死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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※27巻相当分の話を読めていないので、そのあたりの描写をなるべくぼかしましたが、内容に齟齬がある可能性があります。


蛇腔総合病院

 私は、その場に至ってようやく自分の迂闊さを悟った。

 

「……よう。久しぶりだな、綾里永遠」

「……死柄木」

 

 頭をがっしりと掴んだ()()の指。

 残る一本が触れれば頭が消し飛ぶと、頭上からの声で理解する。

 死柄木弔。

 しばらくぶりの再会は、『不老不死』を診てもらうために訪れた病院で起こった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 蛇腔総合病院。

 入院先で紹介されたその病院へ、私は“個性”の診察のために赴くことになった。

 

『こちらから打診してみたところ、なんと院長自ら診たいと言ってくれたよ!』

 

 校長先生は電話でそう言っていた。

(私はスマホを持てないので看護師さんに耳に当ててもらった)

 

 院長の名前は殻木球大。

 “個性”研究においては名を知られた人物で、数々の慈善事業にも手を出している人格者らしい。

 正確さと信用の両方を考えた場合、『不老不死』を調べるのにこれ以上ない人選だ。

 

『危険はないでしょうか?』

『念のためMt.レディに同行してもらうことになっている。それに、病院だからね。敵の襲撃は常に警戒されているから、連合の残党も他の勢力も手は出せないだろう』

『そうですね』

 

 病院の周辺にはヒーロー事務所があることも多い。

 私の知る限り、病院関係のやばいイベントもなかった。八百万家からも了解を得たということなので、私は総合病院行きを了承した。

 

 診察日はなんと入院から二日後という早さだった。

 雄英校長・八百万家からの連名依頼ということで気を遣われたのかもしれない。なんにしても有難いことだ。

 

「やっほートワちゃん。元気?」

「こんにちは、レディさん。体調はいいですよ。でも、腕が両方ないと不便で不便で……」

「だよねぇ。でも、治るかもしれないんでしょ?」

「かも、ですけどね」

 

 当日、レディさんは朝早くからやってきた。

 私服でもスーツでもなくてヒーローコスチューム。どうやらヒーロー活動の一環として幾らか謝礼が出るらしい。牽制の意味もあって敢えて目立つ格好。

 

「今日はよろしくお願いします」

「気にしないで。うちのインターンなんだから、私が面倒見るわよ。……って軽っ!? 腕二本ないとこんなに軽くなるもんなの!?」

 

 ひょいっと持ち上げられて抱きかかえられる。

 もともとの体格差+軽くなった分で、体重差は二倍近いんじゃないだろうか。

 と、ぎゅう、と抱きしめられて。

 

「ごめんね。辛い思いさせて」

 

 しんみりした声だった。

 

「……私の責任じゃないですか」

「そりゃそうだけど」

 

 あっさり肯定した上で、レディさんは困ったような顔をする。

 

「そういう問題じゃないのよ。私は年上で、プロヒーローで、上司なんだから」

「レディさんってそういうこと気にするんですねって、痛い痛い痛い!」

「人がせっかく真面目に話してるのに、茶化すんじゃないわよ」

 

 だって、お世話になってる人が暗い顔してるの嫌じゃないですか。

 

「大丈夫ですよ、レディさん」

 

 そう、きっと大丈夫。

 

「私はしぶといですからね」

 

 この程度で死ねるなら、私はもうとっくに死んでいる。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 着替えとトイレを手伝ってもらった後(めちゃくちゃ恥ずかしかった)、レディさんの運転する車で蛇腔総合病院へ向かった。

 

「これってレディさんの車ですか?」

「レンタカー。私、車持ってないし」

 

 事務所としては所有しているが、個人では持ってないらしい。

 なんでかって聞いたら「車って高い癖に脆いじゃない」とのこと。いやまあ、ヒーロー基準で考えたら脆いけども。

 レディさんの場合、巨大化して壊すこともあるから気持ちもわかるけど。

 

「………」

「今日はトワちゃん、大人しいわね」

「や、腕がないとすることがなくてですね」

 

 人間の生活がいかに腕に依存しているかという話。

 死柄木も治崎も手がなかったら“個性”使えないし――片腕なくなっただけでも料理とかで難儀するのだ。

 

「暇なら寝てていいわよ」

「そうします」

 

 治崎との戦闘以降、妙に疲れやすい気がする。

 車の適度な揺れもあってか、目を閉じると意識はすぐに落ちていって、病院の駐車場に着くまで一度も起きなかった。

 レディさんの声で起こされた後は、サンドイッチやらおにぎりやらの食べやすいもの(途中のコンビニで買ったらしい)とミネラルウォーターをしこたま胃につめこまされ、またしてもトイレに行かされてから受付を済ませた。

