死なない少女の英雄志願   作:緑茶わいん

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インタビュー・ウィズ・ヒーローズ

 プロ試験まで残り数か月。

 

 できる限り試験対策するのは当然だけど、具体的にどんな対策が必要だろう。

 ヒーローは一人で何でもできないといけない、とは言うものの、残り時間が限られる以上、効率の良い勉強・特訓方法が欲しい。

 というわけで、知り合いのヒーロー達に聞いてみることにした。

 

 

【Mt.レディの場合】

 

「レディさんは、どうやってヒーローになったんですか?」

「は? どうやってって、試験に受かったからよ」

「あ、いえ、そうじゃなくて、試験対策的な意味で」

「あー、なるほどね」

 

 道場での訓練の休憩時間中。

 レディさんは「面倒なコト聞くわね」と呟いた後、ぐっと握り拳を突き上げて、

 

「私の場合は、気合よ気合!」

「全く参考になりません」

「なんだとこいつめ」

「いひゃいいひゃい、いひゃいれふ」

 

 わざわざ近寄ってまで頬を引っ張られた。

 ぱっと手を離したレディさんは、腫れがどんどん引いていく私の頬をつんつんしながら、

 

「って言ってもねー。試験内容は毎年全然違うらしいし」

「え、そうなんですか?」

「そ。トワちゃんの場合は特例の試験でしょ? 内容が全部、専用のものでもおかしくないんじゃない? ……ま、通常のプロ試験なら知識を問う筆記は絶対あるけど」

 

 その筆記も、どんな問題が出るかは蓋を開けてみないとわからないらしい。

 何が出るかわからないから全部を勉強しなければならず、結果、ある程度網羅した知識がないとヒーローになれないと。

 

「じゃあとりあえず筆記対策ですかね」

「それでいいんじゃない?」

「うわ適当」

 

 抗議を込めてジト目で睨むと、同じような目で返される。

 

「だって、ヒーロー試験なんて受かる時は受かるし、落ちる時は落ちるわよ?」

「身も蓋もないですね……」

 

 レディさんらしいけど、あんまり参考にならなかった。

 

 

 

【シンリンカムイの場合】

 

 ラーカーズの関係で、顔を合わせることが多くなったシンリンカムイ。

 

「プロ試験って、やっぱり難しかったですか?」

「うむ」

 

 尋ねると、真面目な彼は神妙な面持ちで答えてくれた。

 

「心身ともにプロに相応しいか、厳正に試された。生半可では合格できないだろうな」

「試験対策みたいな小細工は良くないでしょうか」

「む……いや、そうだな」

 

 頷きかけたものの、思い直したように上を見上げて、

 

「合格率を上げるために手を尽くすことは悪ではない。……そうして苦手分野を補い、得意分野で合格を勝ち取ったプロも多い。そして、そうした者は得てして活躍する」

「……なるほど」

 

 思わず唸ってしまった。

 地道にコツコツやってきた彼の言葉には、経験に裏打ちされた力強さがある。

 それもそうだ。

 雄英からして競争上等、一定のルールがあるとはいえ、競争相手を出し抜いた者勝ちみたいなところ。

 やれることをやって悪いことなんてない。

 

「ところで、そのプロって例えばレディさんとかですか?」

「何故、そこであいつの名前が出る」

「またまた」

 

 

 

【エッジショットの場合】

 

「プロ試験の対策?」

「はい。何か参考にならないかと思いまして……」

 

 見上げて言うと、エッジショットはしばらく沈黙した後、ぽつりと言った。

 

「研鑽あるのみ」

「あ、やっぱりそうですよね」

 

 エッジショットも真面目なタイプだ。

 彼の場合、本当に何でもできるように学んでいそうだし、それも一つの回答だろう。足りないなら足りるまで学べばいい。

 私の場合、睡眠時間とかを犠牲にするしかないか。

 

「ありがとうございました」

「待て」

 

 ぺこりと頭を下げ、お礼を言って離れようとしたら呼び止められて、

 

「時間が足りないのなら持ち味を生かす努力をしろ。得意の押し付けは敵相手だけでなく、試験官にも通用する」

「勉強になります」

 

 貴重な助言に、私は再度深く頭を下げた。

 

 

 

【サー・ナイトアイの場合】

 

『先日質問があった件について回答する』

 

 サーにもダメ元で連絡を取ってみた。

 電話した時は「忙しい」と通話を切られちゃったんだけど、後日メールでアドバイスが送られてきた。

 さすが、マメというか神経質というか。

 文章で打つ方が時間かかっちゃいそうな気もするのに、ありがたい。

 

『ヒーロー試験の傾向と対策ということだったが、私は試験に一度で合格している。よって、統計に基づいたパターンという意味では何も言いようがない。書店に行けばその手の本が幾らでも溢れているので、そちらを手に取る方が有用だろう』

 

 って、本当に繊細な回答だった!

