すこーん!
投擲したステッキがクリティカルヒットし、心操君はぱたりと気絶した。
「……ふう」
物間君と心操君、二人の無力化に成功。
心操君は一人では不利と悟るとすぐ逃げに転じた。捕縛布と『洗脳』でゲリラ戦をされるとさすがに鬱陶しいので、うまく仕留められて良かった。
さて、二人を陣地まで運ばないと。
近くに倒れている物間君をひょいっと持ち上げ、心操君のところまで近づいて、
「ステッキ邪魔じゃない……?」
仕方ないのでそのまま捨てて行くことにする。
背負えるような装備を作ってもらった方がいいだろうか。でも、下手なものくっつけると見た目が格好悪くなるんだよね……。
うーん、まあ、そこは今度考えよう。
空いた手で心操君を担いで駆け出す。
運がいいのか悪いのか、道中、デクくん達とも残りのB組メンバーとも出くわさなかった。
もし会ったら物間君達を盾にして逃げる気満々だったんだけど……。
って、私、素で悪役みたいな動きしてない……?
それこそ考えてもどうしようもないか。
檻の奥の方へ二人まとめて放り込んで、顔を上げる。
「よし、急ごう」
残りのメンバーは既に交戦を始めているようで、物音から大体の方向がわかる。
ダッシュとジャンプを駆使して向かえば――戦場は結構すごいことになっていた。
バラバラと瓦礫やら機械部品やらが散乱し、周りの建物は溶けたり吹っ飛んだりして半壊状態。そんな中を、人と物が飛び交っている。
「ああもう、キリがないってば!」
B組に狙われているのは芦戸さん。
上下左右から飛び来るモノを酸のベールで溶かしたり、単に避けたりして必死に身を守っている。
「それは、こっちの台詞だ……!」
「こっちだって、簡単にはやらせへん!」
お茶子ちゃんは庄田二連撃君(すごい名前だと思う)と壮絶な接近戦を行っていた。
庄田君の“個性”は『ツインインパクト』。一回殴った箇所に任意のタイミングで「数倍の威力の打撃」を叩きこめるという、パワー系のヒーローが喉から手が出るほど欲しそうなものだ。というか、
と、それはともかく。
接近戦を仕掛けながらも相手の攻撃は全部かわさないといけない、という面倒な縛りだけど、むしろ攻めているのはお茶子ちゃんの方で、庄田君は逃げようとしている。
理由は、お茶子ちゃんはお茶子ちゃんで、触れただけで相手を浮かせられるから。それから、二人一緒にいる状態では飛び交う障害物の邪魔になるから。
更に、
「ちょこまかと……うらめしい」
「ああもう、逃げるだけで精いっぱいだよ!」
グラントリノ、飯田君仕込みの変則機動で動き続けるデクくんが柳さんと小大さんを狙っている。
二人も一生懸命逃げてるから今のところ決め手には至ってないけど、
「お茶子さん!」
「デクくん!」
柳さん達を追いかけているかと思ったら、急に反転してお茶子ちゃんを拾い上げるデクくん。
ディズニー映画とかにありそうな手繋ぎ空中移動の後、おもむろに投擲されるお茶子ちゃん。
「くっ!」
庄田君としてはたまったものじゃない。歯噛みして必死に逃げるも、お茶子ちゃんはお茶子ちゃんで着地と同時に追いかける。
いい勝負だ。
B組としては身を隠して主導権を握りたかったし、A組としては乱戦に持ち込んだ時点で勝負を決めたかったけど、どちらも相手に阻まれた形。
なら、私がバランスを崩す!
「みんな、お待たせ!」
「永遠ちゃん!」
「八百万さん! 無事だったんだ!」
「うん! 物間君と心操君は檻に放り込んできたよ!」
「マジで!?」
芦戸さんが歓声を上げる。
「……うらめしい」
同時に、柳さんの『ポルターガイスト』が私の方に来る。
私は敢えて、飛び来るモノに自分から突っ込んで、
「解除!」
残念ながら、小大さんはタイミングを誤らずに『サイズ』を解除。
奇襲的に抜けてしまおうという作戦は失敗したので、私は次善の策として、飛来物から長めの鉄パイプを掴み取った。
代わりに、大きなモノにしこたま殴りつけられる。
「ぐううっ!」
「ツインインパクト、
ここぞとばかりに発動する『ツインインパクト』。
大きくなったことで重量制限に抵触した品々はそのままなら地面に落ちるはずが、それぞれに新たな衝撃を加えられ、バラバラな方向に「弾かれる」。
全方向からの奇襲に、私は手に入れた鉄パイプを振るうことで抗い、幾つかを叩き落とし破壊しながら、その全てに耐えきった。
――ダメージは大きいけど、まだまだ!
