死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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登校初日:個性把握テスト

 入試翌日の雄英高等学校某所。

 教師その他関係者による実技試験の感想会は大いに盛り上がっていた。

 

「俺はあいつ気に入ったよ!! YEAHって言っちゃったしな――」

 

 雄英ヒーロー科の教師は皆プロヒーロー。

 若者の頑張りが嬉しいのは当然だったが、そんな中でも冷静さを崩さない者も僅かにいる。

 

「イレイザーは気になった奴いないのかよ!?」

「俺ですか?」

 

 クール組筆頭――抹消ヒーロー《イレイザーヘッド》こと相澤は、不意に水を向けられて気の無い声を返した。

 

「いないわけじゃないですが」

「じゃあ聞かせろよ、年に一度のイベントだろ!?」

「……じゃあ、あの小さいのですね」

 

 ああ、と、幾つかの声が上がった。

 

 宙に投影された結果表(リザルト)

 四十名ほどが記載された表の下の方――三十二位にその名前があった。

 綾里永遠。

 (ヴィラン)P15、救助(レスキュー)P25という凡庸な成績。救助Pゼロで実技一位の爆豪や、敵Pゼロで実技七位の緑谷のような派手さはない。

 “個性”も地味で、直接的には敵逮捕に役立たないもの。

 下手をすれば小学生に見えかねない容姿も威厳という意味でマイナスだが、

 

「徹頭徹尾、この試験の主旨を踏まえた上で行動してます」

「確かに」

「相澤君の好きそうな子ではあるね」

 

 筆記試験も加味した成績ではもう少し上に行く。

 上位三十六人に入っている時点で、強硬な物言いがない限りは合格する。

 

「地味ですが、こういうタイプは潰しがききます。彼女はA組にください」

「ほう。相当気に入ったんだな」

 

 感心とからかいを含んだ言葉に、相澤はにこりともせずに答えた。

 

「あれは俺が指導します」

 

 自分のすべきことを理解した玄人好みの新人。

 超えてはいけないラインをしっかり教え込めばいい活躍を見せてくれるだろうが――ラインを踏み間違えると早死にする。

 故に、分を弁えきれないと判断した場合は、

 

(除名する)

 

 この時点で、相澤の内心までを推し量れている者は、そう多くはなかった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 再びやってきました雄英高等学校。

 

 仰々しいセキュリティゲートって感じの校門前に立つのはこれで二度目だ。

 前回は受験生としてだったけど、今回は生徒としてだ。

 灰色メインのブレザーに赤いネクタイ、深緑のスカート。意外と地味な、ちょっと軍服っぽいような気もする制服を私は身に纏っている。ちなみにオーダーメイド。「小さい」方は珍しいみたいだけど、人よりごつい子とか大きい子とか普通にいるので、その対策だ。

 これを着ているだけでいつもより目立っていたのは面白かった。やっぱり雄英はネームバリューがあるらしい。まあ、「高倍率を誇る国立の高校」なんだから当たり前といえば当たり前だけど。

 

「……さて」

 

 一息ついてから歩き出す。

 入試の際はセキュリティレベルが落ちてたけど、通常レベルのセキュリティでは学生証等がないとゲートを通過できない。忘れたら取りに帰るしかない。そして、何度も忘れていたら学校からの評価がぐんぐん下がる。

 忘れ物と遅刻のせいで退学とか笑えない。

 しっかり荷物チェックをしてきた私は無事ゲートを通過し、校舎に向かって歩く。

 

 ――早めに来たので人気は少ない。

 

 半分くらい歩いたところで脇に寄り、わざとらしくないよう自然に屈みこむ。

 ひらり。

 ブレザーの袖口から()()()()封筒を「最初から落ちてました」という顔で拾い、表裏を眺めてから再び歩き出す。

 封筒には「校長先生へ」と書かれている。

 

「職員室は……」

 

 校内マップで場所を確認した私は、封筒を届けに職員室へ入った。

 

「すみませーん」

「何だ」

「ひっ」

 

 床から声がした。

 見れば、寝袋に入ってミノムシみたいに落ちている髪ボサボサの男が一人。イレイザーこと相沢先生。またまたいきなりのエンカウントである。

 原作ではデクくん達の所属するA組の担任。

 事前通知されている私のクラスもA組。なので、順当にいけばこの人が担任なわけだけど――。

 

「あの、先生はいらっしゃいますか?」

 

 ()()が初見で先生に見える生徒は相当レアだ。

 

「何の用だ」

 

 何の自己紹介もなく睨まれた。

 