 この後、参考書の良しあしは読んでみないとわからないから、と、地盤のしっかりした出版社の名前がしばらく続いて、

 

『さて、その上で敢えて言うなら、自分が何を求められているのかを今一度考えることだ』

 

 本命はその後。

 まるで、ここまでちゃんと読んだご褒美とばかりにそれは書かれていた。

 

『君は何のためにヒーローになった? 何のためにヒーローをしたい? プロヒーローを認定する側は、君をヒーローにして何をしたい? 人々はヒーローとしての君に何を求めている? それを考えれば自ずと答えは見えてくるだろう』

 

 私はサーのメールに返信した。

 

『ありがとうございました。大変参考になりました。私なりに精いっぱい、試験に臨みたいと思います』

 

 そんな硬い、用件だけの文面。

 添付ファイルとして動画を一緒に送った。こっちはヒーローコスチュームで、オーバーアクションかつ笑顔で、彼への感謝を目いっぱい示すものだ。

 

『上出来だ』

 

 後日、そんな返信があった。

 

 

 

【オールマイトの場合】

 

 元No.1ヒーロー・オールマイト。

 即行でプロになってみたり、渡米して数年間修行してみたり、あのAFO(オール・フォー・ワン)を死闘の末に破ってみたり、大災害から一人で何十人も救出してみたりと伝説の多い人。

 怪我が完治したとはいえ、既にOFA(ワン・フォー・オール)を失っている彼だが、その経験までは失われていない。

 なので彼にも話を聞いてみたのだが、

 

「試験対策? 気合いだよ気合い」

 

 まさかの、レディさんと同レベルの回答だった。

 

「気合いですか」

「うん、気合い」

 

 真顔で頷くオールマイト。

 冗談を言っている様子はない。うん、やっぱりこの人、指導者にはあんまり向いてないのかも。

 

「あの、すみません。図々しいことを言っているのは重々承知なんですが、もうちょっと何かないでしょうか……?」

「そう言われても、私は一発でさらっと合格したからな……」

 

 さらっと凄いことを言われた。

 本当に凄い人が言うと嫌味にならないから凄い。

 

「オールマイトって勉強できるんですよね?」

「さらっと酷いこと言うね君」

「言葉が過ぎました」

 

 レディさん相手ならじゃれ合いで終わるんだけど、他の人相手にこれはまずい。

 伏して謝ると、オールマイトはひらひらと手を振って、

 

「いや、いいよ。でも私だってこう見えて英語ペラペラなんだぜ?」

「何年もアメリカにいたんですから、そりゃそうですよね」

「そうそう。まあ、応急処置法とかそっちの方はだいぶ怪しいけどね!」

 

 ははは、と、笑う彼だったが、私としては一緒に笑うことができない。

 

「それで試験大丈夫だったんですか……?」

「大丈夫だよ。だってほら、私の場合、その場で応急処置するより、病院に運んだ方が確実で速いし」

「あー」

 

 なるほど。

 力業だけど、そういう解決法もあるのか。力業だけど。

 

「他のヒーローから『持ち味を生かせ』と言っていただいたんですが、そういうことなんですね」

「そうだね」

 

 オールマイトは頷き、「いいことを言うヒーローもいたものだ」と呟いて、

 

「私達はヒーローだ。どんな困難にも立ち向かわなければいけない。だが、別に馬鹿正直に教科書通りの対処をしなきゃいけないわけじゃない」

「そっか。ヒーローですもんね」

「ああ。ヒーローは、不可能を可能にするものだからね」

 

 オールマイトは、やっぱりオールマイトだった。

 

 

 

【イレイザー・ヘッドの場合】

 

「試験対策? んなこと考えなくても普通に勉強しときゃ受かるだろ」

「適当!」

 

 担任に聞くのが最後になったけど、相澤先生にも聞いてみたら結果がこれでした。

 

