死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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学園祭

「永遠ちゃん、何か楽器できない?」

「リコーダーとカスタネットなら」

「ケッ。義務教育の遺産か」

 

 うるさい爆豪。いや、その通りなんだけど。

 

「我が家で教育を受ける時間があれば、何か覚えられたのでしょうけれど」

「気にしないで、お姉ちゃん。私はダンス隊に入るから」

 

 我らが1-Aの出し物はバンドに決定。

 クラブミュージック的な派手な奴で、メンバーは大きく分けて三つのチームに分かれる。楽器と歌を担当するバンド隊、ダンスを披露するダンス隊、派手なエフェクトなんかで盛り上げる演出隊。

 私は明らかに演出隊向きじゃないので、必然的にダンス隊になる。

 

 と、切島君が私の頭をぽん、と叩いて、

 

「でも、こいつの見た目を使わないのって損じゃね?」

「前列でダンスしてれば十分目立つんやない?」

「いや、切島の言う通りだよ! ヒーロー衣装でセンター立ったら絶対目立つ!」

「魔法少女だもんな」

「魔法少女だもんね」

「撲殺天使トワちゃん」

「あれ、私のコスって不評?」

「私は可愛いと思うよ!」

 

 ありがとう、透ちゃん。

 

「じゃあ、ウチと一緒にボーカルする? ギターなしダンスありで」

「あ? それじゃ俺より目立つだろうが!」

「晒し者と言った方が正しいのでは」

「なら良し!」

 

 いいんだ!?

 

 ……というわけで、私はうろちょろしつつ、耳郎さんと一緒に歌う役になった。

 中学までは音楽の授業あったし、普通に歌えはするけどプレッシャーである。他のみんなも普段やらない子が多いので、放課後とか休日を使って特訓しないといけない。

 

「あ、でも私、インターンもあるんだよね……」

「僕もトレーニングは日課だから……」

 

 私に続けてデクくんも手を挙げると、

 

「歌って踊りながらパトロールやトレーニングすればいいんじゃね?」

「それだ!」

 

 それでいいのかな……?

 と思いつつ、まあ、身体を動かすのはダンスにも役立つし、歌を口ずさむくらいなら色んなところでできる。睡眠時間ギリギリの生活を継続するということで納得した。

 そして、

 

「永遠さん。今日もいいかな?」

「あ、ウチも」

「うん、いいよ」

 

 放課後、耳郎さんを中心に特訓した後、デクくんとお茶子ちゃんから声をかけられた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 最近、私はたびたびデクくん達とトレーニングをしている。

 オールマイトの秘密を共有する仲としてデクくんとはよく話をするんだけど、その繋がりで話をもちかけられたのだ。

 もちろん、それ自体は嬉しいことだし、私にとっても良い経験になる。

 ただ、デクくんと二人っきりでトレーニングなんて勘違いされそうなシチュエーションは避けたかったので、一緒にお茶子ちゃんも誘った。

 

 で。

 

 橙色の消えかけた空の下、私達三人は三角形で睨み合う。

 周りに人気はない。

 静寂の中、スタートの合図代わりに仕掛けたアラームが音を響かせ――同時に全員が動いた。

 

「おおおおおおォ!!」

 

 吠えて駆け出したのはお茶子ちゃん。

 

「ッ!」

 

 一瞬遅れてデクくんが地を蹴る。鋭いジャンプで向かうのは周囲の木立ち。シュートスタイルを用いた高速の立体機動は彼の十八番。

 どこから狙われるかわからないのはかなりの恐怖だけど、お茶子ちゃんは怯まない。すぐさま進路を微調整して私一人に狙いを絞ってくる。

 

 そんな二人を相手に、私は主観的な意識を手放す(いつもの)

 とん、と。

 斜め前に軽く踏み出せば、それだけで、お茶子ちゃんが動揺を浮かべる。デクくんにしてもターゲットの片方が「消えた」ように感じているはず。わかっていてもなかなか対処できないからこその暗殺殺法。

 

「だからって……いつもやられるわけにはいかへんやろっ!」

 

 0.5秒の瞬き。

 だんっ! と、地面へ足を叩きつけて強引な方向転換。歯を食いしばりながら振るわれる拳は、私の初動を正確に捉えていた。

 ほんの僅かな間で認識のズレを埋めてきた!

