ギガントマキア。
成人男性の数倍はある長身・巨体の男性で、
能力としては、少なくとも怪力と、異常な耐久力がある。原作によると「改造なしで複数の個性を所持」しているらしいので、元の“個性”はたぶん超耐久力。頑丈な身体があれば“個性”複数持ちに耐えられるという実例。
AFOが好きで好きでたまらないようで、原作では後継者である死柄木を認める条件として「力づくでの屈服」を要求していた。
私はとある山の麓に立ちつつ、脳内で情報をおさらいした。
「山間部に出没する謎の大男、か」
「まず間違いなく敵だろうな」
「ま、敵でしょうネ」
短く言い合うのはエッジショット、シンリンカムイ、Mt.レディという三名のプロヒーロー。オールマイトの現役引退を受けて結成されたチーム『ラーカーズ』のメンバー達だ。
彼らには、私が回想したような情報は行っていない。
断片的な目撃情報がせいぜいだけど、ぶっちゃけそこからでも「でかい、硬い、疲れ知らず」くらいは予想できるので、戦う分にはあまり問題ない。
「役割としては拙者が索敵」
「我が捕縛」
「暴れるようなら私がぶん殴るってトコね」
さすがプロだけあって一瞬で役割分担が決まる。
私を引っ張り出すための人選なんだろうけど、捜索からの巨人退治にはちょうどいいメンバーになってる。そのこともあって依頼自体も怪しまれなかった。
そして、荷物持ち+援護役という名目で『ラーカーズ』に同行しているのが私と透ちゃんだ。
『オール・フォー・ワン』譲渡だのドクターとの取引だのといった話はレディさん達に伝わっていないので、あくまで同行するだけで見学に近い扱い。
なので、レディさん達は振り返って釘を刺してくる。
「あんたたち、くれぐれも無茶はしないこと」
「うむ。情報通りの巨体であれば力も強かろう。捕まればひとたまりもないやもしれん」
「「はい!」」
できるだけ離れていろ、いざとなったら逃げろとの指示に、私と透ちゃんは声を揃えて答えた。
――実際は逃げるわけにいかないんだけど。
透ちゃんにはあんまり無理しないように私からも言ってある。心臓止まっても脳が潰れても蘇生する私と違って、彼女は本当に「捕まったら」終わりだからだ。
プロヒーロー三人がいるうえ、忍者の体術があれば大丈夫だとは思うけど、
「……返事だけはいいのよねえ」
「ちゃんと生き残りますから安心してください!」
「トワちゃんは『終わった時に生きてればいいんでしょ?』とか思ってそうだからヤなのよ」
「なんでバレたんですか……?」
「あんたね」
「いひゃいいひゃい」
頬をつねられた。
赤くなった頬を押さえながら、私はレディさんを見上げて、
「さすがに冗談ですけど、皆さんが危なくなったら本当に割って入りますよ」
すると、ぽんぽんと頭が叩かれた。
「大丈夫よ。私達だって幾つも死線をくぐって来てるんだから」
「はい」
私は微笑んで頷いた。
でも――今回の敵は、あっさり捕まってくれるほど甘い相手ではなかった。
◆ ◆ ◆
「見つけたぞ」
“個性”で細くなったエッジショットの端を掴み、ゆっくり山を登ること十五分。
ギガントマキア発見の報は意外と早くやってきた。
エッジショットは身体を細くすることができる。
どんな場所にも入り込める上、細くなった状態で高速移動も可能。あちこち身体を伸ばしまくることで、こうやって索敵もできる。
「どこです?」
「北西、約百メートル。小川のほとり。でかいぞ。七、八メートルはある」
「はっ」
レディさんが鼻で笑った。
「エッジショットさん。それは小さいって言うんですよ?」
巨大化時のレディさんの身長は二十メートル超だ。
私達は迅速さ優先で進んだ。
交戦は覚悟しているので、相手に気づかれることより移動中に見失うことの方が怖かった。
そして幸い、私達が辿り着くまで『彼』は動かなかった。
でかい。
