死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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ギガントマキア2

 ステッキの刺さった傷口から赤い血が飛び散る。

 ギガントマキアも人間だという証拠。並の人間なら今の攻撃で致命傷だけど、この程度で勝負が決まるとは思ってない。

 

「おらぁっ!」

 

 暴れようとする巨人を、レディさんが背中から蹴り飛ばす。

 

「グ……!?」

「勝機!」

 

 地面に叩きつけた直後、巨人の片足に蔦が巻き付いて自由を奪った。

 

「もう一度――」

「いいえ、何度だってぶん殴ってアゲルッ!」

 

 更に、細くなったエッジショットが口から飛び込み、ギガントマキアの背中を巨大な足裏が遠慮なく踏みつけにする。

 さすが、プロヒーロー。

 小さな隙を逃さず、動きを封じた上で内外からの同時攻撃。

 これならこのまま、と思ってしまうような見事な手際。

 

 でも、ここから更にもう一押し――!

 

 跳躍し、なぎ倒された木々の傍へと着地。

 良さげな太さの木を見繕うと先端をへし折り、即席の丸太を作り出して、

 

「だああああっ!」

 

 再度の跳躍から、そのままギガントマキアの脳天に叩きつける。

 

「うわ、キッツ」

 

 踏んだり蹴ったり(文字通り)しているレディさんが素の表情で呟くくらい、見事に入った。

 ばきゃ、という良い音と共に丸太は半ばで折れ、衝撃が私の腕にもびりびりと伝わってくる。切っても刺しても治る以上、打撃の方がむしろ効くはず。

 ここは半分になった丸太でもう一発――。

 

「舐メルナ――」

「!?」

 

 巨人の右手が持ち上がると、指パッチンの如く指が動く。

 あ、これ、と悪寒が走った直後、発生した風圧が私の身体を丸太ごと吹き飛ばした。そのまま十メートル近く飛び、無事だった木の幹に叩きつけられる。

 

「トワちゃん!」

「だ、いじょうぶですっ! それより追撃を――」

「遅イ」

 

 巨人が跳ねるように起き上がった。

 レディさん、シンリンカムイがまとめて吹き飛ばされ、私達が体勢を立て直している間に、あっさりと、敵は二本の足で立ち上がっていた。

 

「さア、証を――!」

 

 これ、やっぱりオールマイトと戦ってるようなものじゃ……?

 

 眩暈を振り払いつつ、私は拳を固める。

 レディさん達に少しでも余裕を与えるため、時間を稼がないと。

 

「ギガントマキア!」

「オオオオッ!!」

 

 巨人はまっすぐこっちに向かってきた。

 応じるように、彼へ向かって跳躍――の直前に意識を手放す。岩のような表情に僅かな動揺が浮かぶ。気配遮断は効果があるっぽい。

 振り下ろされた拳は空を切り、跳ね上げられたつま先をギリギリでかわす。

 あらかじめ定めた目標は懐の内側。両足の間あたりで着地、同時にもう一度踏み切って、

 

「っ!」

「ゴオオオオオアアアアアアッッッ!?」

 

 硬く丈夫に作られた靴の先端が、男性なら誰もが持つ急所を強かに蹴り上げた。

 

「ナイス! さすが私の弟子!」

「恐ろしい教育を……」

 

 レディさんとシンリンカムイが正反対の反応をするのが聞こえた。良かった。二人とも無事っぽい。

 でも、代わりにエッジショットが胃の中から飛び出してきた。ふらふらな上、胃液まみれでその、なんていうか臭う。

 さすがに今のは効いたようで、ギガントマキアはぴょんぴょんと跳ねて痛みを表している。いや、跳ねる度にどすんどすん音がしてるから「ぴょんぴょん」なんて穏やかなアレじゃないんだけど。

 

 攻撃が効かないわけじゃない。

 いくら『超再生』だってスタミナまでは無限にならない。あのサイズじゃシンリンカムイの捕縛もできないし、合う移動式牢もない。

 屈服させるには心を折るか、単純に疲れさせるしかないのだ。

 

 確か、原作で死柄木達と戦っていた時は四十時間以上の連続戦闘ができてたと思うけど――。

 

「何十時間もかけない。今日のうちに潰す」

 

 呟き、私は再びギガントマキアに挑みかかった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「……すごい」

 

 今回の件において、葉隠透はバックアップ要員だった。

 理由は「相性が悪いから」。葉隠家の技術は主に人型、人間大の相手に対するもの。人型とはいえ数倍サイズ、しかも再生する相手には有効打を出せない。

 殺傷してもいい前提なら、某進撃してくる巨人相手みたいな立ち回りもできなくはないのだが……。ヒーローである以上、殺したり重傷を負わせる可能性は極力排除しなければならない。永遠の槍投げだってギリギリのラインを突いていたのだ。

 

