初のA組対B組――クラス対抗戦は工場地帯を模した運動場で行われることになった。
鉄の構造物が入り組んでいて視界・足場共に良くない。壊しても爆発したりしないだけ本物よりマシだけど、戦う時は注意が必要だ。
私は、いつもの魔法少女ルックで対抗戦を迎えた。
武器はステッキと、腰の左右に着けたポーチ内の小道具。後は自分の身体。
他の生徒達も各々のヒーローコスチュームを纏っている。前に見た時よりも改良されて見た目が変わっている人も多い。百ちゃんなんかは「寒い」という理由もあってマントを着けていた。そろそろ冷え込んで来たもんね……。
ルールは四対四のチーム戦。
各クラス二十名なので五チームずつできることになる。自チームにとって相手チームが『
自チームの陣地に設置された檻に相手チームメンバーを『四人』放り込んだ時点で勝ち。
制限時間二十分が過ぎた場合は残り人数の多い方が勝利。
「先生。捕らえられた仲間を解放するのはアリですか?」
「禁止だ」
「わかりました」
そりゃそうだよね。じゃないと檻がいくつあっても足りないし、いつまでも終わらない。というか、私だったら初手で相手チームの檻を壊す。
と、ここで特殊ルールが一つ。
「各陣営に一人、追加の人員が入る」
ヒーローコスチューム、ではなく雄英の体操服に、相澤先生と同じ捕縛布らしきものを巻いた細目の少年。
普通科一年、心操君。
体育祭の時、『洗脳』の個性デクくんを操ろうとした子だ。ヒーロー科編入を希望している彼が特別ゲストになる。
「慣れ合うつもりはありません。この場のみんなが越えるべき壁です」
心操君はA組とB組それぞれのどこかのチームにランダムで加えられる。
五人のチームが一つずつできるということ。一見すると五人チームは有利だけど、慣れないサポートメンバーとの連携はなかなか難しい。勝利条件がちゃっかり『四人捕縛』になっているので、ちゃんと連携しないと足手まといになりかねない。
チームメンバーはクジ引きで決定されて――私の仲間はデクくん、お茶子ちゃん、芦戸さん。
対戦相手は物間君、小大さん、庄田君、柳さんに、心操君。
原作で峰田君がやっていた立ち位置にそのまま滑り込んだ形。ランダムだとそうなる運命らしい。やりやすいといえばやりやすいけど、私に峰田君と同じことができるわけじゃない。
メンバー構成が違う以上、敵も味方も戦い方は変わってくるだろう。
◆ ◆ ◆
私の出番は最終戦――五戦目になった。
四戦目までの結果はA組の勝ちが2、負けが1、引き分けが1。引き分け以上ならA組の総合勝利になるけど、
「ふふっ」
クールと気持ち悪いの中間くらいの感じで笑う少年、物間君の姿が目に入る。
策士タイプの彼に加え、トリッキー極まる心操君までいる。
「簡単に勝てるとは思わないほうがいい、よね」
「うん」
腕の感触を確かめるようにしながら頷いたのは、自然とリーダーの雰囲気を醸し出しているデクくん。
「でも、こっちのチームだって負けてない。勝とう。絶対」
「そうだね」
私は微笑んで頷く。
「よっし! 気合い入れていこー!」
「おー!」
芦戸さんとお茶子ちゃんが声を上げ、私達は必勝を誓った。
――うん。絶対勝たないと。
訓練である以上、勝つことより自分のパフォーマンスを発揮することの方が重要だけど、私の場合はそうも言っていられない。
相澤先生からは事前にこう告げられている。
『お前の力を見せる絶好のチャンスだ』
活躍してみせろ、ということだ。
強敵を相手にした上で力を見せられれば、それだけプロが近くなる。
「頑張らなくちゃ」
一分の作戦会議タイムを経て、第五戦が始まった。
◆ ◆ ◆
「それじゃ、行ってくるね」
「無理せんといてね、永遠ちゃん」
「ありがとう!」
スタートと同時、私は一人跳躍した。
あちこちに伸びるパイプなどを足場に建物の上に到達すると、可能な限りのスピードで前進する。相手がどこにいるのかはわからないからひとまず真っすぐに。
――私の役割はずばり『囮』だ。
原作ではデクくんが担っていた役割。
彼も囮を買って出ようとしてくれたんだけど、それを譲ってもらった。
『私の方がリカバリーが効くから、任せてくれないかな』