 

 ――いや、うん、さっさと腕をなんとかしたい。

 

 あらかじめ予約を取ってあったお陰で、ほとんど待たされることなく殻木先生に会うことができた。

 殻木先生は朗らかな感じのおじいちゃんだった。

 『個性』診察用だという奥まった診察室に通され、問診や触診等々、一通りのことが行われた後、詳しい検査が行われることになった。

 

「時間がかかりますから、付き添いの方はどうぞ時間を潰してきてください」

「いえ、私は一応ボディーガードでもあるので」

「ですが、下手したら夜までかかりますが」

「トワちゃん、私、車かレストランにいるから」

 

 レディさん、弱っ!?

 

「大丈夫よ。あなたの位置情報や健康状態は常にチェックされてるから」

「……なるほど」

 

 それをこの場で言うってことは、殻木先生への牽制でもあるんだろう。

 この人が敵ってことはないと思うけど、私の『不老不死』で邪な研究をしようとするマッドサイエンティスト、って可能性はまああるわけだし。

 病院内か入り口近くに張って、不審人物がいないか見張ってくれるつもりだ。

 

「そういうことで先生、この子をよろしくお願いします」

「ええ。承りました」

 

 殻木先生もにこやかに応じてレディさんを送り出した。

 

「では、検査を順に行っていきましょうか」

 

 そこからが長かった。

 血液検査、レントゲン、心電図、呼気、エトセトラエトセトラ。この病院独自だというよくわからない機械も含めて、できる検査を全部やったんじゃないかっていうレベルでたらいまわしにされた。

 まあ、『個性』って人によって全然違うから、やれるだけのことはやっておいて損するってことはないんだろうけど……。

 疲れた。

 結果が出るのに時間がかかる検査もあるし、これは本気で夜までかかるんじゃないかと思えた。病院に着いた時に食べられるだけ食べておいて正解だった。

 

 と。

 

「……ふうむ。これは」

 

 最初の診察室に戻ってきた私は殻木先生と二人きりになった。

 

「何かわかりましたか?」

「ええ。なかなかに興味深い。これは――より特殊な機器で調べたいところです」

「もっと特殊な機械があるんですか……?」

 

 意訳:まだ検査するの?

 

「滅多に使わない機械ですし、情報漏洩の可能性もあるので別室に保管しているのです。この際ですから徹底的に調べておきませんか」

「……じゃあ、お願いします」

 

 また検査しに来ることになっても面倒臭いし、できることは全部やっておいた方がいい。

 私は頷き、殻木先生に導かれるまま、診察室の奥へ奥へと入っていく。

 部屋を移動し、通路を抜け、階段を下りてエレベーターに乗り、辿り着いた部屋は殻木先生個人の研究室といった感じの場所だった。

 途中で何度かセキュリティを抜けているので関係者以外は立ち入れない。研究室自体の鍵は殻木先生が持つ金属製の鍵で施錠されていた。

 

 本や書類やらが散乱してるけど、割と普通。

 

「……さて」

 

 殻木先生は着くなり、机の上に置かれていた何かの装置を操作。

 満足そうに頷くと私の方を振り返った。

 

「盗聴の類はないようじゃ。……これでやっとゆっくり話ができる」

 

 口調が変わった。

 人の良い、丁寧な態度のおじいちゃんから、いかにも老研究者といった感じに。

 瞳の奥の光も、人を値踏みするようなものに変わる。

 

「さあ、こっちへ」

 

 壁の一部に巧妙に隠されていたコンソールに何かを入力すると、隠し通路が開く。

 殻木先生――ううん、殻木は、机の前にあった駆動式の椅子に腰かけると、私を誘うようにぎゅいーん、と奥へ移動していく。

 追いかけるしかない。

 暗い中にぼんやりした光が幾つも浮かぶ通路。

 ケーブルやチューブが散乱するそこが、気になって仕方なかったからだ。

 

 これ、って。

 

 頭がズキズキする。

 主観でも二十年とか前になる、ヒロアカの原作知識。その中に、似たような光景があった。

 ほら。

 足を踏み入れると露わになった通路の全貌は()()()()()おぞましい。

 

 通路に見えていたのは、大きなものが整然と並んでいるから。

 柱と見間違いそうな、人の背丈よりも大きな培養カプセル。その中に浮かんでいるのは「つぎはぎの人」とでも言うしかないモノたち。

 彼らの脳は剥き出しだったり、欠損していたり、妙に肥大化していたりする。

 多くの者が成人男性よりも良い体格をしている。

 