 音や匂いなどの総合による曖昧な対象認識――いわば「気配」を完全に無視し、視覚のみに頼ることで私の歩法は対処可能。

 

 でも。

 彼女が動く間に、私も動いている。

 俯瞰状態を保ったまま、私はお茶子ちゃんの懐に身を滑り込ませる。そのまま自然な動作で拳を差し込み、自分と相手のスピードを用いてインパクトの衝撃を生む。

 

 同時。

 

 ターゲットを絞ったデクくんの蹴りが反対側――お茶子ちゃんの背中に炸裂。

 想像するだけで痛そうな光景に一瞬、動きを止めると、

 

「これを」

 

 お茶子ちゃんが、痛みに顔をしかめながら身体を横回転。

 左右の手で私とデクくんへ同時に()()()

 

「待ってたって言ったら!?」

 

 FLOAT(ふわっと)

 身体の自由がきかなくなり、文字通り地に足がつかなくなる。咄嗟にデクくんと顔を見合わせ、すぐに下へと視線を向ければ。

 お茶子ちゃんが痛みに歯をくいしばりながら、私達二人へ不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「あー、永遠ちゃんのアレが攻略できひん。見切ったと思ったら避けられるし。デクくんからは無防備になるし」

「麗日さんこそ凄かったよ。まさか読まれてるとは思わなかった」

「私は緑谷君のシュートスタイルが怖いよ。気配が読まれなくても移動のついでで蹴っ飛ばされそうだし……」

 

 実戦形式のトレーニングを終えた後は寮で晩御飯。

 デクくんもお茶子ちゃんもちょっと身体が痛そうだ。授業の後にダンスの特訓して、更にトレーニングだから無理もない。

 あの後も戦いは続いて、お茶子ちゃんはもちろんデクくんからもぶん殴られ、私も殴り返した。お陰で三人ともウェアを汚してしまい、ご飯の前に着替えないといけなかった。こういう時は傷がすぐ治る私の身体はすごくありがたい。

 

「お前らホントよくやるよな」

「切島君だってファットガムのところで頑張ってるんでしょ?」

「おうよ! お前ともまた再戦したいぜ!」

「う、切島君とやると手が痛くなるからなあ」

 

 色々あったせいか、みんな二学期は一学期以上に張り切ってる。

 その分ご飯も進む。男女問わず体育会系のごとくご飯を食べ、おかわりするものだから、全体の摂取カロリーはきっとすごいことになってると思う。

 私も「今日の夜食は何にしようかなあ」と考えながら豚の生姜焼きメインの晩御飯を美味しくいただいた。

 

 夜はヒーロー関係の知識を詰め込みつつ、座学の予習復習をして、時間が余ったら寮を抜け出して歌の練習と自主トレ。

 記憶力が良くなる“個性”とか欲しいなあ、と思うものの、今となってはあんまり洒落にならないので、この手の思考は封印した方がいいかもしれない。

 

「緑谷君はサーのところなんだよね?」

「うん。厳しいけど、いい刺激になるよ。……あ、そうそう。永遠さ――君にも会いたがってたよ」

「そうなんだ。でも、ちょっと見た目怖いんだよね、サーって」

 

 デクくんとサーにはオールマイトの回復の件が伝わっている。

 たぶん、会いたいというのはその件だろう。特異点としての役割を果たせたのなら良かったと思う。

 でも、オールマイトが治療を決意してくれたのはサーやデクくんの想いのお陰だから、もし万が一、お礼を言われちゃったりしたら困る。

 

「あはは、でもああ見えていい人なんだよ」

 

 私の発言にデクくんも笑って返してくれる。

 ……よし。さっきの失言はスルーできた。このまま話題を流してしまえば、

 

「おいデク。色気づいてんじゃねーぞコラ」

「緑谷君! 永遠君と親しいとは思っていたが、さっきの言い直し方――まさか、彼女と交際しているのか!?」

「違うよ!? っていうか飯田君こそ名前で呼んでるじゃないか!? あとかっちゃん、色気づいてるって何!?」

 

 駄目でした。

 爆豪が怒ってるのは『私に』嫉妬してるからかなーとか、現実逃避的にアレな思考をしていると、麗らかな人から麗らかではない視線が飛んでくる。

 

「……ふーん。良かったやん、永遠ちゃん」

「お茶子さん、違うんだよ、今のは! なんていうか、八百万さんの呼び方は安定してないから、つい!」

 

 ほら、そういうことになる。

 気になる女の子には特別扱いしてあげないと魚を逃すことに、って……。

 

「お茶子さんって言ったよね、透ちゃん?」

「お茶子さんって言ったね、永遠ちゃん」

「これは、ひょっとするかもしれませんわね、お二人とも」

 

 ハンカチで口をふきふきしながら百ちゃんが言うと、直後、食堂に歓声が溢れた。

 なんというか、その雰囲気を一言で言うなら「祭りじゃー!」って感じだった。一部「呪ってやる……」とか「祟りじゃー!」って感じの人もいたけど。

 

「ち、違うんよ! 私達は別にそういうんじゃ、なくて……」

「おやおやー? 緑谷、この子赤くなって俯いちゃったけどー?」

 