『いくら永遠ちゃんでも一人じゃ危ないって』
『大丈夫だよ。私なら、死ぬことだけはないし。それに』
『それに?』
『緑谷君は精神的な支えだから、みんなと一緒にいた方がいいよ』
『……!』
気を引き締めるデクくんとほんのり頬を赤らめるお茶子ちゃんをずっと見ていたかったけど、そうもいかない。
『……そうだね。八百万さんなら簡単には倒されない。索敵して奇襲できれば良し。集中攻撃を受けても敵の位置が特定できるし、最悪無視されても……』
『私のスピードならみんなに合流できると思う』
打ち合わせを思い返しながら、私は次々と建物を飛び移っていく。
目まぐるしく変わる視界。
動くものがないか目を光らせるけど、なかなか見つからない。隠れながら進んでいるのか、それとも……。
強引に視界を良くする? いや、止めた方がいい。ヒーローである以上、無暗に建物を壊すべきじゃない。とにかく飛び回って、向こうを発見するか、向こうに発見させる。
と。
幾つも建物を飛び移ったか、数えるのが面倒になってきた頃――小さな飛来物が多数、視界に入ってきた。
小石や鉄片、ナットに鉄パイプ。
B組の柳レイ子さんの個性『ポルターガイスト』は、人間程度までの重量物を自在に動かせる。身近にあるあらゆる物を飛び道具に変えられる強力な“個性”。
そして、飛んできた小物達が突如、何の前触れもなしに
小さくした物体を柳さんに飛ばしてもらい、タイミングよく“個性”を解除すればこの通り、巨大な飛び道具が複数現れる。
「くううっ!」
ステッキと腕を使って小物、ならぬ大物の飛び道具達を払いのける。
多少の被弾は無視して再び跳躍。迂回してきてる可能性もあるけど、いったん物が飛んできた方向へ移動――。
「永遠さん! 作戦変更だ! いったん戻って!」
「緑谷くん!?」
横手から聞こえた『デクくんの声』に私は応え、そっちに視線を向けようとして――がくん、と、身体の自由が効かなくなるのを感じた。
「ハハハ、かかったねぇ!」
物間君の哄笑が聞こえる。
さっきの声は変声機を経由したダミーだったらしい。心操君の『洗脳』は「相手に声をかけて返事をしてもらう」プロセスが必要になるので、普通にやると警戒されてなかなか成功しない。そこでアイテムを使って油断を誘っているのだ。
別のチームの戦いではA組側に入って見事に活躍してくれていた。
「ちょっと油断が過ぎるんじゃないかなぁ、不老不死!?」
イラっとする声に反応するどころじゃない。
空中で身体が動かせない。
二階分くらいの高さから落ちる――!
『意外なチャンスが来たね』
その時。
不意に感覚がスローになって、頭の中に声が響いた。
これは、私の中にいる
『折角だ。悪いが挑戦させてもら――うわ、何する止め、ぎゃああああ!』
と思ったら、ぶつっ、と回線が途切れるように気配が消えた。
たぶん『不老不死』に駆逐されたんだ。私の“個性”は私以外の主を許さない。表に出て来なければ見逃されていただろうに。
声的には
半分くらい落ちたところで自由が戻り始めた。
力づくで制御を取り戻し、身体を回転させて体勢を整える。横手から捕縛布が飛んできたのでステッキで薙ぎ払いながら着地。
数メートルの距離に心操君と物間君を確認。
物間君は捕縛布を引き戻しながら舌打ちし、呟く。
「効かないか」
「大丈夫、効いてはいる、よ――っ」
答えながら駆け出した身体が、がくん、と力を失う。
べちゃっ、と地面に倒れて「はっ」と我に返る私。起き上がると、男の子二人が呆れたような表情で私を見ていた。
「君、ひょっとして馬鹿なのかい?」
「ひどい。馬鹿じゃない、よ――」
「はい三回目。動かずにそのまま立ってろよ」
どうやら物間君も『洗脳』を使ったらしい。
物間寧人。『コピー』の“個性”を持っていて、ストックの数まで他人の個性を複製して使える。制限時間は五分間。
心操君の“個性”を彼までもが使ってくるというのは脅威だ。
「物間!」
「わかってる。すぐ戻るんだろ。その前にテストを終わらせるさ」
足早に近づき、手を伸ばしてくる物間君。
私の“個性”をコピーするつもりだろう。もし、コピーに成功されたらどうなるのか。五分間だけ不老不死になる?