 つまり――こいつらは、脳無。

 

 わかった。

 殻木球大の正体。

 まさかとしか言いようがない出会いに、私がぞくりと寒気を感じていると、横合いから出てきた何者かによりがしっと頭を掴まれた。

 

「……ドクター」

 

 呟いた直後、男の声。

 

「……よう。久しぶりだな、綾里永遠」

「……死柄木」

 

 AFO(オール・フォー・ワン)の協力者であるドクターとは、蛇腔総合病院の院長、殻木球大のことだったのだ。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「何の用件ですか、ドクター?」

「随分落ち着いてるじゃねぇか、おい」

「頭が潰れて死ぬのも初めてじゃないし」

 

 死柄木の低い声に私は淡々と答える。

 彼からしたら、私の存在は面白くないだろう。私がいなければオール・フォー・ワンは――まあ、実際はどうにもならないんだけど――助かっていたと考えているに違いない。

 彼が人を殺せる人間なのも間違いないけど、

 

「今、私を殺したら、困るのはあなたたちの方でしょ?」

「いかにも! さあ、その手を離せ死柄木弔。……それから君も『ここがどこなのか』『私が誰なのか』わかる情報は謹んでもらいたい」

「構いませんけど」

 

 原作でも、ドクターは自分の居場所を秘匿したがっていた。

 死柄木にも自分の本名や肩書きは教えていないんだろう。

 

 でも、どうして私に接触してきた?

 ああもう、知識がいいところで切れてる! ホークスのスパイの結果がどうなったのかも、ドクターにどの程度の駒があるのかもわからない。

 ともかく、わかっている知識だけでなんとかするしかない。

 

「オール・フォー・ワンが死んで、敵連合も散り散りになってしまった。動けるのが死柄木と黒霧だけだから、仕方なくあなたが死柄木を匿っている――でも、転送で連れてきたからここの所在地は教えていない。そんなところですか?」

「その通り。なかなか頭も回るようで結構」

「……ちっ」

 

 舌打ちする死柄木の背後で、隠し通路の入り口が音を立てて閉じていく。

 これで、もしこの部屋に誰かがやってきても、私達の存在も脳無のことも知られることはない。

 

「私には教えてしまっていいんですか? 私、ヒーローですよ?」

「そうじゃな。しかし同時に、君は『オリジン』でもある」

「生まれたのが昔なだけで、私は現代人です」

「君の“個性”を真に理解できる者は少ない。君の望みを叶えられる者も。その相手をみすみす手放せはしない――と、ワシは考えているのじゃよ」

 

 言いながら、ドクターは奥へと移動していく。

 脳無の培養カプセルからはあまり良くない匂いがする。できれば長居したくはないんだけど、そういうわけにもいかなさそうだ。

 

「私の望み? ……世界を平和にでもしてくれるんですか?」

「直接そうすることはできない。じゃが、そのための力を与えてやることはできる」

 

 意外な答えが返ってきた。

 私の『不老不死』を消し去ってみせる、とでも言われるのかと思ったら、本当に世界平和の方を引き合いに出してくるとは。

 

「おい。こいつを殺す気なんじゃねぇのか」

「殺す? どうしてそんな勿体ないことをしなければならない? 『不老不死』! 誰もが求めてやまない“個性”の究極系! 完全なる一(パーフェクト・ワン)とでも名付けようか!? 彼女はオール・フォー・ワンと並ぶ才能だよ!」

「こいつは敵だ。殺すぞジジイ」

「おまえにワシは殺せんよ死柄木弔。社会を敵に回しているお前はワシのバックアップが欲しい。そして、必要な力も手に入れていない」

 

 必要な力?

 原作でも死柄木のパワーアップ――覚醒による本領発揮とは別の外付け強化が仄めかされてはいたけど……。

 力。

 死柄木とドクターにまつわるものの中で、最大の力といえばやっぱり、

 

「オール・フォー・ワン」

 

 この場合、個人名ではなく能力名としてのそれ。

 ドクター達はどういう方法によってか脳無を製造し、そこに複数の“個性”を与えている。一定以上のレベルの脳無は『超再生』がデフォルトらしく、そこからは「彼らには個性を複製する手段がある」ことがわかる。

 つまり。

 理論上は()()()さえも複製していておかしくない。

 

 ドクターはにやりと笑って答えた。

 

「そう。君の態度次第では『オール・フォー・ワン』を与えてもよい、と、ワシはそう考えておる」

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