死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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蛇腔総合病院2

 オール・フォー・ワン。

 

 同名の敵が所有している“個性”であり、第一世代にしてある種の頂点にあるチート能力。

 “個性”を奪う、あるいは与えることができ、更に複数の“個性”所有に耐えられる。タルタロスに収容中の彼は少なくとも十個以上の“個性”を操っていた。

 与えられるというのもミソで、彼は自分が必要ない“個性”を他人に与えたり、あるいは“個性”で苦しんでいる人からそれを取り上げたりして信奉者を増やしていたらしい。

 

 神野の一件では、えげつないコンボでオールマイトをも追い詰めた。

 いや、馬鹿みたいなコンボ相手に残り滓のOFA(ワン・フォー・オール)で戦えてたオールマイトが凄いって言うべきかもしれない。

 

「……裏切る気か、ドクター?」

 

 低い声で死柄木が尋ねると、ドクターは変わらない口調で答える。

 

「裏切る? とんでもない。これはAFO(オール・フォー・ワン)も承知していることじゃよ」

「なんだと……!?」

 

 死柄木が目を剥いた。

 私としても初耳だ。そんな傍迷惑な話がいったいどうして持ち上がったのか。

 

「正直に答えろ。先生が俺を見限ったっていうのか……!?」

「答えは否じゃ。AFOはお前を見限ったわけではない」

「……じゃあ、なんだってんだ。なんでそんな話になりやがる……!?」

「簡単な話じゃ。後継者を一人と定める必要はないじゃろう?」

 

 うわ、嫌な話になってきた……。

 

「私達を競わせる気? それとも、両方を使う気なの?」

「前者からの後者狙い、といったところじゃな」

 

 競わせることで成長を促し、結果的に両方がモノになれば万々歳、か。

 嫌なことを考える。

 確かに、今の死柄木は指名手配中な上、連合メンバーという手足をもがれている。散り散りになってるメンバーの総数自体も原作よりかなり少ない。

 ここで覚醒を促さないと継承どころじゃない。

 

「……私がはい、なんて言うと思う?」

「言う。君は何よりも、かの“個性”を欲しているはず」

「何言って……。あんな気持ち悪い能力、別に欲しくなんか」

「人から永久に“個性”を取り除く方法は何があると思う?」

「っ」

 

 硬直する。

 それは。

 

 ――それは、考えちゃいけない解決策。

 

 この世界が混乱の中にあるのは“個性”が原因。

 余計な“個性”で苦しんでいる人を救ったり、危険な“個性”持ちが敵になるのを抑止するために、一つ、決定的な解決策がある。

 簡単だ。

 かつて、AFOがやっていたのと同じことをすればいい。

 

 個性破壊弾と違って痛みも伴わないはず。

 手術するより気軽に無個性になれるなら、あるいは犯罪者を無個性にできるなら。

 

「……世界から“個性”がなくなるわけじゃないでしょ」

「そうかな?」

 

 でも、ドクターは引かない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。そうすれば、新たな“個性”持ちも生まれなくなる」

「それ、は」

 

 否定しきれない。

 代わりに死柄木が指摘する。

 

「無個性同士の結婚でも“個性”持ちは生まれるだろうが」

「無論。じゃが、それは“個性”因子の問題じゃ」

「あ?」

「現状、無個性と呼ばれている者は()()()()()()()()()()()()()、それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということじゃよ」

 

 そう。

 デクくんやオールマイトのような「通常の無個性」とオール・フォー・ワンによって生まれた「特殊な無個性」が同じものとは限らない。

 通常の無個性同士の子供から“個性”持ちが生まれる以上、どんな人にも“個性”因子はあると考えた方が自然だ。

 オール・フォー・ワンで奪った場合の「特殊な無個性」が真の意味での無個性か、という問題もあるけど……ストレートに考えれば、“個性”を奪った際に因子も一緒に奪ってるはずだ。相澤先生が因子を止めると“個性”が使えなくなるんだし。

 

 仮定に仮定を重ねた推測だけど、単純に考えても、マグネやマスキュラー等々の犯罪者に「個性はく奪刑」のようなものを執行できれば敵の数は減るはずだ。

 

「『不老不死』である君ならば、最終的に“個性”を撲滅することも不可能ではなかろう?」

「あの“個性”にも限界(リミット)――容量(キャパシティ)でもスロット数でもいいですけど、そういうのがあるでしょ?」

 