“個性”を得た時点で自己保存機能が働いて、制限時間が撤廃される可能性もあるけど――。
触れられる直前、私は物間君を殴って吹っ飛ばした。
「がっ!?」
「物間!!」
「止めておいた方がいいよ。下手したら死んじゃうから」
所有者登録が私のままの『不老不死』がコピーされたら、物間君は少なくとも五分間「身体を他人のものに書き換えられていく」感覚を味わうことになる。
書き換え完了したら唯一性を維持するために自己崩壊するだろう。
さすがにちょっと、それは可哀想だ。
「でも、私の方に二人も来てくれてよかった。これならみんなは三対三で戦えるから」
「まさか、わざと『洗脳』を受けていたのか?」
「そうだよ。耐性をつけておいた方が便利だし、二人を引きつけられるから――」
また身体が止まる。
でも、拘束時間は短くなってきてるし、もう瞬きするくらいの間しか、
「油断大敵、だよ」
「っ!」
一瞬。
感覚が戻って上を見上げた時には、いつの間にか物間君が用意していた大量の重量物が、さっきの数倍に感じられる威圧感で、こっちに降り注いでいた。
私は、反応できなかった。
◆ ◆ ◆
八百万永遠にどう対抗するか。
組み合わせが決まった時から――否、彼女の“個性”について詳しく知った時から、物間寧人は考え続けていた。
『不老不死』。
しぶといだけの“個性”と言っても嘘にはならないが、実際に対処方法を考えてみると難しい。直接攻撃でノックアウトするのは至難の業。
ミッドナイトの眠り香も効きが悪いというように、状態異常系の搦め手では決め手にならない。
拘束が有効だが、当人の身体能力も決して低くはない。
となると、荒っぽい手段。
絶対に跳ねのけられない質量で埋めてしまえばいい。
今回の対抗戦ルールでは埋めただけで勝ちにはならないが、彼女を封じた上で他の三人を相手にできればかなり有利だ。
「これは授業だからさあ。もちろん殺したり大怪我させたりは禁止だけど」
しん、としたまま反応のない瓦礫の山を見ながら物間は呟く。
「殺しても死なないやつ相手なら、少しくらい派手にやっても問題ないよねえ?」
答えはない。
だが、死んではいないはずだ。
「行くぞ、物間。三対三とはいえ、向こうには緑谷出久がいる」
「ああ、わかってる」
ひらひらと手を振って答え、物間は瓦礫から背を向ける。
直後。
轟音と共に瓦礫の一部が吹き飛んだ。
「な……!?」
慌てて振り返る。
がらがらと瓦礫が崩れ、そこからぼろぼろになった魔法少女がゆっくりと歩み出てきていた。
「もう、さすがにびっくりしたよ」
「い、いや、いやいやいや」
……ぼろぼろ?
否、ぼろぼろなのは服だけだ。当人はぴんぴんしており、幾つか見える擦り傷の類さえ現在進行形で治りつつある。
冗談じゃない。物間自身がアレを喰らったら無傷じゃすまない。まして抜け出すなんてできるわけがない。
なのに「びっくりした」で済まされてたまるか。
「お、落ちつけ! 話し合おう!」
「そんなこと言って、だまし討ちするつもりでしょ?」
「騙された程度でどうにかなる君じゃないだろう!?」
「それはそうだけど」
答える度に固まる永遠だが、すぐに動きだしては近づいてくる。
心操が捕縛布を伸ばして動きを封じようとすれば、ステッキの先端を刃にしてぶちぶちと切断し始める。
一歩ずつ、一歩ずつ。
近づいてくる小柄な少女の姿に、物間は本能的な恐怖を覚えて腰を抜かした。
「く、来るな! 来るなああ!」
「……そう言われても」
振るわれたステッキの先端――星の飾りが直撃すると一発で気を失い、次に気づいた時には檻の中だった。
それから一週間ほど、物間は「見た目幼女に半泣きで命乞いをした」とクラスメートにからかわれ続けた。