川のほとりに蹲るようにして座る裸の大男――ギガントマキアは、その状態でも私達の誰より大きかった。
筋骨隆々なせいで威圧感もすごい。
とはいえ、“個性”社会となった現代、それだけなら異様と言うほどのことじゃない。
「もし、そこの方。ちょーっとお話いいですか?」
レディさんがおどけた調子で近づくと、ギガントマキアは唸るような声で呟いた。
「……ヒーローか」
「はい。山で大男を見た、と、近隣の住民から通報を受けまして。こちらで何をされてるんです? 山ごもりか何か? 所有者に許可は取られてますか?」
「………」
レディさんの形式的な問いかけには無反応。
代わりに、舐めるような視線がレディさん、エッジショット、シンリンカムイ、透ちゃん(同士討ちを避けるために私服)――そして私(コスチューム)に注がれる。
魔法少女コスが珍しかったわけじゃないだろうけど、私を見る時間が一番長かった。
「後継者、候補」
ドクターから話は通っているらしい。
大体の姿形を聞いていたのか、さほど迷うこともなく言ってくる。
「ギガントマキア」
応えるように小さく呟くと、巨人の耳はそれをしっかりと拾ったようだった。
おもむろに立ち上がると大きく咆哮を上げる。
「……っ!?」
「Mt.レディ、エッジショット、シンリンカムイ!
「レディさん!」
「下がりなさい、トワちゃん、インビジブルガール!」
言わるままに飛びのくのと同時、シンリンカムイが両手の蔦を伸ばした。
「ウルシ鎖牢!」
軽く十を超える蔦が巨人一人に迫り、容赦なく巻き付く。
一度に複数人を捕縛可能なシンリンカムイの必殺技。十分な強度もあるはずだけど――今回の相手は、両腕を胴に固定されたまま、強引に身体を振るってきた!
「シンリンカムイ! 蔦を離せ!」
「くっ……!」
宙に浮かされ、振り回されそうになったシンリンカムイはやむなく蔦を離す。
自由になった巨人は何事もなかったように腕を振り上げ――。
「Mt.レディ!」
「ええ!」
レディさんが“個性”を発動。二十メートル超の体躯となって相手を逆に見下ろす。
直立した
巨人は少しも怯んだ様子を見せなかった。
咆哮。足元の地面を砕きながら跳躍し、レディさんに向かっていく。衝突。周りにまで衝撃が伝わってくるようなぶつかり合いの結果、
「く、うう……っ!?」
呻いてよろめいたのは、レディさんの方だった。
「この程度、か、Mt.レディ……!」
「この……っ、舐めるなぁっ!」
巨大な右拳が空気を切り裂く。
巨人が合わせると、再びの衝撃。そして、レディさんの拳が大きく弾かれる。
「永遠ちゃん」
「……うん」
押されてる。
大きいはずのレディさんの方が力負けしてる。
――予想はしていた。
レディさんの“個性”は巨大化。身体が大きくなるのに比例して身体能力も上がるけど、直接的に肉体を強化してるわけじゃない。
対するギガントマキアは超パワーの上に超耐久力。身体への負担を碌に気にせず全力を出し続けられるので、この程度の体格差なら簡単に補えてしまう。
「まだ、まだぁっ!!」
「……フン」
もちろん、レディさんもそう簡単には諦めない。
二度、三度と拳を振るい、蹴りを放ち、巨人の身体を持ち上げて投げ飛ばそうと試みる。けど、巨人もそこに拳を合わせ、蹴りを腕でガードし、持ち上げようとした腕に打撃を浴びせて脱出する。
数分。
たった数分の、でも、何倍にも感じられる激しい衝突の末――。
「ハァッ、ハァッ……」
「……弱い」
レディさんは息を切らし、ギガントマキアは平然としていた。
「加勢する」
「……要らないって言いたいケド、お願いします」
「応!」
仕方なさそうにレディさんが答えると、様子を窺っていたシンリンカムイ、エッジショット、が動き出す。
「ウルシ鎖牢!」
「無駄だと――」
「無駄かどうかはぁっ!」
「む……!?」