「私、こう見えて努力型なんですよ?」

「天才じゃないのは良く知ってる」

「ひどい」

「自分で言ったんだろうが」

 

 先生はため息をつくと、迫力のあるジト目で私を見た。

 

「あのな。逆に聞くが、お前、自分が落ちると思うか?」

「へ?」

「特例でのプロ試験。どうしてもさっさとお前をプロにしたい連中が、わざわざ落とすと思うか、と言っている」

「それは……」

 

 私は一瞬口ごもった。

 意味がわからなかったわけじゃない。

 ただ、先生の言ったことは、つまり、

 

「試験自体が茶番みたいじゃないですか」

「いや、まあ、そこまでは言わんが」

 

 ひょいっと肩を竦めて、

 

「よほどのことがない限り落とされないのは事実だろうよ。そして、お前は『よほどのこと』を起こすほど無策じゃないだろ」

「あ……」

 

 ぽかん、と、口を開けてしまう。

 今のはツンデレなんじゃなかろうか。

 

「これまでの訓練、仮免試験を見ても、お前には特殊状況――設定されたシチュエーションに準じる能力がある。実地での研修もこなして経験も積んでる。気楽に受けてこい。そもそも本来は『三年で一発合格して優秀』ってレベルのもんなんだ」

「はいっ」

 

 ちょっとだけ、試験への自信が湧いてきた私だった。

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 授業、自主特訓、自主勉強、インターンに、テレビとか雑誌とかのお仕事。

 慌ただしく毎日を過ごす。

 なんというか、私の身体ときたらいじめればいじめるほど丈夫になっていくようで、ギリギリまで寝ない生活を続けているうちに耐久可能時間が長くなっていっている気がする。

 まあ、考えてみると、寝ないだけで死ぬような不老不死がいてたまるかって話ではあるんだけど、

 

「日に日に人間離れしてる気がするなあ」

「今更だね!」

 

 深夜。

 じゃれ合い的なノリでガチの組み手をしながら透ちゃんと雑談をする。

 

 ……冷静に考えるとこれも何言ってるのかわからない気がする。

 

 まあ、私はアレだし、透ちゃんも幼少期から訓練漬けのニンジャだから深く考えちゃいけない。

 

「永遠ちゃんが口から火を吹き始めても私は驚かないよ!」

「あはは……」

 

 実はもうできたりする。

 透ちゃんにも私の持ってる“個性”ぜんぶ教えたわけじゃないからなあ……。というか、かなり多いから把握するだけで大変なのだ。

 

「なんかいつの間にか、普通に私の攻撃対処されてるしねっ!」

「それは、鍛えてもらったお陰だよ」

 

 深夜に、碌に照明もない中、そもそも透明な相手と打ち合いをしてるんだから、傍目から見たら驚くべき光景かもしれない。

 五感も強化されているため、その気になれば音や匂いだけで透ちゃんの位置を把握することも可能なのだ。

 むしろ、夜だと周りが静かなので感知しやすいかもしれない。

 

 とはいえ、透ちゃんの暗殺殺法も侮れない。

 油断してると「首を太腿で挟んでへし折る」とか普通にやってくるし。完全に透明(つまり裸)な状態でそういうことしてくるものだから、新しい技を受ける度に驚きで動きが止まってしまう。

 

「透ちゃんの技って、透明じゃない人が使っても凶悪そうだよね」

「そりゃあ、元はそういう殺人術だからね!」

 

 さっき言った技とか、視覚的な驚きを与える意味もあるらしい。

 

「トガちゃんとかそういうの得意そうだなあ……」

え、また他の女の話?

「急にヤンデレ化しないでよ!」

「ごめんごめん。トガヒミコちゃん、私も会ってみたいんだけどなあ」

「仮釈放でもされないと難しいよねえ」

 

 逮捕されてから半年も経ってないわけで、殺人罪がついてるトガちゃんの場合、そう簡単にはいかない。

 

「私がプロヒーローになれば、もうちょっと融通が利く――かも?」

「面会くらいは楽にできそうだね!」

「面会する時間がなくなりそうだけどね……っ!」

「あはは」

 

 笑いごとかなあ……?

 

「永遠ちゃんが早くプロになってくれると、私としても助かるよ! Mt.レディさんのところで二年間サイドキックして、独立したら私を雇ってよ!」

「あ、それいいね。頑張ってみようかな」

 

 笑顔で返事をしながら、心の中で透ちゃんに「ありがとう」を言った。

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