 AFOだって“個性”を取捨選択していた。

 原作の表現からして、単に“個性”を削除――ゴミ箱に捨てるみたいなことはできないと思う。いっぱいになった“個性”を捨てるのに誰かに渡さないといけないなら意味がない。

 

「左様。じゃが、それはあくまでもオール・フォー・ワンという“個性”側、およびAFO個人のハード側の問題じゃろう。理論上、別の者があの“個性”を用いれば限界は変わってくる」

「……もし、私が使ったら?」

 

 言いたいことがわかってきた。

 持てる“個性”数に限界がないか、限りなくないに近いなら、世界から“個性”を消すことができる。

 

 ――理論上は。

 

 私は「聞いちゃいけない」と思いつつも聞いてしまった。

 

「無改造で三つの“個性”を保持し、初期の反発こそあったものの、現在は完全に適応しておる。君がオール・フォー・ワンを手に入れたなら、限界は非常に大きいものとなるじゃろう!」

 

 それは、誇張じゃなく「世界を変える」発想だった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「……そんなことして、あなたたちに何のメリットがあるの?」

「ワシは研究がしたい。君が『不老不死』と『オール・フォー・ワン』を手に入れたとして、メンテナンスができる人間が必要じゃろう? 万全なメンテのためには十分な研究設備と研究資料が必要になる」

「身の安全を保障しろ、と?」

「ワシ以上に適切な人間などいないと思うが?」

 

 それは、そうだろう。

 “個性”の切り張りなんてところまで理論を進めていて、実際に脳無なんてものを作り出している研究者。これだけの研究を秘密裏に行っているあたり、コネクションだって相当なもののはず。

 だけど。

 

「マッドサイエンティストの提案なんて呑めるわけないでしょ?」

「君が呑まずとも、体制側の人間にとってはメリットのある話だと思うが?」

「………」

 

 私は舌を噛んだ。

 話が大きくなりすぎてる。この話は校長先生や八百万家ですら持て余す。国の代表レベルが協議して結論を出すべき話だ。

 “個性”に対する関わり方と、“個性”のあり方そのものが変わってしまうんだから。

 

 私が黙ると、死柄木が吐き捨てるように言った。

 

「……気に入らねえ」

 

 低い声音。

 怒っているのがよくわかる。

 

「苛々する。体制だの秩序だの、そんなものに何の意味がある。全部、全部、全部ぶっ壊すのが俺の、連合の目的だ」

 

 いいぞもっと言ってやれ、と初めて思った。

 死柄木の言い分も看過しちゃいけないわけだけど、悪い奴だからやっつける、捕まえる、で成立するだけわかりやすい。

 

「お前はそうすればいい。『悪』としての矜持を行動で示してみせろ。そうすればお前にも『力』を授けてやろう」

「……行動で、だ?」

「そう。こんな暗がりでワシの世話になっているチンピラにオール・フォー・ワンは勿体なかろう」

「……チッ。そっちから連れてきておいてその言い草かよ」

「黒霧に頼り切り、手勢も失ったままいつまで燻っているつもりだ、と言っているんじゃよ」

「ハァ……どいつもこいつも、苛々する」

 

 死柄木はぶつぶつと言いながら、培養カプセルの間を奥の方へと歩いていった。

 そのうち姿が見えなくなり、声も聞こえなくなって、

 

「さあ、どうする?」

 

 ドクターが勝利を確信したように尋ねてくる。

 

「……はい、って言ったらすぐに“個性”をくれるの?」

「いや、そうはいかん。君の『不老不死』が万全でなければ不安が残る。腕と“個性”が万全になってからじゃ。その上で、相応の証を立ててもらおう」

「ギガントマキアを倒せ、とか言わないでよね……?」

「ほう! 知っているなら話は早い!」

 

 いや、無理だから。あんなの冗談じゃないから。

 まあ、“個性”が万全ならそのうち勝てるとは思う……本当に? 勝てる?

