりませんから、連れ行ってください」

「死ぬかもしれねえんだぞ?」

「邪魔だと思ったら、その辺に捨てて行ってください。自力で生き残って帰ってきます」

「……けっ」

 

 口が悪いらしいそのヒーローは、不満そうな顔のまま顔を背けた。

 許してくれた、らしい。

 

「ありがとうございます」

 

 その後、細かいデータや予想突入径路などを話し合った後、解散になった。

 

 

 

 

 

 

「やーっと終わった! 帰りましょ、トワちゃん。ハンバーガー奢ってあげる」

「ありがとうございます。いくらまで注文していいですか?」

「500円まで」

「それじゃ大して頼めないじゃないですかー。じゃあ、飲み物はお水もらうとして、バーガーとポテトを……」

「綾里永遠」

 

 会議が終わって。

 ぐっと伸びをしたレディさんとじゃれ合いつつ、帰る算段をしていたところで、意外な人から呼び止められた。

 

 スーツに眼鏡。

 他でもない、サー・ナイトアイその人である。

 驚いた。

 まさかサーが話しかけてくるとは思わなかった。

 

「はい」

 

 答えて向き直る。

 結構背の高い人なので、ぐっと見上げる体勢にならないといけない。

 当然、向こうからは見下ろされるわけだけど……なんだか、値踏みされてるような感覚。

 

「君が、か」

「……あの。私が、何か?」

「いや」

 

 ナイトアイは苦笑して、首を振る。

 

「失礼した。……まさか君が、Mt.レディの事務所のインターンとは」

「ちょっと。私のトワちゃんに文句でもあるっていうんですか?」

 

 レディさんがイラっとした顔で割って入った!

 

「そういうことを言ってるわけじゃない」

 

 ナイトアイの方も眼鏡をクイっとして「若干イラっとしました」というポーズ。

 なんだこれ。

 

「あ、あの! もし何かあるなら、聞かせていただけませんか?」

 

 私は慌てて、場所を移す提案をした。

 

 

 

 

 

 

 静かな応接間。

 ちゃんとした応接用の部屋がある時点でMt.レディ事務所の負けなわけだけど……その辺が気に入らないのか、テイクアウトしたハンバーガーの数々を前に、レディさんはやけ食いのような体勢に入っていた。

 私もお腹が減っているので、一応、食べ方に気を付けながらご相伴に預かり、

 

「……先程は失礼した。大した用件ではなかったのだ」

「と、いいますと?」

「一目、近くで顔を見ておきたかった。それだけだ」

 

 それだけって言われても……。

 私とナイトアイさんに関わりは殆どないはずだ。

 私は原作で一方的に知ってるけど、それだって断片的な情報に過ぎないし。

 いや、原作知識でオールマイトやデクくんの現状を変化させてる以上、全く無関係じゃないんだけど。

 

「どうして、私なんかを?」

 

 『不老不死』の件がバレたのかな?

 

「……君が『特異点』だからだ」

「え」

 

 特異点。

 言うべきか迷った、という風にナイトアイが紡いだ言葉は、今まで聞いたことのない単語だった。

 似たようなことは言われてきたけど。

 どうして?

 

「ナイトアイさんの“個性”に関係があるんでしょうか……?」

 

 尋ねると、意外そうな顔をされる。

 

「そうだ。わかるのか? ……いや、わかるのだろう」

「えっと……?」

 

 ナイトアイが溜息をつく。

 

「特異点と言ったのは、君が私の『予知』をかき乱すからだ」

「え?」

「君が関わると、私の『予知』が不鮮明になる。まるで、君のいる場では()()()()()()()()()()()()

「……そんなことが」

 

 あるんだろうか。

 あるんだろう。

 わざわざナイトアイが言ってきたからには嘘とは思えない。

 どうしてか?

 たぶん、『不老不死』じゃない、もう一つの私の秘密が関係してる。

 

 転生者。

 

 原作知識が原作に干渉する、ありえない現象の影響だと思う。

 

「ナイトアイさんの『予知』も完全じゃないんですねー」

「……貴様は」

 

 しれっと言うレディさんが癒し。

 

「トワちゃんの未来が見通せない? いいことじゃないですか。この子の未来はいくらでも可能性があるってことでしょ?」

 

 たぶん、レディさんには深い意図はない。

 ナイトアイの鼻を明かしたくて言ってる部分が大きいと思う。

 

「……ああ。そうかもしれないな?」

「は?」

 

 素直に認めたナイトアイを見て、変な声を出したのがその証拠。

 でも。

 

「綾里永遠」

「は、はい」

「私は、君に僅かな期待を抱いている」

「……え?」

 

 ナイトアイの手が私に触れる。

 『予知』を使ったのかもしれない。

 彼は苦笑を浮かべると、首を振って。

 

「君が関わったことで、オールマイトの未来が僅かに変わった。……理由はわからないが、君は『未来を変える因子』になりうるのかもしれない」

 

 私を、真っすぐに見つめてくる。

 

「もしできるなら、未来を変えてくれ。切り開いてくれ。オールマイトが死ぬ未来が変わるくらいに」

「……できるかどうかは、わかりませんけど」

 

 私は知っている。

 オールマイトだけじゃない。

 あなたが、死んでしまう未来も。

 

「精一杯頑張ってみます」

 

 死んでしまう人は、少ない方がいいから。

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