 というわけで荷物持ちと記録係に徹する葉隠だが、『ラーカーズ』+永遠は想像以上に奮戦していた。

 ギガントマキアの情報はあらかじめ永遠から聞いていたし、実物はもっと危険だったが、そんな相手と渡り合っている。

 

 主力はMt.レディ。

 シンリンカムイが妨害を担当し、エッジショットは休憩を取っては体内に入り込んで着実にダメージを与えている。

 一応、エッジショットも時たま秘孔を突いてみたりしているのだが、効かないのか瞬時に回復しているのか、有効な感じは全くない。

 正攻法だと超強い癖に絡め手を封殺してくるとか、本当に勘弁して欲しいものだが――。

 

 永遠は、プロヒーロー達に混ざり、その小さな身体で奮闘していた。

 

 巨人と出会った川のあたりから戦場は徐々に移り、だんだんと山の上へ。

 通ってきた道はあらかた木々がなぎ倒されているためにわかりやすい。出会ってからここまで戦いづくめ。追いかけるだけの透ですら疲労を感じているのだから、戦っている面々はもっときついだろう。

 

「あーもう! いい加減倒れなさいよ!」

「レディさん、交代します!」

「ごめんトワちゃん! 一分、いや三十秒だけ持たせて!」

 

 ギガントマキアと怪獣大決戦を繰り広げるMt.レディが息を切らせる度、永遠はカバーに入って巨人と立ち向かう。

 猫とネズミくらいのサイズ感だが、彼女は怯まない。

 巨人の方も永遠を意識しているのか、彼女が前に出てくると率先して狙ってくれるため、葉隠(と、複雑な気分だけどトガヒミコ)直伝の体術によってとにかく避けまくる。気配遮断をピンポイントで使いつつ右に左に上に下にと縦横無尽に動き回る。

 シンリンカムイも腕や足を蔦で引っ張って援護してくれる。

 とはいえ、敵もさるもの。

 ただ闇雲に手足を振り回しているように見えて、着実に永遠の動きを制限し、誘導し、回避パターンを減らしている。攻撃の度に地面がえぐれ、木々が倒れて、フィールドは広くなっているのに、だ。

 

 そして、指定された三十秒がとうに過ぎ、一分が過ぎようという頃――。

 

「さア、来い――!」

「ああ、もうっ!」

 

 周辺穴だらけで飛び回るスペースのなくなった永遠は、ギガントマキアの右ストレートに己の拳を合わせた。

 ぐきぼきぐしゃ、ばりばり。

 右腕がぽーん、とどこかに飛んでいきそうな勢いで殴り負けた。体術を駆使し、胴体への衝撃は逃がしているので大事はないが……。

 いや、右腕の骨が粉々で、ぷらーんと垂れ下がるしかなくなったのは十分大ごとだ。常人ならヒーロー生命を断たれてもおかしくない。

 しかし、永遠は深く気にした様子もなく、痛みを必死に堪えながら後退する。

 

「レディさん!」

「オッケーよ! コラそこのデカブツ、うちのトワちゃんに何してくれてんの!」

 

 そこへ再びMt.レディが復帰。

 息を整える程度の間しかないというのに元気に復活してくる彼女も凄いが、サイズ差のある中、僅かな間でも交代要員を果たす永遠も十分すごい。

 八斎會の一件を経て再生能力も更に向上しており、こうしている間にも腕は少しずつ形を取り戻している。それどころか今日、砕かれる度に少しずつ再生が早くなっている気さえする。

 

 再生のためのエネルギー源は腰のポーチや、葉隠が抱える荷物の中にたっぷり用意してある。チョコレートやおにぎり、サンドイッチなどの食べやすくてエネルギーになりやすい食品が主だ。

 

 それに、

 

「後継者は、強き者でなければ――」

「ごちゃごちゃうるさいっての!」

「グ、オッ!?」

 

 ギガントマキアの動きが衰え始めている。

 永遠の知識では敵連合の猛攻相手に二日近く持ちこたえたらしいが、確かに二日も要らなかった。Mt.レディとエッジショットがしつこいくらいにダメージを入れ続けたお陰だ。ダメージらしいダメージがないのと、度重なるダメージを治しながらの戦闘では限界に差が出るのは当然。

 

「シンリンカムイ! 弱点!」

「男の急所を狙うのは気が引けるのだが……」

「キ、様、ラアアアアアッッ!?」

 

 蔦で急所を締め上げられた――ギガントマキアもシンリンカムイも可哀想だと思ってしまうのは間違っているだろうか――巨人が絶叫する。

 痛み。

 それは『不老不死』の永遠も抱えている弱点の一つ。人よりタフで痛覚も鈍いだろうが、それでも十分すぎるほどのダメージが、

 

 と。

 葉隠は、巨人の瞳に剣呑な光が宿るのを見た。

 

「気をつけて、何か奥の手があるのかも……っ!」

「我慢比べというのなら」

 

 ()()()