「……これが道に落ちていたので、一応お渡ししたくて」

「……ゲートの中と外、どっちだ?」

「中です。校舎まで半分くらい歩いたところでした」

 

 寝袋からにゅっと伸びてきた手が封筒を掴むという、ちょっと怖い光景。

 相澤はしばらく沈黙した後、低い声で言った。

 

「わかった」

「ありがとうございます」

 

 私はぺこりと頭を下げ、職員室を後にした。

 

 ――私にできるのはこんなところだろう。

 

 あの封筒、その中の手紙が校長先生に渡るかはわからない。渡らない確率の方が高いだろう。相澤先生が中身を見ずに捨てるかもしれないけど、それならそれで仕方ない。

 これ以上のリスクを負う気はない。

 手紙に書いたのは覚えている限り(原作を読んだのは遠い昔だ)、書ける限り(OFA(ワンフォーオール)のこととか詳しくは書けない)の原作知識。予言者か何かが書いた風を装って断定口調で書き連ねておいた。サーみたいな予知能力者もいるわけだから、読んでくれさえすれば注意はしてくれるかもしれない。

 

 外れる可能性を考えると直談判はできない。

 雄英に内通者がいる、なんて話もある以上は目立ちたくない。危険視された挙句、攫われて脳無の素材にされましたー、とかめでたくないにも程がある。

 できれば良い方に外れて欲しいけど、こればっかりは蓋を開けてみないとわからない。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「いきなり着替えなんてびっくりだよね!」

「うん。変な先生だったね」

 

 女子更衣室。

 計七人のA組女子達は、相澤先生が怖いのでてきぱきと体操着を取り出しつつも、あちこちで声を上げていた。

 隣で私に話しかけてくれたのは、見るからにうららかな感じ(?)の女の子。

 

「私は麗日お茶子。よろしくね」

「私は綾里永遠って言います。よろしくお願いします」

「敬語とかいいよ! クラスメートなんだし!」

 

 黒地に白で「UA」と入った体操着(個人的にはダサイと思う)を手に、にかっと笑うお茶子ちゃん。

 

「うん、わかった。お茶子ちゃん、って呼んでいい?」

「いいよ! 私も永遠ちゃんって呼ぶね!」

 

 早くも友達っぽくなってしまった。

 と。

 

「綾里さんっていうんだ」

「可愛い。飛び級じゃないよね? 同い年だよね?」

「ケロ。私のことは梅雨ちゃんって呼んで」

 

 なんか他の子達からもいっぱい話しかけられた。

 髪を後ろでアップにした聡明そうな女子(自己紹介はされてないけど百ちゃん)が「遅刻しますわよ」と口を挟んでくれなかったら、私は聖徳太子にチャレンジすることになっていた。

 あ。

 ちなみにクラス構成はほぼ原作と同じ。定員にあぶれたのか不在だったのは峰田君だった。ほんとごめんなさい。

 

 

 

 

 

「個性把握テストォ!?」

「トータル成績最下位の者は除籍だ」

 

 グラウンドに集まった私達に言い渡されたのは例の無慈悲な宣告だ。

 原作では実行されることはなかった。

 ただ、それはデクくん達がしっかり実力を引き出したからで――結局のところ、原作知識のある私も手を抜くことなどできない。

 

 評価に繋がる以上、手を抜く意味もない。

 私は、A組の皆と共に、全八種の体力テストに“個性”使用アリで臨むことになった。

 

 といっても、私にできることは多くない。

 普段の全力以上を常に引き出す。

 この頃のデクくんがやってた身体を壊すやつのしょぼい版がせいぜいだった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

(……こいつ)

 

 相澤消太は警戒を強めていた。

 綾里永遠。

 入試時点から注目していた少女は、思った以上に目が離せない奴だった。()()緑谷や、素行に問題ありの爆豪も要注意だが、ある意味ではそれ以上。

 

(初手から全力で行きやがった)

 

 一種目目の50m走。

 永遠は高一女子の平均を超えるスコアを叩きだした。“個性”使用ありとしては平凡すぎる数値だが、体格を加味すれば十分破格。

 その代わり、走った後の彼女は歩くことも困難なくらい困憊していた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「綾里。お前にだけ休憩はやらんぞ」

「わかっています。大丈夫です」

 

 通常、人の運動能力は「自分の身体を壊さないように」リミッターがかかっている。

 一般的な全力とはリミッターがかかった状態での上限を指すが、永遠のスコアはその上限を超えている。

 頑丈さと高い治癒力を併せ持った“個性”。人より上限が高いか、一時的に痛めつけてもすぐに回復すると踏んだか、その両方か。

 実際、彼女は次の種目に移行する頃には立って動けるようになっていた。

 

 他の種目もその繰り返し。

 

(意識的にリミッターを外せるのか……?)