柳さんと小大さん、庄田君のコンボは、後ろ二人の“個性”が使い捨てなのが弱点だ。
用いられる「弾」には限りがあるので、直撃しても決めきれないような相手とは相性が悪い。小さいモノが突然大きくなって、しかも軌道を突然変えるからこそ怖いのであって、大きなモノを二、三個飛ばしてくるだけならどうとでもなる。
と、
「物間達がやられた以上、我々が勝つには君を倒すしかない」
いつの間にか庄田君が迫ってきている!
「我々三人で取り得る手段は、打撃の連打によって疲労させる。それだけだ」
その判断は多分、正解だ。
私やラーカーズがギガントマキア相手にやったのと同じこと。再生できてもスタミナは有限だから、殴り続ければいつかは勝てる。
「でも!」
私は鉄パイプを破棄。
マントを外すと庄田君に投げつけ、時間を稼ぐ。
当然、庄田君はすぐさまマントを払ってしまうが、それでいい。その時にはもう、ポーチの中に仕込んだ「武器」が私の手の中に収まっている。
それは、ゴムでできた色とりどりの小さなボール。スーパーボールなんて呼ばれてるやつだ。
「な、に!?」
「えいっ」
左右五個ずつくらい。
適当に掴み取ったそれらを投擲。庄田君は咄嗟に払いのけようとするも、軌道が微妙に違うせいで全部は防ぎきれない。
強化された筋力で投げたボールだ、当たれば顔をしかめずにはいられない。
そして、それだけの隙があれば近づくには十分。
「真っ向勝負か、面白い」
私の拳が庄田君の頬に食い込むと同時、庄田君の拳もまた私の腹に突き刺さった。
数メートル吹っ飛ぶ庄田君。
私は地面に足をつけたまま大きくたたらを踏み、そして、
「ツインインパクト、解放」
「もう一回!」
庄田君が倒れたまま“個性”を起動するのと、私が再度ボールを投げるのが同時。
どんっ、と、腹部を貫く衝撃。
今度のはさすがに立っていられず吹っ飛んだ。
じんじんとお腹が痛むのを感じながらよろよろと立ち上がると、庄田君は白目をむいて気絶していた。
ガード役のいなくなった柳さんと小大さんはデクくんにお茶子ちゃん、更にはフリーになった芦戸さんに追いかけられていて――あ、二人とも両手を上げて降参した。
結果。
五戦目は、A組の勝利となった。
◆ ◆ ◆
講評は色々あったけど、私が言われたところだけに絞ると、
「八百万妹。お前は身体能力に頼り過ぎだ。もっと頭を使え。相手の力が予想より強くてノックアウトさせられたらどうする。あのボールみたいに、攻撃パターンが足りないならアイテムで補え」
という感じだった。
三人ノックアウトしたにしては辛口な評価だけど、殆ど『不老不死』に頼った勝ち方だったから仕方ないといえば仕方ない。
むしろ、主にB組の何割かが「いや、あれで更に頭使われたら勝てねえっす」みたいな顔してたので、下手に褒められなくて良かったと思う。
無双するっていう目的は果たせたし。
相澤先生のアドバイスを受けて、コスチュームや装備に改良を加えようと要望を出した。
それから、休日はインターンで忙しく駆け回っている。
レディさんの人使いの荒さは相変わらず。
私の『不老不死』についてどう思ったのか聞いてみたところ、
「トワちゃんが目立つってことはうちの事務所が目立つってこと。なんの問題があるワケ?」
とのこと。
ちなみにその後は「まあ、トワちゃんばっかり目立つのは悔しいけどね!」と頬を引っ張られた。
どこまでもレディさんらしい答えに私はほっとしてしまった。
事務所の他のスタッフのみんなも優しかった。
ただ、あのテレビ出演の一件で私の知名度が上がってしまったせいで、一部事務仕事はできなくなった。具体的に言うと電話番。明らかに若い、というか幼い声で「はい。Mt.レディ事務所です」なんて出るものだから「トワちゃん?」とモロバレなのだ。