 

 ――もうやだこの世界。

 

 冗談めかして受け流さないとどうしようもなくなりそうなくらい、私は追い詰められていた。

 死柄木もドクターもAFOも、みんな勝手すぎる。

 どうしてもっと平和でいられないのか。

 

「……私の“個性”は治るの?」

「因子の存在は確認した。放っておいてもそのうち復元するじゃろう。もし、早く治したいというのなら、治癒力を極力高めるしかあるまい」

「というと?」

「刺激の少ない環境で、身体を冷やさず、十分な栄養と睡眠を取ることじゃな」

 

 まともな医者っぽいことを言わないで欲しい。

 

「数日は入院してもらう。その間によく考えることじゃな。……まあ、否と言えるはずもなかろうが」

 

 私は、ドクターからの話で頭がいっぱいになったまま上階に戻り、レディさんを探して入院の手続きを取った。

 ドクターの正体も、オール・フォー・ワン譲渡の話もできなかった。

 

 今、ヒーローに伝えて襲撃したところで、ドクターは逃げるだけだろう。

 私に正体を知らせたことで「いつ襲撃が来るかわからない」と警戒しているはず。当然、相応の防御もするだろうし、逃走ルートだって確保する。

 AFOがいつまでもタルタロスにいてくれるとも限らない。

 下手に襲撃したことで、敵とヒーローの全面戦争なんてことになったら大変だ。

 

 オール・フォー・ワン譲渡の話も、どこにしたらいいのやら。

 悶々としたまま、私は蛇腔総合病院の清潔な病室(個室だった)に移され、数人前はある病院食(最近のは美味しいから困る)を平らげ、休むことになった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 数日後。

 

「……何事もなかったように治ってくれたなあ」

 

 元通りに生えた腕を見て、私はため息をついた。

 初日は全然変化がなくてやきもきさせられたかと思えば、急にぽこぽこと生えてきて、そこからは短い時間であっという間だった。

 生えたら生えたでまた色んな検査させられたけど、特に異常なし。むしろ前より調子がいいくらい。

 

「トワちゃーん。退院おめでと。迎えにきたわよー」

「ありがとうございます、レディさん」

 

 帰りは電車でも帰れるっちゃ帰れるんだけど、さすがにそれはどうなのってことで、レディさんが迎えにきてくれた。

 

「先生。ありがとうございました」

「いえいえ。大したことはしておりません。完全に失った“個性”を戻すことはできませんからね。彼女は運が良かった。それだけですよ」

「私も困った時のためにこの病院を覚えておきます。ほらトワちゃんもお礼言って」

「……ありがとうございました。いや、でもレディさん。ここは止めておいた方がいいですよ。ほら、今回はご厚意でかなり割り引いてもらいましたけど、紹介なしであんな検査したら三桁万円普通にかかりかねません」

「マジ?」

「ははは。最新機器も取り揃えておりますからね」

 

 ドクターも特に否定しない。

 レディさんを引き留めたいのは別の理由だったけど、お値段の件もばっちり本当だ。

 

 またレンタカーに乗せてもらって移動。

 

「トワちゃん。行き先は雄英でOK?」

「えーっと……。そうですね、いったん寮に戻ります」

「ん? なんかあんの?」

「いえ、さすがに家に報告しないといけないので」

「ああ。お金出してもらったしね」

「はい」

 

 それもあるし、それ以外も諸々あってね……。

 

「永遠さん!」

「永遠ちゃん! 腕大丈夫!?」

「うん。ほら、元通り治ったよ」

 

 寮に戻ったのが日中だったので、部屋でごろごろしつつ、賞味期限がやばい食料を整理(胃の中に)していたら、放課後になった途端、みんなが雪崩れ込んできた。

 先生方は詳しいことを伝えなかっただろうけど、途中まで現場にいた透ちゃんもいる。

 大体の事情はみんな知っているようで、心配してくれた。

 

「明日からは授業出られるん?」

「あ、ううん。いったん実家に戻って来ようと思って」

 

 言いつつ、百ちゃんをちらりと見る。

 彼女はそれだけで何かを察したようで「それがいいですわ」と頷いてくれた。詳しく説明したいのは山々なんだけど、ちゃんとした形で会って話さないといけない話なので、伝えようとすると百ちゃんにも休んでもらわないといけなくなる。

 長女に話すかは八百万家の人達に判断してもらった方がいい。

 

 みんなとわいわい話して(人数が多いので談話室に移ったら男子まで参加してきた)、目いっぱいお話した後、一緒にご飯を食べて、夜。

 私はこっそり透ちゃんに部屋へ来てもらった。

 

「それで、話って何?」

「うん。透ちゃん。明日、黙って一緒に来てくれないかな? 大事な話があるの」

「わかった」

 

 透ちゃんは何も聞かず、文句も言わず、私のお願いにOKしてくれた。

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