 騒ぎは「飯時に騒ぐな!」という爆豪の一喝と、「ほっといても学祭でくっつくでしょ。それよりみんな、明日の放課後も特訓だから」という耳郎さんの声がかかるまで続いたのだった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 そうして、あっという間に文化祭当日。

 

 全寮制となり「最終下校時刻? なにそれ美味しいの?」とばかりの雄英内は数日前から大騒ぎで、昨日なんかは私以外の1-A生も殆ど寝てないんじゃないかっていう勢いだった。

 午前九時の開会時には花火まで上がっての大騒ぎ。

 

 うちのライブは初回が午前十時なので、開会アナウンスを聞いて盛り上がった後はすぐさま最終準備に移らなければならなかった。

 なので、

 

「すみません、ミリオ先輩。お姫様のエスコートをお願いします」

『ああ、任せてくれていいよ! 君もライブ頑張って!』

「はい。……でも、恥ずかしいので見に来なくていいですよ?」

『はは。俺はお姫様のガードだからね』

 

 壊理ちゃんの案内は原作通りミリオにお願いした。

 “個性”がなくなって普通の女の子になったとはいえ、悪い奴が狙ってくる可能性はゼロじゃない。何より、小さな女の子を大人だけで案内するのではちょっと不足だ。

 

「電話終わった? じゃあ動かないでね、永遠ちゃん!」

 

 ダンス組の衣装はフリフリなので他の子が協力して整えてくれている。

 

「透ちゃん楽しそうだね……」

「うん! 永遠ちゃんは楽しくないの?」

「楽しいけど、胃が痛くて辛いんだよ……」

「永遠ちゃんが胃痛で死ぬわけないから大丈夫だよ!」

 

 まあ、宇宙とまではいかなくても超丈夫にはできてるだろうけども。

 

「妹」

「相澤先生。あっちの首尾はどうですか?」

「問題ない」

 

 良かった。

 

「なら、後は頑張るだけですね」

「………」

「なんだかんだ言ってノリノリで恥ずかしいなこいつ、みたいな目で見ないでください!」

 

 そして、ライブが始まった。

 

 

 

 

よろしくおねがいしまぁス!!

 

 前日のリハーサルにて、爆豪は「雄英全員音で殺るぞ」と語っていた。

 彼の宣言通り、私達のライブは音と光による圧倒的な暴力だった。

 

 爆豪の“個性”がバンドの頭上に爆発を起こす。

 バンド組が大音量を響かせ、ダンス組がステージ上をところ狭しと踊る。

 デクくんと青山君がコンビでダンスを披露したかと思えば、デクくんの投げた青山君が空中をレーザーで照らす。

 轟君と瀬呂君が観客達の頭上に氷とテープの道を作り、みんながそこを渡って更なるパフォーマンスを繰り出していく。

 お茶子ちゃんは自分も浮きながら観客にタッチして独特の浮遊感を作り出す。

 

 私は、ヒーロー衣装を元にした魔法少女風のコス(ダンス組とも違う専用の衣装だ)に身を包み、あっちこっちに駆け回りながら精一杯歌った。

 青山君のついででデクくんに投げられ、瀬呂君のテープで引っ張られ、氷の上をスケートのごとく滑りながら、インカム型のマイクで声を響かせた。

 

 途中、りんご飴を片手に歓声を上げる壊理ちゃんの笑顔が見えた。

 

 無我夢中のまま終わってしまったけど、大成功だったと思う。

 満員の大盛況と、お客さんの熱気が物語っていた。

 

 慌ただしくて他を回る時間があまり取れなかったのが残念なところだけど、自分達も盛り上がって、お客さんにも盛り上がってもらえたならそれが一番だろう。

 ただ、百ちゃんのライバル、B組所属の拳藤さんやビッグ3のねじれ先輩が出るミスコンは見られた。

 

「お姉ちゃんも出ればよかったのに」

「永遠さんが出るなら出てもよかったのですが」

「ねじれ先輩がいるんだから、私なんかかすんじゃうよ」

「そういうことですわ」

 

 ミスコン優勝はねじれ先輩だった。

 

 そうして、学園祭は最後まで賑やかに終了した。

 後片付けをした後、ファミレスで打ち上げ――はセキュリティ上まずいので、買い込んだ食べ物飲み物をメインに寮で騒いだ。

 この日ばかりは日課の殆どを忘れて楽しみ、笑いあい、ベッドに入って眠った。

 

 明日からまた頑張ろうと思いながら。

 

 ――起きたら世界が一変しているとも知らずに。

 

『ヒーロー科一年・八百万永遠は『不老不死』の“個性”の持ち主』

 

 突如、ネットに流されたその情報は、関係者が気づいた時にはもう、手の施しようがないところまで拡散していた。

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