中には私への取材の申し込みまであったりするものだから、私自身が出ると話がひたすらややこしくなるのだ。
パトロールの方は平常運転。
仮免の私は正規のヒーローがいないと活動ができないので、街を見回る時はレディさんと一緒だ。当然、
レディさんいわく「だって街って狭いんだもの」とのこと。
そんなことやってるから、ネットで私が「Mt.レディ専用飛び道具」だの「ビット」だの「ファンネル」だの言われるんですが。まあ、レディさんも広い場所では率先して戦っているので適材適所である。
もろもろコミコミで、Mt.レディ事務所の知名度が上がったのは本当だ。
活動を続けるにつれて私のファン層は広がっていて、大きいお友達からお年寄り、小さい子供まで幅広くなりつつある。
小さい女の子にとっては自分より少し年上に見える私が悪い敵をやっつけるのが爽快らしく、男の子にとってはコスチュームの割にストロングスタイルな戦闘がヒーローものっぽくて受けているらしい。
まあ、そういう純粋な応援はもちろん嬉しいんだけど、ネット上で「不老不死トワちゃんの至って健全な苦戦シーンまとめ」とかそんなサイトを見つけてしまった時は削除申請を出そうか滅茶苦茶迷った。それはまあ確かに、攻撃されても服が破れるだけで傷は治るから物凄く健全だけど。
また、変わり種の仕事も出てきた。
例えば、
「君のハートに本気の煌めき♪ マジキラッ♪」
いつものヒーローコスチュームとはデザインの違うフリフリのコスチュームを着せられ、ポーズを取らされ、何人ものカメラマンにシャッターを切られる。
現在放送中の魔法少女もの、というか戦う変身ヒロインもののプロモーション企画だ。幼い見た目だけど高校生、ヒーローとしてのイメージもそっち系なうえ、不老不死なので何年でもイメージキャラを続投できる、ということでアニメ会社や玩具会社からオファーが来たのだ。
そういうところのギャラって結構いい上、敵と戦うわけじゃないからレディさんの付き添いもいらないということで、弱小のMt.レディ事務所が断るわけもなく、今回は広告に載せる分、今度は雑誌に載せる分、みたいな感じで何度も撮影に呼ばれている。
いや、もちろん仕事を選り好みする気はないけど、恥ずかしいんですよ?
「トワさん、今度マジキラのイベントをやるんですけど、そこにも出演を……」
「ひぃ」
小さい女の子と大きいお友達からの人気が更に上がった。
後は、あのテレビ出演で優等生っぽい受け答えをしたせいか、何故かクイズ番組に呼ばれたり。
「えっと、アイドル枠って考えた方がいいんでしょうか?」
「普通に答えて大丈夫ですよ」
わざと馬鹿っぽくした方がいいの? と思ったけど大丈夫だそうなので普通に答えた。普通に答えたら、優等生イメージにしてはそこまでスコアが良くなかったようで、「意外とポンコツ」「可愛い」と何故か人気が上がった。
何度もテレビやらマスコミに呼ばれるせいでウワバミとも知り合ってしまった。
私は何を目指してるんだっけ? って気がしてくるけど、これはこれで問題なかったりする。
仮免とはいえ一応ヒーローとして呼ばれているわけで、そんな私がメディアに露出するということは、「私=ヒーロー」の構図が世間に浸透してくるということ。
知名度が上がれば上がるほど「あれ、トワちゃんってまだプロじゃなかったの?」「もうプロにしちゃえよ」みたいな声も出てくるので、試験を受ける条件緩和に繋がる。
ヒーロー側としても、知名度の高いヒーローが増えるのはプラスになるのだから。
そして、そんなある日。
私はMt.レディ事務所に顔を出した途端、レディさんに捕まえられた。
「いらっしゃい。行くわよトワちゃん」
「へ? えっと、パトロールですか?」
「ううん、い・い・ト・コ・ロ」
異能解放軍のリーダー、四ツ橋力也が社長を務める『デトネラット社』に連れて行かれた。