身体に巻き付こうとする蔦をうるさそうに振りほどこうとしたところへ強烈なキックが炸裂。
これにはさすがのギガントマキアも若干よろめく様子を見せるも、
「おおおおおぉぉぉぉっ!」
巨人はすぐさま唸り声を上げ、レディさん、シンリンカムイへ逆襲しようと突進を開始。
シンリンカムイが伸ばす蔦を都度振り払い、レディさんと繰り返し激突する。二人がかりでもその場に留めるのがやっとという有様。
でも、『ラーカーズ』の狙いはそこではなかった。
「ぐ、お……!?」
突如、呻いて腹を押さえるギガントマキア。
「ナイス、エッジショットさん」
僅かにできた隙に息を整えながら、レディさんがにやりと笑う。
そう。
レディさんとシンリンカムイが気を引いている間に、細くなったエッジショットがギガントマキアの口から体内へ入り込んでいたのだ。
言うならば一寸法師みたいな攻略法。
いくらギガントマキアでも体内までは鍛えられない。内側からの攻撃は十分過ぎるほどに有効――。
「ぐおおおおおぉぉぉぉっ!!」
思わぬ攻撃に暴れ出す巨人。
慌てたシンリンカムイが片腕を拘束するも、その状態で振るわれたもう一方の腕は、レディさんの渾身の一撃を大きくはじき返した。
パワーが上がってる。
――さっきまでのも本気じゃなかった!?
ギガントマキアが、レディさんが動く度に地面が崩れ、近くの木々がなぎ倒される。
そんな中、巨人が口からごぼっと唾液、あるいは胃液を吐きだし、人型に戻ったエッジショットさんが一緒にべちゃっと倒れる。
慌ててかけよると、彼はふらふらと立ち上がりながら呻いた。
「長時間の滞在は難しいな。しかも、
「やっぱり……」
やっぱり持ってた超再生。
超パワーに超耐久力に超再生って、パワー型の究極系だ。全盛期のオールマイトがHP自動回復状態で襲い掛かってくるようなもの。
勝とうと思ったら一撃でノックアウトするか、滅茶苦茶不利な持久戦を制さないといけない。
「後継者!」
鼓膜を震わせる大声が、私に突き刺さる。
巨人の鋭い目がこっちを見ている。
仲間を戦わせておいて自分は何もしないつもりか、それで認められると思うのかと、強くこっちに訴えかけている。
――別に、私はギガントマキアに認められたいわけじゃない。
ドクターから言われたのはギガントマキアを倒すことだから、私自身の力で勝つ必要はないんだけど、
「永遠ちゃん……!」
「うん、行ってくる」
私は担いでいた荷物を下ろして透ちゃんにお願いする。
ついでに荷物から板チョコを一枚取り出し、適当に砕いて口に放り込んだ。
「ギガントマキア!」
叫んで駆け出す。
「トワちゃん!」
「大丈夫です!」
レディさんに答えながら、振るわれた巨拳を跳んで避ける。
動き自体はそんなに早くない。
筋肉は強化されてる分、体重も増えているからだ。ちゃんと見ていれば避けられないスピードじゃない。
巨人は引き抜いた拳をすぐさま振るってくる。
左右に跳んでかわしつつ接近。
地面が殴られる度に地震みたいになって走りにくいことこの上ない。でも、少しずつ近づいていく。側面からレディさん、シンリンカムイが迫るとさすがに無視はできないのか、無茶苦茶に腕を振り回して牽制をかけてくる。
シンリンカムイはたまらず後退。
「いつまでも好きにさせるかっての!」
レディさんは逆に前進してギガントマキアにしがみつく。
背丈では勝ってるので、全身を使って抑え込めればそこそこいい勝負ができる。そして、お陰で動きが止まった。
私はステッキの先端を解放。
鋭い刃先を露わにすると、投げ槍の要領でそれを構え、投擲した。
「レディさん!」
「OK!」
「ぐ、こ、の……!?」
逃げようとしても、レディさんがここぞとばかりにがっちりホールド。
結果。
私の投げたステッキは、ギガントマキアの喉に深々と突き刺さり――山に、巨人の悲鳴が高々と木霊した。