 巨人の、ギガントマキアの身体が突如として熱を帯び、発火した。

 赤い、炎。

 葉隠は、思わずそれをぼうっと見つめて、

 

「透ちゃん! 消防に連絡!」

「う、うん!」

 

 永遠の声にはっとしてスマホを取り出す。

 はやる気持ちと共にコール音を聞きながら、思った。

 

 ――奥の手だ。

 

 発火能力(パイロキネシス)

 彼のそれは不完全なのか、それとももともとそういう能力なのか、自分自身の身体を燃やしてしまっているが、炎とはそれだけで脅威だ。

 触れれば火傷する。

 当然のことではあるが、それは肉弾戦を大きく制限されるに等しい。

 加えて、この山の中でそんなものを使えば、

 

「山火事になるじゃない!」

「いよいよもって、余裕がなくなってきたな」

 

 いくら『超再生』があるとはいえ、ギガントマキアも辛いはず。

 全身を包むだけの火力を維持しつつ、焦げる身体を治し続ける。相当なカロリーの消費になる。つまりあの形態(フォーム)は短期決戦仕様。

 

「組みつきが無理ならっ!」

「打撃……!」

 

 Mt.レディ、シンリンカムイはすぐさま行動パターンを切り替えた。

 至近に長く留まることを避け、殴っては離れるを繰り返すスタイルに。炎の燃え移りやすいシンリンカムイは必殺技の「ウルシ鎖牢」を諦めて蔦でギガントマキアを殴りつける。

 

「止むを得ないか」

 

 近くからエッジショットの声が聞こえたかと思えば、彼は荷物の中から複数本の刃物を取り出していた。

 忍者刀。

 ばばばっ、と瞬く間に鞘が抜かれて宙を舞う。かと思えば、細くなったエッジショットの身体が全ての刀を保持し、白刃を煌めかせながら巨人へと向かった。

 

「忍法・剣山の術」

 

 高速で投擲された忍者刀がギガントマキアの四肢に、胴に突き刺さり、あちこちから鮮血を噴き出させる。

 

「続けて忍法・千枚通し」

 

 あっという間に武器を使い切ったエッジショットだが、細くなった彼の身体はそれそのものが武器となる。音速を超える速度で繰り出される刺突は常人の身体をあっさりと貫く。

 頑強なギガントマキアの身体は小さな穴を開けるのが精一杯だったが、超高速で、しかも無数にとなれば無視できるものではない。

 

「ゴアアアアアアアッッッ!?」

「畳みかけろ、Mt.レディ!」

「モチロン!」

 

 傷の癒えきらない間を狙ったラッシュ。

 拳が、蹴りが、次々と突き刺さると、巨人は本気の絶叫を上げる。じたばたと腕を振り回した彼は、不意に、自分の作った大穴に足を取られた。

 がくん、とバランスが崩れる。

 嵌まった足をすぐさま引き抜こうとする彼だったが、そこに小さい人影が大きな塊を伴って挑みかかった。

 

「丸太じゃ物足りないみたいだからっ!」

 

 大きな岩を持ち上げた永遠。

 迎撃に振るわれた拳をギリギリで避けると、彼女はギガントマキアの頭に直接、岩を叩きつけた。

 

 決定打だった。

 

 一瞬、白く目を剥くギガントマキア。

 彼の身体から炎が消え、巨体がどう、と倒れる。

 

「……文句があるならまた、一対一で付き合ってあげる。だから、今日のところは倒れて」

「……イイ、だ、ロウ」

 

 それが、最後の言葉だった。

 

「インビジブルガール! ロープ!」

「は、はい!」

 

 答えて、荷物の中にあった極太ロープ(超ロングサイズ)を葉隠は慌てて引っ張り出した。

 

(やったね、永遠ちゃん)

 

 ちらりと見ると、永遠と目が合った。

 彼女は疲れを顔に表しつつも、にこり、と、葉隠に向けて微笑んでくれた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 迅速に到着した消防車のお陰で山火事は未然に防がれた。

 ロープでぐるぐる巻きにしたギガントマキアは、続いて到着した警官隊によって防燃ワイヤーで更にぐるぐる巻かれ、護送されていった。

 

「お仕事終了、っと」

 

 全てを見送ったところで、私達の任務は完了である。

 『ラーカーズ』の名前を売るには規模的にも報酬的にもちょうどいい仕事だったんじゃないだろうか。

 まあ、報告書を作成しないと報酬出ないんだけど。

 

「インターンに書類経験積ませるには丁度良いわね」

「レディさん、自分が事務苦手な癖に!」

「フフフ、悔しかったら偉くなることね?」

 

 ぐぬぬ、とレディさんを睨んでいると、背後から声。

 

「あー、すみませんが、トワさんをお迎えに上がりました」

「ん?」

「へ?」

 

 振り返ると、そこにはサングラスをかけた有翼人が一人。

 

「蛇腔総合病院までご同行願えますか?」

 

 って、なにやってるの、ホークス……!?

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