 

 身体を壊すといえば緑谷だが、彼の場合は()()()()()()()()()()()()()()()()()()という意味合いが大きい。使い方がわかっていない子供だ。

 だが、永遠は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 似ているようでいて対照的ともいえる。

 

(当初の懸念は杞憂だったか? しかし……)

 

 彼女のスタイルは逆に危うい。

 治るからいいや、という考えは人として、生物として危ういところに行きかねない。行き過ぎれば――人を救いながら、()()()()()()()()()()()()()()()救命マシンのような存在が誕生してしまうかもしれない。

 加えて、緑谷への影響。

 今のところは周囲は「スタミナが極端にない奴」と見ているので問題ないが、他の者が真似すればあっという間に死ぬ。

 

 ()()()()()()もある。

 

(やっぱり見てないと駄目だな、こりゃ)

 

 相澤はひとまずそう結論づけるのだった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 ソフトボール投げでデクくんが指を折った。

 やっぱりあの子、頭のネジがどっか外れてるんじゃないだろうか。

 

 ――それにしても、私のスコア。

 

 二十位。クラス内でビリ。

 原作だと最下位はデクくんだったけど、峰田君がいなくなった&私のスコアがぱっとしなかったため、彼は十九位になっている。

 ソフトボール投げ以外の種目でもデクくんと同じかちょっと低いくらいだったんだから当然だけど。

 女子のみんなが「永遠ちゃんともうお別れ」みたいな顔をしている中、相澤先生はしれっと告げた。

 

「ちなみに除籍はウソな」

「!?」

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

「はー!!??」

 

 良かった、と、心底思った。

 宣言通り綾里は除籍な、とか言われたら始業式で退学、という恐ろしいことになるところだった。

 

「良かったね、永遠ちゃん!」

「うん。ありがとう、お茶子ちゃん」

 

 お茶子ちゃんとか葉隠ちゃんとかが一緒に喜んでくれた。

 

 制服に着替え直す頃には始業式は終わっていた。

 相澤先生はガイダンスを資料配布だけで終わらせるとさっさと教室を出ていった。ちなみにデクくんはガイダンスをパスして保健室に行った。

 時間的にはまだお昼前。

 うん、ご飯はお家で食べられそうだ。

 

「永遠ちゃん、途中まで一緒に帰らへん?」

「いいけど、方言?」

「あ! ごめんね、つい出ちゃう時があるんよ!」

「ううん。可愛くていいと思う」

 

 おっとり系の声の方言って独特の可愛らしさがあるよね。

 

「永遠ちゃんってスタミナないんやね」

「あはは……。うん、動くとすぐ疲れちゃうんだよね」

「小っちゃいもんね。でも、体力づくりは重要だよ!」

 

 お茶子ちゃんと並んで昇降口を出ると、前方に飯田くんとデクくんを発見。

 行く? とお茶子ちゃんに目線で聞かれたのでこくんと頷く。

 直後、二人で小走りに男子達のところへ。

 

「お二人さーん! 駅まで?」

「∞女子。それから沖田女子」

 

 沖田……総司?

 

「私、病弱じゃありません」

「これは失礼!」

 

 三人と駅まで歩きながら他愛ない話をした。

 お茶子ちゃんに惑わされた(?)デクくんが「デク」を認めたのも原作通りだった。その流れで私もデクくんって呼べそうだったけど、ちょっと考えて「緑谷くん」にしておく。

 距離を詰めすぎてお茶子ちゃんとの関係が変わっちゃったら困る。この二人にはちゃんとくっついて欲しい。いや、壊理ちゃんあたりとくっつく可能性もあるしそれも捨てがたいけど。

 

 その後は家に帰ってご飯を食べて、夜までお店を手伝った。

 

「永遠。お前体調平気なのか?」

「今日は体力テストだけだったもん。全然平気だよ」

 

 浩平は、自分のペースでお店を手伝っている。

 見てるだけでも勉強になるし、道具の準備とかなら役に立てるから、と。

 早く稼げるようになりたいけど、まだまだ先は長い。

 

 ――明日は戦闘訓練だっけ。

 

 後はコスチュームのお披露目。

 デザインと素材の希望は送ってあるけど、はてさてどんなのが出来上がるやら。

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